ミーア@愛鳴之藩国さんからのご依頼品



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 空色の大海。柔らかな春風が流れる青空を、バルクは鳥となって舞い泳ぐ。
 旅行社からの連絡を受け、どれぐらいの時間と距離をこうして飛んできただろうか。もっとも、魔法で移動してもよかったのだが、これは単なる気まぐれだ。彼女に話す話題がひとつ増えると思えば、その無駄もまた心地よい。
 風に舞い上げられた無数の桃色の花びらが、美しいヴェールのように周囲を包み込む。
 ここは天領、四季の園のうちでもっとも鮮やかな場所、春の園。その上空だ。見下ろせば遥かな足元に、無数のブライトトーンで彩られた園が見える。
 鳥目が、桜並木の中で花びらのシャワーを浴びながら佇む、彼女を見つけた。翼をはためかせ、揚力を得ながら空のキャンパスに大きな弧を描きながらターン。上空を旋回しながら、少しずつ地面へ近づいていく。そのうちに彼女がそれを見つけたようだ。何かを叫びながら手をぶんぶんと振っている。

 ……少し、困らせてみましょうか。

 彼女のその様子を見ていると何故か湧き上がってくる悪戯心を抑えきれず、翼を力強くはためかせ、真っ直ぐに彼女の元へと向けていた軌道を切り替え、明後日の方向へと改める。……まるで子供だ。
 予想がはずれ、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている彼女を傍目に、桜並木に身を隠しながら、こっそりと園へ降り立ち、鳥の姿を解く。
 桜色の空間に、漆黒の人影が浮かび上がった。自分の格好はこの場所とはあまり合わないかもしれないな。そう思いながら気配を殺し、未だ空を見上げている彼女の元へと歩み寄る。幸いなことに人は居ない。姿を見られて何らかの反応を起こされ、それによって彼女が気づくこともなさそうだ。

「あれ? ちがったかな?」

 不安げな彼女の声。そこがバルクの限界だった。
 噴出しこそしなかったが、出来うる限りの笑顔を浮かべ、彼女の背後にそっと立つ。

「なにが、でしょう」

 そっと、囁くような声で語り掛ける。びくん、と彼女の肩が震えた。衣服とその、今すぐ撫でてやりたいほど愛おしい髪を柔らかな風に靡かせながら、ばっと振り返る。

「あ、バルク様!」

 いつの間にか自分の背後に立っていたバルクを見つけると、彼女は一瞬の迷いもなくその胸へ飛び込んだ。
 それを受け止めながら、勢いを殺すためにバルクは桜の花びらの舞う中で1回転、2回転……。勢いをいなしきると、彼女の足をすとん、と地面に降ろし、思わず微笑を浮かべた。
 綺麗な、太陽のような笑顔だ。以前のバルクが見れば、間違いなく驚くであろう、そんな表情で、彼は自分の胸の中に居る彼女へ視線を降ろす。

「なんだか久しぶりな反応ですね」
「……ずっと会いたかったんです。ずっと」

 上目遣いにそう言うと、彼女はバルクの胸へと顔を埋める。抱きしめる腕から、彼女の身体がわずかに震えているのがわかった。
 心配されるというのは悪くないが、それではどうしようもないな。バルクは苦笑しながら彼女の髪に触れ、語りかける。

「いつでも逢えますよ。私の名前を呼べば」

 こんなことしか言えないでいる自分を恨みながら、彼は彼女の髪の感触を、香りを自分の身体に刻み付けるように優しく撫でた。

「そんなこと言うと毎日呼びますよ?」

 ぱあっと、輝くような笑顔で彼女がバルクを見上げる。その目じりには涙の痕が見える。
 バルクは、どこか嬉しそうに微笑むと、そっと顔を彼女へ近づける。

「それは楽しそうですね」

 耳元で囁くように語りかけると、彼は涙の痕へ、そっと口付けた。

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引渡し日:2008/07/02


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最終更新:2008年07月02日 13:08