夜國涼華@海法よけ藩国様からのご依頼品
恋はいつでも戦いです
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好きな人がいます。
かっこよくて、優しくて。でもどこかとぼけた所があって、もういっぱい驚かされてどきどきして……。
ともかく、それ位凄く好きな人。
でも、その人は突然船に乗って。私の前からいなくなってしまいました。小笠原からは遠い東京の学校に転校しちゃったんです、その人。
もう、会えなくなって1週間。
何をどうしようか、本気で悩んで。夜も眠れずその人の事で頭がいっぱいになっています。
もう、本当どうしよう。晋太郎さん………。
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ジリジリと、朝にもかかわらず照り付ける強い日差しに目を細めながら。涼華は学校に向かっていた。
目の下の隈はコンシーラーで誤魔化して(化粧うんぬんと風紀委員の人にとがめられたら「日焼けに弱いので濃く日焼け止め塗ったんです」とでも言っておこうか)。印象いい様に身だしなみもキチンと整え。
そうだ、待ってても仕方ない。欲しい物はねだるな、勝ち取れだ。
「会いたい…探さなきゃっ…晋太郎さんっ」
涼華は学校に着くと聞き込みを始めた。
晋太郎のクラスメイト・親しそうにしていた人………。
事前に清潔を心がけていたのと、自分と晋太郎の事は知ってる人には知られていたらしく。話を聞きに言った人達は皆快く話してくれた。
のはいいのだが、「東京の学校に行く、て聞いたよ」以上の情報は皆持っていなかった。つまり、肝心の転校先は誰も知らなかったのだ。
「詳しいことは判らないのですね…ありがとうございました」
捜査は早くも難航のようだ。
「さすがに、東京の学校をしらみつぶしは、厳しい…」
涼華はがるるるる…と唸りながら額の汗を拭った。
と、まだ1番知っていそうな人の所に行っていないのに気付いた。いや、本当にどうしようもなくなったら聞こうと思っていたのだが。もう、すぐに手詰まりとなってしまったのだ。いいや、聞いちゃおう。
開き直ると、晋太郎の弟・光太郎を探しに向かう事にした。
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「場所は判った…なら、今度は追い掛ける準備、しなきゃっ」
しかしなぁ………。
光太郎、そして光太郎と側で一緒に昼食をとっていた月子に礼を告げ、去ったはいいが。
涼華は少々微妙な顔になっていた。
「…うー、制服はあっち行かなきゃ売ってないよなぁ…」
ぶつぶつ呟きながら、光太郎から渡された紙を見た。
そこには晋太郎の転校先の住所が書かれていた。つまり光太郎でビンゴだったのだが。
如何せん、そこは新宿区にある有名な寮性の。
男子校だった。
それを聞いて涼華はとある花盛りな学校を思い浮かべたのだが、まあ置いておいて。
「ま、まあ何もしないよりはずっといい……よね?」
思い立ったが吉日。
という訳で、勢いで必要物資を調達する為、涼華はその足で商店街に向かった。
この通りはあまり来た事がなかったのだが、活気がいいらしく人の通りは激しくあちこちの店から威勢のいい呼び声が聞こえてきた。
「あまり来たことはないけど、活気あるなぁ」
呟きながらキョロキョロと涼華は店先を眺めながら、目ぼしいものを探した。女子という物買い物が好きな人種も多く、何か新商品はないか………と思ってはたと気付いた。
店先に並ぶ1週間分の新聞。小笠原は小さな島で本土とはやや距離が離れている為、本土からの情報伝達に多少遅れが生じるのも珍しくない。ではここに新聞が並んでいるという事は……。
「すご…荷物が来てるってことは船来てる!?」
それに気付いたのと同時に、直感。
その直感を信じ、涼華は1週間分の新聞を買うとそのまま駆け出した。
目的地は………。
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もしかして、もしかして………。
一縷の望みを胸に、涼華が新聞を抱えたまま走って行った場所は。船着場。
ぼ――――――
耳が痛くなる音が響く中、片手に鞄を持った青年が立って海を見ているのが見えた。
ビンゴ。
自分を褒めてやりたくなったが、まあそれは後でもできる。
「し、晋太郎さんっ!」
本当は胸にすがって泣きつきたいのをこらえて涼華は近づけるだけ駆け寄った。ちょっと目の辺りが熱くなっているが何とか堪えた。
晋太郎は声に振り返り、つい数日前と変わらない態度ですぐ前まで駆け寄った涼華に声をかけた。
「やあ、どうしたの?」
「だ、男子校じゃ、あたし追い掛けれないじゃないですかっ」
再会の挨拶はどこかちぐはぐだった。
きょとんとしながら晋太郎は再び言った。
「学校は?」
そして涼華は、勢いで授業を抜け出して学校を飛び出してしまった事にようやく気が付いた。
あーあ、こりゃ風紀委員に完璧睨まれた。
再び百面相をしだす涼華に不思議そうに、意味が分からないと晋太郎は首を傾げた。
「なにかあったの?」
「ごめんなさい…晋太郎さんを探したくて、勉強が身に入らなくて…」
つい、持っていた新聞で顔を隠してしまった。ヤバい、泣きそう。というか泣いたら顔に塗った色んなものが溶けるから。我慢我慢。
晋太郎はそんな涼華に微笑みながらまた話しかけた。
「1週間後に戻るっていってなかったっけ。荷物を持ち帰りに」
その言葉に、またちょっとだけ涼華は後悔した。
「ごめんなさい…聞いて、ないです…」
上手く声が出なく、消え入りそうなものになってしまった。
駄目。笑え、私。困らせたいわけじゃないの。ただ、一緒にいたいだけなのに………。
晋太郎は、また優しく言った。
「そっか、ごめんね。弟に教えてたつもりだけど」
勉強みにつくかなぁと小さく呟くのも聞こえ、穴掘って埋まりたくなったがやっぱり顔には出さなかった。というか、色々とこみ上げてくるものと戦っていた。
あー、こんな事なら光太郎さん所にもうちょっといたら聞けたかも。というか教えてくれればよかったのに。てか、光太郎さんどうして言ってくれなかったのー。
「側にいないと、晋太郎さんが側にいないと身につきませんー」
うわーん、ととうとう涼華は堰を切ったように泣いてしまい。涙が止まらなくなってしまった。
困らせたくない訳じゃないのに、ただ一緒にいたいだけなのに。
晋太郎は、涙を拭うべきか触れてやるべきか迷ったが。声をかけるだけに留めておいた。
今はまだ、早いと思う。
「学校まで送る。僕も書類提出しないといけないから」
鼻をぐしゅぐしゅ言わせながら涼華は返した。
「でも、また行ってしまわれるんですよね?」
涙が止まったのを確認して、晋太郎は笑って頷いた。
「うん」
涼華は涙を手でぬぐってからきっぱり言った。ちなみに手が肌色の何かで汚れたけどその手は握って誤魔化した。
「今度こそ行きます!追い掛けますっ!」
「男子校だよ?」
「っだって!待っているのは、嫌、ですっ!」
晋太郎は一瞬黙ってしまったのに、涼華はちょっと焦った。また困らせちゃったかな?
しかし、予想に反して帰ってきたのはイタズラっぽい表情と言葉だった。
「ついてくる?」
「はい!」
反射で帰ってきた言葉に、晋太郎は楽しそうに笑って。涼華は顔を赤らめた。
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あの時はもう、本当にいっぱいいっぱいで。
夏の暑さも海辺特有の強い潮の香りも。その時どんな感じだったのかとか思い出せないのが、後で考えたらちょっと勿体無かったかなーと思ってしまいます。私の国は森国ですし。
かっこ悪い所は見せたくなくって、困らせたくはないんだけどずっと一緒にいたくって。
振り回されて、主導権握ろうと無意識にもがいて。
恋は戦い、て最初に言ったのは誰でしょうか?
この後、私は晋太郎さんに宣言したとおり東京の男子校に潜入し、晋太郎さんに会う為に奮闘をするのですが。
それはまた、別の話です。
作品への一言コメント
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- 感想が遅くなりましたが、素敵なSSをありがとうございます!「思い立ったが吉日」は、まさにあたしを体言する言葉です(笑)。あの時のグルグルとか晋太郎さんへつながるヒントを探している自分が表現されていて、嬉しかったです。ありがとうございました! -- 夜國涼華@海法よけ藩国 (2009-02-27 22:46:19)
引渡し日:2009/06/13
最終更新:2009年06月13日 00:47