月代由利@天領さんからのご依頼品


それは2月の14日の世間ではバレンタインと呼ばれる日。
2人の少女と2匹の猫と1人の少年が、桜舞う下で過ごした時間の話。

天領は宰相府藩国にある庭園の一角、春の園はその名の通り春に咲く花で満たされた庭園である。
宰相自らが世話しているとも言われる満開の桜の下には、バスケットを抱えた二人の女性が立っていた。
花びらの舞う風の中を黒い髪と緑色の髪の少女は胸を張って立っている。
「食べ物だけ用意ってトコが私らよのう」
「んだねぇ・・・」
ははは、と豪快に笑うと月代由利と結城杏はきょろきょろと辺りを見回した。
「あれ?春の園復活ー! やふー」
「うおー復活してる!!」
「これで5月リベンジ確定!」
いえーと叫びながらハイタッチやったりガッツポーズとったりバスケットを振り回して喜ぶ二人。
そんな光景を見てお、とか呟く人影がいた。てくてくと1分ほど二人に向かって歩いてきただろうか。
相対距離が5mくらいに詰まった頃、ようやく気付いた杏が人影?!と叫ぶと由利はほえ?と言いつつ同じ方向を見た。
白と黒、二色の猫を抱いて-最も二匹は両腕に捕まっているから正確には抱きつかれているのだが-ピンク色の髪をした少年が二人の前で立ち止まる。

「よっす」

ヴィクトリー・タキガワの最初の一言はこんな感じであった。

由利はなにいいいいいいいと声もなく口を動かし、杏が大きな声でなああああああああっ!と叫んだ。
2秒ほどそんな面白ポーズのままで固まると、二人は手早くブロックサインとアイコンタクトで言葉にならない相談を始めた。
そんな光景が4分ほど続いただろうか、疲れないのかなあとヴィクトリーがぼんやり考えていると二人がおずおずと挨拶を始めた。
「こんにちわー、かな?時間的に。あ、初めまして、でもあるね。今天領所属の月代です。今日はよろしくー」
「こんにちはー。はじめましてー」
「猫連れてきました」
「あはは ありがとうございます」
「ありがとうございますっ」
ぺこたん、と軽く頭を下げるとヴィクトリーは腕に抱きついていた白い猫と黒い猫におーい、と声をかける。
しっかりと腕に抱きついているにも関わらず、二匹はうにゃん、と顔を上げる。
ヴィクトリーは由利に黒猫のハンニバルを、杏に白猫のスピキオを手渡した。
月「はじめまして、だね。こんにちわハンニバル 普通にあえてうれしいや。スピキオもねー」
ずっしりとしたハンニバルを抱き上げる由利。二本の尻尾を振りながらハンニバルは少し目を細めてふふん、という風にも見える顔をした。
由利はそんなふてぶてしい態度を見ていやしー、と呟いている
「毎日会ってるけど、ここで会うのもいいねー。ハンニバルもこんにちはw」
かつて見合いもした杏とは慣れた様子で、スピキオはうにゃといいながら白く細い体を摺りよせた。
はにゃーという表情で杏はスピキオを笑顔で抱きしめる。
きゃーきゃーと言う二人を見ながらヴィクトリーは「いいなあ」と呟いた。
「ん?なにがー?」
「女の子と猫っていい絵だなあって」
老若男女に動物まで大体ほとんどのものを愛する男はそう答えると、にかっと笑った。
「というか立ち話もなんだし、桜の根元にでも座らない? 時間があればヴィクトリーも一緒に」
「うん」
「よし、じゃあこっち!」

一本の桜の木の根元にシートを引くと、上から桜の花びらが散ってくる。
スピキオとハンニバルは舞い散る桜の花びらを見てうずうずとしていた。動くものに反応する猫の本能にはどうにも勝てないらしい。
「逃げるなよ」
耳と目をせわしなく動かしてうにゃうにゃしてる二匹を苦笑するヴィクトリー。猫だからなぁ、と由利も一緒に笑った。
「えと、ヴィクトリー甘いの平気ー?チョコケーキあるのだけど」
「俺、甘いの大好き!」
「よし、それはよかった! あ、猫たちはイカ焼いてきたからー!ミルクもあるけど」
花びらを追う誘惑と袋から取り出された烏賊の香りにぐるぐる回り始めるスピキオ。
イカ、花びら、イカ、花びら、イカイカはなびイカイカイカイカイカイカイカ
うにゃー、とスピキオとハンニバルが二人の元へ飛んでくる。
「杏ー、手伝えー」
「あ、はい。今手伝う」
作戦勝ちー、と笑いながら袋の中身を出していると、待ちきれないのかスピキオが袋を叩き始めた。
「ま、まだ準備してるからだめだよーっ スピキオ」
杏の説得も空しく、スピキオはイカを寄こせさあ寄こせとせっつく。だめだってばーという懇願もイカに対する執念の前ではなすすべがないらしい。
「えと、ヴィクトリー、飲み物が牛乳しかないんだけど、大丈夫?」
「うんっ」
チョコケーキを手早く切っている横で、まだにゃーにゃーとスピキオは袋にアタックを繰り返している
「杏ー、惨事になるまえにだしたれ」
「んじゃ、これをもってってー(袋から出してスピキオの背中に乗せる)」
杏が袋から取り出したイカの束を背中に乗せると、次の瞬間スピキオは口にくわえて弾丸の如く走り出した。
あまりのスピードに花吹雪が舞うその後を、ハンニバルが猛スピードで追跡していた。恐るべしイカの魅力。
評価にして18の猛スピード対決は、突然の乱入者によってあっけない幕切れを迎えた。
とりゃー、と叫びながら宙を舞うヴィクトリー。ただのジャンプスライディングならば容易にかわす事の出来る2匹であったが今回ばかりは相手が悪かった。
120%の成功率を誇るキャッチで2匹をがっちり捕まえると、ずざざーと地面を転がっていくヴィクトリー
「おみごと」
「ヴィクトリーナイス!」
ぱちぱちと拍手されつつ、土を払って
「猫め・・・」
「猫だし」
「もー。なんでこいつが俺の先輩なのかわかんない」
全くだ、と言わんばかりになーおとハンニバルが頷く。
「生まれが先だから、かなぁ? ってハンニバル頷いちゃめーよう」
そういうと由利は、一番大きく切られたチョコレートケーキをヴィクトリーの前に置いた。
「あはは、深いこと気にしちゃだめですよぅ~。」
「えーと、ハンニバル。イカたべるー?」
うむ、と頷いてハンニバルは差し出されたイカをもそもそと食べ始める。
「ヴィクトリーの分こっちで 杏の分こっちねー    で、スピキオの分用意できたん?」
「袋ごともってったよ!」
「…猫だからね…」
当のスピキオは改めてもらったイカをはぐはぐと齧っている。
肝心のヴィクトリーは猫達を抱いているせいでチョコレートケーキを前にしてお預けを食らっている状況であった。
「なんだろう、ハンニバルは私じゃなくてヴィクトリーに抱いててもらってそれを愛でた方が早いのかしら?どう思う?」
「えー、横暴だー。俺もケーキ食べたいー」
ヴィクトリーは口を尖らせるとばたばたと足を(ケーキとか他の物蹴らないように)動かして抗議している。
月代由利:「えーとか言われた。って、そっちなのー?」
うるうると目を潤ませて由利を見るヴィクトリー。
「月代たんが抱いてるほうがいいんじゃ?ハンニバルもそのほうがうれしそうなのかな?」
重々しく頷くハンニバル。しかしイカは口から離さない。
「わかってるから、ハンニバルかしてー。ケーキはもう取り分けてあるから(笑)」>ヴィクトリー
「というかハンニバルは楽しければいいタイプ?」
ハンニバルはイカをあぎあぎと咥えて答えない。猫に説教である。
「… 猫だからねー」
由利と杏が笑う中、ヴィクトリーとスピキオもはぐはぐと食べている。見る見るうちにヴィクトリーの顔がチョコレートでべとべとになった。
「猫って気まぐれだしなぁw まあ、それはそれでかわいんだがー」
「んー、まあこんな誕生日で送別でVDもありか?」
「ありじゃない!?楽しければよしでしょぅ」
やがてイカを食べ終わると、ハンニバルはのそのそと杏の前まで動きにゃりん、と鳴いた。抱けよーという感じの視線を向けている。
「杏、誕生日プレゼントだとさ」
「にゃーん」
急いで食べたらのどにひっかかるから気をつけてねー、とヴィクトリーに呼びかけつつ杏はハンニバルを抱き上げた。
ずっしりとした抱き心地に思わずにゃーん、という感じである。
声をかけられてヴィクトリーがようやく顔を上げると、口の周りがチョコでヒゲのようになっていた。
「ヴィクトリー、なんか面白いことになってるよ」
「ヴィクトリー・・チョコだらけ」
ほら、と杏がふきんを差し出す。
「いいよ。もったいない」
ヴィクトリーはぐい、と指でチョコを拭き取ると行儀悪く舐め始めた。
「そうきたか。じゃあ私の分もあげよう、しょぼいヴァレンタインで悪いけど」
「それじゃ、悪化するんじゃ」
わーいと喜ぶヴィクトリーの顔を杏が丁寧に拭いていく。そんなしぐさにヴィクトリーはきゅん・・・と呟いた。
「俺、ケーキくれる人大好き。口拭いてくれる人も」
「そういってくれると食べさせがいがあるよなぁ」
由利の言葉にあはは、とひとしきり笑ってから杏はむにゃむにゃと起きたスピキオを膝に招く。
寝ぼけた目でどうしたの?と見上げる姿を見て、ハンニバルだけじゃスピキオ寂しいでしょ、と杏は笑った。
その優しさにスピキオは喉を鳴らして答える。撫でられると、おまけに尻尾を振った。

猫使いってなれるのーとかいう他愛もない会話が続く。
スピキオたちと並んで首を傾げる二人をいいなあ、とヴィクトリーは見ている。
「ねことおんなのこ(?)のくみあわせが?」
「うん。かわいくていいねっ」
「私的にはヴィクトリーと猫たちと桜というのもいいけどねー」
「ぇ、じゃあオイラは猫とケーキと桜?」
「ああ、ケーキは忘れたらだめだねー あとイカ?」
「うむ!イカもミルクも忘れずに」
二人のやり取りを見てヴィクトリーは微笑んだ。穏やかな風が吹いた様な感じの、少し大人びて見えるそんな微笑だった。
笑顔を見る二人の視線に気付くと、ヴィクトリーは少し間をおいて問いかける。
「年下にバカにされたみたいで嫌い?」
「キライならはっきりいう。だからわらってるということは、二択であれば好きということだよ。ヴィクトリー」
「確かに」
間髪入れずにはっきりと言い放つ二人に「ありがと」と言って、ヴィクトリーはまた微笑んだ。
「で、杏はによによ見守らない」
「ぇ~!いいかんじなんだもーん」
由利の照れ隠しにハンニバルの手を握り、ねー、と言う杏。
「猫抱いてるからうごけないんじゃないかな」
にゃー
「… スピキオもハンニバルも同意かよーう」
ぶーぶー言いながら猫使いになってしまえー、と由利がぼやいた。
「どうでもいいけど、俺が抱いてる時は大人しくなかったよ」
「そうなの?」
ぐい、と見せたヴィクトリーの服の袖にはところどころほつれた跡があった。どうも抱いてる途中で逃げ出そうとした名残らしい。
「あははは このこら男の子だしねぇ、…猫だし」
「そうかあ、やいこのすけべ。うらやましいぞ」
「ヴィクトリー、ぶっちゃけすぎ。悪くないけどさ」
正直な言葉に苦笑すると喉が渇いたのか、由利は瓶牛乳をぐび、と飲む。
その隙をうかがうかのように杏がひそひそとヴィクトリーに耳打ちをする。
(月代たんの隣いつでもGETできるよう頑張ればいいんだよ!猫と一緒に応援してるから頑張って)
「別に隣ならいつでも」
そういうと、ヴィクトリーはすたすたと歩いて由利の横に座った。
「…杏ー、なんかゆうた?あんまり変なことふきこむなよーう?」
「なんでもないよー」
抱きつくのが大変なんだよ、ああそれは雰囲気だと言葉を交わす二人を見て、由利は今日何度目かの笑いを見せる。
「ん?何? 抱きつくはあれだけど、頭なでるくらいならいつでも?」
「なでて!」
ぐい、と出された頭に、由利と杏は思わず顔を見合わせて噴き出した。
「ははは了解。なでるくらいならいつでも」 
「よかったよかった。これで一件落着?」
桜の花びらが少し混じったピンク色の髪を由利に撫でられると、ヴィクトリーはにこーと笑った。
酷く幸せそうなその笑顔は、散る桜のそれに似て儚いような気がした。


作品への一言コメント

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  • ありがとうございましたー。 なんていうかヴィクトリーがヴィクトリーでした(日本語を話しなさい。 -- 月代由利@天領 (2008-03-26 22:35:11)
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引渡し日:2008/03/26


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最終更新:2008年03月26日 22:35