~このSSは全くもってフィクションです。実際のPCPL並びにACEユニットとは全く関係がありません~

『HOT!ほっと、小笠原』

小笠原の民宿では夜にも関わらず、金槌と鋸の音が木霊している。
高原鋼一郎と那限逢真・三影がグリンガムに破壊された壁の修繕をすべく、材料を切ったり打ち付けたりしているのであった。
ちなみに男湯の脱衣場には源とVZAがぼこぼこにされて縛り付けられていた。首には『私は破廉恥な男です』と書かれた板がぶら下がっている。
「よし、頑張れ」
手を吊ったはるがどこからか借りてきたパイプ椅子に腰掛けて指示を出す。
源たちを止めようとしてエミリオの式神によるとばっちりを受けたのだった。修理を手伝えないので源たちの見張りをしているのである。
ちなみに青森も脱衣場で気絶したまま転がされている。顔にかぶせられた白いタオルと微妙な位置におかれた桶はせめてもの情けであった。
「しかし派手に壊れたな」
「明日までに直せるのかこれ…」
かんかんかん、と2寸の釘を3度で叩き込むと次の材料を鋸で切りにかかる。従業員に「明日までに直さないと請求書を国に回すぞゴルァ」と言われたのであった。
グリンガムがくあ、と欠伸をしていた。

その頃女性陣は内湯の方で再度入浴している最中であった。
外から戻ってきたスイトピーもいたのでもう一度汗を流そう、と言う事になったのである。
と、扇りんくと浅田、吉田遥が浴衣姿で脱衣場から出てくる。先に上がったようだ。
「…でも本当、何考えてるんでしょうあの男共は」
「最低」
「え、えー。うーん」
言葉を濁すりんく。先ほどの露天風呂でのことを思い出しているのか、顔に手を当てて赤面している。
その様子を見た浅田と吉田、ため息をついて先に広間へと歩いていく。
りんくはその後に上がってきた月子と双海環に声をかけられるまで、その場で何事かぶつぶつ言ってたらしい…

猫野和錆はいそいそと女性陣の食事の用意をしていた。調理場からお膳を持ってくると広間に並べていく。
「あれか、飲み物を注ぐ時に月子に話しかけるんだにゃ」
がちゃーんという音と共に猫野はすっころんだ。
「…判り易すぎて何といっていいやら困るにゃ」
猫がぽつりと呟く。

夜の小笠原に男の叫びが木霊する。
「ソーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーックス!」
樹と樹の間に張られた靴下に警備仕様のアメショーが足を取られる。
がくり、と膝をついたアメショーに二つの影が張り付いた。
一方の影が手にした超合金靴下を振るうとアメショーのキャノピーが物凄い音を立てて吹っ飛ぶ。
もう一方の影が手にした靴下を次々に顔面に当てると操縦手たちは台詞を言う暇すらも与えられずに昏倒した。
「…これが伝説の一年靴下…恐ろしい…恐ろしすぎる…」
機内に乗り込んだ影-玄霧藩国藩王、玄霧は身を震わせた。自らの所業にではない、靴下に身を悶えさせたのである。
「フフフ、靴下を征するものは世界を征す」
超合金靴下を手早く胸元にしまうと、岩田裕はポーズを取った。慌てて玄霧もポーズを取る。
「ついていきますイワッチ、いやバット」
靴下に命を懸けた男達は笑いあい、再び元来た方向へと走り出すのであった。

エミリオ・スタンベルクは内湯の前で仁王立ちになっていた。犯罪を許すわけには行かないと、見張りを買って出たのである。
気高い精神であった。万が一にも自分が見てはいけないと見張りなのに目隠しをしてる辺りが子供であった。
万が一にも何か聞こえてはいけないと耳を手で塞いでるあたりも子供であった。

かんかんかん、ぎこぎこぎこ、とんてんかんとんてんかんちゅいーんちゅいーんぎしぎしみしみし
「んー、大分何とかなってきましたな」
「そうだな。何とか明日までには」
一息つこうとした那限が振り向くと、何故かはるが猿轡を噛まされた挙句縛り上げられている。
「うお、さっきから静かだと思ったら!」
「あー!源とVZAがいない!」
脱衣所には二人分の板を下げられたグリンガムと相変わらず倒れている青森しかいない。
「…懲りないやっちゃな」
「駄目だ、脱衣所の扉に鍵が掛けられてる!」
「どうする、ぶち破りますか?」
「それでまた俺たちが直すと…」
うーん、と二人は悩んだ。流石にこれ以上仕事を増やされては適わない。
「よしQ、お前だけでもエミリオにこの事態を知らせるんだ。あと何かあったときのために幸運+4してあげろ」
「ガッテン!」
羽妖精のピクシーQが那限の肩でガッツポーズを取ると、ぴゅーと飛んでいく。
「…さて俺たちはどうやって脱出しましょうか」
「今修理してる壁を取っ払って女湯から出る…駄目だ。これじゃ連中と同類になる」
「外の壁乗り越えて出ますか。まあ怪我はしないでしょう」
「高さが5、6mはありますからね、怪我しないように降りる方法考えないと…」
思案する二人の後ろで、縛られたままのはるがもがもがと何か言っていたが二人はとりあえず無視した。

「よし、脱出成功」
「流石にあの状態から逃げるのには苦労したな、同士源」
「まあ俺たちを止めたかったらもう少し用心しておくべきだったな」
けけけ、と源が笑う。その手には脱出に使ったと思わしきヤスリが握られていた。
「さてこれからどうする」
「言うまでもないだろう?」
「ああ、俺たちの戦いはこれからだ」
ふ、とVZAが笑う。源も走りながら笑った。
漢達の衝動は留まるところを知らない

「湯船で暴れちゃ駄目」
きゃっきゃと湯船で泳ごうとするチビに石津が注意する。
チビは少し不満そうな表情をしたが、おとなしく湯船の中に戻った。
「肩まで」
肩まで浸かりなおすといーち、にー、さーん、と数を数え始めた。
「その子とあの瀧川とかいう人と3人並ばれると、何だか親子みたいですわね」
そう漏らしたスイトピーはお湯を入れた桶を取るとばしゃ、と頭から被った。
顔を軽く左右に振ると、金色の髪からいくつもの水滴が飛ぶ。
反応が無いな、と思いつつ後ろを見る。石津は耳まで赤くなって湯船に沈んでいた。
肩どころか頭まで沈んでごぼごぼと何か言っている。そんな姿を見てスイトピーは苦笑する。
ねーあたまあらおー、とチビが話しかけても石津は気付く様子が無かった。

そんな状態の内湯をはるか遠くの外から眺める二つの影があった。
「フフフ、最短ルートです」
「ええ、靴下のためなら命を懸けますとも」
そう答えた玄霧はどこから持ってきたのか民宿の名前が入ったタオルを顔に巻きつけていた。どうやら顔を隠しているつもりらしい。
捕まるわけには行かない一面は嫌だ一面はとぶつぶつ呟いている。
「世界はソックスで回っている。そう、せかーいソーーックス!」
「イイ!凄くイイィ」
靴下に命を懸けた男達、吶喊。目指すは最短ルート=一直線である。

一方内湯を挟んで反対側、つまり民宿内。
「よし、最大の障害たるエミリオは何か目隠しして耳を塞いでいるぞ」
「ああ、後は何とかして潜り込む方法を考えるだけだ」
内湯が見える位置の廊下の角でVZAと源が悪巧みを続けていた。
「よし、作戦を練ろう。一人がエミリオの気を引いている内にもう一人が忍び込む方向で」
「お前天才だな!よし、それで行こう」
『じゃあ俺が忍び込むからお前が囮になれ』
一字一句全く同じ台詞が二人の口から出た。
「はっはっは同士源。ここは先鋒を君に譲るから俺に任せろ」
「いやいや同士VZA。俺のほうが足が速いから俺が後に回った方がいいだろう」
「なんのなんの同士源。そんな重要な役を君に任せるわけには行かないよ」
「どうしてどうして同士VZA。君にそんな危ない目をお願いするわけにはい・か・な・い・じゃ・な・い・か」
ぎりぎりぎり、と手四つで顔面をぴったりくっつけながら二人は譲ろうとしない。
「いや譲ろうよこ・こ・は」
「お前こそ譲れよ」
「その前に二人とも教育させてもらう」
二人が顔を上げると、そこには目隠しを手にしたQと仁王立ちのエミリオが立っていた。顔は笑っているのにものすごーく、怒っているのがびりびり伝わってくる。
「あー、なんだ。逃げるか」
「おう」
脱兎の如く逃げ出そうとする二人組。だがそれを見逃すエミリオでは無かった。
怒りに燃えるレーザー攻撃が二人に降り注ぐ。
「ちょ、やばい!洒落にならんぞ!」
「くそ、逃げ切れねえ!」
「消えろー!」
エミリオの一際大きい叫びと共に爆発が起こった。

同時刻。外側のソックスハンター達は-
「とう!」
大量に降ってくる矢の雨を玄霧は手にしたソックスでなぎ払う。
その後ろでは槍衾を岩田がクネクネしながら避けている
「何と言うトラップの数…!」
「フフフプロの仕事ですね」

「うお」
「どうしました那限さん」
「いや今青森さんが笑ったような」
「気絶してるのに…器用な男だ」

ぬうう、と唸りながらバンジステーク(竹槍仕込んだ落とし穴)に落ちないよう横の土壁にソックスを突きたてる玄霧。
「だがこの夢に満ちた靴下を誰に止める事ができようか!」
玄霧が靴下を自らに当てた次の瞬間、どん、という音と共に穴から猛烈な勢いで飛び出してくる。
「フフフ我々は靴下のとりこ、そして靴下はもうすぐそこに」
「ビバ靴下!世界はソックスのために!」
二人のハンター達は青森が仕掛けたありとあらゆる罠を突破していく。全ては靴下をその手にせんがために!
「もう少しだ!」
靴下への最短コースで残る障害は目前に迫る民宿の壁のみ。もはやこの男達を止める術は無いように思えた。
だがしかし、そこには最後の罠が仕掛けられていたのである。
二人の目に映ったのは一足のソックス。それも片足のみ。
ハンター達は考えるより感じた。あれはいいソックスだ、と。そして同時に思った。ハンターは二人、ソックスは一つ。
彼らは共闘する仲ではない。同じ獲物を狙う狩人なのだ。
壮絶な妨害戦が始まる。懐から様々なものを取り出してお互いに投げあい始めた。
空中を飛びかうメス、鋏、目覚まし、木槌、空き缶、雑誌、干物、狸の信楽焼き。
相手の投げるものを避けながら凄まじい勢いで靴下の元へと駆け寄るハンター。途中に仕掛けられていた地雷原など意味を成さないほどの速度である。
そして二人の手は同時に靴下に届いた。全くの同時であり、コンマ何秒のずれも無かった。

次の瞬間かちん、という何かの作動音と共に大爆発が起きた。

「うお」
「どうしました高原さん」
「いや今青森の旦那が物凄くにやりとしたような」
「気絶しているのに…というか今の爆発音は一体…」

もうもうと爆煙が漂う中、二つの影が立ち上がる
「く、靴下をトラップに使うとは何と言う恐ろしい罠…」
「フフフ、ですが今の爆発で最後の壁は無くなったようですね。さあ今こそ靴下を!」
「どこへ行かれるといいまして?」
うっすらと晴れてきた煙の中に誰かが立っている。頭の両側にくるんと巻かれた酷く特徴的な髪型の影はずんずんと迫ってくると二人に容赦のない攻撃を浴びせた。
「最低!最低!」
既に誰だか隠す必要の無いように思える謎の影によって二人はぼこぼこにされた。ピクリとも動く気配が無く、流石に復旧には時間がかかるだろう。
煙の向こうでは「何だ!一体何がぐはぁ!」という瀧川の声と何か硬いものが命中した音がしている。
そんなうちに煙が晴れてきた。ぜーぜーとタオルを身体に巻いたスイトピーが肩で息をしている。
奇跡的に損害を免れた湯船には石津が肩まで浸かっており、扉が半壊した脱衣所の向こうでは源とVZAが黒焦げになっていた。
何故か瀧川も額に大きなこぶを作って倒れている。近くには瀧川の顔の形にひしゃげた木製の桶が落ちていた。
エミリオもぜーぜーと肩で息をしていた。Qが汗を拭いてあげようと肩に止まる。

難易は16 対象は幸運。
エミリオの能力は12 ピクシーQの効果で+4
差分0 50%
1d100
作者のアドイン "mihaDice":[mihaDice] 1d100 -> 70 = 70
失敗である。リアルでダイス振って失敗である。

チビは爆発が起こったときちょうどスイトピーに頭を洗ってもらっていた。シャンプーを流してもらったところでちょうど外と内の両方で爆発が起こったのである。
顔が濡れていて目が開けられない。タオルで顔を拭かなければ。
おぼつかない視界で、とりあえず一番近くに見えたタオルらしきものを引っ張ると顔をぬぐった。良かった、これで目が開けられる。

次の瞬間何を見たのかエミリオは卒倒した。おつむの先まで真っ赤な上にお目目ぐるぐるである。
それから遅れること数秒、スイトピーが絶叫した。この日一番の叫びであったとか無かったとか。

とんとんとん、かんかんかん
「しかしまあ派手に壊れたものだ」
「…で、何で俺達が後始末してるんでしょうね」
「当事者達が全員使い物にならないままですから」
那限の視線の先には磔にされて首から「私達は大変破廉恥な男共です」と書かれた板を下げられた哀れな男達の姿があった。
「法官沙汰にしない代わりに明日までに直せとはかなりしんどい…」
「とりあえず手を動かしましょうか」
「そうですね…」
ぎこぎこぎこ、ちゅいーんちゅいーん
さして出番も無かった男達の工具の音は日が昇るまで続いた。

結局エミリオは次の日の帰りの便まで目覚める事はなかった。
時折「桃が…桃が…」とうなされて目覚めようとすると、そのたびにスイトピーに一撃入れられた為である。
そしてにゃんにゃん共和国新聞の次の日の一面を玄霧が飾る事はとりあえずなかったという…


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最終更新:2007年09月25日 21:04