PROMISEDLAND(4)
「よけろ!また衝撃波が来るぞ!」
誰よりも前に出て戦っていたフォルカが、後ろにいたシロッコたち二人に声をかける。
直後、ヴァルク・バアルの全身より生み出された魔方陣から、オメガウェーブが全方位に放たれた。
「くっ――!」
衝撃波の渦にグラビトン・ランチャーを叩き込む。
するとその場所だけは衝撃波がねじ曲がり、すっぽりジ・Oとブラックサレナが通れるくらいの穴をあけた。
急いでそこにもぐりこみ、けん制でビームライフルを放つ。
結晶が砕けるが、即座に再構築し、増殖、強化……いや進化していく。
もうほとんどヴァルク・バアルとしての原型は残っていない。
その姿は……知る人がいればこう言い表しただろう、『ズフィルード』と。
【うああああああああああっっ!!】
リョウトの叫び声が、ゲート内部を震わせる。
叫びと共に突き出される右腕が、何かをつかむように広げられた瞬間、ヴァルク・バアルが発光する。
その光は、天使の姿に酷似していた。
「く、まだ落ちんか!?」
理解できない出来事だらけの中、ようやくつかんだシロッコの真理。
何をするかは不明だが、明らかにそのまま行動を許してはまずいことになる。
それに素直に従って、ビームライフルを標準し、叩きつける。
しかし、体に当たったビームライフルは相手の結晶をそぎ落としただけ。
手に向けて放たれた一撃は、不可視の力に阻まれて歪曲する。
「散れ!固まるのは危ういぞ!」
シロッコは、相手を止めることを半ばあきらめ、回避することを前提に指示を出す。
フォルカたちも返事をするのも惜しいと急いで拡散する。
直後、来た。
「……!?なんだ!何故だ、なぜ動かんジ・O!」
完全に固定され、まるで動かないジ・O……いや自分。
機体だけでなくコクピット内にいる自分まで、指一つ動かせないのだ。
どうにか、眼球だけを動かしてヴァルク・バアルの手の中を凝視する。
―――あれは……ジ・Oだと!?
そう口にしたかったのは山々だが、それすら満足にできなくなっていた。
相手の手の中には、小さなジ・Oが映っていた。しかも、武器や道具を持つ手まで再現して。
指に力を入れる様子で、手の中の空間を狭めるヴァルク・バアル。
その様子にシンクロし、自分のいる周囲の空間がたわみ、歪んでいく。
――空間ごと再現し拘束、圧縮している!?信じられん!
シロッコに知る由もないが、これは『偶像の原理』を利用したズフィルードの力だ。
『偶像の原理』とは、オリジナルの姿を真似し、その力や源質を封入すること。
……例えばガンエデンの力を光として重ねることでズフィルードがこの力を行使するように。
だが、これは逆も言える。
つまりミニチュアの世界――この場合ズフィルードの手の中のジ・O――を再現する。
そして再現した世界で起こる事象を現実に移行させるのだ。
高位アインストも使用するこの力の名は――『ジーベンゲバウト』。
たった1機で、全長10km以上の大きさを誇る巨人艦隊数万機をたたき落とすズフィルードの神罰。
「シロッコさん、だいじょぶ!?」
動けなくなった様子を見て何となく危険な気配を感じたのだろう。
ブラックサレナがズフィルードの行為を阻むため突撃する。
しかし、
「ちょっ……――」
当たり前の話だが、手は2つあるのだ。
反対側の手の中にブラックサレナの姿が映し出された途端、ブラックサレナまでもが完全に停止する。
半端にミオの言葉も途切れたままだ。
手を本格的に閉じ始めたのを見て、焦る2人を背に、白い矢がヴァルク・バアルに突き刺さる!
「うおおおおおおお!!」
ヴァルク・バアルの動きを止めるべく、拳を一心不乱に打ち込むフォルカ。
しかし、再生、再結晶化を行うヴァルク・バアルはそれでもなお姿勢を崩さず、拳を握ろうとする。
――頼むぞ、これが最後の希望だ……
やはり口に出せずとも、食い入るように両機を見つめる。
フォルカの拳が、相手を破壊するのが先か、はたまたヴァルク・バアルが自分を握りつぶすのが先か。
もう、すべてはここにかかっている。
そして―――
【うああああああ、あああああ、ああ!?】
ついに、もだえ苦しむヴァルク・バアル。
フォルカの拳がヴァルク・バアルを貫いたのは……次の瞬間だった。
その途端、硬直が溶けて体が自由になる。
「終わったか……」
フォルカの拳が、ヴァルク・バアルを粉々にするのを見て、シロッコは息をつく。
しゃべれることのありがたみを感じ、なんとなく喉をさすってしまった。
「まったく、慣れたつもりだったがそれでも驚かされる」
「本当に……これで終わったの……」
ジ・Oの側にいるブラックサレナの中から、ぐったりした声が漏れる。
「進化再生する、空間ごと握りつぶす……どんな技術で再現しているのか途方もつかんよ。
木星から戻り、世界のすべてを俯瞰したつもりになっていたが私も甘いようだ」
「ってそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?あの二人はどこに消えたのか探さないと……」
「……無理だろうな。我々には、次元を超える力などもたん」
フォルカも、ヤルダバオトを走らせ、二機の側に近付いてくる。
そして、二人に話を切り出すが……あっさりシロッコはそれを蹴散らす。
「俺の力なら、超えられるかもしれん、やってみる価値は――」
「……使った後は、戦えんのだろう。これ以上戦力が減っては行けはしても勝てんよ。
それに、どこか適当な世界に飛ぶのでは意味がない。二人がどこに行ったか見当がつくのかね?」
どうしようもないほどの正論を受けて、フォルカが沈黙する。
そこそこ以上に頭は切れるようだが、やはり見通しが甘いというか……まだまだだな、とシロッコは嘆息する。
「我々がとるべき選択は2つ。
クォヴレーを待ち、ここで待機する。……しかし、危険も多い。ユーゼスの口ぶりではどうなるかもわからん。
もう一つは、フォルカの力でどこかに転移することだ。……もっとも、元の世界に戻るのは絶望的だが」
この状況を打破する第3の選択肢を考えているのか、諦めて絶望しているのか黙り込む2人。
シロッコは、二人を急かすべく口を開く。
なにしろ、ここのことが詳しくわからない以上、次の瞬間崩壊する可能性だってあるかもしれないのだ。
「私としては後者を選びたいところだがね。奴の言うように、こんなところで魂だけになるつもりもない」
「だが、それではユーゼスが……」
「フォルカ・アルバーグ。我々は万能の神ではないのだよ。できることとできないことがある。
言われたもの、託されたものが必ず果たせるとは限らない」
やれやれ、どこまでもユーゼスを救う気のようだ。
それはいたって結構なわけなのだが、少し気負いすぎるところがあるのが難点だ。
これが若さか、と頭を押さえる。
後者の選択を選ぶには、フォルカの助力が必須なのだ。
彼を説き伏せねば話にもならない。
短いが、事情が事情だ。これで考えるのは切り上げてもらうべく口を開こうとしたとき、
『そこまでは……わたしが案内しよう』
「誰だ!?」
反射的にビームライフルを声がするほうに突き付ける。
すると、そこにいたのは………
「ゾフィー!?」
赤と銀の流星模様と、胸の中心に輝く太陽。機動兵器に匹敵する大きさの巨人が立っている。
これが、ユーゼスの目指した……『ウルトラマン』!?
しかし、その姿は不安定だ。質の悪いビデオのノイズのように、時々ぶれている。
胸の星も、光を放つというより、今にも消えそうに点滅を繰り返していた。
「あの世界から出られたのか?」
『いや、違う。どうにか、力を振り絞って、世界の狭間に出るのが……今の私では限界だった』
ゾフィーの右腕が、風に飛ばされる砂のように散っていく。
『ユーゼスは……今ユートピア・ワールドにいる。私が……いたあの世界に』
「……そして、お前はそこに飛ばしてくれると?」
『……君たちにも事情がある。押し付けはしない。だから、一人一人選択してほしい。
三度なら、私のすべてを振り絞れば可能なはずだ……』
「選択?」
ゾフィーが静かに首肯した。
『君たちがいた世界、君たちのいた時間に帰るか……ユーゼスの世界に行くか』
三人が、息をのむ。
三人の最後の決断は―――
【ミオ・サスガ搭乗機体:ブラックサレナ(劇場版機動戦艦ナデシコ)
パイロット状況:強い決意。首輪なし。
機体状況:EN中消費。装甲が少し破損。中のエステバリスカスタムのモーターが磨り減っているため、なにか影響があるかも
現在位置:次元の挟間
第一行動方針:???
最終行動方針:ユーゼスの打倒。最後まで諦めず、皆のことを決して忘れず生きていく。
備考:ディス・アストラナガンの意思(らしきもの?)を、ある程度知覚できます
イングラムが知覚したことを、ミオもある程度知覚できる(霊魂特有の感覚など)
フォルカと情報を交換しました。
マサキの危険性を認識、また生存を確認】
【フォルカ・アルバーク搭乗機体:神化ヤルダバオト(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:首輪なし
機体状況:EN小消費
現在位置:次元の挟間
第一行動方針:???
最終行動方針:殺し合いを止める。
備考1:フォルカは念動力を会得しました。
備考2:ソウルゲインはヤルダバオトの形に神化しました。
備考3:ミオ・シロッコと情報を交換しました】
【パプテマス・シロッコ搭乗機体:ジ・O(機動戦士Zガンダム)
パイロット状況:軽度の打ち身(行動に支障はなし)、首輪なし
機体状況:右脚部消失。右隠し腕消失。ビームライフルをいくつか所持。
T-LINKセンサー装備。
グラビトンランチャー所持。ブライソード所持。もしかしたら他にもガメてるかも。
現在位置:次元の挟間
第一行動方針:???
第二行動方針:マサキを排除
最終行動方針:主催者の持つ力を得る。(ゼストの力に興味を持っている?)
補足行動方針:これが終わったら最高級紅茶を試す
(ミオと、まあフォルカとクォヴレーにも賞味させてやらなくもないな)
備考:マサキを危険視。
フォルカと情報を交換しました。
ユウキ・ジェグナン厳選最高級紅茶葉(1回分)を所持】
【残り 4人】
最終更新:2008年09月12日 03:47