瀬戸口まつり@ヲチ藩国様からのご依頼品


幸せのある風景 (小笠原ゲームログ『おとうさんは心配性』より) ―瀬戸口まつりさまに捧ぐ―

とても大切な家族のために、悩みながら浴衣を選んだ。
うんうんとうなりながら柄を選ぶその時間さえも、彼女にとっては、幸せの、時間。



「えへへー どうですか? 似合うのを選んだつもりだけど」

まつりがののみの帯を用意しながらにこにこと聞いた。
瀬戸口家の部屋のなかで、まつりがののみに浴衣の着付けをしている。


ことの始まりはついさきほど。
夜も更けて20時過ぎ、家族三人でご飯を食べ終わった後、まつりが満面の笑みでののみと高之に告げたのだ。

『実は、浴衣を縫ったんです。よければ、着てもらえませんか?』

そう言ったまつりに、ののみは「うわぁ!」と天使のような愛らしい笑顔を見せ、高之は「ああ、もちろん」と幸せそうな笑みを浮かべた。
まつりが、ののみと高之という二人の家族のためにたくさんのことをしようとしてくれているのは、二人自身もよくわかっていたし、そんなまつりの笑顔を見ていると幸せになれるのは彼ら家族の特権でもあった。

『じゃあ、部屋に置いてあるのでとってきますね。待っててください』

まつりがそう言って部屋へ消えた後、ののみはにこっと笑って高之を見上げた。

『たかちゃん、たかちゃん。うれしいね』
『ああ、そうだな』

そんな会話が交わされているなど露知らず、浴衣をとってきたまつりは何やら視線を交わして微笑みあっている旦那と娘の姿を見つけたのであった。



「もうできた?」
「あと帯を結ぶからちょっと後ろむいてね」

まつりがぎゅーっと帯を締めると、ののみは息まで止めて体をこわばらせていた。

「はい! 息苦しくない?」
「もうできた?」
「できたよー」
「うごいていい?」

どうやら、着付けの間は動いてはいけないものだと思っていたらしい。
まつりはにっこりと微笑んでOKを出した。

「わーい」

ののみもその言葉ににっこり笑って、ぱたぱたと鏡の前まで駆けていった。
普段と違う格好は、誰だってわくわくしてしまうものである。
ののみは、とても嬉しそうな顔で鏡に姿を映していた。

「似合ってる! ね」

まつりの言葉に、いっそう笑顔を深くする。

「まあまあだな」
「えー?」

後ろから聞こえてきた旦那の声に、思わず不満の声をあげてしまった。

「いや、え?」
「まあまあってなんで?」

ののちゃんはこんなにかわいいのに!
という言葉を飲み込んで、視線でうったえる。
高之はああ、とまつりの不満を察して言葉を続けた。

「絶賛してもいいが、そいつは花嫁衣装の時までとっておこうかと」
「ああ… 出し惜しみしなくても」

気持ちはわからなくもないが、高之の場合はきっとその時になれば何もいえなくなるか、とっておきの言葉を見つけるか二つに一つのような気がする。

「かわいいぞ、ののみ」
「うんっ」

まつりに言われた次の瞬間、あっさりそういう高之にまつりは少しだけ笑った。

「さ」

まつりも立ち上がってののみといっしょに鏡に姿を映した。

「まあまあだな」
「また、まあまあなの?」

先ほどと同じ台詞が出て、やや呆れ顔で高之のことを振り返る。

「お前はかわいいぞ?」

しかし、目があった瞬間さらりとそう言われてまつりは思わず黙り込んだ。
ののちゃんのための言葉はとっておくのに…
という、心中複雑な思いゆえに、である。
何もいえないでいると高之が不思議そうにまつりのほうを見ていた。

「いいえ。なんでも」

なんでもない風に言ったつもりだったが、拗ねていたのがバレバレだったのだろう。
高之は企みが成功したというように満足げに笑っていった。

「からかっただけだ」
「もー」

この人は、と思いながらまつりも一緒になって笑う。
やっぱり家族で過ごすのは幸せだと実感するのはこういうときだ。

「一緒にいてくれて、ありがとう」

まつりのその言葉は心から出たものだ。
二人もそう思ってくれていると、返ってきた笑顔が証明している。
こうして、夏の夜は賑やかに過ぎていった――





おまけ

浴衣をきたまま、3人は縁側でえだまめを食べながらいろいろなことを話していた。
庭に何を植えようか、去年の夏祭りは今だから笑えるね、など…。
あーでもないこーでもないと話しながら、ふと、まつりは気になったことがあった。

「--ねえ? ののちゃん学校は?」
「? いってないよ?」

高之曰く、宰相が個人教師で勉強を教えてくれてはいるが、学校には通っていないということだった。
しかし、ののみ自身のためを思えば、同年代の友だちもいたほうがきっといいだろう。
それは高之も認めるところであるのだが。

「俺がこわいだけだな」
「はっきりした懸念材料がある?」

高之は首を横に振った。
とにかく高之はののみのことが心配で仕方ないらしい。

「学校に行くか?」
「うんっ」

ののみ自身は学校に行けると知ってとても嬉しそうだ。
だが、高之は……

「緊張してきた。学校大丈夫かー」

この男、ののみが学校に行くときはついていく気満々である。
一歩間違えれば自分が不審者になりかねないのだが、そこは密会技能3を駆使してきっとばれないようにするのだろう。

「新しい友達楽しみだね」
「うんっ」

母娘はとても前向きに考えているというのに、その横で高之はため息をついていた。

「うう」

そのあまりにも情けない(?)様子に、まつりは思った。

(そのうちボーイフレンド連れてきたらどうするつもりなんだろ…)

高之自身もその可能性に思い当たったらしい。

「そのうちボーイフレンドでてきたら、おれどうなる」
「どうもなりませんよ」

間髪いれず妻からツッコミが入る。
おとうさんはどこまでも心配性なのであった。


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引渡し日:2008/09/12


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最終更新:2008年09月12日 20:18