セタ・ロスティフンケ・フシミ@伏見藩国様からのご依頼品



夜見るだけが夢ではないの

 大好きな人がいるの。
 私を妹のように想ってくれる人。
 ちょっと遠い目をしながら夢を語ってくれた人。
 ・・・・・・時々、私を見ながらいつか、どこかの事を思い出している。かもしれない人。


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 あの日、私が宰相がいないのをいい事に計算ドリルの上に絵を描いていたの。
 書く前に、何を書こうか色々考えて。船にしたわ。大きな大きな船。私をどこか知らない所に連れて行ってくれる船。
 想像したら楽しくなって、夢中になって描いていたら、くすり、て小さく笑う声がして
「王女殿下?」
 振り返ったらあなたがいたから。私はびっくりして。ちょっと悔しかったのと恥ずかしくなったので涙目で絵を消したの。でもあまりに一生懸命描いたから、鉛筆の線の跡が残っちゃって。後で宰相にこってり怒られてしまったわ。
「みた?」
 おそるおそる聞いたら、真面目な顔で口に指を立ててこう言われたの。
「宰相に聞かれます」
 私も慌てて口を手で塞いでね、
「秘密にして。宰相が」
 こう言ったらにっこり笑って
「ドキドキしましたか?」
 後で思ったら、私からかわれたのね。ちょっぴり悔しかった。でも、ひどい事する気がないのも分かっているから許してあげる。

 彼はドリルにくっきり残った跡を見ながら話してくれたわ。
「船がお好き」
 うなずいたら、彼の国も貿易船を作ってるって教えてくれたの。
「どこまでもいける?」
「望むならば。いろんな国を周り、いろんな土地を旅して、いろんなものを見たり聞いたり……素敵なことができる、自分の夢です」

 一瞬、言葉が途切れたのは。いつか、どこかの事を思い出してしまったから?

「や、なんでもないです。でも、いつか遠くにいってみたいですね」
 ちょっとだけ困った風だったから、私は首をかしげるしかできなかった。もっともっと、色んな事を知ったらあなたの困った事を吹き飛ばす言葉を言えるのに・・・・・・・・・。

 夜見るだけが夢ではない。目標の方の夢があなたにはあるのね。でも、一藩国の王を勤める人間がいなくなったら藩国は・・・・・・・・・、そう思ったから。

「勅令をだして、ずっとそばにいるようにします」
 あなたが見る夢を私も見たかったから。あなたはぽかんとした顔で「ちょ」とか上ずった声であたふたしたけれど、私は王女だもの。
「あなたがなにかをさがしにいっても、いれるようにする勅令をだします。だから」
 しんぱいしなくていいのよ。

 その時、あなたはまた悪い癖。悲しいと困ったがない交ぜになった顔を一瞬浮かべてから

「……好きですよ、ぽち。ありがとう、大好きです」
 そう言って私の頭を撫でてくれる手は大きくて温かくって、優しいのが嬉しかった。でも、何故か城のメイドが宰相のお気に入りの壺を運ぶ時の手を思い浮かべてしまったわ。

 もっと大きくなったら私にもあなたの気持ちが分かるようになるのかしら。
 あなたが何を悲しんでいるのか、私には分からないけど。

「なにか、俺にしてほしいことは、ある?」
「またあそびにきて」
「うん。約束。必ず、守る。必ず……」
 指きりした手は、やっぱり大きかった。あなたが北国出身なのと整備にも携わっているせいかしら。ちょっとかさかさ乾いてた。

「ゆびきりげんまん、です。嘘をついたら、えーと」
 クスリと笑ってから言った言葉に、口をふさがそうかと考えたわ。
「俺のことを好きにしていいです。何でも、王女の好きなようにね」

 うん、きっとよ。
 私の知らない事を知ってる人。私を好きだと言ってくれた人。
 絶対忘れないから。あなたが忘れてもちゃんと私が覚えていてあげるから。
 船の話も、あなたの手の感触も抱き締められた時の温かさも。
 夜見るだけが夢ではないという事も。


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 黒い髪のぽち王女がとっても可愛かったです。
 伏見さんとの交流がとっても微笑ましくって・・・・・・・・・。お2人の思い出に花が添えられたらいいな、と思っております。



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ご発注元:セタ・ロスティフンケ・フシミ@伏見藩国様
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最終更新:2008年04月20日 13:33