瀬戸口まつり@ヲチ藩国様からのご依頼品


登場人物紹介


瀬戸口まつり

 ヲチ藩国民。秘書官。
 幸運評価9 器用評価-3。幸運補正付きどじっ娘キャラ。
 藩国内にファンクラブがあるとかないとか。

瀬戸口高之

 瀬戸口まつりの個人ACE。
 最近、嫁と同じ職場に就職したらしい。



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18歳が大人かどうかは知らないけれど。

背伸びしたかった時期ってあったよね。


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久しぶりのデートだった。


夏のコテージで会って以来だから、だいたい3週間ぶりくらいってとこか。
別にふつうだったよ、最初はな。

待ち合わせには遅れなかったし、一緒に見た映画は面白かったし、内容が恋愛ものだったおかげで二人して盛り上がって、その、キスもできたし。

雲行きが怪しくなってきたのは、喫茶店に入ってからだったな。
注文を聞きに来た子がまた可愛い子でね、ついつい話し込んじまったのさ。

ウェーブのかかった金髪と、青い瞳が綺麗な美人だったよ。
ま、うちのまつりほどじゃないがね。
そう思って大事なフィアンセと愛を語り合うべく向き直ったら、なにを勘違いしたのか不満そうにこっちを見てるじゃないか。
言い訳を考える前に、向こうが先に口を開いた。

「ああいうスタイルのいい人が好みなんですか」
「いや、べつにそういうわけじゃ」

なぜだろう、頬がかゆい。
指でぽりぽりとかきつつ、ついと目をそらす。
すると「やっぱり胸が……」とかつぶやきながらうつむいてしまった。
肩を震わせ始めたところで、身を乗り出してまつりに近づき前髪のカーテンを払う。そこには目端に涙を溜めたお姫様が、可愛そうなくらい真っ赤な顔でいらっしゃったわけだ。

女の子を泣かせるのは趣味じゃない、と昔から思っていたんだが。
泣き顔もかわいいなと思ってる今の俺は、きっと変態なんだろう。
うん、そういうことにしておこう。

「ひとつだけ言えるのは、お前さんは最高に可愛いってことだけだ」
「さっきの店員さんよりも?」
「誰よりも。少なくとも俺にとっては」

まつりが手で涙を拭ってから恥ずかしそうにはい、と笑った。
つられて俺も顔が熱くなる。
正直な気持ちだったが、それだけに伝えるのは少し気恥ずかしかった。

「えへへ、ちょっと安心しました。やっぱり人間は中身ですよね!」
「ん。あー、まぁそうだな」

なぜかまつりは自分の胸元を見やりつつ、そんなことを口にする。
なにか気になることでもあるんだろうか。

どうしたのか声をかけようとしたら、やや緊張した顔でこう言った。

「あの、あんまり胸とかないですけどいいですか」
「まぁ、ないよりはあったがいいがそんなことは「やっぱり!!!」

こっちが言い終わる前に発言を被せられる。
話は最後まで聞いてくれ。

で、なぜか目をぐるぐるさせながら頭抱えて悩み出した。
どうしたもんかと考えてたら唐突に動きが止まって

「わ、私だって大人なんですから!!」


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一時間後―――――――


「で、なんでこうなるんだ……」

二人は宰相府藩国にある居酒屋で日本酒を飲んでいた。
なかなか繁盛しているようで、店員は忙しく走り回っている。
客達はみな楽しそうに飲んだくれているようで、店内はそれなりに騒がしい。

通されたのは座敷席で畳に腰をおろしつつ、ちびりちびりと酒を飲む。
出された酒は中々の上物だったが、高之はどうにも楽しめないでいた。
それはテーブルを挟んで向かい側に座ったまつりが

「あー、たかゆきさんおさけへってませーんよぉー」

べろんべろんに酔っ払っていたからだった。
喫茶店の時とはまったく違う理由で真っ赤になった顔で、体はゆらゆらと揺れている。
まぶたは落ちては開きを繰り返していて、今にも眠りそうだった。

なんでこんなことになったのか。
高之は額に指を当てつつ思い返してみた。





喫茶店での騒動の後、まつりは高之の手を引いてとある場所へと向かった。
そこは宰相府藩国の歓楽街、通称『千ちゃん横丁』なる通りであった。
風のウワサによればそこは酒という酒が集まる場所であり、連日連夜のどんちゃん騒ぎが常であるという。
ニューワールド中の酒豪達が集う、まさに酒飲みの聖地と呼ばれる場所であった。

すでに日は傾き始めており、横丁には続々と人が集まっていた。
人ごみを掻き分けて進んだ先には一件の居酒屋。
おもむろに入店する。

未成年であるまつりは店員に止められたが、宰相府勤めの秘書官であることを告げて、逆らうとヒドイ目にあうかもですねうふふとか言って通してもらった。

「いいのか?あんなことして」
「いいんですっ。職権は乱用されるためにあるんですから」

まつりはぐっとこぶしを握り締めて決意の表情でそう言った。
なんか色々と吹っ切れたらしかった。

高之は止めるべきだと思ったが、同時にそれが無理であろうことも悟っていた。
まつりの瞳が青く輝いていたからである。

それは本来であれば目にも見えず、力も持っていないはずのリューンの光であった。
高之が過去に見てきた、ただひたすらに前を向き、愚直なまでに正義を成そうとした人々と同じ顔だった。

まぁ、つまりはある種の身体的理由で恋に破れた女性達の思いがまつりを応援しているのであろう。
ある意味、泣ける話である。

その後、生ビール(一杯目)で完全に目の据わったまつりが完成したのだった。





「大体だな、なんでいきなり居酒屋なんだ」
「わたしだってですねぇ、中身は2●才ですよ。立派な大人です……ひっく」

額を揉んでいた手をはなしてそう切り出した高之に、まつりは相変わらず頭をゆらゆらさせながら返した。

「あんな金髪の外人さんなんかにー、まけませぇん!」

質問に答える気はさらさらないようで、そのまま大ジョッキをイッキにあおる。
どうやら着用アイドレスが18才であることを無視して普段のペースで飲みつづけているために、速攻で酔いがまわっているらしい。

「たかゆきさんはー、ダメです!」

ビシィッ、と指を差しながらダメだしを始める。
完全に絡み酒である。

「いっつもいっつも人のことー、わらいながらきらいとかいってー、わけわからんっつーの!」

空になったジョッキをテーブルに叩きつける。

「そんな斜にかまえて生きてないで、もっとストレートに言いなさいっ!」


それを聞いた高之はなにも言わなかった。
否、なにも言えなかった。

長すぎる生は彼に生き残るすべと用心深さを与えたが、それは同時に人を信じる心を失わせた。

『軟弱者。それでも男ですか貴方は!』

まだ熊本にいたあの頃、自分に近づいてきた一人の女のことを思い出した。
好意に応えれば必ず不幸になる。
それゆえ遠ざけていたまま、逝ってしまった彼女のことを。

後悔しない夜はなかった。
一生分の涙を流し尽くした。

なにもかもをかなぐり捨てて壬生屋を守ろうと決めていたら。
違う結末もあったのではないか。

『おまえさん、うざいよ』

そう言ってあしらった時の顔は、まつりにひどくよく似ていた。
怖がっているような、すがりつくような顔だった。
思い出すたびに今でも胸がうずく。
彼女も心の奥底では同じことを言いたかったのだろうか。

「……そうだな、直すように努力するよ」

そう言って寂しげに微笑んでまつりに目を向けたところで高之は凍りついた。
まつりは新しい酒を店員から受け取っているところだった。
それ自体は問題ではない。
問題はその銘柄である。


魔酒 犬殺し


それは昔、まだ帝國が誕生したばかりの頃。
國足天願さん(68)は究極の酒をもとめて第五世界の小笠原へ(省略)数々の死闘を経て成長したミュンヒハウハウは最強の執事となるべく夜明けの船を(中略)悲しみの聖戦を生き残った白の白、ブランカが最後に言い放った言葉「サイハイソックス>>>>>>>>>超えられない壁>>>>>>>>>>ニーソックス」はあまりにも有名(後略)という、まぁ言ってみればTLOな酒なのだった。

「待て。その酒はやばい―――――」

静止もむなしく、一気に飲み干す。
ノータイムでそのままぶっ倒れる。

口をつくのはため息ばかり。
高之、ここまで困ったのはちょっと久しぶりだった。


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真夏の気候なだけあって、夜でもあまり寒くはなかった。

公園のベンチでまつりに膝枕をしながら、うちわであおぐ。
完全に酔いつぶれたまつりはまだ顔が赤いものの、幸せそうに寝入っている。

「大好きれふ……ひっく」

寝言を聞いて思わず苦笑する。

「こうして見ると、寝顔は少し似てるな」

壬生屋が死んでから、ずいぶん時間が経った。
絶望しかなかった自分に近づいてきた、物好きな娘。

始めは拒絶した。
なにもかもが嫌になっていたから。

だがそれでは何も変わっていないのではないか。
壬生屋を、そして椿を死なせてしまった時と同じ轍を、また踏もうとしていたのではないか。


こうしていられるのはただの偶然かもしれないが、高之はその偶然をくれた誰かに感謝した。


ようやく気づいたことがひとつ。
大切なのは今、めのまえにいるこの娘の笑顔だと、そう思った。

今後、瀬戸口高之はただまつりの幸せだけを守る為に戦うだろう。
それが彼の誇りであり、生涯を生きる理由となる。

「ま、差し当たっては宿の確保だな」

まつりの穏やかな寝顔を見つめながら、髪をなぜる。
まっすぐに前を向いて、彼は戦いを開始した。


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翌日、『瀬戸口まつり 朝帰りをする』の報が国中に知れ渡ったのは、また別の話である。


作品への一言コメント

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  • うわぁ すごい萌えSSをありがとうございますっ! 特に前半のやりとりが(セリフとして)本当にありそうで読みながら笑ってしまいました。このたびは指名依頼を受けて頂いてありがとうございました! -- 瀬戸口まつり@ヲチ藩国 (2008-03-11 00:14:52)
  • ご指名ありがとうございました。楽しんでいただければなによりです。  (´・ω・`)ところで高之氏がうらやましくて砂糖吐きそうなんですけど俺はどうすれば -- 鈴藤 瑞樹@詩歌藩国 (2008-03-11 22:23:01)
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最終更新:2008年03月11日 22:23