伯牙@伏見藩国様からのご依頼品


『砂浜の虹』
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伯牙はかすみとのデートのこの日、服装に細心の注意を払っていた。
白のシャツ、こげ茶の軽いセーター、黒のジーパンという、ちょっとお洒落な出で立ち。
手には木刀入りの竹刀袋を持っていた。
ここは、南の島。
温度は23度過ぎ。
待ち合わせ場所にやってきたかすみは春物を着ていた。
やっほー、と挨拶をしながら手を振り伯牙に駆け寄ってきたかすみは、伯牙の服装を見て、
「暑くない?」
と言った。
伯牙は笑いながら、
「ちょっとね。」
と言い、
「セーター脱いで、ちょっと腕まくる。」
セーターは袖で腰に縛った。
準備が整った伯牙は、
「っと、今日はどこいく?」
少し涼しい格好になって、暑苦しくなくなった。
かすみは、右手の人差し指をあごにあて、上を見ながら、
「んーと」
と考える仕草をして、
「……この島、遊ぶところないよね・・・」
伯牙は苦笑いして、
「まぁ、、だねぇ。・・海行ったらちょっとは気持ちいいかな?」
かすみは、
「今は商店も一番品揃えわるいし」
とショッピングも楽しめないことを告げ、伯牙の、海、という提案に笑って頷き、
「そだね? いこっ」
砂浜に向かってかすみは走りだした。
伯牙もその後を追って走りだす。
「よーし。じゃあイコイコ。」
そしてかすみに追い付き、並んで走って、自然に手を取った。
かすみはそのまま自然と手を繋いでいる。
伯牙の頬が、少し紅い。
そして照れを隠しつつ、
「そう言えば、その春物。いい感じだねッ。何処で買ったの?」
かすみはちょっと不思議そうに、
「冬物だよ?」
と言った。
どうやら季節感が違うらしい。
伯牙は、冬物と春物の違いに、
「っと、あそっか。自分はここよりも別の所が長かったからなぁ。」
と頭をかいた。
他愛ないおしゃべりをしながら、ふたりは手を繋いで5分ほども走って、海に来た。
数名が遠くで泳いでいる。
伯牙は、
「おぉー!海風がいい感じ!」
息を思い切り吸い込んで、かすみに、
「足、浸かりに行かない?」
微笑んでかすみは、
「いいよ?」
片足で靴と靴下をうまいこと脱ぎつつ、よろけている。
伯牙はそんな様子を見て、
「っと、大丈夫?」
両肩に手を添えて支えた。
かすみは支えられながら、靴下を夢中で脱ぎ、
「大丈夫大丈夫・・・」
そんな夢中のかすみの目を、伯牙は意味深に見つめる。
かすみは靴と靴下を脱いだ。
そろえて砂浜に置く。
かすみは、伯牙の視線に気付かなかった。
伯牙は、ちょっと気落ちしつつも、裸足になって、先に浸かりに行った。
伯牙の後を追ってかすみが海に入った。
「うわあ。水のほうが温かいね」
伯牙も足元をよせてはかえす波を見ながら、
「気持ちいい!・・て感じじゃないけど、泳いでたらいい気温かもね。」
そして足で、
「てい。」
ちょっとだけ、水を蹴った。
かすみは、伯牙の蹴った水飛沫を見ながら、
「水けってたら、飛沫あがるよね?」
伯牙はかすみに注意がいっていなかったことから、飛沫がかかっていないか心配し、
「っと、ゴメン。かかった? 何か海が近すぎて逆にあんまり行かないから、ちょっと楽しくなって。」
とかすみにわびてから、
「泳いだら、ホント気持ちよさそうだなぁ。」
と、遠くで泳いでる人を眺めた。
かすみもつられて遠くを見てから、伯牙を見て、
「ううん? ホースで水まいてたら、虹、できるよね?」
伯牙はかすみに向き直り、
「出来る出来る。」
と笑って頷いた。
その笑顔を見てかすみも笑い、
「脚で蹴って水をはねたら、虹が出来たら素敵だなあって。なんでできないんだろう?」
と、不思議そうに言った。
伯牙は科学的な観点から、
「たぶん、蹴って跳ねる水の量と、ホースで水まいたときの水の量が違うからじゃない?」
と言って、
「蹴って跳ねる水の量は少ないし、断続的じゃないからねー。」
手で、断続的な水を示しながら、
「光が曲がる為に必要な量じゃないとか。」
と、かすみに説明した。
しかしかすみは食い下がって、
「二人で交互にすごいがんばったらどうかな?」
頭が悪いのか、頭がいいのかわからないことを言った。
伯牙は納得しながら、
「あぁー。なるほど。。やったことないからなぁ。」
頭をかいて、
「まぁ、物は試し。やってみる?」
かすみはうん。えらいっといって伯牙を褒めた。
そしてふたりは、がんばって交互に水を蹴りだした。
段々面白くなってきた様子で、自然と笑顔になっている。
伯牙は息をあげながら、
「せっ、はっ。っと!」
かすみは笑っている。
楽しいようだ。
伯牙は、自分の蹴ってる番の時に、
「どう?虹!」
かすみは笑顔で、
「どうかなあ」
水をどんどん蹴り上げながら、
「そっちからは見れない?」
と問うた。
伯牙は、声をあげて飛沫を見ながら、
「おっ。ちょっと見えるかも。」
笑って頷き、
「よーっし。もっとがんばるぞっっと。」
かすみは、伯牙の勢いに負けじと、
「わー!」
と水を蹴る。
伯牙は、楽しそうにドンドンペースを早くして水を蹴り出す。
虹が出た。
かすみは伯牙を見て顔を輝かせた。
伯牙はガッツポーズを取り、
「うっっっっし!」
少し息切れてぜーはーしながら笑った。
「・・ど。。どうだった?」
かすみは凄い笑顔で、すごいすごいといって伯牙に抱きついた。
そして、あれ? という表情になった。
伯牙はかすみを抱き止めて、
「へへっ。」
と得意げに笑った。
かすみの表情にはまだ気づかない。
伯牙の背中で虹が、にょろにょろ動いてる。
伯牙は硬直したかすみに、
「ん?どうしたの?」
と言った。
かすみは振り返った。
伯牙も振り返って、抱き着かれたポーズのまま。
虹はびにょーんと伸びて天に昇りだした。
伯牙は驚いて、
「え。。お、おぉー?!」
虹が伸びていった方向を見た。
かすみと二人、呆然と見た。
かすみはあんぐり口を開け、
「なにあれ?」
伯牙も、
「うーん、なんだろう。」
虹には触れてみようかとしたが、その時にはもう虹は飛んでいった後だった。
かすみは、心持ち伯牙に体をすりよせながら、
「あれ、ほんとに虹?」
虹は天に昇った。
空は曇り。
足元で海が光っている。
あれが虹か危ぶみながら伯牙は頷き、
「確かに。・・曇ってきた?一雨来るかな。」
伯牙は、抱きつかれたまま、海から上がろうとした。
しかし、あがれない。
続々と虹が周囲に現れた。
伯牙は足を動かすことが出来ず、かすみを引き寄せ、
「うおっっ。。あ、足が。」
虹は何本も立ち始めた。
かすみはもはや伯牙にしがみついて、
「わー!がんばりすぎ!」
伯牙もパニックになりながら、
「確かに、頑張ったけど!これは絶対に違う違う。」
周りを見渡してみて何かいるか確かめようとした。
かすみは大声で、
「また怪事件!」
水中を何匹も蛇のようなものが泳いでる。
伯牙は、
「・・蛇?」
と、足元を見た。
「・・・もしかして、竜?」
かすみは飛んで伯牙に抱きついた。
脚が水面につかないようにして、ぎゃーぎゃー叫んでる。
伯牙の首がしまる・・・。
伯牙はかすみをお姫様抱っこして、とりあえずかすみを落ち着かせようとした。
「か、、かすみ。首首・・。・・っと、こうすれば、大丈夫。ほら、守るから。」
かすみはお姫様だっこをされながらも暴れて、
「蛇はやだー!」
涙目だ。
本気で怖がっている。
本格的にとりみだしている。
伯牙はかすみを落ち着かせようと、
「大丈夫。自分が居るから。ね?」
右手で器用にかすみの頭を伯牙の顔にくっつた。
そして、落ち着くまで大丈夫だからと言い続けるつもりだった。
蛇が次々と虹になっては天に昇っていく。
伯牙は少しでもロマンチックになるように、
「多分、あれ。虹の橋じゃないかな。」
と言って、
「虹が橋になっててるんじゃないかなぁ。」優しい声でかすみに話しかけた。
しかしおそらく、かすみの耳には届いていない。
かすみのぎゃあぎゃあはとまらない。
そのうち不意に、静かになった。
伯牙は慌ててかすみの顔をのぞきこむ。
「・・・。・・・?どうした?」
返事はない。
「かすみ?!」
急いでかすみをかかえなおし、顔を見た。
気絶している。
重傷である・・・。
伯牙はぐったりしたかすみを抱いて、
「うーん。。どうするか。。上がれないから、横にもできないし・・。」
伯牙が雷神様に助力を頼めないかと悩んでいる間に、虹はどこかにいってしまった。
伯牙の足は動かせるようになった。
伯牙は少し足を上げてみて、
「っと。・・動ける。。」
動くのを確認し、急いで日陰の場所に行ってかすみを横に。
かすみは目を回している。
このままじゃ一生かすみは海が嫌いになるかもしれない・・・。
伯牙はうなった。
「本当に蛇ダメなんだなぁ。。」
伯牙はとりあえず、冷たいもので冷やして、かすみの回復を待つことにした。
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 遅くなりまして申し訳ありません。
伯牙さんご依頼のSS完成いたしました。

至らぬ点、多々あると思います。
苦情なんでも受け付けますのでよろしくお願い致します。

ご依頼ありがとうございました。


作品への一言コメント

感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です)

  • 藤原さん、ありがとうございます!苦情だなんて滅相もないですよッ。1時間目のいいデートの雰囲気が出てて、いいSSでした。この後の2時間目の悲劇など隠れてしまいそうなくらいですッ。ありがとうございましたー。 -- 伯牙@伏見藩国 (2008-03-22 22:11:22)
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最終更新:2008年03月22日 22:11