目覚め


「何もないようだな……」
ティーカップの中の紅茶を飲みながら、シロッコは周囲を見回した。
見渡す限りの、瓦礫の山。建物は全て崩れ落ち、元の形を成しているものはもはや存在しない。
核爆発。それも立て続けに二度も、だ。
その余波は、島を再起不能なまでの死の大地へと変えていた。
「何かあったとしても、あの爆発の余波で吹き飛んだかもしれんな……それにしても」
目の前の地獄絵図を前に……シロッコは改めて、自分の想像を超えた超技術の存在に驚愕する。
「核の放射能をも、数分で浄化する技術、か……」
ひとたび高度に汚染されれば、長期に渡りその地を死に追いやる、核の真の恐怖――放射能。
核爆発の瞬間、確かに大量に放出されたそれの反応は、僅か数分で完全に消失してしまった。
(主催者の放射能を消す意図はわからんが……その技術、全く持って驚かされる……)
シロッコはユーゼスの持つオーバーテクノロジーに、より一層の興味を抱く。
それは、今彼が搭乗しているグランゾンに対しても同じことが言えた。
爆発の際の放射能すら遮断する重力バリア、G・テリトリー。
動力部の対消滅エンジン。ブラックホールをエネルギーとした重力制御能力。
最大戦速を飛躍的に向上させるネオドライブシステム(制限速度の都合上、使用はできないだろうが)など。
恐るべき超技術の数々が、反則的なまでに詰め込まれていた。
そして――心臓部にある、謎のブラックボックス。
(いずれ、グランゾンについても調べてみる必要がありそうだな。
 特にこのブラックボックス……解明できれば、今後何らかの鍵となりうるかもしれん……)
一頻思案を巡らせ……やがてそれを打ち切り、シロッコはカップに残った紅茶を飲み干した。
「全ては、G-6基地に着いてからでなくては始まらんか。
 とにかく、これ以上の探索は無意味だな……」


二度目の核爆発を見届けた後、シロッコは島の探索を行っていた。
早い話が、気を失ったアーバレストとR-1のパイロットが目覚めるまでの時間潰しでもある。
本当ならば、仮眠のひとつでも取ろうとも考えていたが、なぜか目が冴えて眠れなかったのだ。
バカみたいにコーヒーを飲みまくった影響かもしれない。
……それはともかく、D-7の蒼い渦から飛ばされてきたこの島。海に囲まれ孤立したこの怪しい空間に、
何かあるのではないかと期待して島を一通り回ったが、徒労に終わった。
「結局、収穫はこれだけか」
飲み終えたティーカップを傍らに置き、シロッコはグランゾンの手の先――そこに抱えられた物体へと視線を移した。
ガンダム試作二号機の立つ場所のすぐ近くの瓦礫に埋もれていたものだ。
人型機動兵器のエンジンだろうか。そこからは、このサイズにしては異常といえるほどの高エネルギーが感知された。
感度がすっかり鈍った、グランゾンのセンサーにも反応するほどに。
これだけの高エネルギー体なら、核に匹敵する爆発を起こさせることも可能だろう。
ジャイアントロボが、実際に己の動力炉を核として爆発させた時と同じように。
「フ……さすがに三度続けての核爆発は、遠慮したいところだな」
あくまで平静を装いつつ、シロッコは背中に冷や汗を走らせる。
核爆発の時、誘爆とかしなくてよかった……と。
「エンジンの大きさからして、MSサイズの機体のものか……
 あのR-1とかいう機体になら、上手くすれば取り付けることが可能かもしれん……」
彼らが自分の手駒として忠実に動くようならの話だが――と付け加えつつ、シロッコは沈黙を続ける二つの機体へと目を向けた。
「それにしても……目覚める気配はなし、か……」
R-1、そしてアーバレスト。そのパイロット達は、未だ眠りについたままだった。
これまでにも何度か起こそうと試みたが、二人とも昏睡状態で一向に起きる気配を見せなかったため、目覚めるのを待つしかなかったのだ。
時計に目をやる。既に針は午前三時を回っていた。
「ここまで待つことになるとはな……いつまでも、彼らの目覚めを待ち続けるわけにもいかんか……」
刻一刻と過ぎていく時間に、さすがのシロッコもやや焦りを覚え始めていた。
「これ以上この島に居続けるのは得策ではない……やむを得ん」
シロッコは結論を出した。



「最後にもう一度、ティータイムといこうか。
 それが終わって起きていないようならば、彼らを置いてG-6へと向かおう」

……焦ってる人の発言とは思えないのですが。



「全く持ってよく眠る……」
眠る二機を眺めながら紅茶を一口飲んで、呆れたように呟く。
だが無理もない。先の戦いで、二人は精神力を著しく消耗していたのだから。
ただでさえ集中力を要するT-LINKシステムを、ラムダドライバを、それぞれ全開にして。
無論、シロッコにはそれを知る由もない。
だから、事もあろうにこんなことを口にする。

「フ……のん気なものだな」

お 前 に だ け は 言 わ れ た く な い 。

いっそ無理にでも彼らを叩き起こそうかとも考えたが、シロッコはそれを思い止まった。
先の戦闘から確認できた彼らの精神状態を考えると、不用意な刺激は自分の身を危うくしかねないと判断したのだ。
アーバレストのパイロットはともかく、R-1のパイロットの少女の精神は特に不安定だった。
強化人間か、あるいはそれに近いものか。
いずれにしても、下手を打って無用な争いに巻き込まれることは、できることなら避けたかった。
精神異常者が秘めた危険性は、十分理解しているのだから。
そりゃもう、うんざりするほどに。

「静かだな……」
シロッコは一人呟き、紅茶を口にした。
それにしても、一体どれだけ飲めば気が済むのだろう。
そもそも紅茶にしろコーヒーにしろ、そんな一気にがぶがぶ飲むものではないと思うのだが。
ニュータイプだか木星帰りだか知らないが、どうも彼の品性とやらは常人には理解しがたい。
「フ……紅茶は奥が深いものだ。入れ方ひとつで、味も大きく変わる」
誰に向かって言っているのか。というより、さっきからやけに独り言が多いのは何故だ。
「しかし、ティータイムもさすがにこれが最後か……」
紅茶セットの箱を覗きながら、名残惜しげに呟く。
20個ほど入っていたティーバッグは、全てなくなっていた。
本人の拘りかどうかは知らないが、一杯飲むごとにティーバッグも変えているのだから、その消費は激しい。
「さすがに、いつまでもこうした時間を取っては……む?」
箱の中を覗いていると、ふと気づく。一番奥に、何かが入った袋が残っていることを。
「何だ?私が見落としていたとは……一体何が入っている!?」
袋を取り出す。中には……紅茶の葉が詰められていた。
そして袋には、こう書かれてあった。

“殺し合いの中のひと時の休息を貴方に!
  ユウキ・ジェグナン厳選!最高級ダージリン紅茶!”

「ユウキ・ジェグナンとは誰だ?……まあいい」
ダージリンのファーストフラッシュのFTGFOP(Fine Tippy Golden Flowery Orange Pekoe)。
紅茶のシャンパンとも呼ばれ世界三大銘茶の一つにも数えられる、まさしく最高級の紅茶の葉だ。
「最高級の茶葉、か……もう一度くらいは、ティータイムを楽しめるということか」
この男、まだ飲むつもりらしい。正直、そろそろ切り上げていい加減話を進めてほしい。
「しかしこれだけの紅茶、こうした場で飲むにはふさわしくないな。
 もう少し落ち着いた時に、じっくりと味わいたいところだな……フッ」
茶葉を箱にしまう。……さすがにこの場は、思い止まってくれたようである。



紅茶を飲み終えても、二人はやはり目覚める気配を見せなかった。
「彼らからはもう少し詳しい情報を聞き出したかったが……仕方がない」
やることは山積みだ。アーバレストのパイロットの持っている情報は気になったが、いつまでも時間を割ける余裕はないのだ。
……だったらコーヒーブレイクやティータイムで費やした時間はどうなんだと小一時間問い詰めたい。
彼は二人との接触を諦める。こんなことなら、もっと早く向かうべきだった……とも考えるが、今更言っても仕方がない。
「もう、行くとするか。ここからならば、北の光の障壁を越えたほうが早いな」
G-6基地へと向かうため。
グランゾンは、北へ向けて飛び立った。

そして島には、数体の巨人と、眠り続ける二人の人間だけが残った。

それを振り返ることなく、シロッコは先を急ぐ。




また一人になって、彼は往く。

独り。

…………。

男は独り、道を往く。

男は独り、往くものさ。

…………。




パプテマス・シロッコよ、どこへゆく。


 * * * * * * * * * * *


「ぅぅ……っ……?」
リュウセイがその意識を取り戻したのは、グランゾンが飛び去ってからすぐのことだった。
狙い済ましたかのようなタイミングだが、あくまで偶然であるので、念のため。
「ってて……エルマ、無事か?アルは……?」
全身を走る痛みを抑えながら、リュウセイは相棒達に声をかける。
しかし、そのどちらからも返答はなかった。
(くそっ……身体中が痛ぇ。何がどうなったんだ……?)
アーバレストを再起動させながら、はっきりしない頭を2度3度振って奮い起こし、記憶を探る。

リョウトの狂った笑い。チーフの叫ぶ声。
飛び去るテムジン。その手に抱えられた、核。
ラムダドライバの起動。閃光。衝撃。そして――

「……そうだ……俺は……俺はまた……くそっ!」
また一つ、犠牲が生まれた。
何一つできず、見ているしかなかった――無力感が、リュウセイを叩きのめす。
「結局、俺は何も出来ないのかよ……!」
<まだです、マスター>
絶望にくれるリュウセイに、声がかけられた。
「アル!?生きてたのかよ!」
<私のことならご心配なく。エルマも、オーバーヒートで一時的に機能を停止しているだけです。問題はありません。
 それよりも、マイさんを。まだ、生命反応は消えていません>
「そうだ、マイは!?」
アルの言葉に思い立ち、リュウセイはアーバレストを後ろに振り向かせる。
そこにはかつての自分の愛機、爆発から自分が盾となって守ったマイの機体――R-1の姿があった。
「マイ!?マイ、無事か!?」
ラムダドライバを発動させたアーバレストを盾にしたおかげで、幸いなことに核の衝撃による外傷はほとんどないようだ。
「マイ!しっかりしろ、マイ!!」
アーバレストをR-1に触れさせ、接触回線を通じて、リュウセイは必死に呼びかけた。
『……ぅぅ……私は……』
その想いが通じたか、程なくして少女の声が聞こえてきた。
懐かしい仲間の声。紛れもない、マイ・コバヤシの声だった。
「よかった、目が覚めたか!!」
『リュウ……セイ……』
「怪我はないか!?待ってろ、すぐそっちに行く!」
直接マイのもとへ向かうべく、リュウセイはアーバレストのコクピットハッチを開けた。
『ああ、すまない……私は大丈夫だ、“リュウセイ”』
「心配するな、もう平気……ん?」
<マスター!!離脱を―――>


一瞬、感じた違和感。

同時に響いた、アルの警告。

それを受け、反射的に操縦桿を引く。

だが折れた左腕に激痛が走り、僅かに動きが遅れ――



衝撃が走った。



そして。



「……あれ?」
場の空気に似つかわしくない間の抜けた声が、思わずリュウセイの口から漏れた。
何が起きたか、すぐに理解できなかった。
目の前の開かれたハッチから、外の光景が見える。
R-1が拳を突き出し立っている。拳には緑色の光が纏っていた。
それはリュウセイ自身知り尽くしている、T-LINKの光……
(あれ、は……)

「……ご……ほっ……!」
声を出すより先に、口から液体が撒き散らされ、コクピットを赤く汚した。
それが自らの血であることを理解するのに時間はかからなかった。
よく見ればコクピットはあちこちが拉げ、砕けている。
状況を確認する。身体中に、砕けた破片が突き刺さっていた。
特に腹部に刺さったものは大きく、そこからは出血も激しい。
……それらを一通り確認して初めて、リュウセイは全身に痛みを覚え始めた。
「ぐ……ぅ、ぁ……」
そして思い知る。自分が、今いかに追い詰められた状態であるかを。

『ふん……機体の急所は外したか』
R-1から、声が聞こえてくる。
そう、直撃と思われていたT-LINKナックルの一撃は、リュウセイの一瞬の判断によって、かろうじて急所を外していた。
しかし、それはあくまで「かろうじて」だ。
力なく跪いたまま、アーバレストはピクリとも動くことはなかった。
頭部は潰れ、上半身の装甲は激しく砕かれ――内部機器にもダメージは深く響いている。
爆発、そしてコクピットの直撃を免れただけ。それだけでも奇跡的といえる、酷い状態だった。
『無様だな、リュウセイ・ダテ……』
背筋が凍るほどに冷たい声。それはマイであって、マイでない者の声。
リュウセイはその声の正体を知っている。
『お前の知っている、マイ・コバヤシは死んだ』
信じたくない。認めたくない。今さら、そんなバカなことがあってたまるか。何かの間違いだ……この期に及んでも、そう思いたかった。
だが非情な現実は、彼女自身の口から突きつけられた。

『我が名はレビ……レビ・トーラー。
 お前に、死を与える者だ――』



絶望――
そして、怒りが……憎悪が、こみ上げてくる。
レビの後ろで、自分達を嘲笑う、悪魔の影に。
かつて彼女を人形として操り、そして今また彼女を弄ぼうとする、神を気取った悪魔に――!
(ユーゼス……てめぇは……てめぇって奴は……どこまで……!!!)
膨れ上がる憎悪。仲間を失った今、もはやそれを止められる者はなかった。
いや、あるとすれば……それは、目の前の少女が突きつけてくる――“死”。

R-1の拳に念が込められ、再び緑色に発光を始める。
『リュウセイ・ダテ……お前の死をもって、私は完全に蘇る』
マイ……いや、レビの冷たい、死刑宣告が耳に届いた。
朦朧とし始める意識。それを奮い起こし、操縦桿にその手をかける。
「アル……起きろ、動いてくれ……」
アルの返事はない。アーバレストも動かない。
アル共々、アーバレストは既に兵器、いや機械としての死を迎えていた。
R-1が拳を振りかざす。それを逃れる術はない。
リュウセイはそれをただ呆然と見上げるしかなかった。
『死ね』



次の瞬間――
その場の空間に歪みが生じ。
同時に、二機のすぐ近くを立て続けに爆発が襲った。

『何!?』


 * * * * * * * * * * *


突然の不意打ちにたじろぎながら、レビは周囲の状況の確認を試みる。
「何だ……どこから撃ってきた―――ッ!?」
脳裏を走る、強烈なプレッシャー。
それに導かれるように、R-1は振返った。
「あれは……!?」
その先に立っていたモノ。それは――飛び去ったはずの蒼き巨人、グランゾンだった。

『甘いな。生の感情を隠し切れぬようでは……遅かれ早かれ、死ぬことになる』

グランゾンが、そしてそれに乗るパプテマス・シロッコが放つプレッシャー。
「私の邪魔をするつもりか。この感じ……不愉快だ!」
それはレビに焦りを生じさせ、同時に少なからず冷静さを奪っていた。
不快感に任せて、R-1はバーニアを吹かし、グランゾンへ向けて突撃する。
どの道銃を失い、破砕剣の射程外であるR-1には、接近戦を仕掛ける戦法しかない。
だが、怪物を相手にするには、それはあまりに無謀な挑戦であった。
一瞬、グランゾンが光り――
直後、ワームスマッシャーが数発、雨となってR-1の前に降り注いだ。
「なに……ぐっ!!」
雨はR-1の行く手を遮るように降り、そのまま爆発を起こす。
直撃はかわしたものの、圧倒的な火力。策もなしに、R-1で正面からの接近は不可能だ。
圧倒的性能差。それだけではない、パイロットの実力の違いをも、レビは敏感に感じ取った。
「……ちっ!」
勝てない。今の自分には。
そう判断するや否や、レビは逃げの一手を決め込む。
R-1は即座にR-ウイングへと変形し、グランゾンの反対方向へと一気に飛んだ。
そのまま、戦闘空域から離脱を試みる。
何故か、グランゾンは追撃してくる様子を見せない。
(舐められたものだ……この屈辱、忘れんぞ……!)
R-ウイングはそのまま、島を飛び出した。

――死ねない。私はまだ死ねない。
ようやく、無限の闇の奥底から、光差す場所に出ることができたのだ。
こんなところで、死ねるものか――


 * * * * * * * * * * *


島を出た後、島から不穏な空気を肌で感じ取ったシロッコ。
Uターンして、島へと戻った。で、来てみればこのざまである。
少女の乗るR-1が、いつの間にか大ダメージを受けていたアーバレストに、とどめの一撃を加えようとしていた。
R-1の少女の暴走――それまでの状況を整理し、シロッコはそう判断する。
少女はともかく、アーバレストのリュウセイ・ダテに死なれるのは惜しい。
そう考えた、シロッコの行動は早かった――
瞬く間にR-1を圧倒し、アーバレストのもとから追い払うことに成功する。

「照準がかなり甘くなっているな。これも内部機器の異常のせいか……」
飛び去るR-ウイングを意にも介さず、シロッコはグランゾンの現状を再確認する。
「元より牽制のつもりだったとはいえ……この先、思いやられるな」
グランゾンの不調を嘆く。もっとも、それを差し引いても予想以上に強力な、グランゾンの性能も理解したが。
そうしているうちに、R-ウイングの影は小さくなっていく。シロッコはそれを追うことはしなかった。
「深追いするまでもない……どの道、この程度で冷静さを欠くようでは生き残れん」
そう、今はむしろ、もう一人のほうが気になる――
シロッコは、傷ついたアーバレストのほうへと視線を移した。
アーバレストのコクピットから人影が……リュウセイが姿を現す。
しかし数歩歩いてすぐに倒れ、そのまま蹲ってしまう。
(いかんな。ここで死なれては、戻ってきた意味がない)
シロッコはグランゾンから降り、リュウセイの元へと駆け寄った。


 * * * * * * * * * * *


「行か……なきゃ……」
少しでも気を抜けば途切れてしまいそうな意識を奮い立たせ、リュウセイは這いながら身体を前進させる。
全身を走る激痛。普通なら、意識を保っていられるような状態ではないというのに。
「マイを……追わないと……」
「しっかりしろ。無茶をするな」
不意にかけられた、男の声。
リュウセイが面を上げると、そこには声の主が……パプテマス・シロッコの姿があった。
「あ、あんたは……?」
「動くな。すぐに手当てをする、ここは安静にしているんだ」
静かに話しかけながら、シロッコは支給品袋の中を漁る。
もっとも、手元にある道具では、せいぜい止血くらいしかできない。
リュウセイの傷は深かった。腹部の傷は特に酷く、最悪、内臓器官にまで達している可能性すらある。
止血したところで、僅かな延命措置にしかならないだろう。
(これでは手駒として使うには絶望的だな。
 まあいい。こちらとしては、情報を聞き出せるだけの猶予が得られれば問題はないが……)
リュウセイ自身にもわかっていた。ゆっくりと、しかし確実に自分に迫る、死を。
だからこそ。
リュウセイは再び立ち上がろうとする。最後の最後まで諦めないために。
「!?何を……」
「……俺は、マイを追わなきゃ……あいつを、助けなきゃ……」
「何をバカな……自分が今、どういう状況かわかって……」
「行かせてくれッ!!」
シロッコの言葉を遮って、リュウセイは叫んだ。

「まだ俺は……俺は、誰も救えちゃいない……!」

死んでいった仲間の顔が脳裏を過ぎる。
自分の覚悟を認めてくれた、イングラムとセレーナ。
憎悪に飲まれそうになった自分を引き戻してくれたジョシュア。
命を張って、自分達の命を救ってくれたチーフ。
彼らから、多くの希望を託された。みんなの想いを、無駄にしたくない。
このまま何も出来ぬまま死んでは、あの世で彼らに合わせる顔がない。
そして、何より……
「マイを助ける……ユーゼスの野郎から……!」
ただ仲間を救いたいという、一途で純粋な想い。
自らの言葉で、自らの手で、マイ・コバヤシを取り戻す。
(これ以上、あいつに辛い思いはさせねぇ……
 俺の命に代えても……今度こそ、ユーゼスの呪縛から解き放ってやる……!)

『リュウセイ・ダテ……お前の死をもって、私は完全に蘇る』
レビはそう言っていた。それはつまり、まだ完全ではない――
まだ、マイ・コバヤシの意識は消えていないのかもしれない。
そうだとすれば、まだ間に合う。いや、間に合わせてみせる――

「頼む……俺を連れて行ってくれ」
シロッコに懇願しながら、リュウセイは一体の巨人を見上げる。
恩師の、戦友の遺志の宿った、巨人を。
「メガデウスの……ビッグ・オーの所へ……!!」



【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
 パイロット状況:良好
 機体状況:内部機器類、(レーダーやバリアなど)に加え通信機も異常。照準のズレ大。右腕に損傷、左足の動きが悪い
 現在位置:E-2
 第1行動方針:リュウセイから更なる情報を聞き出したい
 第2行動方針:G-6基地への移動
 第3行動方針:首輪の解析及び解除
 第4行動方針:可能ならば、グランゾンのブラックボックスも解析したい
 最終行動方針:主催者の持つ力を得る
 補足行動方針:十分な時間と余裕が取れた時、最高級紅茶を試したい
 備考:首輪を二つ、トロニウムエンジンを所持。
    リュウセイとチーフの話を全て聞いていたため、かなりのことを知っています。
    ユウキ・ジェグナン厳選最高級紅茶葉(1回分)を所持】

【リュウセイ・ダテ 搭乗機体:ARX-7アーバレスト(フルメタル・パニック)
 パイロット状態:重傷。身体のあちこちに刺し傷。腹部の傷は特に深く、止血の必要有。
         (止血できればまだある程度は持つと思われる。機体の操縦はかろうじて可能)
         全身に激しい痛み。強い決意。ほとんど気力だけで持たせている状態。
 機体状態:半壊。再起動不能。胸部装甲大破。アル沈黙。
 現在位置:E-2
 第1行動方針:命に代えても、マイを助ける
 最終行動方針:無益な争いを止める(可能な限り犠牲は少なく)
 備考:サドン・インパクトに名前を付けたがっている】

※グランゾンはG・テリトリー、アーバレストはラムダドライバによって放射能汚染を完全に防いでいます。
 また、島周辺の放射能は消滅しました。

※エルマの状態の詳細については次の人にお任せ。

【搭乗者無し 機体:メガデウス(ビッグオー)(THE BIG・O)
 機体状況:再起動、装甲に無数の傷。左腕装甲を損傷、反応がやや鈍っている。
      額から頬にかけて右目を横断する傷。右目からのアーク・ライン発射不可。
      頭頂部クリスタル破損。クロム・バスター使用不可。
      砲身欠損。ファイナルステージ使用不可。
      コクピット部装甲破損。ミサイル残弾僅か。
      サドン・インパクトは一発限り(腕が吹っ飛ぶ)
 現在位置:E-2
 備考:コクピット付近に謎のコードが散らばっているが、特に問題はなし】

【搭乗者無し 機体:ガンダム試作二号機(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY)
 機体状況:全身に激しい損傷、核を消費
 現在位置:E-2】


【マイ・コバヤシ 搭乗機体:R-1(超機大戦SRX)
 パイロット状況:完全にレビ化(ただしマイの意識はまだ残っている?)
 機体状況:G-リボルバー紛失。全身に無数の傷(戦闘に支障なし) 
      ENを7割ほど消費。バランサーに若干の狂い(戦闘・航行に支障なし)
      コックピットハッチに亀裂(戦闘に支障なし)  T-LINKシステム起動中
 現在位置:D-2
 第1行動方針:島から離脱
 最終行動方針:???】

【三日目 3:30】





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第230話「銀河旋風速度制限 投下順 第232話「その身に背負うものは
第221話「遙か広がる戦いの荒野へ 時系列順 第223話「全ての人の魂の戦い

前回 登場人物追跡 次回
第225話「閃光 パプテマス・シロッコ 第234話「ファイナルステージ・プレリュード
第225話「閃光 リュウセイ・ダテ 第234話「ファイナルステージ・プレリュード
第225話「閃光 マイ・コバヤシ 第234話「ファイナルステージ・プレリュード


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最終更新:2008年06月02日 17:20