小笠原分校に放課後のチャイムの音が響く頃、上級生の教室に似合わぬ制服が走っていた。。
先生に廊下は走らない、注意を受けるその人物は竹内であった。
目的地は駒地、ユーラのいる教室。すぐに着いた。

「こんにちわー!
 あ、先輩達もう集まってるんですね」

デジャブすら感じさせる挨拶と共に竹内が教室に入る。
竹内の言ったとおり、駒地とユーラだけでなく赤鮭もすでにおり、セクハラを開始している。

「おお竹内、よく来たな。そんなに俺に相手してもらいたいのかそうかよくわかった」
「やぁ竹内君、後ろの人は無視して、というか脱がすのやめてください!」

滑らかに身体を這う赤鮭の手を振りほどこうとするユーラ。
赤鮭はその抵抗すら楽しんでいるようで、視線は駒地と竹内に固定したままで手だけ動かしている。
駒地は二人から少し離れたところで、ユーラさん頑張れーと声援だけ送っている。
声援だけなのがミソである。
昼間から変わらずじゃれている(ように見える)二人を見て、竹内は同じ感想を持った。

「やっぱりユーラ先輩と赤鮭先輩は仲がいいんですね」
「何、俺の手にかかればどんな男もこんなもんさ」
「いやいや、明らかに襲われてるから!」
「ユーラ、つれないじゃないか。同じ硬い尻を追うもの同士親交を深めるのは大事だぞ」
「ちっがーう!僕が追うのは一つ!貴方は何百と追うでしょう!」
「ユーラさん、フォローし切れてないです……」

駒地の忠告も聞かずに赤鮭の手と格闘を始めるユーラ。
赤鮭の身体を押しやったって無駄だと判断したための行為だろう。
しかし、それが最も難易度が高いと言うことをユーラは忘れていた。
服の中に巧みに忍び込み、全力でセクハラを遂行するそれを止めることなど夢のまた夢。
赤鮭から見れば猫じゃらしに飛びつく子猫に見えただろう。
それほどにユーラは弄ばれていた。
わははと笑ってユーラ(どちらかと言えば子猫だろう)を抱き寄せる赤鮭。

「なんだ、こんなに離れないってお前も好きだねぇ」
「抱き寄せておいて何言ってんですかっ!」

耳元で言われたため、ユーラの全身に鳥肌が走る。
反応一つ一つが赤鮭には嬉しいようで、うーん素晴らしい!と一瞬手を止める
その隙に近くの机を持ち上げると言うパワープレイを見せるユーラ。

「いい加減、離れて、くださーい!」
「おっと」

赤鮭が、抱きとめたままではユーラも危ないと、ユーラのバランスを崩さないように離れる。
ようやく解放されたユーラ。息も服も乱れである。
そんな状態でも赤鮭を竹内の方には行かせないようガードするユーラ。

「ええい、竹内君の前でこれ以上こんなことしないでください!」
「……駒地先輩、なんでユーラ先輩怒ってるんですか?」
「赤鮭先輩がユーラ君の嫌がることした……でいいと思うよ」

相変わらず仲としか見ていない竹内に感動しつつ答える駒地。
自分も若干置いてけぼり気味なので、セリフがあることにも感動していたり。
一方ユーラは乱れた服はそのままに、赤鮭と睨み合っていた。
尚赤鮭ビジョンでは威嚇している子猫である。
ふー、ふー、と息を整えながら、拳を握るユーラ。どうやら何かを決めたようだ。
びしぃっ!人差し指を赤鮭に突きつける。

「今日と言う今日は(昼もやられたし)許しません!そこに直ってください!」
「お。お前はそっちで友情を深め合う性質か」
「だ・ま・れー!」

自棄になりながらユーラは拳を繰り出す。
笑みを浮かべながら紙一重で避ける赤鮭。
赤鮭、男へのセクハラだけでなく体術も超一流である。
ユーラとの技量の差を考えればこれは当然の結果であろう。
しかし諦めきれないユーラはもう一度チャレンジ。

「こなくそー!」
「そんに俺と友情を深めたいのか。分かった。いいぞいいぞ、かかってこい」
「セクハラ、反対ー!」

気合を入れても結果は同じ。闘牛士のように華麗に避ける赤鮭。
いや、子猫としか思われていないから闘猫士と言ったところか。
その様を見て感心しきりといった感じの竹内(5mは離れている)

「すごいなぁ赤鮭先輩」
「どうしたの?」
「あれ、駒地先輩わからなかったんですか?」
「うん」

あれみてくださいと竹内は言って、ユーラの服を指差す。
なんかさっきよりはだけている気がする。

「ほら、ユーラ先輩のボタンが取れてる」
「……え」
「すごいですよ赤鮭先輩。神業ってああいうのを言うんでしょうね」

そう、赤鮭は一瞬の内に動いている相手のボタンを外して見せたのだ。
ああ!なんという趣味に特化した技!
いままで数多くのボタンを正面から外していた経験が積もり積もって技へと昇華されたのだ。
セクハラと体術が超一流だからこそできる技である。
ただし自慢にはならない。
それに気付いて、なんとなくこの先を幻視してしまった駒地。
ユーラはまだそれに気付いてないようなので、注意を含めて声をかける。

「赤鮭先輩、昼みたいにユーラ君脱がす気ですか?」
「え?……って、ボタンがっ!」
「なぁに、昼ではダメだといわれたがもう夕暮れ時、俺の時間だ」
「そうなんですか?」
「竹内君!騙されるなー!そんなわけないでしょう!」
「それにな、神が許さなくてもモニターの前の妖精達は許す!
 だからユーラ。安心して俺に全てをゆだねろ」
「い・や・だー!」

今度は追う赤鮭、逃げるユーラだ。
うーんと唸りながらもちょっと面白いなと思う駒地。
はっと気付いて時計を見る。
そういえばユーラと竹内と帰る約束をしていたのだった。
しかしユーラは鬼ごっこ中(上着のボタンは全部外れている)
さてどうしようかなと竹内を見る。

「えーと、竹内君。先に帰る?」
「え?僕はまだ時間大丈夫ですよ。ユーラ先輩と赤鮭先輩を待ちましょうよ」

確かに順当な提案だ。
しかしこのままだとモニターの前の皆様に不適切な表現を見せなくてはいけなくなる。
流石にそれはまずいかなと駒地は考えた。
ユーラ(ブラウスのボタンが2つ外れた)もそれは同じだった。

「竹内君!俺のことはいいから先に行って!」
「いいんですか?ユーラ先輩」
「赤鮭さんは俺が止めるから早くー!」
「なんだ?お前ら一緒に帰るのか?駒地、幸せにな」

軽やかなステップを踏みながら笑顔で手を振る赤鮭。
脇を通り抜けようとしたユーラのボタンをもう一つ外す。
駒地は迷った。10秒くらい。

「ええと、………ユーラ君がんばってー!」

10秒くらい迷って、声援を送って良しとした。
カバンを手に取り竹内と向きあう。

「じゃあ、お言葉に甘えて先に帰ろうか」
「わかりました。ユーラ先輩!赤鮭先輩!お先に失礼します!」
「うん!後から必ず行くからー!ぎゃぁぁ!」

半裸になりかけのユーラに別れを告げて二人は出て行った。
この後赤鮭がどこまでやったかはご想像にお任せする。
ただ一つだけいうならば、ユーラが二人に追いついたのは5分後だった。



学校からの帰り道。駒地と竹内が並んで歩いている

「今日は色々大変だったね」

主に赤鮭が、とは言わない駒地。

「ええ、僕もビックリしっぱなしでしたよ」
「いきなり泣き出すからこっちもビックリしたよ!」
「あれは、スミマセン。心配かけたみたいで」

苦笑いする竹内。
駒地もしょうがないなと笑う。

「竹内君の笑顔に免じて許してあげよう」
「ありがとうございます」

言われたからというわけではないが、屈託のない笑顔を浮かべる竹内。
ユーラ君も好きになるわけだと、自分もノックアウトされながら思う駒地。
ノックアウトされついでに、辺りに人がいないことを確認する。
少しだけ踏み込んでみようと思った。

「あ、あのさ」
「なんですか?」

竹内の綺麗な瞳が駒地に向けられる。
まっすぐ見ると今更ながら照れてしまう。
しかし言うと決めたからには言う。
顔の赤さは夕日が隠してくれるから。

「竹内君……って呼ぶのも、よそよそしいからさ」
「そうですか?」
「そ、そうなの!
 だからさ、ええと………優斗君って呼んでいい?」

目をぱちくりさせる竹内。
あ、まずかったかと思って慌てて手と顔を振る駒地。

「や、やっぱり迷惑だよね!後輩だもんね!苗字で呼ばなきゃね!」
「いいですよ」
「そうだよね……え?」
「駒地先輩ならいいですよ。僕、嬉しいですから」

今度は駒地が目をぱちくりさせた。
嬉しい……って言った。
笑顔で嬉しいって!

「ホ、ホント?!」
「ええ!僕名前で呼ばれること少ないから、すごい嬉しいです!」

そっちか、とちょっと残念がる駒地。
でも、名前で呼べる。
それだけでも十分嬉しかった。

「じゃあ、優斗君、こういうこと言うのも変かもしれないけど、よろしくね」
「はい!駒地先輩」



「ぼ、僕も名前で呼んでいいかい?」
「ゆ、ユーラ君!」
「ユーラ先輩?」

いつの間にか竹内の肩を手を置いていたユーラ。
息も絶え絶え、服も乱れているが、無事だったようだ。
その大分後ろにはホクホク顔の赤鮭がいる。
駒地があえて何があったかは聞かないよと目で合図する。
すごいありがとうと返すユーラ。
何も知らずに満面の笑みを浮かべる竹内。

「もちろん、ユーラ先輩もOKですよ。赤鮭先輩も!」
「あの人は止めいた方がいい!」
「竹内が良いと言っているんだ。いいじゃないか」
「赤鮭さんいつのまに!」

遠くにいたはずの赤鮭が既にユーラと竹内の肩を抱いている。
両手に花といったところか。
ユーラが自分の方に無理矢理赤鮭を引っ張って竹内から引き離した。

「なんだ、妬いてるのかユーラ」
「違います!」
「お前には悪いが世の中の男は俺のものだ。俺の独占は諦めろ」
「だから違うって!」
「なぁ、優斗」
「赤鮭先輩もそう呼んでくれるんですね!
 嬉しいなぁ」
「待て、優斗君!騙されてる、君は騙されてる!」

抗議も意に介さず、するりとユーラの拘束を抜けて竹内に近づく赤鮭。
竹内は赤鮭が自分と肩を組むくらい仲良くなってくれたと普通に喜んでいる。
駒地は優斗君、優斗君と呟いてえへへと笑っている。
ユーラは赤鮭をどうにか竹内から引き離そうともがいている。
四者四様、何とも賑やかな帰り道だ。
こんなに賑やかなのは早々ないだろう。

「ああ、一緒に帰るって楽しいな」

竹内がバンザイしながら言う。

「そうだね、優斗君」

笑顔で賛同する駒地。

「ああ、まったくだ」

セクハラしながら頷く赤鮭。

「先輩がいなければね!」

それを妨害しながら言うユーラ。

帰り道はまだまだ続く。
赤鮭とユーラの戦いもまだまだ続く。
4人で過ごす日々も、まだまだこれから続くのだろう。
楽しい日々は、これからなのだ。


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最終更新:2007年09月25日 12:37