小笠原の夏祭りは事件が起こることで有名である。
(いや、本当かは知らないが)
兎にも角にも、なぜかアイドレスプレイヤーが行くと事件が起こる。
(起こすと言った方が正しいが)
それがACE10人を同伴するとなれば尚更である。
今回も結局は旅館ぶち壊しと言う惨事を招くことになった。
が、祭りそのものそれほど問題が起こらなかった。奇跡といってもいい。
その後旅館ぶち壊しになるとは思いもよらないほど、純粋に祭りを楽しんでいたのだ。
今回の話は、そんな奇跡の一コマである。


『乙女のチッスを求めて~射的にかけたマイル 青森編~』


「青森さーん、どこですかー?」
出店の間を声を上げながら通る人影が一つ。
その時リゾートに行っていた中の一人、扇りんくだ。
お祭り会場に着いたときにはいなくなっていた青森を探している最中である。
「あおもりさーん、あおもりさん~? 迷子の青森さんどこですか~?」
左右を見渡し、声を上げながら会場を歩き回る。
けなげなその姿には出店のおっちゃんたちもちょっと涙をそそられたと言う噂である。
が、青森の姿はない。
何もこんなところで隠匿しなくてもーと半泣きになるりんく
しかもその時皆が射的に挑戦するということになり集合がかけられた。
りんくも青森さんがいないー、としゅんとしながら射的屋に近づくことにした。

「まずいな」
「あ、青森さん!!」
唐突に放蕩青森が登場した。何の脈絡もないのは言うまでも無い。
更に言えば射的に挑戦しようとするところへの不吉な一言である。迷惑この上ない。
そんなことは考えず、ただりんくはほっと胸をなでおろした。青森がいてよかったとただ思ったのだ。
そして頭に?を浮かべる。
「って、何がまずいんですか?」
いつの間に出てきたのとも聞きたかったが、はぐらかされると思ってやめた。
流石に青森との付き合いが長いベテランである。
「いや、俺の出番がないうちにこんな面白いことをされちゃまずい」
こけるりんく。
対する青森は大真面目だ。うんうんと頷いて、更に言えばと続ける青森
「俺の出番がもっと減る、まずいことこの上ない」
「ええ、その通りです。私を差し置いて娯楽を消費するなどナンセンス!」
「え?あひゃあ!」
突然の乱入者の声にりんくは大きく飛び上がった。
岩田が蛇のようにぬるりと足元から現れた。手にはちゃっかりといくつかの戦利品―――足袋が握られている。
クククと怪しく笑うと、聞いちゃいないのにクネクネと解説を始めた。
「こんなにもソックスを集めたというのに、誰も注目してくれない……ああ!何と言う悲劇!
 こういうときこそツッコミが、相方が必要だというのに!皆して娯楽に走るなんて!
 ああ!ここに娯楽生成まっすぃーんイワッチがふぅっ!!」

突然、無言で青森が銃を撃った。微声拳銃だ。
「え?」
ビックリするりんく。ノォォウ!と笑って岩田が果てた。無駄に血糊が豪華なのは言うまでも無い。
拳銃をしまう青森。岩田の手から一足奪い取り、
「ほれ」
りんくにそれを投げてよこした。慌てて足元を確認するりんく。
いつの間にか足袋が脱げていた。
「あ、ありがとうございます」
「気をつけるんだぞ。一流の変態は技も一流だからな」
それは青森さんのことでは、と言いかけて止めた。
なぜかといえばそれは当然のことだからである。

閑話休題

ともかく、皆集まって射的を開始した。
まずは吉田が吉田の声援を受けつつ、レバーを下げてコルクをつける。
娯楽5マイルと引き換えの3発。重さは計り知れない。
しかし、そこに乙女のキスがあるから、浅田は撃った。
3発のコルクを撃つ、撃つ、撃つ。
ハズレ、ハズレ、ハズレ→orz
「あぁ……」
肩を落とす浅田。その方を吉田が叩いた。
「また、挑戦しようね」
「……うん。またいっしょにきて、いっしょにやろう!」
浅田が笑顔に戻った。吉田も嬉しそうに笑う。
美しい青春の1ページがここに刻まれた。

一方。
大人気ない大人が動こうとしていた。
「親父」
青春を見たなーと嬉しそうな店の親父が振り返る。
「俺もだ」
青森であった。
その目を見た高原鋼一郎は後にこう語っている。
『あの旦那の目はマジでしたね。ええ、狙ってましたよ』
周囲の人間たちも固唾を飲んだ。あの青森が、射的をする!
「青森さん、やるんですか?」
りんくも期待に胸膨らませて注目する。擬音が『わくわく』なのは言うまでも無い。
先ほど外した浅田も、青森の姿を見て声援を送る。
「青森さん、がんばって!」
分かっているさとニヤリと笑うと、狙いを定める。
戦場と見間違うほどの集中の後、青森が引き金を引いた。

パチン

コルクはまっすぐ乙女のキスに向かい、直前で落ちた。
漏れるため息。惜しい!戸の声が上がった。
撃った青森も実銃との違いに戸惑っているようだが、すぐに気持ちを切り替える。
「すこーし、ずれてるな」
僅かに銃口を修正し、そして静止。
再び引き金を引く

パチッ

が、今度は大ハズレ。はるか彼方を通り過ぎて行った。
流石に落胆の色を隠せない周囲。
が、りんくだけは声援を送っていた。
「あ、青森さん、がんばってくださ~い!」
青森はそれに片手を上げて答える。
「なに、片目をつぶれば……」
あとは、行動で答えてやる、そう思って。
「どん」

ハズレた





「今日は日が悪い」
青森がしばらく黙ったあとに言ったセリフである。大人気ないことこの上ない。
まぁ、射的に慣れてないだけだと思われるがその辺は誰も口にしなかった。
射的の基本は台から手を伸ばして、銃口を近づけて片手撃ちである。
普通に構えて撃ったんじゃあたりっこない。それが射的である。
あとは野次でも飛ばすことにするかーと更に大人気ないことを考える青森。
その頬に何か熱いものが触れた。
「ん?」
「はい、どうぞ」
りんくがたこ焼きを持ってきていた。
「残念賞です」
「ん、あんがとさん」
受け取りながら、ふとふがいない自分に気付いた。
女性に励まされて気付くとは遅すぎである。
「悪いなじょうちゃん」
たこ焼きに手をつける前に、詫びは入れなきゃいかんなと思っての言葉である。
期待させてしまったという実感はあるらしい。
対するりんくは何故かご満悦である。青森が謝ってくれたというのが嬉しいらしい。
そこにやさぐれるダメ大人青森は気付いてはいないが。
はっとして、気付かれなくてよかったと慌てて顔を戻すりんく。咳払い一つ。
「ほら、みんなの応援はできるんですから、行きましょう!」
青森の手を引っ張るりんく。
引っ張られながら、野次も応援になるんかなーと思う青森。
とことん天邪鬼なオヤジであった。


結局、乙女のキスを当てたのは5人目の猫野和錆。
消費した娯楽20万t。
しかもパチモンであったというオチ付であったとさ。


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最終更新:2007年09月25日 21:04