白石裕@暁の円卓さんからのご依頼品


  きつい日差しを避け、部屋の日陰になった部分に少女が居る。椅子にちょこんと座り、窓外の寄せては返す波をボンヤリと見つめている。その肌は汗こそかいていないものの、うっすら赤くなっていてほのかな色気を感じさせる。

 「夏の園と言うだけあって毎日暑い」

 「ええ。ほむら様のお体に障りは無いとは思いますが、あまり長期間の滞在はお勧め致しかねます」

 ゆっくりと近寄る今日子の言動にほむらは眉をしかめる。ほむら程の美少女になると、その程度のことでさえ、絵になってしまう。『まったく同じ女として嫌になる』と今日子は思う。

 「二人の時は堅苦しいのは無しという約束でしょう?」

 「・・・そうしないとパパに注意されるから」

 今日子の相貌に陰が落ちる。宰相は今日子に声を荒げたりはしない。ただ、優しく諭すだけである。それが今日子を傷つける。本当の親子なら本気で怒ることもあるだろう。しかし、今日子と宰相の間にはそのようなことは無い。ゆえにその事実は今日子を傷つけていた。

 今日子がもう少し大人であれば、自分が如何に愛情を注がれているかが判るのであろうが、未だそうなるには時間が必要であろう。

 「私が言わねば誰にも判らない」

 「うん。ありがとう、ほむら」

 「世話を掛けているのはこちらだから」

 恥ずかしそうにはにかむ今日子に対し、ほむらは柔らかい笑みを返す。それは外見に見合わぬほどの人生の年輪を感じさせる。このアンバランスさが白石ほむらという少女の魅力の一端であることは誰も否定しないだろう。

 「・・・勿体無いな」

 「何が?」

 「白石王とほむらが結婚するのが」

 「そうかしら?」

 「うん。だってほむらだったら、もっと凄い王様とだって結婚できるんでしょ? パパがほむらのこと、今まで多くの王が喉から手が出るほど欲しがったって言ってたよ?」

 そういう今日子に、ほむらはくくっと篭もるような笑みを洩らす。それは先ほどとは違う幼い笑い。外見に見合ったものであった。

 「そうね、私を欲しがる王は多かった。でも、私の助言抜きに私自身を欲する王は片手で足りた。それだけのこと。それに・・・」

 「それに?」

 「言葉だけじゃなく、裕はいつだって行動で示してくれたから」

 「でも、ほむらのこと泣かせた。この間だって世間の人たちに貼られたレッテルに気を取られて、ほむらより自分の想いを優先させたんだよ!」

 ほむらを思うからこそ、今日子の声に力が篭りついつい責める様な口調となる。対するほむらは、気にも留めないかのように平然としている。

 「あれはまだは若いから」

 すっと今日子から視線を外し、窓の外に向ける。その目は目前の風景ではなく、遠くを見る眼差しであった。

 「王は常に民の視線に晒される。体面は重要なことだから、それも詮無いこと。時間は掛かるけど、裕が苦しまないようにはしてあげたい」

 「…凄いんだね、ほむらは」

 「そんなことない。そう思っていても、泣いたり悲しんだりはするのだから」

 そう言うほむらを今日子は羨ましいと思う。凶状持ちで世間から邪険にされ続けた自分と比較し、少し悲しくなる。己の感情に伴うように俯き加減となる。

 それを見たほむらは、今日子を手招く。胸に今日子を抱えるかのようにして、頭をそっと撫でる。

 「いつか、今日子にもいい人が現れるといいわね」

 「・・・うん」

 そう答えつつも、自分を選んでくれる人は居るのだろうかと悲しくなる。今はただ、この気持ちの良い時間が続くことを願いたかったが、その想いを断ち切る。パパの為に。そして、自分の前歴を気にせずに接してくれる数少ない友人の為に任務を全うすることを優先する。

 「仕事、しなくちゃね。えーと、紅茶でもどう?」

 「お願い」

 来客があったのは、その数分後のことであった。

  /*/

 「よ!元気してたか?」

 つい先程まで自分のことが話題にされていた等とは思わず、裕は元気良く声を掛ける。それは不安にさせ続けたほむらへの後ろめたさから来る精一杯の空元気でもあった。それを察し、ほむらは返事をせず、紅茶を口に含むのみであった。

 「…えーと、あれ。ほむら、成長した?」

 「……成長はしとらんな。……背が伸びただけ」

 会う為り最初の話題が自分の背であることに、ほむらは不満を覚える。すぐに気付くと言うことは、それだけ自分のことを気にしているからだろうが、ありのままの自分を受け入れてくれないことに一抹の寂しさが生まれる。少なくとも、一番に言って欲しい言葉ではなかった。

 「まぁ成長にも意味がいろいろあるから。背が大きくなるのも成長って言えば成長だ」

 ほむらの言葉に険を感じる。眼差しもどことなく冷たい。裕は話題変換を試みようと、とにかく言葉を紡ごうとする。

 「えーといや、そんなことは割とどうでもよくて…」

 …まだ、治療が終ってから時が浅い。抱き寄せても平気だろうか? 一瞬の逡巡の後、自分の気持ちに素直になることにする。

 「会いたかった」

 言葉を紡ぎながら抱き寄せた体は細く、多少成長したとは言え未だ小さい。裕はその小さな宝物を大事に抱える。その気持ちに応えるかのように、ほむらも「うん」という一言と共に頷き、裕の服を握り締める。どこにでもある恋人達の光景がそこにあった。

 「色々考えたけど、一番やりたかったのはほむらを抱きしめることだった。会えて嬉しい」

 素直に自分の心情を吐露する。その想いが確かであることを表わそうと、抱きしめる腕に力を込める。それに対し、身を委ねるようにほむらはただ、じっとしている。そして、数秒の後。

 「……息が出来ない」

 「あっごめん!」

 それはただの照れ隠しでもあり、もっと裕の顔を見たいと言う想いの表れでもあった。裕の方はと言えば、咄嗟にはほむらの心情には気付かず慌てて身を離しただけであったが。

 「嬉しくてちょっとやりすぎた…」

 照れて紅潮する裕と気恥ずかしさから同じように顔を紅くするほむら。二人の間に静かな、しかし心地よい沈黙が訪れる。

 見詰め合う二人。お互いの瞳に吸い込まれそうになる。ふと、裕はほむらの瞳に意思の揺らめきを感じる。それは心を通じ合わせた者同士が持つ無言の意志交感。

 離れた影は再び重なる。優しいゆっくりとした口づけの後にあぐらをかき、目蓋を上げたほむらに手招きする裕。上気した顔の火照りと胸の鼓動に困りつつも、愛しい人の誘いにほむらは応じる。

 二人の距離は縮まり、裕の組んだ膝の上にはにかむ少女が一人。恥ずかしさで赤くなりつつも幸せそうな少女に裕の表情は際限なく緩む。

 「今日は…お前に会いたいだけで、何も考えてなかった。だからたまにはこんな日もあっていいと思う」

 「うん・・・」

 頷きながらほむらの体は蛇のように艶かしく、より裕に近づこうと動く。それを嬉しく思い、軽く位置をずらす。その動きに合わせる様にほむらは身を摺り寄せ、背を裕に預ける。

 「もうすぐ式もあげれそうだし、家も買って一緒にすめそうだ」

 「待ってる……ん。なにか尻にあたる……」

 「寂しい思いもさせずに済むと思う…って俺ー!」

 切ないようなしかし、甘い吐息とほむらの臀部の持つ柔らかさに裕はくらくらすると同時に、体の一部が自律的に起動を開始する。それに伴い、裕の自己嫌悪ゲージも上昇を開始する。共に天を衝かんばかりの勢いである。

 「あーえーとその、スマン」

 「何をあやまるの?」

 小悪魔のようにクスクスとほむらは笑う。裕の慌てぶりが予想通りで楽しくて仕方が無い様子が感じられる。それは同時にほむらが裕のことをしっかりと愛し、理解している証拠でもある。そして、ほむらにとっての賭けが始まる。

 ほむらの瞳は愛しさに溢れつつも、悪戯な輝きに満ちて細められる。しかし、慌てる裕がそれに気付くことは無い。しかし、その純朴さこそをほむらは好ましく思う。

 「いやえーと…紳士じゃない自分でなくてスイマセン みたいな」

 普通の者では到底経験できない長い時を生きる少女からすれば、裕は孫やひ孫とさえ言えるほどの人生経験の差がある。しかし、だからこそ裕のまっすぐな心がまぶしい。

 その心に向かい合うかのようにほむらは身を返し、伸び上がるように裕の首へと手を伸ばす。裕も呼応するかのようにその小さな背を抱きしめる。その小ささに改めて、自分の護るべき存在のはかなさを裕は感じる。

 「そんなに挑発したら、襲われてもしらないんだぞ」

 「猛るのであれば、静めようか?」

 「祝言のあとで、なんだろう?俺にもこらえることくらい出来るよ」

 照れ隠しでもあった一言に、思わぬ返事が来て一瞬きょとんとする裕。しかし、ほむらを欲する思いより、大事にしたいという思いと律儀さが勝る。それは言葉にすることで、自分を納得させようとするかのよう。

 しかし、その言葉はほむらに影を落とす。自分の身が幼いがゆえの女性としての魅力の欠落に、疑問を少なからず持っていた。しかし、王たちに欲せられるのはその艶色さではなく、知恵であると無視してきた。

 だが、裕の前で感じるのは己の身の幼さ。ゆえにそれを振り払うかのごとく、試してみたものの、裕の理性の壁に敗北する。その思いは寂しい笑みとなって口元に現れる。

 「そうじゃな」

 言葉による返事は無く、行動によって示すのみ。剣の王はそうやって功を挙げてきた。ゆえに愛の表現すらまっすぐに己の行動で示す。口付けによって、そのほむらの寂しさを切り伏せるかのように鮮烈。

 「そうやって寂しそうにするな」

 ほむらの頬に手を伸す。その幾つもの戦場を駆け抜けた手は厚く、所々が堅く、そして温かい。

 「それにだな…俺も相当我慢してるというか…一度はめを外したら自制できる自信がない」

 愛しさよ、我が手より伝われと。

 「ほんとに?」

 その不安げな笑みを何時か無くせる様にと、ただ願う。

 「ほんとだよ」

 言葉よ、我が意志を伝えよ。

 「今でも理性と本能がだな…」

 君への愛しさに嘘はないと。

 ほむらは感じる。その思いを、意志を、泣きたくなるほどの嬉しさと共に。その自分の顔を見られぬように。しかし、思いは伝わるように顔を背けて抱き占める。

 「ほら嬉しいけどこんなんだと本能が勝っちゃうよ」

 はにかむ裕の顔を見て、迷いが消えていく。理性やしきたり、それがなんだというのか。心をこうも熱くさせる人が喜んでくれるのなら…。気付くと小さく頷く自分が居た。

 「……後悔しない?」

 ほむらがその顎を小さく動かそうとする…。

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 この直後のことを語るのは無粋というものであろう。それは先延ばしにこそなったが、いずれ行なわれる愛の営み。

 まぁ、ただ一つ語るべきことがあるとすれば、この日のことで白石王がまた一晩悩んだり、親しい人に悩み相談をしたことぐらいか。

 人はそこに愛を見る。これはそんなよくある光景のある一例。ただ、それだけの話し。

  END

 ログを読み、どう考えてたのだろう?とほむらちゃんの思考AIを形作って行ったら、上記のような妄想バリバリの文章が出来てしまいました。スイマセン、スイマセン。

 どうか、お幸せになって下さい。 





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引渡し日:2008/2/28


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最終更新:2008年02月28日 13:07