あおひと@避け藩国様からの依頼より
或る猫のはなし。(小笠原ゲーム『いちゃらぶ日記 3~指輪~』より) ―蒼のあおひとさんに捧ぐ―
その日も、いい天気だった。
風がそよそよとひげをゆらす。
こんな日は誰か来るかもしれない。
私はこっそりあくびをした。
最近のお気に入りは、ちょっとぼろくて怪しい店の片隅で寝ることだったから、この日もそうしていた。
このお店には色々な人間が来るから、それを見るのがおもしろい。
予想通り、今日もまた一組のカップルが店に訪れた。
が。…なんというか、すごい。
けっこうたくさんの人間のカップルを見てきたが、ここまでピンクな空気…もとい、幸せなオーラの溢れるカップルもなかなかいない。
そのカップルは、どうやらこの店に指輪を買いに来たらしかった。
「一番高いのから三番目までの指輪を見せてください。私の格好で勝手に値段決めないでください」
なんせ、店に入ってきたときの男の第一声がそれだ。
どれだけ自分の恋人を猫かわいがりしているのか、私にだってわかる。
「た、忠孝さん…。もう…そんなに焦らなくても大丈夫ですよ?」
女性のほうはなんだか額に大きな汗が出ているような気もする。
まあ、普通は指輪を買いに来た店で恋人にそんなことを言われたら焦りもするだろうが。
私は興味深く、しかしあくまでさりげなさを装ってカップルの会話に耳を傾けた。
「一番高い指輪はこれですね。20万根源力です」
店主の言葉に、女性(こちらはあおひとというらしい)が固まっている。
「に、にじゅうまんこんげんりょく…」
「ではそれで」
忠孝と呼ばれた男はあっさりと言うが、あおひとが慌てて止めている。
「だ、だめです!」
「デザインが気に入りませんか?」
デザイン云々の問題ではなさそうなのだが、あおひとは別のものに話を移せたことに安堵しているらしい。
ほっとしながら別の指輪をさしている。
「はい…あの、こっちの方が好きなんですけれど……だめ、ですか?」
私がちらりと目を走らせる限り、どれも魔力のこもってる指輪ばかりだったが、きっとこの二人はあれを選ぶに違いないと思った。
真ん中にある、あの青い石のついた――
「あ、あの、じゃあ、これにしませんか?私達の名前の色の指輪ですし」
あおひとのさししめした指輪は、彼女らを待っていたかのように淡い輝きを放っている。
「それは瑠璃の光といいます」
「瑠璃の光、ですか」
瑠璃の光という名のその指輪には、召喚の力があると店主は言う。
召喚。
それは、愛しいものを己が側に呼び出す力。
例え、肉体は朽ちても心はあなたの側に。
そんな想いが伝わるような、その指輪。
「忠孝さん、私、この指輪がいいです」
にっこり笑ったあおひとからは、ずっと共にありたいという願いが感じられた。
「そうですね。私が死んだら、心だけでも呼んで下さい」
「忠孝さんも…私が死んだら、呼び出してくださいね。心だけでも」
視線を交し合って微笑む二人は、既に心の深いところでつながっているのだろう。
あおひとは店主に向き直ると改めて尋ねた。
「あの、ヨシフキンさん、これはおいくらでしょう?」
店主は何が嬉しいのか、微笑みながら答えた。
曰く、それぞれ5万根源力でいいらしい。
本当はもっと値の張るものだろうに、随分と気前がいいのはこの二人の絆が嬉しかったからなのかもしれない。
私には、よくわからないけれど。
そのカップルは、店主から包装された指輪を受け取ると店を出て行った。
幸せそうに笑う顔が印象的で、私にしては珍しくしっぽをふって見送ることにした。
いかんせん、互いのことしか目に入ってないカップルだったから、気がついているとは思えないけどね。
けど、一回だけ、忠孝の方がこちらをちらっと見て、あおひとの腰に回した手に力をこめていた。
そんなに見たって別にとらないよ。
だって私猫だもん。
私、知ってる。こういうのって『独占欲が強い』っていうんだよね。
まったく、猫にまで牽制かけるなんて、あおひとも幸せ者なのね。
私はそんなことを思いながら、またあくびをすると店の隅っこで丸くなった。
END
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最終更新:2008年01月16日 01:02