瀬戸口まつり@ヲチ藩国様からのご依頼品



/*答え探し*/

 目の眩む、深い空。
 思わず目眩を感じそうな強い日差しに、小さくあくびを噛み殺す。
 しびれたような感覚が頭を襲う。ちょっとした寝不足、大丈夫、大丈夫。
「おっと」
 油断した。足が取られる。砂の上をずざっと削る左足、少し慌てて姿勢を調えた。
「ふう」
 それにしても、暑い。そりゃまあ、暑いところに来ているのだからそうなのだが。寝不足な頭にはちょっとこたえるものがある。
 ま、いいか。それくらい。
 軽く首を振ると、歩いていく。高之の視界には、もうまつりの姿が見えていた。

/*/

 今日は水着持参です。
 と、前日友人に意気込んでいた瀬戸口まつりであったが、
「…………」
 本日の装備、薄いピンクのパーカ。水着は濃いピンクのビキニ。
「…………えへへ」
 照れるまつり。海辺の木陰に達ながら、一人、顔を赤くして笑みを崩した。仕事上の彼女しか知らない人が見たら、驚くほど崩れた顔であった。
 どんな反応してくれるかとか、これで一緒に泳げるとか、泳ぐ以上の事とか……そういうことを考えるだけでどんどん表情が壊れていく。
「はっ」
 いけない。
 いやいけなくない。
 いやいけないような気がする。
 どっち?
 ぐるぐるしたあげく、結局考えは保留。
 結論がつく前に、高之の姿が見えたからだった。


/*/

 さて、暑い海辺にて。
 甘いカップルはいつだってどこだって人目を憚らずいちゃついている物ですが、人目がつかなくても、やっぱりいちゃついている物なのです。
 ただ少し、普段よりも、踏み込みそうになることもあるわけで。

 まつりが頬にキスをして抱きつくと、高之は微笑んでまつりを抱き寄せ、ひざの上にのせた。そのまま嬉しそうに笑いながら、胸に頭をのせるまつり。
「えへへ」
 他の人から見れば砂糖を吐くしかないような光景が広がっている。
 まったく正しいいちゃらぶの風景である。
「今日は水着もありますよ」
「いいな」高之は笑った。「拝ませてもらうかな」
 そして二人は立つと、水着に着替えた後で、海岸に出て行く。水の冷たさに少し驚く高之。それを見てまつりは、上着のパーカーを脱いだ後、そろそろと海に足を浸した。とても冷たい。ただ、暑いせいで、それがとても気持ちよかった。
「気持ちがいいな」
「浸かっちゃった方が冷たくないのかな」
「まあ、そりゃそうだが、暑さに強いんだな。おまえさん」
「ええ?」
 そんな事を話していると、そろそろ我慢が出来なくなってきたらしい。まつりはくすくす笑いながら高之に水を跳ねかけた。瀬戸口は笑いながらやり返す。小さく悲鳴を上げるまつり。
「やっぱり水が冷たいですよ」
「俺にだきついてもいいぞ」
 冗談っぽく笑って言う高之。まつりは流れるような動作で腕を回し、抱きついた。
「でもこれじゃ泳げないですよね」
 くすくすと笑いながら言って顔を見上げる。
 と、高之は意外そうな顔をしていた。
「あ」
 気付いたときには、高之に抱きしめられていた。これでもう、逃げない。
「う」
 自分が水着姿だとか、ここには人目がないとか、抱きしめてるとか、抱きしめてもらっているとか、いつもより肌がくっついているとか、いろいろ考える。耳まで真っ赤にするまつり。
「ほぼ裸で抱き合ってるな」
「言わないで」
 恥ずかしそうにうつむく。自分の頬が、高之の体にぴっとりと張り付く。さっき濡れたところだからか、少し冷たい。高之は小さく笑う。体の振動が伝わってきた。
 ……このまま、行くのかな?
 それなら……それで。
 うん。
 少し考えて。じっと顔を見上げた。

/*/

 あれ?
 と、高之は困惑していた。
 いつもならそこで照れてきそうなところで、抱きつかれてしまった。
 ――いや、その。
 勿論嬉しいのだけれど。
 ――ちょっと、照れるというか。
 いいの? というか。
 でも悩んでいる内に抱きしめ返していたあたり、自分の無意識に乾杯。真っ赤になって照れているまつりが、ひどく可愛かった。
「ほぼ裸で抱き合ってるな」
「言わないで」
 そのまま少し体を揺らしてくるまつり。動揺しているのだろうか?
 じっと様子を見る。さて、考えどころだぞ、自分。このまま行く? それとも退く?
 まつりが黙って見つめてくる。高之はそれを見ながら、内心で苦笑した。
 不安がられたかな。
「いじめすぎだな。悪かった」
 誤魔化すようにからかうような口調を作った。抱きしめていた手を放す。と、まつりは不満そうな表情。頬をふくらませた。
「むー」
 高之は本格的に苦笑した。むずかしいなぁ。どっちだったんだろう?
「……恋人と海に泳ぎにきて、自分は泳げない時って何すればいいのかな」
「泳ぎでも教えようか?」
 まあ、他にも出来ることはあるけれど、昨日の今日どころでなく、さっきの今でやるわけにもいかず。そしてそんな内心をおくびも見せずに、まつりの手を取って――
「えと」
 戸惑う彼女の手にキスする。
「――なにしてるの?」
「反応見てる」
「も、もう」
 それで完全に照れたらしい。顔を真っ赤にしたままそっぽを向き、しかし目だけはこちらを見たまま、
「海はやめる。上に戻って服着る」
 急いだ風に言って歩き出した。高之は笑って、その手を引いた。
「や、だって、水着じゃ抱きつけないし」しどろもどろで言い訳をするまつり。
「俺は裸に近いほう歓迎するが?」
 ああ。どうにも諦め切れてないらしい。悪戯っぽく見せて訪ねる高之。
 まつりは再びフリーズ。顔を赤くしたまま、油断すると湯気でも上げるとでも思っているような感じで、小さく口を開く。
「う」
 う?
「上着とってきてもいい?」
 ――ま、そうなるよな。
 高之は笑った。残念。ま、まあ。俺も急ぎすぎたかな、などと考える。その間にパーカーを羽織ってきて、また再び抱きついてくるまつり。ああ、なんだか、本格的に悪いことしたような気がしてきた。
 空を見る。眩しさに、目眩でも起こしそうな、深い空。
 勿論、そんなところには、問題も答えも書いていない。

/*/

 うー、と声にならない声を押さえ込む。
 恥ずかしさで死ねるというのはこう言うことなのか……。まつりはぐるんぐるんする頭をどうにかしようとしつつ、高之にぎゅっと抱きついた。勿論、逆効果である。
「……恥ずかしくなっただけです」
 言い訳する。だけど、
「悪かった。ごめんな」
 そうじゃなくて。
 ああもう。
 もどかしい。
 なんというか。
 あそこまでいったなら、そのまま、その。
 なんでそこで、なんでそこで止めるの!
 もうっ。
「ううん キスして」
 重ねるだけの、短い口づけ。それが離れると、すぐにキスを返す。またキスを返される。
「さて、昼飯でも食うか?」
「ん」
 むぅ。
 だから……もう。
 しかし、その先を言う事が出来るはずもなく。
 二人は食事に向かっていく。


/*/

 甘いログという物が、ある。
 生活ゲームのログの中で、ひたすらいちゃらぶが続いたゲームの、ログである。
 これもまた、その一風景。

 さあ、皆さん。
 砂糖を投げるといいのです。



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最終更新:2008年10月02日 14:31