武田”大納言”義久@ゴロネコ藩国様からのご依頼品


 光


 夢に中、ふわりふわりと漂う。
 今、少女が漂っている夢は、たくさんの世界が交じり合う、そんな夢。
 でも、この世界には共通点があった。

「いい子だから…目覚めてはダメよ…」

 少女はそう呟くと優しく微笑んだ。美しい青髪をさらに美しく輝かせて。

 少女の眼下に広がる、混ざり合った世界には、かのものと呼ばれているものが深い眠りについていた。

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 その少女、名前を東原恵という。
 美しく輝く青い髪は、二つに分け、綺麗に束ねて捻って左右にわっかを作って結わいでいた。

 少し大きめのバスケットを持ち、鼻歌を歌いそうな機嫌でみんなの前を歩く恵。
 その後ろを男性3人と猫2匹が歩いていた。
 広がる野原。気持ちのいい風が吹き、恵の髪を少し揺らした。
 後ろから聞こえる「にゃーん」という声に、笑みもこぼれる。

 ほどよく歩いた頃、後ろから恵を呼ぶ声が聞こえた。

「恵さーん!、そろそろごはんにしませんかー!」
「はーい」

 自分を呼ぶ声に答えると、小走りで男性たちと猫たちの元へと近付いた。
 男性3名は現在、恵がいるゴロネコ藩国という国の人たちだ。ピクニックに誘われ、恵は快諾した。
 男性の一人はこの国の摂政を務めているYOTという。とても穏やかな瞳をしている人だと感じた。猫-ブータとハンニバルを見つめる目がことさらに優しくて安心する。
 アムという男性は里の子どもたちに忍術指南をしていると聞いた。そういえば、子供たちと楽しく修行している男性がいた、と思い出す。
 もう一人、バンダナをしている男性は武田”大納言”義久という。口が悪いとか冷たいとか、そんな話が恵の耳にも入ったことがあったが、本人に会うとそんなことはない、と感じた。

 敷物を敷き、弁当を広げる。
 ブータとハンニバル用のお皿を出すと、2匹は行儀良くお皿の前で待っていた。

「なーぅ」
「にゃーん」

 2匹の可愛らしさに、周りの猫好きはノックアウト寸前だった。

 3人と2匹が食事をしていたのは、とても大きな岩の側だった。
 かのものの遺跡だと、そう話した。
 自然と話題もかのもの達の話となっていく。

 恵は思った。
 人の心がこの声を聞いてくれれば、と。


 そうして穏やかな風が吹く野原で、4人と2匹は食事をし、歓談をして、解散することとなった。

 野原を立ち去る際。
 そっと自分の後ろを見る恵。
 大きな岩を見つめて、なにやら小さく呟いた。

「にゃう」
「ぐるぐる」
「はい、帰りましょうか、ね」

 ブータとハンニバルを連れ、恵はYOT達とその場を去ったのだった。

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 ブータはお気に入りのクッションでごろんちょしていた。
 ふくよかな身体をごろん、とさせて腹を見せてくつろいでいる。
 ハンニバルは椅子の上で顔を洗っていた。
 そのうち、毛繕いを始めていた。全身をくまなく舐めている。

「何か、きになるのだな」
「それほど…心配はしていません。彼らは学習しているのですから」

 ブータへ向けて答える恵は、どこ架空(くう)を見つめていた。

「夢はあくまで夢」

 今朝方、見た夢を思い出し、恵は呟く。

「導きは穏やかに、決めるのは彼らです」
「心だな」
「ええ。心ですね」

 ふと、椅子を見ると、ハンニバルは毛繕いを終え、身体を丸めて眠っていた。
 ブータもあくびをすると、お気に入りのクッションの上で丸まり眠りに意識を任せていた。

 規則正しい寝息が聞こえてきたのにほっとした恵は、今日YOT達からもらった手作りの勲章を、大切に部屋に飾った。
 そして恵はパジャマに着替えると、自室のベットへ潜り込む。

 今宵は何を夢見るか…

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 ふわりと身体が浮く。
 その感覚に、夢の中なのだと自覚する。

(無意識に、誰かの夢に迷い込んでしまったのかしら…)

 己が見ている夢ではないと気付き、早々に立ち去ろうとした。
 戦場以外での夢の侵害を極端に嫌い、自重する恵は無意識に誰かの夢に迷い込んだことに驚いていた。

(普段はこんなことないのに…)

 思ったより、疲れたのだろうか。
 普段訪れない、爽やかな野原をたくさん歩き、みなではしゃいだことが、気持ちいい疲労を呼んでいたことは気付いたいたが。
 疲労により、能力の箍を緩めてしまったのかもしれない。

(ごめんなさい、夢の持ち主さん)

 そう、心で呟く恵は、立ち去る間際、その夢の異変に気付いた。

(この夢、おかしい…!?)

 真っ暗闇。光の気配すらしない。
 あまりにおかしいこの夢から立ち去るのを延ばした恵は、探るようにこの夢の世界隅々へ意識を巡らせる。

(ごめんなさい。少しだけ…)

 強く謝ると、少しずつ、ゆっくり…ゆっくりと夢の奥へと探りを入れていった。
 そうして、夢に深く潜ろうとした瞬間、恵の足を無数の手の影が引っ張ってきた。

「!!????」

 いや、と叫ぶ声も出ない。
 誰の夢なのか。どんな夢なのかも判らないまま、恵は引きずられていく。

(なに!?この夢…誰なのっ…)

 広がる暗闇。救いの光が見えず、絶望を心が占めそうとしていた時。

 わずかに、恵の目の端の光が見えた。
 ほんの小さなとても細い光の道。

(この夢は…生まれる前の…悪意?)

 恵がそう感じた時、細く小さな光が幾筋も増え、そして闇が消えた。

 光の中、誰かの声が聞こえる。 

「………、…………ん…」

 真摯の聞こえるその声に、恵は答えなければ、と感じた。
 その声に答える前に、恵は消えた闇にそっと囁いた。

「おやすみなさい、悪意さん。あなたは出てくるべきではないから…」

 そう呟くを、恵は意識を浮上させた。

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「……ん、……さんっ!」
「にゃぁーー」

 ん、っと、その小さな身体が小さく震えた。

「恵さんっ!起きてください!!」
「なぁなぁ!!!」
「にゃふー!!」

「ん…ぅん…」

 詰めた息を静かに吐き、ゆっくり目覚めた恵の瞳に、枕際から肉休で恵の頬をつつき続けるブータ・ハンニバル
、それから恵を夢から引き戻した声の主-YOTが、心配そうに恵を覗き込んでいた。

「すみません、女性の家へ無断に入って…お許しください」
「いったい…」
「ブータニア卿が、私の元へ参られまして。とても急いでいらしたので…」
「それで…?」
「これは何かあったのだと。この家へ着きましたらハンニバル卿がしきりの恵さんを起こしていらいて。それで夢に捕らわれてしまったのかと…」

 YOTの様子にそれまでの焦りと、恵が目覚めたことへの安堵を読み取った恵はいかに自分が深く夢に捕らわれていたかに気付く。

「良かったです、目覚めて」
「ありがとうございます…心配かけましたね」

 しきりに頬を叩いていたブータとハンニバルの頭を撫でた恵。
 2匹は嬉しそうに喉をならしていた。

「いったいなにが…」

 心配そうに聞いてくるYOT。
 しかし恵もよく解っていなかった。

 ただ一つ。
 もがいた闇の中、射した一陣の光。
 あれが、あの夢の救いになったはず…

「もう、大丈夫です。光は射しましたから」

 穏やかに微笑む恵に、YOTは恵の戦いが終わったことを読み取った。

「貴方がご無事でしたら、何よりです」
「はい。ありがとうございます」

 そっと微笑むYOTに笑みを返す恵。

「お礼に、朝食を一緒にいかがですか?きっとこの子達も喜びます」
「にゃーん!」
「にゃん!」

 少し迷ったYOT。だが2匹にも促され、恵達と朝食をいただくことに決めた。


 今日もゴロネコ藩国に、穏やかな風が吹く一日が始まる。

【終わり】


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最終更新:2008年09月16日 22:35