ヘタレ道中記


『……それから、今後の放送は十二時間毎に行うこととする、精々聞き逃さん様にしたまえ』

「ほ、ほう……殺し合いはなかなか順調に進んでいるようだな……」
 参加者に向けた放送が響き渡る中、男は一人呟きを洩らす。疲れきった声、憔悴しきった表情で。
 ……ヴィンデル・マウザー。
 かつて戦乱の世界を築き上げようとして世界に反旗を翻した、ヘタレ小悪党その人である。
 この戦いが始まってから六時間。その間、多くの参加者たちが出会いと別れを繰り返していった。
 ……だが、そんな中にも例外はある。
「私は……私はまだ、誰とも出会えておらんというのに……」
 そう、それがヴィンデル・マウザーその人であった。
 あれから……ハロの軍団に白旗を振ってから、ヴィンデルは自らに与えられた機体――
ジャスティスガンダムを駆り、周囲の様子を伺う事にした。
 自分以外にも数十人規模の人間が殺し合いを始めている中、目立った行動を取る事は命取りとなる。
そう考えての行動ではあったが、もう一つ重大な理由が存在した。
 そう、それは――
『テキカ゛コナイソ゛、ウ゛ィンテ゛ル!』
「ああ……そうだな……」
 ハロ。このコクピット内を埋め尽くす、なんだかよくわからない丸っこいペットロボの存在である。
 ペットロボと銘打っておりながら、ハロの性能は予想外に高い。
 実際、現在ジャスティスを操縦しているのは、脱力中のヴィンデルではなかった。
 ハロである。器用な事にマニピュレーターを駆使して、ハロは数体掛かりでMSの操縦を行っていた。
 ……その一方、ヴィンデルはといえば、コクピットの片隅で膝を抱えるばかり。
 親指の爪を噛みながら、涙を流しながらブツブツ呟きを洩らしていた。
「くそっ……私はヴィンデル……ヴィンデル・マウザーなのだぞ……?
 それなのに……それなのに、どうしてペットロボごときの命令に従わなければならんのだ……?」
『ウルサイソ゛、ウ゛ィンテ゛ル!』
「あっ! す、すんません、すんません! 静かにしてますから、どうか……どうか、修正だけはっ……!!」
 機体を操縦するのも、これからの方針を決定するのも、もはやヴィンデルの仕事ではなかった。
 ハロにボロ負けしてからこっち、ハロとヴィンデルの間には絶対的な立場の差が生まれていたのである。
 すなわち――『ハロ>>>(越えられない壁)>>>ヴィンデル』であった。
「ううっ……アクセル……ラミア……私……私は…………」
 かつての部下の事を思って、ヴィンデルは一人涙する。
 だが、その部下といえば――


「ちっ、違うぞッ! 俺とルリちゃんは、そんな……」
「いやいや、言い訳は男らしくないんだな、これが。どっからどう見てもラブラブカップルにしか……」
「だ、だからっ……!」


「ゲームは順調に進んでいるようだ。このペースが続くようなら、お前の出番は当分先の事かもしれんな……」
「はい、ユーゼス様」


 ヴィンデルの事など、頭の片隅にも無かった事を記しておこう。


【ヴィンデル・マウザー ZGMF-X09A・ジャスティスwithハロ軍団
 パイロット状況:健康、めっちゃ脱力、ハロの下僕
 機体状況:損傷なし、ただしコクピット内がハロで埋め尽くされている
 現在位置:B-5
 第一行動方針:……ハロを切実になんとかしたい
 第二行動方針:アクセル、ラミア・ラヴレスとの合流
 最終行動方針:戦艦を入手する】

【初日 18:20】





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第73話「戦う前から既に負け犬 ヴィンデル・マウザー 第104話「車上の戦い、そしてヘタレ
第91話「合流、そして放送 アクセル・アルマー 第107話「放送を終えて・・・
第91話「合流、そして放送 テンカワ・アキト 第107話「放送を終えて・・・
第88話「ハッターのミス ラミア・ラヴレス 第131話「水面下の情景Ⅱ
第92話「第一放送午後六時 ユーゼス・ゴッツォ 第101話「いんたぁみっしょん


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最終更新:2008年05月30日 04:22