SW-M@ビギナーズ王国様からのご依頼品


「ごめんね」
 その一言で、彼女は涙を流した。
 大丈夫、すぐに忘れられるから。
 そのまま視界から彼女は消える。
 それでいい。それで。


/*/


 その日、バロが凄い形相でやってきた。
「約束を守らん男は男じゃない。死ね」
「ちょっと待って。何の事?」
 バロの言っている意味が分からなかった。
 バロは眉間に皺を寄せるばかりで、説明はしてくれなかった。
「自分の胸に聞け」
「だから何の事?」
 そのままずっと押し問答をしていた。
 その時。バルクが来た。
「彼女が……」
 その瞬間。逃げようとした所を首根っこ掴まれた。
「彼女に謝れ」
「でも、僕にはここを離れられない理由が」
 バロは何も言わずに僕を縛り始めた。
「ちょっ、バロ!?」
「会えば分かる」
 そのまま僕は担がれた。


/*/


 そのまま門の前に投げ出されたら、彼女がいた。
「ば、バルクさん! 何も縛らなくてもーって、バロさんも!」
 バロはそのまま剣も一緒に投げた。
 彼女は慌ててそれを受け取る。
「いいぞ。煮たいなら鍋も用意させるが」
「い、いえいえいえいえいえ! そんな、滅相もない! 話が出来れば大丈夫ですー!」
 彼女はそう抗議しながら剣を鞘から抜いて僕を縛った縄を斬り始めた。
「ありがと。SW-Mさん。ひどいよバロ!」
「死ね。約束を破る男はいらん」
 バロは僕の抗議を全く無視して、彼女に笑いかけた。
「煮るなり焼くなり嫁にとるなり好きにしろ。帰りたいときはバルクを呼べ」
 そのまま行ってしまった。
 だから、約束って何?
 そのまま門番さんもバルクもどこかに行ってしまった。
 彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。


「あー……マイト、大丈夫?」
 彼女は僕の目線にかがんで言った。
「ひどいめにあった。寝ていたらこれだよ」
「ゴメン……私が話したいって言ったからだと思う。通してくれたらよかったのに」
「いや、もう、あの人たち、いつもああだから。好きだけど」
「へぇ、そうなんだ。楽しそうだね……大変そうだけど」
「うん。で、どうしたの?」
「うん、話したいことっていうか、聞きたいことと言いたいことがあって」
「どうぞ」
そのまま立ち上がった。
目線が合う。
「うん、じゃあ聞きたいことから。お見合いに来なかった理由を、マイトの口でちゃんと聞かせて」
「あ。それ知ってたんだ。うん。別の世界によばれてたんだけどね。断っちゃった。バロが凄く怒って困った。さっきの様子じゃ、まだ怒ってたけど」
 そう言うと、彼女がまたすごく悲しそうな顔をした。
 何でだろう。そう思った。
 世界移動存在は、世界を移動したら移動した世界から忘れられる。
 僕が今移動したら、彼女から記憶は消えてしまうのに。
「……お見合い、私が相手だったんだよ?」
 彼女がぽつりと言った。
 泣きたいのをこらえて。
「色々準備して待ってたのに……来ないから、心配したんだよ?」
「えー。ご、ごめん。でも、聞いてない。ほんと!」
 僕が慌てると、彼女は涙をこらえてこっちを見た。
「……せっかく、綺麗におめかししてさ、マイトのためにあれやこれや用意したのに……」
「ごめん」
 そのまま謝り通しだった。
 知らなかったから。
 彼女を泣かせるつもりなんてなかったから。
 ひとしきり謝ったら、その場を離れるつもりだった。
 けど、彼女が止めた。

「待って」
 彼女は僕の手を掴んでいた。
「記憶がなくならないようにしてくれて、ありがとう。本当にありがとう!それは心から感謝してる。だから、言いたいことというか、お見合いのときに本当は言おうと思ってたこと、言いたいんだ」
「いいよ。別に。ききたいとも思わないから。おなかすいてない? それより」
 彼女は首を横に振った。
「おなかはすいてないよ。聞きたくなくてもいいから、言わせて」
 何で彼女はそんな悲しい事を言うんだろう。
 そう思った。
 僕は、世界移動存在だから。
 世界を渡らないといけないから。
 ここで足を止めたら、いけないのに。
 結局彼女の中から僕は消えるのに。
「それを聞いたら、僕は。僕は貴方の前から消える。それでよければ、どうぞ」
「……それでも、自分の気持ちに嘘はつきたくない」
 彼女が息を吸った。
「だから、言うね」
 今の自分はどんな顔をしているだろうと思った。
 聞いても、どうしようもないのに。
 今は彼女の次の言葉が聞きたいと思った。
「私は……私はマイトのことが好き! 世界中の誰より、貴方のことが、……好きです」
「たぶん、知ってたよ」
 そう気付けば答えていた。
「え?」
「でも僕には、やらなきゃいけないことがある。気持ちにはこたえられない」
「……それでも、マイトが好きなんだ……っ!一緒にいることも許されないの?」
「……ごめんね。だから、近寄れないようにしてたんだけど。全部僕のミスだ」
「ううん、そんなことない。好きになったのは、私の意志だよ。マイトは悪くない」
 そのまま彼女と目が合った。
 彼女は泣いていた。
 気付けば、僕は手を取っていた。
「デートでもしない?」
 気付けばそんな言葉が零れていた。
「………でえと?」
「デート。僕が、僕の好きな人と」
 もう、これで本当に最後にしよう。
 彼女の為にも。
 そう思った。
 行き先は、公園。


/*/


 海が見えた。
 彼女といる景色。彼女のいる景色。
 この場面だけは、いつでも思い出せるようにと、目を大きく開いてこの景色を見た。
 彼女は、笑っている。
 そのまま彼女の方に寄り添った。
「ん? なに?」
「別に、ただこうしていたいだけ」
「ただ寄り添うだけ?もっとしたいことはないの?」
「僕は子供ですから」
「子どもならずっと抱きしめてたいとか思わない? 私は思うけど」
 僕は笑いながら彼女を抱き締めた。
 幸せだなと、そう思った。
「満足した?」
「んー………ずっとこのままいられたら満足するかも」
「もっとおしゃべりとか」
「そだねー……」
 彼女はしばらく海を見た後、こちらに振り返った。
「名前、呼んで欲しいかな」
「いいよ?」
 彼女が満面の顔で笑う。
「私の本当の名前はね、ミオって言うんだ。多分、名乗るのはこれが最初で最後」
 猫みたい。そう思った。
「ミオ? 好きだよ、ミオ」
 彼女は顔をくしゃくしゃにして笑った。
「……ありがとう、マイト。私も好きだよ」
「僕のほうが、ずっと好きだと思うけれど」
「比べたらキリがないよ。私もマイトのことすごく好きだもの」
 そのまま二人で笑った。


 ミオ。
 彼女の名前を呼んだ。
 ミオ。
 この名前だけは忘れないように。
 ミオ。
 繰り返し呼んだ。


「な、なんだか、くすぐったいな」
彼女は顔を赤くして笑った。
「そう?」
「うん。すごく嬉しいんだけど、こう、むずむずするというか、……恥ずかしいと言うか」
「名前くらいは、どんな風によんでもいいと思ったけど」
 今の自分の顔はどうなんだろうと思った。
 空が青い。
 でも、時期に日が暮れる。
「ごめんね」
そう言った。
「い、いや、いいんだよ! 私が慣れてないだけだから」
「もう、なれないだろうから。でもいいんだ。僕は満足した」
「……マイト?」
彼女の顔から笑顔が消えた。
「何?」
「満足したら、デートは終わり……かな?」
「えー。時間一杯まで遊ぼうよー」
「ううん、そういうことじゃなくて。これで、終わりなの?」
 今、僕は上手く笑えているかが分からない。
「何が?」
「こうやって、名前を呼んでもらうことも、名前を呼ぶことも、抱きしめることも、抱きしめられることも、今日だけなの?」
「僕は貴方の前から消える。そう、いったよね? ごめん……大好きだよ。ミオ」
「……うん。大好き、マイト。言われたけど……そうか、本当なんだ」
 もう、泣く顔なんか、見たくないのに。
 結局は僕は彼女を泣かしている。
 そのまま思わず抱き締めていた。
 これ以上、彼女の中に踏み込む事はいけないと分かっているのに。
 もうすぐ、お別れなのに。
「僕だけ幸せじゃダメなんだ」
 それだけ彼女に伝えた。
「私も幸せになれるよ? それでも、ダメなの?」
 僕は彼女に触れた。
 彼女の中で、僕の記憶が拡散していく。
「マイト? や、やめて! イヤだ!もう、マイトを忘れるのはイヤだ!」
 彼女の叫び声が聴こえる。



/*/


 どうか彼女が幸せでありますように。
 僕の事を全て忘れて、悲しまないように。
 幸せでありますように。




/*/


男のロマンや理想なぞ分かりませんが、女の世界より大事な人と一緒にいたいと言う気持ちは激しく共感しました。SW-Mさんが試練突破できたからこそ微笑ましいと思えるログでした。書かせていただきありがとうございます。



作品への一言コメント

感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です)

名前:
コメント:




引渡し日:2008/02/24


counter: -
yesterday: -

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年02月19日 19:21