小笠原学校 校内の一室
海が近く、優しい海風が開けた窓から涼やかに吹き込む。
窓際の席に二つの影が静かにたたずんでいる。
影になってるように見えるのは、外の強い太陽の日差しが二人を包んでいるからだ。
机の前には、椅子の背もたれに腕をかけて是空が座っている。
素子は机に腰を掛け、その淡い輪郭に手を添えている。
「平和だねぇ。」
「本当にそう思う?」
「外見上はね。この外見を本当にするために勉強会をしようと思って来てもらったんだ。」
綺麗に梳かされた髪が、首をかしげた時に首元にさらっと流れる。
どちらの外見の方がより素子さんなんだろう、と考えた事もあったかなと、ふと是空は思った。
そして、素子の話を促す仕草にふと思考を取られた。
「この美しさを見れば、戦争なんて起こらんと思うのが本音だけど……」
この景色か、それとも目の前にいる女性か。
いや、どちらも美しい。少なくとも、綺麗だと思えるものは早々ない。
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彼女に久しぶりに会った時は、どうなるかと思ったが。
それでも、どんな形であれ彼女が生きてくれている事を幸せに思える自分も、また変わったなと思った。
風はまだ、素子の髪を撫でている。
「見解、ね。そうね。長生きだけは、してきたから。少しくらいは為になるかもしれないわ。」
一瞬だけ見せた、彼女の物憂げな瞳を丸々認めながら、是空は嘘をついた。
「何の話からしようかな。色気は無いが大事な話は多い。」
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本当はもっと自分の話をしたい。
あの時看病をずっとしていたかった事、自分がイカや藩王になった事、宇宙に行った事。
本当はもっと素子の話をしたい。
チャイナ猫耳姿の素子、ウエディングドレス姿の素子、整備ツナギ姿の素子。
今の素子は全てを受け入れてくれるだろう。
しかし、今それをやるのは、ただ甘えているだけだ。
お互いに色々と抱え込んで考えすぎている部分はあるだろうが、是空は是空にしかなれない。
今はまだ、FEG藩王・是空である。
それに、素直にそれをやるには、まだ少しだけ、太陽が高かった。
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宇宙についてのお互いの見解を語るうちに、少し日が傾き始め、海風が騒ぎ出した。
風が小さな窓枠を通り抜けて、教室の中へと流れる。
机に腰掛けていた素子は、風に踊りそうになるスカートを、あわてて手で押さえた。
添えていたもう一方の手を今度は髪をかき上げる仕草で押さえる。
その仕草に見とれて、唇が動いたのは確認したが、音が聞き取れなかった。
「ん?」
微笑んだのは聞き取れなかったのもあったが、純粋に目の前の女性が可愛かったからだった。
彼女から返された微笑みは、寂しさを持っていたが。
それでも、丸ごと可愛かった。
(んんッ。イカンイカン。俺は藩王。今は藩王……)
そう思いつつ、乱れた素子の髪を手で撫ぜながら、話の続きをする。
しかし、話の終わりは近い。
日暮れは、もうすぐそこまで迫っていた。
青い空が紅くなり、また藍へと戻っていく。。。
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引渡し日:2007/
最終更新:2007年09月25日 18:48