高神喜一郎@紅葉国様からのご依頼品



/*保護者たちの陰謀*/


/*その前*/

「お嬢様」
「却下」
「まだ何も!?」
「えー」
 アルバート・ヴィンセント・ログマンの言葉を聞いた途端、踵を返して遁走しかけた紅葉ルウシィは、ひどく面倒くさそうな顔をして渋々執事の方を振り返った。
 アルバートの眉尻がわずかに持ち上がる。目に隈。また夜遅くまでカジノかどこかに繰り出していたと見える。全く、何度注意すればいいのやら……。本人も、負けないことをいいことに全く反省の色がないようだし。困った物である。
 と、思わずいつもの苦言を放ちかけたところで、アルバートは現実に戻ってきた。
「それはともかくですね。今日のご旅行の事ですが……」
「予定は任せたって言ったよー?」
「はい。皆様にも声をおかけしましたし、招待状も届いている物かと存じます。ただ、一つ気になることがありまして、ですね」
「気になる?」
「はい」
「私は気にならないからいいやー」
「お嬢様」
「……わかった。そんな今にも自殺しそうな悲壮な目で見ないで。で、何があったの?」
「はぁ……」本当に聞く気あるんだろうかと疑りるアルバート。が、ここで口を閉ざしても良いことはない。仕方なく口を開いた。「実を言いますと、深浦まゆみ様の事なのですが……」
「まゆみちゃんがどうしたの?」
「少々遅れるかもしれない、と申されております。学校の方があると」
「ふぅん。わかったわかった」
「それと春賀様も」
「りょーかい」
「……お嬢様?」
「ちゃんと聞いてるわよ~。じゃ!」
 かけ去っていくルウシィ。のんびりほたほたと話を聞くのもそろそろ我慢の限界だった。八つ当たり先として選ばれた道場では、これより数分後、百人単位の犠牲者が血に伏すことになる。


/*その直前*/

「お、遅れました!」
 駆け抜ける人影、一つ。あまりに高速であるためか道行く人は突風が駆け抜けたようにしか感じることはできなかったであろう。ましてや、何が通り過ぎたかなど理解できようはずもない。もしもその正体が一人の少女だと言うことに気付いたならば、人はどのような反応をするだろうか。卒倒するか、あるいは己が心を守るために現実逃避に走るだろうか。
 ――そのくらい、非現実的な速度で走っている人物こそが深浦まゆみであった。
 まあはっきり言えば常人ではとらえきれない速度で、その突風は祭り会場へと向かっていく。このペースで行けば、約束の時間に充分間に合うと思われた。
「なんだ?」
 会場のすぐ近くにて、彼女の存在に気付いてしまった少年が、いなければ。
 誰あろう、傑吏である。非常識な状態ほどにその基本性能が上がっていく彼の一族のお家芸は、そろそろ姿さえ霞もうかという彼女の姿をはっきりととらえていた。
 そしてちょうどその瞬間、彼女に向けた視線と、彼女の向けた視線が、一致した。
 まゆみ、急ブレーキ。盛大に土煙を上げながら停止すると、傑吏にいそいそと駆け寄った。
「どうしたの? こんな時間に一人で」
「どうもしていない」
「も、もしかして迷子? 迷子なの?」心配そうな顔をするまゆみ。
「違う」迷惑そうに傑吏は言った。
「大丈夫、お姉さんがついてるから!」
「人の話を聞け!」
「そうだ、この先に友達がいるから、相談してみよう。うん。よし、行こう!」
「ええい、行こうではな――」
 次の瞬間、急な加速度にブラックアウトしかける傑吏。ぐらりと揺れた傑吏を見て、まゆみはあわてて速度を落とした。
 かくして、祭り会場に向かっていくと――。


/*突撃開始*/

「夜店ー」
 ルウシィがのほほんと言っているのを、尻目でアルバートは眺めている。他の方々も、ともかく集まってくださったようだ。こう、微妙に姿の見られない方々もおられるようだが、それはそれ、何らかの事情があるのでしょう。
 さて。傑吏様がなにやら遅れて来おられるようで……と、視線を持ち上げると、ちょうどやってくるところだった。
 彼はスーツ姿だった。首もときっちり、ネクタイまでつけた正装だ。む~む~が歓声を上げる。暑くないんでしょうか、と聞いてくる結城玲音は至極現実的だった。
 が、すぐさまその場にいた全員が首をかしげることになった。
 憮然とした顔の傑吏と手をつなぐ者が一人いる。深浦まゆみである。彼女はこちらに気付くと、きわめて真剣な表情をして近づいてきた。
「あらこっちにもカップルが」
 ご機嫌なルウシィ。何か言いたそうな口調で傑吏が睨んだ。が、まゆみがさらに引っ張ったので何も言えなかった。彼女はルウシィの前で立ち止まると、言った。
「このこ、迷子みたいです」
 ぶっ倒れる一同。無事だったのはにこにこ笑っているルウシィと鋼の自制心を持つアルバート、そしてなんだなんだと興味を持ち始めたバロだった。高神は痛そうに腹を押さえてバロに寄りかかっている。
 だれもつっこめない感じだったので、ルウシィが言った。
「えらくしっかりした迷子ねぇ」
 しかし本当のところを説明する気はないらしい。
「あ、あの人がお父さんかな?」まゆみはバロを指差す。
「……バロ、お父さんだそうですよ」高神がちらとバロを見る。
「それでもいいが」笑いながら答えるバロ。
「え」固まる高神。
「いや、利発そうな子だ。別に息子は何人いてもかまわん。愛せればな」
「断る」傑吏ははっきりしていた。
「じゃあお姉さんの子供になる?」ルウシィが火に油を注いだ。
 傑吏、ため息を吐いた。十歳くらい老け込んだように見える。
「じゃ、あれがお父さん?」
 まゆみが新たにタカツキを指差した。すぐさま走ってくるタカツキ。
「そんな歳じゃないから」
 笑顔である。笑顔であるが、微妙に慌てていたり、その反面で青筋立てていたりするのは何故だろう。とりあえず、アルバートは我が身の安全のためにも気のせいだとすることにした。
 が、そこでショックを受けているのがまゆみである。もう心当たり無し。さらにとどめとしてお父さんいないときいて、涙を流した。
「でもそれじゃあかわいそうじゃないですか!」
「かわいそうなのは貴方です」傑吏は冷静につっこむ。
「皆さんかわいそうなのですか、おいたわしい」
 わかっているのかいないのか、微妙な口調でアルバートは言った。バロはこらえきれずに爆笑している。まゆみは深刻そうな顔をしたあと、よし、と何か気合いを入れる感じで両手を持ち上げると、握り拳を胸の前に作って宣言した。
「わたしがお母さんになってあげる」
「やめてください」
「じゃあおねえさんで!」
「最後には怒りますよ」
 そう言って、ため息再びの傑吏。段々抵抗にも疲れてきたのか、そろそろ「もうそれでもいいんじゃないか」と思い始めていた。

 その油断が、全てを決めた。


/*そして祭りにて*/

 春賀が祭りにやってきたのはそれからしばらくしてからだった。一行はすでに店を行脚しており、何ともにぎわっていて、こう、微妙に入りづらかった。
「あ、春賀さんだ~」
 そんな心境をさくっと無視して挨拶してくる結城玲音。春賀はうん、良い人っているよなぁと重いながら中に入っていった。
 途中、アルバートの存在に気付く。いつもルウシィに小言をこぼす彼のご老体(実年齢はともかくなんとなくそんな雰囲気なのだ)は、にこにこ笑いながら近づいてきた。
「春賀さま、後ほど録画テープをお渡しいたします」
「はい、ありがとうございま――は?」
 ――録画テープ?
 なんじゃそら。なんでお祭りに録画テープ? お遊戯会にはあるまいし、とってもおもしろいところは何も――
「あー、おもしろいか。この人達の場合」
 うん。どこをとってもおもしろいだろう。ただ、それにしても、アルバートのこの微笑は何か不吉ではあるまいか?

 後日。
 事情を知った傑吏の陰謀により、春賀の命は録画テープのついでに蒸発寸前の憂き目を見る事になる。




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最終更新:2007年12月27日 21:31