ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

DIOが使い魔!?-29

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匿名ユーザー

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ある虚無の曜日、ルイズは朝からウンウン唸っていた。
その隣のソファーでは、DIOが図書室から新しく借りた(強奪に近いものと思われる)本を、無言で読んでいた。
『僕の私のハルケギニア大陸』というタイトルで、凡その子供が読むような、簡単な地理書だ。
DIOは、コツを掴んだ人間が、自転車をあっと言う間に乗りこなしてしまうように、ドンドンとハルケギニアの知識を得ていた。
そんなDIOを脇目に、暫く唸っていたルイズだったが、突然雷に打たれたようにその顔を上げた。

「…そう、そうよ! 今は考えたってしょうがないわ。
何と言われようが、こいつは私の使い魔。
そうよ! 忘れてたわ、私、どんなことがあろうと乗り越えてみせるって、あの時誓ったじゃない!」
あの時、とは契約の時のことだろうが、とにもかくにも、ルイズは一人でヒートアップしていった。
そして、ベッドから立ち上がって、DIOを指差した。
腰に手まで当てて、随分と興に入った雰囲気である。

「DIO! 本を仕舞いなさい! すぐ街に行くわよ!」

「これまた突然だな。……何をしに?」

DIOはチラッとルイズを見て、ため息をつきつつ本を閉じた。

「ナイフ、買ってあげるわ! あと服も!
何かある度にいちいち厨房からガメられたんじゃ、私たちの食事がまずくなるし、あんただって、いつまでも上半身裸じゃやってられないでしょ?」
どうやら買い物に連れていくようだ。
武器を買うということは、ルイズがDIOを本格的に自分の使い魔であると認めた証拠である。

「珍しいじゃないか、使い魔に贅沢をさせるなんて…」

DIOはしかし、全く何とも思っていないようだ。
言葉とは裏腹に、自分が使い魔であるなどとは全く考えてはいないようにも取れる。
だが、ルイズは別にそれでもよかった。締めるところでビッチリ締めればいいのだと、割り切っていたからだ。

「必要な物は、きちんと買うわ。私は別にケチじゃないのよ」

ルイズは得意げにいい、もう話は決まったばかりに荷物をまとめ始めた。
あれよあれよという間に外出の準備を完了させてしまう。
早業であった。

「わかったら、さっさと行くわよ。今日は虚無の曜日なんだか  ら」

DIOはゆっくりと立ち上がって、ドアに手をかけた。

「ところでDIO、その本どうしたの?」
ルイズの質問に、DIOは動きを止めて、ルイズの方に振り返った。

「モンモランシーという子が、選んでくれたのさ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――
キュルケは昼前に目覚めた。
今日は虚無の曜日である。
窓を眺めて、そこから見える太陽の黄色さに目が眩んだ。
まぶしさと眠気に目をつぶりながら、キュルケは昨晩の出来事を思いかえす。

「そうだわ、ふぁ、昨晩はいろいろ大変だったわ…」

ペリッソンに、スティックスに、マニカンにエイジャックスにギムリに……etc.
さすがの『微熱』も燃え尽きそうになるほどだった。
これからはブッキングは避けた方が良さそうね…と思いながら、キュルケは起き上がり、化粧を始めた。
夜明けまで起きていた割にはやけにツヤツヤしている彼女の肌には、化粧は必要なさそうだが、女の嗜みというやつだ。
パタパタと化粧をしながら、キュルケはこれまでの出来事を思い出した。
主にルイズの。
途端に、キュルケの顔に影がさした。
最近のルイズは、どうにもおかしい。
いや、いつもおかしいのだが、あの使い魔を召喚してからはそれが顕著になってきている。
キュルケは、ルイズが腹に抱えている黒い爆弾のことを知ってはいた。
プライドの高いルイズは、『ゼロ』とバカにされてもそう軽率に怒りを表すような人間ではない。

……ないのだが、『ゼロ』と呼ばれる度に、彼女の心にストレスは確実に蓄積されていくということを、キュルケは知っていた。
そして精神の均衡を保つため、そのストレスは定期的に爆発をするということも。
その時、ルイズは世にも恐ろしい悪鬼になる。
シュヴルーズの件が、良い例だ。
あと、ギーシュの時も。
キュルケは、以前あの状態になったルイズに一発かまされたことがあったので、ルイズの恐ろしさは重々承知していた。
その時のことを思い出すだけで、キュルケは震えがくるのだが、そのおかげでルイズのストレスが爆発するギリギリのラインも、ある程度は心得たのだった。
その範囲内でルイズをからかうのが、キュルケの最近の楽しみでもあった。
しかし……キュルケは疑問に思う。
最近のルイズは、どうにもおかしい。
何だか、爆発の頻度が高くなったような気がする。
というより、寧ろ自分からそれを楽しんでいるような印象さえ受ける。
キュルケの脳裏に、ギーシュとの決闘の時、瀕死のギーシュに対して、いとも簡単に処刑宣告をしたルイズの姿が映し出される。
やはり、あの使い魔のせいだろうか。
だとしたら、釘を刺しておく必要がある。
彼女は自分のライバルなのだ。
勝手な手出しは、その使い魔だろうと許さない。
キュルケは化粧を終えて、立ち上がった。
自分の部屋から出て、ルイズの部屋の扉をノックする。
扉が開くまでの間、キュルケはなるべくルイズ本人が出てくることを願った。
無論、使い魔のDIOの方が出てくる可能性の方が高いのだが、キュルケはそう願った。
何と言おうか、DIOを前にすると、言い知れない緊張を感じてしまう。
萎縮してしまう、といってもよかった。
それは、自分の使い魔であるサラマンダーのフレイムも同じであるらしい。
初めてDIOを見たとき、フレイムはひどく怯えていた。
自分の命令なしでも、DIOを攻撃しそうな勢いだった。
火流山脈のサラマンダーが怖がるほどだ。
そのDIOがどれだけの力を持っているのかは、一応は、ギーシュとの決闘でその片鱗を見ることは出来た。
見たというより全く理解を越えていたのだが、決して無駄にはならないだろう、とキュルケは思った。
そこまで考えたところで、キュルケは開かないドアをもう一度ノックした。
しかし、ノックの返事はない。
開けようとしたら、鍵がかかっていた。
キュルケは少し躊躇った後、ドアに『アンロック』の呪文をかけた。
学院内で『アンロック』の呪文を唱えることは、重大な校則違反だ。
これが色事に関わることなら、躊躇いはしなかっただろうが……。
しかし、そうしてドアを開けてみると、部屋はもぬけの殻だった。
二人ともいない。
キュルケは部屋を見回した。
カーテンはしっかりと閉められていて、部屋は薄暗い。
ルイズがいつも使っているベッドの側には、豪華なソファーが横たわっている。
DIOが使っているのだろうか?
だとしたら、随分と生意気な使い魔だと思った。

だとしたら、随分と生意気な使い魔だと思った。ルイズが使っているベッドよりも下手したら高そうだ。
キュルケはさらに部屋を見回して、ギョッとした。
そこには、様々な調度品が、所狭しと並べられていたからだ。
棚の上には壷と皿。
壁には、様々な絵画と、そしてプラチナとゴールドで出来た一対の剣が飾られていた。
隅の壁には甲冑が立っている。
その隣には、両腕のない女神を象った彫刻がデンと置いてあった。
どれもこれもが、憎らしいくらいに完璧に配置されていて、一瞬ここが美術館かと思ってしまったほどだ。
ていうかここはホントにルイズの部屋なのだろうか?
チラりと棚に目をやると、開いた扉から、いかにもわたくし宝箱ですと言わんばかりの重々しい箱があり、これまたいかにも年代物そうな金貨銀貨が、溢れだしているのが見えた。
天井には大きなシャンデリアが下がっているが、その大きさの割には、放つ光は柔らかで弱い。
香を焚いているのだろうか、部屋にはほのかに靄がかかっていて、エキゾチックな空気が立ちこめている。
ふらふらと目眩がするのは、決して香の匂いに当てられただけではないだろう。
キュルケは我が目を疑った。

つい先日ルイズの部屋を見たときは、いつも通りだった。
色気も何もないが、こざっぱりしていて、いかにもルイズらしい部屋だと思ったものだ。

「ル、ルイズ…趣味変わったわね……」
キュルケはポツリと呟いた。
そして、キュルケは、ルイズの鞄が無いことに気がついた。
虚無の曜日なのに、鞄がないということは、どこかに出かけたということだろうか。
キュルケは窓を開けて、外を見回した。
辛気くさいルイズの部屋に日光が差す。
門から馬に乗って出ていく二人の人影が見えた。
目を凝らす。
果たして、それはDIOとルイズであった。

「なによー、出かけるの?」
キュルケは、つまらなさそうに言った。
それから、ちよっと考えて、ルイズの部屋を飛び出した。

タバサは、寮の自分の部屋で、いつものように本に目を通していた。
しかし、いつもなら流れるようにめくられる本のページは、先ほどからちっとも変わってない。
タバサは、本を開いているだけで、心ここにあらずだった。
タバサは虚無の曜日が好きだった。
誰にも邪魔されずに、自分の世界に没頭出来るからだ。
しかし、タバサは今日、全く別のことを考えていた。
あの使い魔だ。

タバサは、その特殊な家庭環境から様々な危険を冒してきた。
つまり、モンスター関係に対してはある程度免疫があるつもりだったのだ。
しかしその認識は、ルイズが召喚した使い魔によって改められることになった。
あれこそまさに化け物ではないか。
一見穏やかで、紳士的に見えるあの使い魔は、心の底にはマグマのような激情を籠もらせていることは、ギーシュとの決闘でよくわかった。
決闘……。
タバサは本から顔を上げた。
あの時、追い詰められたDIOが本性を垣間見せたとき、DIOの左手のルーンが光ったのをタバサは見ていた。
そう、見ていたのだ。
欠片も漏らさず。
タバサは、自分の身長ほどもある大きな杖を手繰り寄せて、ギュッと握りしめた。
ルーンが光ったと同時にDIOが、高笑いと共に響かせた言葉『ざわーるど』…。
異国の言葉らしく、タバサの耳に覚えはなかったが、とにかくそのDIOの一言の後に全ては終わっていた。
そして、ギーシュは倒れた。

『見えているのか、我が『ザ・ワールド』が…』。
『ざわーるど』…『ざわーるど』……。
タバサはその言葉を自分の口で紡いだ。
DIOはメイジではない。

とすれば、あの幽霊みたいなものの能力だろうか。
例えば、自分の使い魔であるシルフィードが、人語を話し、己の姿を変えられるように…。
ダメだ。手がかりが少なすぎる。
あの決闘のあと、タバサはDIOのことばかり考えていた。
思考を中断して、タバサはため息をついた。
すると、ドアがドンドンドンと叩かれた。
いつもなら軽く無視するところなのだが、気分転換の良い機会とも思い、タバサは杖を振った。
ドアがするりと開いた。
入ってきたのはキュルケだった。
タバサの友人である。
タバサはキュルケを見ると、結局1ページもめくらなかった本を閉じた。
「タバサ。今から出かけるわよ。支度をしてちょうだい」
「虚無の曜日」
タバサは話をするのは良いと思ったが、外出する気にはなれなかった。
タバサは首を振った。
キュルケは感情で動くが、タバサは理屈で動く。対照的な2人だが、何故か仲はよい。

「そうね。あなたは説明しないと動かないのよね。…あのね、タバサ。
ルイズの様子が最近おかしいの。私は多分DIOのせいだと思っているわ。
その2人が今日、どこかへ馬に乗って出かけていったの!2人っきりで!
DIOがルイズに何かしないか、監視しないといけないの!
わかった?」
ぼんやりと聞いていたタバサだったが、DIOという言葉を聞いた瞬間、ハッと顔を上げた。
しばらく悩んで、タバサは頷いた。
自分もちょうど手詰まりになっていたところだ。
直接相手をお目にかかるのも悪くない、とタバサは思った。
キュルケは、案外あっさりと承諾をしてくれたタバサを一瞬訝しんだが、機嫌が良いのだろうと思って流すことにした。

「ありがとう! 追いかけてくれるのね!」
タバサは再び頷いた。
窓をあけ、指笛を吹いた。
ピューッという甲高い音が、青空に吸い込まれる。
タバサは窓枠によじ登り、外に飛び降りた。
キュルケもそれに続く。
落下する2人を、タバサの使い魔である風竜のシルフィードが受け止めた。
シルフィードは上空へ抜ける気流を器用に捕らえ、空へと駆け上った。
「いつ見ても、あなたのシルフィードは惚れ惚れするわね」
キュルケが感嘆の声を上げた。
タバサはそれを無視して、キュルケに尋ねた。

「どっち?」
キュルケが、あっ、と声にならない声を上げた。
タバサはキュルケが当てにならないことを改めて認識し直して、シルフィードに命じた。

「馬二頭。食べちゃだめ」
風竜は、きゅいきゅいと鳴いて了解の意を伝えると、高空へ上り、その卓越した視力で目標をたやすく捉え、力強く翼を振り始めた。
自分の使い魔が、仕事を開始したことを認めると、風竜の背びれを背もたれにして、再び本を開いた。
しかしやはり、そのページがめくられることはなかった。

to be continued……


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