銀内 ユウ@鍋の国様からのご依頼品


/*降参確信*/

「……大勢の人を助けるために一人を不幸のドン底に陥れるのが優斗くんのやることじゃないと思うよ」
 ああ、きっとそういうと思っていた。
「具体的には自分の事だけど」
 ただ。そう続けるのは少しだけ意外だった。
 だから、続けようと思っていた言葉を反射的に続けた後で、少しだけ、気分が重たくなった。
「じゃあ、不幸になってください」

 だからまあ。
 別に、罪滅ぼしというわけじゃないけれど。
 こう言ってしまった分くらいはお返しをしないと、据わりが悪いと思うのだ。

/*/

「あ。もしかしてこれってデート?」
「違います」
 きぱっと言い切る銀の腕の優斗。ロンはあれーと首をかしげた後、とりあえず、がっかりした。うなだれる。
 三月一日―――の、午前零時五分である。二人は夜の森を歩いていた。
 ちなみに、ロンが無理言って(大変治安が悪いにもかかわらず)優斗とでデートを決行しようとしたのは、この数時間前のことである。ちなみにそのデートは、プレゼントを渡した直後デート会場である玄霧藩国にセプテントリオンのI=Dが出てきてご破算になっている。
 こう書くとセプテントリオンが二人のデートを止めるためにやってきたようなすさまじい展開に見えるが、そうではない。彼らがやってきたのはまったく別件である。詳述は避けるが、ありていに言って、この時期のNWはPL達がよく知っているように不穏な状況だったので、ある。
 さて、その一件から数時間後。文字通り落着した(某所の結婚式に冒険艦が落下してきたりいろいろあたりして解決した)後が、今回の舞台である。

 銀の腕の優斗は、なんというか、この人といるとうまくいかないよなぁと内心で思っていた。
 夜の玄霧藩国は、常ならば森国らしい静けさの中、夜行性の虫の音や鳥の声、空を覆うかのごとき枝葉の天蓋が風にくしけずられるざらざらという音に満ちているはずであった。しかし、今日に限っては、その国の一部は常とは異なる様相を示している。月と星明かりの他に地を白く照らし出すのは無数のライトと炎の跡。折れた木々が横倒しになり、森の真ん中が一カ所、ぽっかりと穴を開けているようだった。
 戦場となった場所から少し離れるようにして、優斗とロンは歩いている。ロンの方が半歩前で、手をつないで優斗を先導していた。ゲーム中ロン自身が言っていたように夜目がきくためだった。
 ちなみにロンというのはPL名である。PC名は龍鍋ユウという。しかしどうしたことか、優斗は「ロンさん」と彼女の事を呼んでいた。
 それにしても、と思う。静か、というには若干騒がしいところのある夜の森を散歩しながら、優斗は少し嫌な気分になった。
 別に問題があったわけではない。
 むしろ、結果はこの上ない大成功と言える。
 だが気分は晴れない。自分は昔よりも難しく考えすぎている、と思う。結果良ければ全てよしじゃないか。いやまて。それは岩崎さんの言い分だったか?
 悩みの種は、先ほどの襲撃事件だった。セプテントリオンが迫ってきたとき、自分は死ぬ気だった。勿論できる限りは生きるためにあがくつもりだったが――
 それでも。生き残ることを大前提とは、していなかった。
 それをどうにかして止めようとしたのがロンである。そしてその結果、ぎりぎりのタイミングで間に合った銀色のRBや、手配していた希望号に助けられたのだ。そしてあれこれしているうちに事態は解決に向かっている。
 うまくいった。そう、結果を見れば大成功と言ってもいい。
 ――でも、少し、納得いかないところが残っているのも確かであり。
「ロンさん。まじめな話があるんです」
「はい」
 不意に立ち止まる。半歩前を進んでいたロンは、さらに半歩前に進んだ後、後ろから引っ張られるようにして振り返った。まじめな顔の優斗を見て、思わず姿勢を正すロン。
「なんであんな無茶をしたんですか?」
 えーという顔をするロン。
「優斗君。無茶はむしろ優斗君の方だと思う」
「僕はいいんです。最初からそのつもりでしたし。でもあなたは逃げられたでしょう? ログアウトもできた」
「そう言うと思った。けどね、絶対そんな故都するつもり無かった」
「何でです?」
「デート中だったから」
 優斗、にっこり笑うと背を向けた。歩き出す。
「待ってごめん。いやでもそれもあるんだけど、本当はそれだけじゃないの」
「人が真剣なときに茶化さないでください」
「……本音なんだけど」
「………………」
「………………」
「………………照れるでしょう。続きはなんですか」優斗、立ち止まって振り返った。
「あ、うん」慌てて頷くロン。「手も握ったし。チョコ、喜んでもらえたし。優斗君のこと……好きだし。だから死なれたくなかった」
「自分のことはどうするつもりだったんですか」
「優斗君こそ」
「だから僕は……」
「好きな人を残していきたくない」
 きっぱりと言われて、優斗は口を閉ざした。

 まるで、それで全ての理由になるというような口調。
 まるで、それ以外には理由はないというような態度。

 じゃあ、不幸になってください。そう言った事を覚えている。
 はじめから言うつもりだった言葉だったけれど。
 どういう人に、どんなことを言ってしまったか知ってしまったから後悔した。

「僕だって、好きな人に死なれたくありません」
 だから、強引にログアウトさせたこともあるし。今日だって引き離そうとした。
 ああだが。
 本当にそれをする気だったのなら、どうしてまた会おうとしてしまったのだろう?
 なんとなく、岩崎の声が聞こえてくる。君はもう少し素直になったがいいねぇ。表情まではっきりと想像できた。
「わかりました。約束です」優斗は降参、とでも言うように手を肩まで持ち上げてひらひらと振った。「もう勝手な事はしませんから、そっちも無茶はやめてください」
「……あー。その。ごめん。それは約束できない」
「え、ちょ。なんでですか?」
「うん。その、優斗君の事が心配になったら、無茶くらいしそう」
 そういった後、恥ずかしくなったのか、ロンはちょっと照れた。顔を赤くしてうつむく。
 優斗の頭をよぎっていく二つの考え。
 ――これは喜ぶべき何だろうなぁ。そういう思いつつも、
「ど、努力するから。だめ?」
「じっと顔を見ないでください。わかりましたから」
 優斗は、これは負けた、と思った。


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引渡し日:2008/08/04


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最終更新:2008年08月04日 01:46