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鋸星耀平@ビギナーズ王国様からのご依頼品


のこほし初デート ~side Saw~


「嫁入りしてもいいですか」

後になって考えると、あれほど取り消したい台詞も無い。
うちに帰ってから我に帰った。
枕は10個ボコボコにした。クッションは20個綿に返った。ベッドは真ん中から折れた。
恥ずかしくて恥ずかしくて死にそうになった。
人間は恐怖によって死ぬことがあるというが、恥ずかしさによっても死ぬのだろう。
真剣にそう思った。
デートの約束はしたけど、したことすら後悔した。
あんなにすぐ話を進めてしまって、本当に良かったんだろうか?
相手にムリをさせていないだろうか?
させてしまったらどうしようか?
思いは巡る。さりとて尽きぬ。


ああ、それでも、
それでも、自分はやっぱり彼のことが好きなんだと、
それしかないのだと、
港に着いてる時点で思うのである。

自分だめだなーと思いながらドアの前に立った。
あー、ど、どきどきする……まだ来てないよね……
30分前だから、着いてるわけは無い。うん。多分。
先に入って座って、ゆっくり待とう。そうすればこの格好にも慣れるだろう。うん。
す、スカートなんか制服以外で久々に着たなぁ。
髪も久々に編んだし……20分もかかっちゃった。
化粧も、うん、そんなにきつくしてない。自然に出来てる。
弁当は……思い出したくない、けど、ちゃんと出来てる。うん。
レジャーシートも用意してる。うん。
って、違う違う。持ち物は心配要らないんだからやらなくていいんだ。
あー、@@(ぐるぐる)ってこういうことを言うんだ。
やっぱり実感しないと分からないもんだなぁ。
ああ、もうそんなことはどうでもいいんだって。
ドアの前でうだうだやっても仕方ない。
よし、入ろう。入って待とう。
この@@も座ってるうちになくなるだろうしね。うん。
そう結論付けると一人で勝手に悩むのをやめて、私はドアを開けた。



じゃない、……あ、あれ?
星青玉くんがいる?
うわ、わ、いるとは思わなかった。ど、どうしよう。
ていうか、笑ってる?そ、そんなに変なのかなこの格好……
あ、な、何か言ってる。やっぱ変なんだ……
何か言わないとー、えー、えーと、ご、ごめん!
いや、時間とかじゃなくてね……うあ、星青玉くんが笑って近づいてきた。
い、いや、違うの。そうじゃなくてー……
へ、変な格好でごめん!服着替えてくる
逃げるようにそう言うと、私は開けた扉をすぐ閉めた。
い、今から家に帰って着替えを……いや、誰か呼び出して着替えを……よし、これでいこう。
早速手を叩いて部下の名前を呼ぼうと、って、え?
扉の向こうから星青玉くんの声が聞こえた。

……に、似合ってるって。



……ほ、本当に?


いや、でも、こんな変な格好……私には似合わないよ。
そう言おうと思ってドアを少しだけ開け……て、うわ!
び、ビックリしたー。か、顔が近いよ星青玉くん!
前の私なら思わず手が出てた距離だった。文字通り彼を星にするのは忍びない。
ついでに言えば、前の私なら、お祭りの前なら逃げていたかもしれない。
今もちょっと逃げたい。恥ずかしいから。
だから、お世辞、いらないから。
変にお世辞を言われたらどうしても調子に乗ってしまう。
そんなに可愛いわけじゃないからサポートにもなったんだし……
お世辞じゃないって言われたって……似合ってる?……かわいい?
言葉は疑えても、星青玉くんのこの笑顔を見ると、本当なのかなと思ってしまう。
あー、うー、やっぱり恥ずかしいよ。
でも、星青玉くんに褒められるなら……悪くないかな?
あ、今日行くところ?



……決めてなかった。

わ、悪い?き、きめてないよ!女の子だもん。
うん、我ながらとっさに出たにしてはいい言葉だ。
デートコースを決めるのは男の子の役割だもんね。
う、うん。何があるでもないけど、うん、歩こう。
星青玉くんが歩き出したのにあわせて自分も歩き出した。
あ、あれ?同じ足と手が前に出る……し、しかも、直らない。
ほ、星青玉くんに見られたらどうしよう……って、隣にいるんだから見られて当然だ。
もっと考えろ自分。あ、顔も熱くなってきた。
え?あ、そ、そんなことないよ!
緊張と聞いて反射的に答えてしまった。
うう、私のことを言ったんじゃ無いじゃないだろうに。
まずい、判断能力も落ちている。ちょっと星青玉くんから離れよう。
まぁ、近づいてきますよねー。
え?手、握る?




あ、思考停止してしまった。って、ててててて、手ですか?
顔から火が出てるんじゃないかと思うくらい、頬が熱くなったのを感じた。
は、恥ずかしいよ……で、でも、……星青玉くんとなら……。
うつむいたまま、そっと手を出した。
すぐに手のひらが熱くなった。
一気に心臓が跳ね上がったのを感じた。
こ、これが星青玉くんの温かさ……ほ、星青玉くんが私の手を、手を!
ちらっと横目で確認して、それが現実だと認識すると、心拍数はどんどん上がっていった。
ああ……恥ずかしくて死にそう。
恥ずかし死にって心不全で死ぬのかなぁとか、全く関係ないことが出てくるくらい、心臓が痛かった。
は、早くどこかに着かないかなー


/*/


長いこと歩いて海岸に着いた。
まぁ、長いといっても時計を見ると20分くらいしか歩いてないんだけれども。
しかしこの手を繋いでいるという状況を考えると、ホントに長かった……
何度恥ずかし死にしそうになったことか。
そして今も、別の意味で死にそう……
す、スカートなんか履いてくるんじゃなかったー!
風が強いからばたばたはためくはためく。
に、荷物もって星青玉くんを手を繋いでスカートも押さえる……
ギャングの幹部でも2つが限界なのに3つはムリー!
あ、星青玉くんの方向にスカートが……

見ないでー!


……見られた。絶対に見られた。
目頭がじわっと熱くなってきた。
見た?見た?星青玉くん?
……やっぱり見られた。
でも何でも言うことを聞くって?
えっと、じゃあ……キス……はダメダ、恥ずかしスギル。
ぎゅー……も、ダメ。恥ずかしい、帰すより場合によっちゃ恥ずかしい。
うーんと悩んでいるうちに、温かい手を思い出した。
……めったに会えないんだから、今くらいは、ずっと手を繋いでてもいいよね。
うん。
じゃあ、手を離さない……。
嬉しそうに星青玉くんが了解と言った。
顔が自然とほころぶのが自分でも分かった。
嬉しいのはこっちの方だよ!声に出せないくらい嬉しい!
きゅーっと胸の辺りが締まってきた。でも、ぜんぜん辛くない。
これが幸せって言うのかな……



はっ!
息するの忘れてた……げほっげほ。
もう、星青玉くんったら。こういうときは嬉しそうな顔じゃなくて心配そうな顔をしてよー
あ、話逸らしたー……まぁ、手は繋いだままだから許してあげよう。
逸らされた話の行方は海にいる人だった。
星青玉くんは寒そうだなーとその人たちを見ている。
でも、今日の気温だと海のほうが、暖かいって。
海から上がったとき?ちゃんと焚き火を用意してるよ。ほら。
星青玉くんに見えるように、そう遠くないところに置かれた一斗缶を指差した。
へぇと感心した様子の星青玉くん。
うわ、波高いなーと驚いてる星青玉くん。
……なんか、こうして見てると、星青玉くんって表情豊かなんだなー。
んー、カッコイイとはちょっと違うけど、でも、見ていて安心する顔立ちだな。

あ、

急いで海のほうを見た。
あ、危ない。目が合うところだった。
何が危ないって?は、恥ずかしいじゃない!
あ、は、話続けないと。
そうだ、焚き火消えないといいねー。
そうだねーと生返事が聞こえる。
話は逸らせたけど……なんか空しい。
見足りない。なんとなくそう思った。
だから、ちょっとだけ星青玉くんのほうを見た。
あ、み、見られてる!
もう慣れたと思った顔の火が再点火したようだった。
か、顔を合わせるのがこんなに恥ずかしいなんて。
星青玉くんが心配そうな声をかけてきた。
ああ、うー、そんなに心配させるようなことさせたのかな?いや、しているじゃないか。
は、恥ずかしいから見れないなんて恥ずかしくて言えない。
でも、それ以上に、
やっぱり、星青玉くんの顔をもっとしっかり見たい。
意を決して、もう一度星青玉くんのほうへ向き直った。
う、いきなり目が合った……
やっぱり恥ずかしいよぅ……
目を逸らしたい衝動と、ずっと見ていたい気持ちの板ばさみの中、顔はどんどん熱くなっていく。
あ、星青玉くんも赤いじゃないか。あー、やっぱり私の顔も赤いんだ。
うん、ごめん、顔見たかった……だって、しばらく会えないかもしれないし。
後ろの方は照れてて言葉にならなったけど。
星青玉くんも照れてたんだねー。おあいこだって。
ちょっとおかしいと思って笑ったけど、笑っちゃったことがまた恥ずかしくなってうつむいた。
あー、もう!どうしてこの恥ずかしさスパイラルはとまらないのかなー

と、とにかく、そうだ、お、お昼時だし、お弁当!
お弁当持ってきたの!
半分くらい自分で作った!
……い、言えたー。あ、なんか星青玉くんが言ってたみたいだけど、いいや。
え?半分は……半分なんて言わなければ良かった……
半分はね、お、お母さん……
……うう、お母さんに手伝ってもらったなんて星青玉くんの前で言うとは……恥ずかしい。
今度は一人で作れるようにって、自分でもそうするつもりだったのー!
でもしょうがないもん。だって、初めてだったし……
あー!次は作ってくるって、それじゃ私が、失敗してるみたいじゃない!
お、おいしくっても知らないんだから!
半分(以上)はお母さんだからおいしいのは間違いないんだけど……
あー、もう、笑うなー!
まったく、ばかにしてー

……ふふっ。
こういう風に話す相手って初めてだ。
今までサポートしてきた人たちも、こんな気分だったのかな。
これは、病み付きになるのも頷ける話だ。
うん、ようやく人の気持ちが分かった気がする。
サポートはもうしないけど。
するとしたら、星青玉くんの人生のサポートだけ。
……考えるだけでも恥ずかしいって、どんだけだ。
え?許可?あ、食べる準備ね。
うん。許す。
さて、お昼だ。あれは美味くできているかなー。


/*/


失敗だ……
欝だ死のうという文面が言葉ではなく心で理解できた。
あまりの衝撃に弁当を返しかけてしまった。
こっちは星青玉くんがどうにかしてくれたけど。
しかし、


お箸を忘れちゃったー!


しかも持ってきたのはMy箸の方。
なんたる不覚!は、恥ずかしいったらありゃしない!
うはー、どうしよう、どうしよう!
こ、コンビニはー、ないか。しょうがない部下を呼びつけて……
今度こそ手を叩きかけて、星青玉くんの言葉でそれを止めた。
い、いっこを二人で?
……しかもMy箸で?
あ、また顔が熱くなってきた。えーと、えーと、それはとりもなおさずか、か、間接ちゅー……
わ、私は……い、いいけど。いやじゃない?
全然って……うあー、いいのか?あ、箸もってかれた。
迷ってるうちに星青玉くんは私に食べさせる気満々のようだ。
え、あ。ちょ
上手く言葉に出来ない私を尻目に星青玉くんはどれがいいかなーどれがいい?と聞いてくる。
ま、マヂですか?
あーうーと下を向くと、弁当の中身が目に入った。
……これの味見するのもいいかなー
じゃあ、玉子焼き……お、おっきくてはいらないよ
私がそういうと、星青玉くんが箸で切ってくれた。
そしてあーんと箸を口に近づけてくる。
……あ、あーん……や、やっぱり、ダメ!
思わず右手が星青玉くんの目に伸びてしまった。目隠ししたまま玉子焼きを食べる。
食べるところは見せられない。……恥ずかしいから。
目が見えないと抗議する星青玉くんをとりあえず、とりあえずね!無視して箸を受け取る。
こ、これでよし。うん……あ、そういえば、


星青玉くんは見てなくても誰かには……


う、うわ、え、あ、ちょ
よせばいいのにその様子を思い出して、また顔が赤くなった。
顔が熱い熱い。今日24度っての絶対嘘だ。30度はあるに違いない。
あ、星青玉くんごめん!お、オススメ?
え、えーと……た、玉子焼き、食べる?
今味を確認したし、お母さんのお墨付きももらえたやつだから味は確かだ。
あ、でも、これを食べさせたら……か、かかか、か……考えないようにしよう。
よし、覚悟は決まった。玉子焼きを1個挟んで持ち上げる。
あ、ダメだ。手がぷるぷる震える……左手で支えないと。
はい、はい星青玉くん。あ、ああん?
う、上手く運べないー。
その様子を見てか、星青玉くんは口を大きく開けてくれた。
これならどうにか……あ、あああ!
し、舌が、箸に……箸に、舌が……な、なんか間接キスにしてはな、生々しいというかなんというかー。
あ、星青玉くんも赤くなってる。か、かわいいな。
ん?おいしいって?
……ふふん!どれ見たことか!
大きく息を吸って胸を張る。
えへへ、よかったー。おいしいって言ってくれて。

ねぇ、星青玉くん!ちょー。おいしいでしょ!?



/*/



のこほし初デート ~side Star~


「嫁入りしてもいいですか」

後になって考えると、あれほどものすごい台詞も無い。
うちに帰ってから我に帰った。
自分あんな告白をよく受けたなって言うかその前も大概恥ずかしいセリフを大衆の面前で言えたものだ。
恥ずかしくて恥ずかしくて死にそうになった。
人間は恐怖によって死ぬことがあるというが、恥ずかしさによっても死ぬのだろう。
真剣にそう思った。
デートの約束はしたけど、したことすら後悔した。
あんなにすぐ話を進めてしまって、本当に良かったんだろうか?
相手にムリをさせていないだろうか?
させてしまったらどうしようか?
思いは巡る。さりとて尽きぬ。


ああ、それでも、
それでも、自分はやっぱり彼女のことが好きなんだと、
それしかないのだと、
港に行ってる時点で思うのである。
しかも30分も前に。

そして今、彼女と一緒に弁当を食べているこの瞬間も、
確かにこう思うのである。

ああ、やべー俺超幸せ


/*/

「ど、どうしたの?星青玉くん」
「いや、幸せをかみしめていたんだよー。僕にはこんないい彼女がいて幸せだなーって」

その途端真っ赤になるのこさん。ああ、かわいいw
さらに幸せとおにぎりをかみしめる。
いや、このおにぎりが最高なんだって。
一つ一つが小ぶりだったが、それがイイ!
いや、のこさんが握ったんだなーということが感じられる大きさなのだ。
またちょっといびつなのがなんとも素晴らしい!
まだ慣れてないだろうに、一つ一つ頑張ってにぎったんだなというのが感じられる。
ああ、僕のためにこんなことをしてくれるなんて……ああ!なんという幸せ!
うんうん、一口食べるたびに涙が出そうになるくらい嬉しいなぁ。
おかげですぐ、満腹になった。

うむ、やはりのこさん(半分はお母さん)が作った弁当はなかなかの味だ。
いや、なかなかなのはのこさんのお母さんが作ったところであって、のこさんの作った分は絶品である。

が、それ以上に、か、かかか、か、間接キスが出来たと言う事実が何より嬉しい。
それはのこさんも同じだった見たいで、しょっちゅう……というか、ずっと顔を赤くしては嬉しそうに笑っていた。
ああもうかわいいったらありゃしない!
こんなかわいい彼女ができてぼかぁ本当に幸せだなぁ。
っといかんいかん。食事が終わったらこれを言わないと。

「ご馳走様でした」
「おそまつさまでした」

手を合わせて礼をする自分に合わせてのこさんもお辞儀する。
ああ、やばい、かわいい!
って、さっきからそればっかり考えてるなー自分。
いや、実際めちゃくちゃかわいいんだからしょうがない。うん。

「どうしたの?」
「ん?ああ、のこさんがかわいいなーって」
「え、あ、えー」

のこさんはまた真っ赤になった。
うあー、かわいすぎる。
この子が僕の彼女?本当に?夢じゃない?
何度もそう思ってしまう。
それだけ、今が信じられないくらい恵まれてるってことだろう。
ふふふ、ふふふふふ、あ、いかん。思わず笑ってしまった。

っと、おなかも膨れたし、海風がすこし冷たくなってきた。
そろそろ移動した方がいいかなー。

「よし、のこさん。次はどこに行こうか」
「え?わ、私がきめるの?」
「うん!」

ああ、慌てるのこさんもかわいい。
のこさんはどうしようどうしようと悩んで、あ、と手を叩く。

「こ、公園に行かない?」
「公園?」
「う、うん……丘の上にあって、海が見えるの」
「なるほどー、のこさんのオススメならいいところなんだろうねー」
「そ、そんなに大したことは、ないかも」

自信なさそうに縮こまるのこさん。
またかわいいーと笑いそうになるのをこらえる。
だらけた笑みと真面目な笑みは全くの別物ですからな!

「そんなことないと思うよ。それに、のこさんと一緒なら僕はどこでも楽しいよ」
「あ、ありがとう」

のこさんは照れてさらに縮こまった。
あー、もうかわいいって言ってもいいかな。
いやいや、これ以上ちぢこませたら手のひらサイズになってしまう。
……それはそれでとてもイィ!けど、困ることもあるし、止めておこう。
それに、本当にその公園に行って見るのが楽しみになった。
どんな景色が見られるんだろうか。
純粋な好奇心が自分の中に湧き上がるのを感じた。
よし、思い立ったら即行動!人生超速攻だ!

「さ、のこさん。行こうか」
「……うん!」

僕が出した手を、のこさんが握った。
ひんやりとしたその手をしっかりと握って、僕は歩き出した。
のこさんと同じ速度で。

さて、のこさんの顔はあと何度赤くなるのかな?
すっごい楽しみだ!

「まぁ、どんな景色ものこさんにはかなわないけどね」
「ほ、星青玉君くん?」

とりあえず、1回はもうカウントされた。
よーし、目指せ100回!


まぁ、僕の顔も同じくらい赤くなるんだけどね。



/*/


【おまけ】


のこほし初デート ~side ???~


知恵者は絶望と言うものを久しく感じていた。
いや、今の格好はふりふりエプロンに……顔の描写は避けさせていただく。
とにかく、おかんスタイルであった。
つまり知恵子と呼ぶに相応しい格好である。

閑話休題。

知恵子は自分の娘に関して匙を投げると言うことは、あまりない。
だが、今日だけは、今日のこの日だけは、匙を投げると言うことをしたいと思った。

惨劇の現場と化したキッチンを前にして。


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のこほし初デート ~side ???~

        改め

のこほし初デート前夜 ~side 知恵子~

/*/


惨劇の現場、その中心には二人の人間がいた。
いわずと知れた知恵子と、鋸山信児A、我らがのこさんである。
知恵子はのこさんに請われてM*を……じゃなくて、弁当の作り方を教えていた。
で、惨劇である。

え?間が抜けてるって?


……知恵子さん、いいですか?

「かまわぬ」

満身創痍のところ、ナレーションにも対応ありがとうございます。
話せば長くなるが、ここに至るまでかなりの旅があった。
のこさんが次の日デートだというので弁当を作りたいと請うてきた。
それで、まずメニューを決めるところから始まった。
が、これは難易度がそれほどではないものを知恵子が選択した。
メニューは次の通り。

  • おにぎり
  • 玉子焼き
  • ウィンナー
  • 昆布巻き
  • ブリの照り焼き
  • エビフライ

上から順に、にぎればいい、焼けばいい、焼けばいい、煮ればいい、焼けばいい、揚げればいい、
と簡単なものが揃っている。
多少包丁を使うこともあるだろうが、限りなく少ないメニューだ。
また、特別技術が必要なのはせいぜい玉子焼きくらいなもので、後はサポートでどうにかなるという類でそろえてある。
明日用意するのはおにぎり玉子焼きとウィンナー。
他は今日用意しても問題ない。ただ玉子焼きだけは練習させる。
うむ、完璧だ。完璧な計画だと知恵子は考えた。
これなら要所要所を自分が押さえておけば失敗することは無い。
隣で手取り足取り教えれば信児の上達にも繋がる。
不安なのは玉子焼きだけだが、これは玉子焼き器の性能がよければ、ぶっちゃけ離れがよければ簡単だ。
よし、これなら信児も安心だ。
知恵子はそう確信した。
これまで立てた計画の中でも1,2を争う完璧さを誇っていたからだ。
そして、早速レッスンを開始した。

のこさんの腕前と言う不安要素を忘れたままで。


まずは時間がかかる、そして放置していても安心な昆布巻きからだった。
昆布を水で戻し、真ん中に巻く鮭を塩抜きして用意した。
鮭を切るときに猫の手にしないできろうとしたのこさんを注意した以外は特に問題ない。
昆布が戻ったら鮭を巻いて、かんぴょうで止める。
のこさんがかんぴょうをまこうとして蝶々結びにしようとしたのを止めた以外に問題はない。
このあたりで気付いておけばよかったと、知恵子は後々後悔することになる。
それは置いておいて、無事固結びにできた昆布を鍋に入れ、ダシでことこと煮込む。
ここまでくればあとは後は放置し、しばらくしてから調味料を入れればよい。
知恵子は安心して次のブリの照り焼きの準備に取り掛かろうとした。

その時である。

ぼわっ!

「うひゃあ?!」
「信児?どうした!」

何かが急激に燃えた音とのこさんの悲鳴。
ほんの少し目を放した隙に何をしたかは気になったが、それよりのこさんの無事が先決だった。
幸い、のこさんには怪我はなかった。
のこさんには。

「……な、鍋が」

昆布巻きを煮ている鍋の隣の鍋が黒焦げになっていた。
…………え?ナレーションしてても分からないんだけど。
……あー、のこさんの手にみりんがある。
煮切りか。
つまりは、どこかで見た「みりんは煮切る」というのを忠実に実行しようとしたのだ。
そしてあまりの火の勢いにびっくりし、ばごんと燃やしてしまったのだろう。
それをひっくり返してしまい、焦げたと。
知恵子も同じ結論に達したようだ。

「信児……」
「は、はい。ママ」
「みりんは煮切らなくてはならないときと、そうでないときがあるのだ」
「……はい」
「今回は煮立てるから、煮切りの必要はなかったのだ。加熱しないときは煮切るがな」
「…………はい」

叱られてしょんぼりとするのこさん。
流石に言い過ぎたか?と知恵子も思った。
……フォローの一つくらい、まぁ構わんか。

「……まぁ、煮切りを知っていたのはえらいぞ」
「……ほんと?」

のこさんの顔がぱぁっと明るくなった。
この娘の笑顔を見るとどうしても甘くなってしまうなと思う。
もっと自制せねばな。
さて、と、知恵子が気を取り直す。
ブリの照り焼きを教えなくてはならない。

「さぁ、信児。次の料理だ」
「うん!ママ」

元気よく返事をするのこさん。
それをみてにやりと笑う知恵子。
二人はブリの切り身の準備に取り掛かり始めた。

しかし、知恵子は娘を甘やかすあまり、重大なことに気付いていなかった。

いくらみりんの煮切りに失敗したところで、鍋は黒焦げにならないということを……

この見落としが、後の地獄の始まりだった……


始まりは、ブリの照り焼きだった。
これは火が強すぎたためにフライパンの照り焼きと化した。

次にエビフライ。
エビの下準備をする段階ですでに20尾ものエビが実験台候補へと変化して行った。
無事生き延びたエビもいたが、完成までたどり着けたのは1尾もいなかった。
のこさんが鍋にエビを入れると、何故か、

『何故か』

爆発するのだった。

ありえない。
熊本弁で言うとありえんばい。

これはとようやく思った知恵子がウィンナーを試しに焼かせてみたところ、

大・爆・発。

ありえない
絶対にありえない。むしろありえん(笑)
行き過ぎてかえって笑えてくると言うミラクルが起きていた。



そして、冒頭に戻る。
疲れ果てた知恵子とおろおろするのこさんだけが動いているものの全てだった。
いや、何故かキシャーという書き文字がセリフみたいについてる謎の物体はいるのだが、まぁ割愛。
そう、知恵子は疲れ果てていた。
疲れ果てながらも、その頭脳は働いていた。
まさか、いやまさかとは思ったが。信児が、信児があの伝説の、

シオトサトウマチガエチャウ☆症候群にかかっていたとは!

注:シオトサトウマチガエチャウ☆症候群(本文ママ)とは、壊滅的に料理が下手な人間(女子限定)がかかっている一種のビョーキである。この症候群にかかったものは、塩と砂糖を間違え、水と油を間違え、包丁の刃と背を間違え、揚げ物をすれば燃え盛り、煮立てれば空焚きし、焼けばファイヤー!な状況と鳴ってしまう。
ちなみに、治る見込みは0の方が極一部の男性からの評価は高い。

そういえば調理実習はなんだかんだ風邪で休みっぱなしだったなとか、
うちで料理の手伝いさせたことなかったなとか、
料理自体初めてじゃないかとか、
今更色々思い当たる節が出てくる。
もっと早く思い当たっておくんだったと、かなり遅い後悔をする知恵子。
後悔先立たずとはよく言ったものだな。

「ま、まぁ、いい。昆布巻きは無事に完成……」

皆まで言うな。
もう結果は分かっているだろう。
知恵子はうなだれた。
自分の努力は一体なんだったのだろうかと。
というか一体どこだ。どこで被害を……エビフライか!
こんなことならばカセットコンロで信児の手の届かぬところに置くのだった……!
と、知恵子は思っているが、シオトサトウ~症候群患者に常識と常識人の浅知恵は通用しない。
結局は同じ結果になっていただろう。

さて、ここでのこさんにカメラを向けてみよう。
あー……やはり自分のしたことは理解できているようだ。
ガンガンに落ち込んでいる。
料理が壊滅的に(実際にキッチンは壊滅しているのだが)下手なことが悲しいのと、
星青玉に作る約束の弁当が作れないのが悲しいのだろう。
自分が少しでも手をかけたものを食べさせてあげたいのは、乙女として当然の心だ。
知恵子もそれは理解していた。
え?何故って。ヤダナァ知恵子サンハオ母サンジャナイデスカ。
まぁ、そんなことで、知恵子はかえって燃えていた。
ここまで絶望的な状況、残されたものはただ一つ。
初心者には難易度が高いと言われる玉子焼き!
これを、無事に作らせて見ようではないか!

「信児、諦めてはいかんぞ」
「ママ……でも、こんな私じゃ玉子焼きなんか……」
「そう考えるから駄目なのだ。自分はできると信じるのだ」
「自分は……できる」
「そうだ。できると思わねばできることもできぬ」
「……う、うん……でも」
「星青玉に玉子焼きを食べさせるのだろう?」

星青玉の名前に、のこさんは反応した。
その目に、輝きが戻る。
恋する乙女の瞳だ。

「……うん!」
「うむ、それでよい。さぁ、これを手に取るのだ」
「これは……」

知恵子が渡したのは、銅製の玉子焼き器であった。
周辺はすすけているが中はピカピカである。かなり使い込まれたように見える一品であった。

「これは、我が愛用している玉子焼き器だ。これを越えるものは未だ出会ったことが無い」
「でも、ママ、こんな大事なもの使えないよ!」
「信児よ、玉子焼きで大事なのは、いかに上手く玉子をはがすことが出来るか、だ」
「う、うん」
「だが安物ではうまくゆかぬ。故に、それが必要なのだ」
「……うん」

知恵子の言葉を噛み締めるように聞くのこさん。
これは、知恵子から自分への最大限の支援なのだと、無意識のうちに感じ取っていたのかもしれない。

「さぁ、自信を持て。気兼ねなどするな。我が常に後ろにいる。それを忘れるな」
「……うん!」

知恵子に背中を押され、のこさんが五度コンロに向かった。
未だかつて無い、戦闘が始まった!


玉子を溶き、砂糖と塩で味をつける。味見をし、知恵子もみてGoサインが出る。
玉子焼き器に油をぬり、火をつけ、じわじわと銅が温められるのを待つ。
ここで焦ってはいけない。知恵子が横でタイミングを待てと指示をする。
一滴だけ卵液を落とした。しゅっと音がし、一瞬で全体が白くなる。

今だ。

知恵子のGoサインが出た。
卵液の3分の1が流し込まれた。
しゅわああという音がする。
のこさんがゆっくりと玉子をかき混ぜてゆく。
半熟状態になったところで知恵子がのこさんの肩を叩いた。
巻きに入るのだ。
ここからが一番難しいのだ。
そこで、知恵子がアドバイスをする。
玉子焼き器を向こう側に傾けるのだ。
こうすれば自然と向こう側へと玉子が寄り。巻いても後ろに漏れると言うことが無い。
後は、玉子焼き器の性能を信じて玉子をはがすだけ。
のこさんが、手前側の端に菜箸を潜らせた。
知恵子が息を呑む。
のこさんが気合を入れた。

くるん

そんな擬音が合うように、玉子は3センチほど巻かれた。
成功だ。
嬉しそうな顔をして知恵子の方を向くのこさん。
知恵子もニヤリと笑った。よくやったなと激励しているようだった。
が、すぐに表情を戻す。
まだだ、まだ終わっていない。
返したその調子をそのままに、もう一度玉子を返す。
もう一度、もう一度。
そして遂に、玉子焼き器に入っていた玉子は一つの固まりになった。

ここまでくれば後はこっちのものである。
卵液を足して、ただただ巻いてゆくだけ。
のこさんが自分の力で巻くことが出来た、というのも力になったらしい。
その後は滞りなく玉子焼きを大きくすることができ、そして、

「……で、できたー!」

玉子焼き器の中には、立派な厚焼き玉子が誕生していた。



「どうだ?自分で初めて作った料理の味は」
「うん、おいしい!」

弁当の具作りを終えた二人は食卓を囲んでいた。
メインはもちろん玉子焼きである。
その周りにはかろうじて無事だった材料から作ったあり合わせの料理があった。
知恵子の料理スキル、恐るべし……と言ったところか。
結局、無事に出来たのは玉子焼きだけだった。
おにぎりもさっき練習はしたのだが……もう何も言わなくても分かると思う。
ま、まぁどうにか食べれるようにはなったのは確かだと言っておこう。

「でも……」
「どうした?」
「うん……作れそうなのが玉子焼きとおにぎりだけってのが寂しいなあって」

ちょっと沈んだ様子で言うのこさん。
そう、結局他の具は知恵子が全部用意することになったのだ。
まぁ、あの惨状からしたら当然の帰結ではある。
しかし、それでももうすこし手を加えたいとは思う。
そんなのこさんを見て、知恵子が笑った。

「なに、そんなに焦ることは無い」
「ママ……」
「今日は信児の弱点が分かったのだ。これからゆっくりそれを直してゆけばいい」
「……うん、そうだね……そうだね!」
「そうだ、その意気だ。我も出来る限り協力しよう」
「うん!ヨロシクね!ママ!」

のこさんが笑う。
知恵子も笑う。
この日の食卓は、笑顔と言う最高の調味料が満ちたものとなった。

そして、これからも、笑顔が絶えることは無いだろう。




「で、あのキシャーって言ってるのどうする?」
「…………飼うか?」

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デートから数日後。

「…………はい、はい……分かりました」

のこさんが誰かと電話で話している。
その表情は暗く、重い。
ぎゅっと目を閉じて、頷き続ける様は、どこか悲しさを漂わせていた。

「はい。じゃあ、その日に……」

のこさんが静かに受話器を置いた。
そして、崩れ落ちる。
その全身で悲しみを表しているが、涙は流れない。
流す理由も、権利も無い。
今の自分には。

「そう、だよね……分かってたことだもんね……」

呟くのこさんの手には1枚のメモが握られていた。
そこには、こう書かれていた。


『12月7日 リセット』


To Be Continued?


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引渡し日:2008/04/06


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