はる@キノウツン藩国様からの依頼より
グリンガムの物語(小笠原ペア旅行ミニリゾートより) ―はるさんに捧ぐ―
彼は、風のように駆けていた。
空を飛ぶがごとく、それはもう一目散に。
なぜならば、それは。
彼の主人が自分を呼ぶ口笛を吹いたからなのである。
近くを歩いていたヒゲメガネも、その隣を歩いていた見覚えのある少女も気にせず、グリンガムはただひたすら走った。
呼ばれたのならばいかなくてはならない。
そして、彼は主人の姿を発見する。
「がう?」
「このパンはなんとっ、正真正銘、今日作られた焼きそばパン!しかも、シールが左右逆っ!」
主人の隣には、なぜか必死に裏焼きそばパンの説明をする少年。
しかもちょっとムーディー。(注:藩国内キャラ設定による)
すぐ横に彼が来たことには、まだ気づいていないらしい。
「そして真打ちはこのカツサン...うわぁ」
続けてカツサンドをとりだして顔をあげた少年――はると目が合った。
はるは驚きで一瞬凍り付いている。
「二兎を追うときは二手に分かれる。俺天才」
そんなはるを見て満足げに笑う源。
正確に言えばそんなことわざ聞いたこともないが、まあ源は満足そうなのでよしとしよう。
グリンガムはぱたり、と一度尾を振った。
彼はすでに己がすべきことを理解している。
「金城さーーん、源がまたセクハラしてるよーーー」
グリンガムから距離をとりながら、そう叫んだはるに、グリンガムはぴょんと飛びついた。
ぴょん、とか言っても5mの巨体である。
当然のごとくはるは地面に倒れこんでしまったが、グリンガムははるの顔をぺろぺろなめることができてまずご機嫌だ。
舐めても嫌がられないのは嬉しい。
はるに懐くのは楽しかった。
ちなみに、背後で起こっている主人の悲劇などは、グリンガムには関係ないことである。
「グリンガムー。源さんが餌のサンドイッチ持ってたよー。早く食べに行かないとー」
近くにいた少女――浅田にそう言われても、はるに懐くほうが楽しかったのでとりあえず却下。
「ほら、お前が全部くっちまえ。グリンガム。遠慮はいらないよ」
しかも、はるはグリンガムに食べ物までくれた。
食べる。
おいしい。
人でも動物でも雷電でも、おいしいものを食べればご機嫌になる。
これは万物の理。永遠の真理というやつだ。
その機嫌の命ずるままに、ものすごい勢いで尻尾を振った。
自分はこれだけご機嫌だ、という最大のアピール。あえて言うなら、はるに対する御礼のつもりだった。
「グリンガム! 源さんが危ない!」
突然叫ばれて、少し尻尾の速度を緩めるグリンガム。
念の為主人のほうを見ても、いつものように金城に成敗されているだけで、特にさしあたった危険は見られない。
ばしっ。
ところが、勢いよく振っていた尻尾が誰かに止められた。
不思議に思うが、ちょっとそっちを見て納得。
尻尾を振りすぎて、誰かを殴り殺してしまうところだったらしい。
「グリンガム、めーー」
はるにまで叱られた。
確かに危なかったので、しゅんとなるグリンガム。
まあ、反省してるならとはるはグリンガムをひとなでした。
鼻先を押し付けて、ごめんねのアピール。
グリンガム、もう焼きそばパンがもらえないかもしれないのはちょっと悲しいのである。
「わかったわかった。今度来たらまたやるから、そんなに落ち込むな」
「がう」
そんなグリンガムの内心がわかったのか、はるはそう言って笑ってくれた。
だからグリンガムは待つことにした。
はるがまた、焼きそばパンを持ってきてくれる日を。
小笠原の太陽は熱く、未だ夏真っ盛り――
END
引き渡し日:2007/
最終更新:2007年09月20日 18:54