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 ――えぇ、本日もいっぱいのお運び、ありがとうございます。

 ……モノの価値っては、何とも不確かなもんでして、どこの誰が決めたのやら、実に適当なものでございます。
 たとえばここに、一枚の絵がある。その絵を見て、

 「おお、いい絵だねえ。この絵は人の宿業とか、そういう物を見事に描き出しておる」

 と誉める人もいれば、

 「何でえ、おいらが昨日呑みすぎて、反吐ついたのの方がよほどマシじゃねえか」

 なんておっしゃる御仁もいる。
 何も人に限った話じゃございません。同じモノなのに、古今東西、時代や場所が異なるだけで、がらりと価値が変わっちまう
こともあるんです。
 現にあたしも、先のコミケで始発で並んで、じりじりじりじりお天道様に焦がされながら、どうにかこうにか手に入れられた
シャッター前の新刊が、一週間後にクズみたいな値段でオクに流れてるのを見た時にゃあ、思わずその本叩きつけてやろうかと
思ったもんですが、まあこれは今回の噺とはあんまり関係がない。

 ……とある演芸場の楽屋。ここに、五人の噺家がおりました。
 この噺家たち、なんと全員が女流落語家。絶世の美女、とまでは参りませんが、五人が五人ともそれなりの器量よしでございます。
と言って、内面の方も見かけに違わぬ美人なのかは、あたしの知るところじゃあございませんが。
 それでまあ、彼女達が集まって何をしてるかってえ申しますと、これが実にくだらないお喋りをしている。犬と猫ならどちらが
好きかだの、遊びに行くなら海か山かだの、あまりに他愛無い。

 移ろいやすい世の中ではございますが、いつの時代も女性のお喋りってのは、くだらないものと相場が決まっておりますようで……



 「ねえ……ちょっと聞いていい?」

 すうっ、と、楽屋の襖が開き、防波亭手寅が顔を覗かせた。
 「……ん?」
 その問いかけに、楽屋でちゃぶ台を囲んでいた四人が、一斉に手寅に注目する。
 四人の顔を、意味ありげにぐるりと見回した後、一拍おいて、手寅が切り出した。

 「ドラ○もんの道具の中で、一つもらえるなら何が欲しい?」

 「つまんねー事聞くなよ!」
 間髪を入れずそう突っ込むのは、蕪羅亭魔梨威――仲間内では、親しみを込めて、マリーさんと呼ばれている噺家である。
 「えー? いいじゃない、別に」
 「ったく……だいたいそんなもん、ハナから一択に決まってるじゃないかね」
 少し胸を反らし気味にしつつ、マリーが声を張った。「スペ……!」

 「スペアポケットとか答える人間だけにはなりたくない」

 自信満々に答えようとしたマリーの言葉を、空琉美遊亭丸京がぴしゃりと遮った。
 「あー、いるよね、そういう人」
 「そーいう人間だけにはなりたくない」
 「………」
 口を開いたままで固まってしまったマリーをよそに、丸京はかちゃりと眼鏡を直しながら、
 「――私は、どこでもドアかな」
 と答えた。
 「ああ、便利だもんね」
 手寅が相槌を打ちながら、ちゃぶ台に向けて腰を下ろす。
 「そうそう、歩くのが面倒だな、って時でも、楽屋でドアを開ければ、あっという間に高座まで」
 「距離が短すぎんだろ!」
 丸京に指を突きつけ、突っ込みを入れるマリー。

 「……私は、タケコプターが欲しいです」

 その傍らで、暗落亭苦来がぼそり、と口を開いた。
 本人は普通に喋っているつもりなのだろうが、なんとなく陰鬱な響きを伴うその声に引き込まれ、一同が苦来の方を向く。
 顔を下げ、ちゃぶ台の一点をじっと見据えたままで、苦来はぽつりぽつりと語った。
 「あれで、大空を自由に飛び回ってみたい……」
 「へえ、なんだかイメージと違うじゃないか」
 マリーがそう言って、ちゃぶ台から湯飲みを手に取り、くい、と飲む。
 その瞬間、苦来がにたり、と口の端を歪めて暗く笑った。
 「……そしてそのまま、高く高く昇っていくの。真っ青な空に向かって、まるで吸い込まれ、溶けて、消えてしまうかのように、
  どこまでも、どこまでもどこまでも……」
 「あ、ああ……そうかい、そりゃ、結構な事で……」
 つう、と頬を一筋の汗が伝い、マリーは静かに湯飲みを戻した。

   「……キグちゃんは?」 
 「え?」
 突然、手寅に話を振られ、「キグ」こと波浪浮亭木胡桃が少したじろいだ。
 「そうだよ、キグは何が欲しいんだい?」
 それに被せるかのように、マリーが質問を重ねてきた。ずい、と寄せてきたその顔が、妙にらんらんと輝いている。
 見れば他の三人も、同じ色の輝きを、その瞳いっぱいに湛えて、キグに注目していた。

 (な……何か、期待されている)

 一瞬、何事かを考えるように顔を伏せたキグだったが、すぐにぱあっと満面の笑顔を浮かべ、天真爛漫に答えてみせた。
 「桃太郎印のきびだんご! 犬さんやネコさんと、いーっぱいお友達になるの!」
 その答えに、マリーと苦来が、にへら、という笑顔を浮かべ、キグの頭をよしよしとなで回す。
 「かーわい~、そーだよね~」
 「キグは動物だーい好きだもんな~」
 「えへへ」

 (――ちっ、期待通りの答えをすんのも疲れるわ)
 表面上はあくまで無邪気にはにかんでみせながらも、キグが心の中で舌打ちをする。


 「おっと、もうこんな時間かい。昼飯でも食いに行こうかね」
 時計を見上げたマリーがそう言って、すっと立ち上がる。
 「そうしようか。……ん、どうした? テト」
 続けて身を起こそうとした丸京が、部屋の隅で、何やらごそごそとやっている手寅に気付いて声をかけた。
 手寅はくるりと振り向くと、ぽんと両手を合わせて、四人に向かって言った。
 「ごめんね、私ちょっと、後片付けがあるから、先に行っててくれる?」
 「早く来いよなー」
 そう手寅に言い置くと、マリー達四人はぞろぞろと楽屋を出て行った。

 (――ふ)

 楽屋に一人残った手寅の、黒い微笑に、誰一人気付かないままで。




 「あー、食った食った」
 いっぱいになったお腹をぽんぽんとさすりつつ、マリーが楽屋へと戻ってきた。
 他の四人は、買い物やら化粧直しやらでそれぞれ別れてしまい、戻ってきたのはマリー一人である。
 「さて、出番までまだ時間もあるし、一眠りでも……おや?」
 そう言って、畳にごろりと寝転がろうとするマリー。と、その時。
 畳の上に、何やら、見慣れないものが転がっている事に気が付いた。
 「何だい、こりゃ……アイツの被ってた覆面か?」
 真っ白い、布製でできているらしいそれを、ひょいとマリーがつまみ上げる。確かに顔にかぶれそうな形をしてはいるが、
それには目や鼻を出すための穴がなかった。
 びよんびよんと伸ばしたり、くるりと裏返したりしてみている内に、マリーの脳裏にふと、先ほどの手寅との問答がひらめいた。
 「も……もしかして、コレは!」
 そう、それは、日本人なら誰もが知ってて誰もが欲しがる、『あの』ポケットにそっくりだったのである。
 「た、試しに……!」
 マリーはすかさず手を突っ込み、中から黄色いプロペラを取り出す。
 震える手で、それを自分の頭に取り付けると、たちまちマリーの体は楽屋の天井近くまで飛び上がった。

 「ま……間違いない! こりゃきっと、日頃の行いのいい私への、天使からの貢ぎ物だよ!」

 天井板に頭をこすりつけながら、マリーはそうのたまうと、高笑いに笑うのであった。


 「さあ、そうと決まれば! ……ええと」
 ふわりと着地し、プロペラをポケットにしまったマリーは、この思わぬ拾い物の使い道をあれこれと模索し始めた。だがしかし、
あんなこともこんなことも叶えられる現状において、何を優先すべきなのかがなかなか決まらない。
 「ええと、ええと……そうだ!」
 やがて、一つの思いつきに至ったマリーが、再びポケットに手を突っ込んだ。ぐいぐいと腕を押し込み、奥の方をごそごそと漁る。
 ややあって、ポケットから取り出されたマリーが手にしていたものは『タネなしマジックハンカチ』であった。このハンカチを
何かにかぶせると、自動的に別のモノに変わったり、状態が変化するというものだ。
 「コイツを使えば……私の唯一の欠点を解消できるはずだよ!」
 そう言って、マリーはちら、と自分の下半身を見下ろす。その表情には、若干の忌々しげな様子が浮かんでいた。
 ――可愛くて(自称)頼りがいがあって(自称)噺家としても超一流(自称)のマリー、唯一の欠点。

 蒙古斑である。

 「それじゃ、早速・・・」
 楽屋に誰もいないのをいい事に、マリーは羽織を脱ぎ、帯をしゅるりとほどいた。着物の前がはだけ、あどけなさを遺憾なく
残しているその胸が、外界にさらされる。
 着物の裾をまくりあげると、マリーは問題の部分にハンカチをかけようとした、が、ハンカチは小さく、どうも上手くいかない。 
 「うーん、腰に巻くには、ちょっと小さいかね……それなら!」
 マリーは素早くポケットから『ビッグライト』を取り出し、『タネなしマジックハンカチ』を照らし出す。
 みるみるうちにハンカチは大きくなり、マリーはそれを、タオルのように腰に巻きつけると、きゅっと結んだ。
 「ふっふーん、さっすが私、頭脳派だな!」
 『タネなしマジックハンカチ』の効果は実際に使ってみるまでわからず、必ずしも思い通りになるとは限らない。だが、
持ち主の思考や意識に左右されることもある事を知っていたマリーは、目をぎゅっと閉じると、意識を一点に集中させた。

 「青いの消えろ……! 青いの消えろ……!」

 ひたすらそう念じるマリーの脳裏に、他の四人にさんざんからかわれた、苦い思い出がよみがえってくる。
 「くっそう……あいつら、人の事バカにしやがって……! やれ子供だの、男だの、女装男子疑惑だの……!」
 男。
 女装男子。
 そのイメージがマリーの頭の中に広がった、その一瞬。
 下半身のハンカチが、役目を終えたとでも言うかのように、すとん、と床に落ちた。
 「……へ?」
 露わになった下半身を見たマリーの目が、点のように小さくなる。
 一瞬ののち、楽屋中を震わせるような大声で、マリーが叫んだ。

 「……何じゃこりゃああっ!?」

 そこには、男性のシンボルが、雄雄しくそびえ立っていたのである。


 「マ……マリー、さん?」

 背後から何者かの声が聞こえ、マリーはびくり、と震えて楽屋の入り口の方を振り向く。
 開いた襖の向こうに、それぞれの用事を済ませて戻ってきた丸京、苦来、キグが、呆然と突っ立っていた。
 「ち、ちちち、違うんだよ、あんた達! ここ、これは……!」
 とんでもない所を見られてしまったマリーは着物を直すのも忘れ、三人に向かって弁解し始めた。丸出しのままの下半身では
立派な一物がぶらんぶらんと揺れている。
 むろん、お尻の方の問題は、まったくそのまま残っていた。

 「マリーさん!」
 「やっぱり!」
 「男の人だったんだ!」

 三人が口々に騒ぎ立てる。

 「だから違うって言ってんだろー!」

 思い余ったマリーは、三人に向けて飛びかかっていった。その必死の形相を見た苦来が、恐怖に身をすくめる。
 「いやぁぁっ! 犯されるぅぅっ!」
 「人聞きの悪い事言うなよ!」
 「ふんっ!」
 その一瞬、苦来の前に立ちはだかった丸京が、突っ込んでくるマリーを絶妙の体捌きでいなす。
 そして、その五体を抱え上げると、全力で畳に向かって叩き落とした。
 「ふぎゃっ!?」
 マリーはきゅう、と目を回し、大の字のままで気を失ってしまった。

 「……どうします?」
 気絶したマリーを囲んで、苦来がぽつりと言葉を漏らした。
 「どうしますったって……なあ」
 難しい顔で、丸京がぽりぽりと頭をかく。
 その時、キグが意を決したように、決然と言い放った。
 「マリーさんが本当に女装男子だったとしても、わたし達はずっと友達です! ただ……」
 「ただ?」
 そして、どこからか取り出した縄を手に、にっこりと微笑んだ。

 「ホントのホントに男子なのか、確かめてみる必要があるかな? って」




 「ん……んん」

 下半身に妙な違和感を感じ、マリーは目を覚ました。うすぼんやりとした視界で、電灯の紐がぶらぶらと揺れている。
 「あ……あれ、いつの間にか、眠っちまってたのかい……」
 むにゃむにゃとそう呟くと、ぐい、と体を伸ばそうとした。が、
 「んんっ!?」
 身体が、思うように動かない。両手両脚が、何かに縛り付けられているようだった。
 「な、何だいこりゃ……うひゃっ!?」
 思わず跳ね起きようとしたマリーだったが、その時、またも下半身から奇妙な感覚が伝わってきて、力が抜けてしまう。
 反射的に視線をそちらへと向けると、そこには、予想だにしない光景が広がっていた。

 「ん……ふちゅぅ……あ、マリーさん、おはよー」

 そう挨拶したのはキグである。
 持ち前の、抜けるような明るい声と、にぱっと輝く花のような笑顔。どちらも、いつもの彼女お馴染みのものだ。
 ただ一点、彼女が、大きく広げたマリーの股間に屈みこみ、立派にそびえる男性器を口に咥えている事以外は。
 「な……ななな、何やってんだい、キグ!?」
 「えー? 何って、フェラチオですけど?」
 鈴口にちゅっ、ちゅっと口付けしながら、キグが屈託のない声で平然と答える。
 その、あまりの動じていない口ぶりに、マリーはかえって動転してしまう。
 「そっ、そういう事を聞いてるんじゃなくて……ひゃんっ!」
 またも未知の感覚に襲われ、マリーがびくん、と震える。
 キグがちろちろと舐め回している亀頭の、はるか下方。
 肉茎の付け根から上へ向けて、つつぅっ、と舌を這わせながら、苦来がゆっくりと顔を現した。
 「ちゅぱっ……ん、むっ……」
 「く、苦来まで……!」
 仰天したマリーが目を見開く。
 だが苦来は、そんなマリーに目もくれず、いつも以上に、何かに取り憑かれたかのような表情で、一心不乱に男根をしゃぶり
尽くそうとしていた。
 「はぁ……ん……おちんちん、おちんちん、おいしいです……」
 うっとりとそう呟くと、苦来が小さく口を開け、はむっ、とマリーの股間を甘噛みした。
 「んんっ……!」
 苦来の薄い、しかし柔らかな唇で、むにゅむにゅと陰茎を刺激され、マリーの全身に、これまで味わった事のないような快感が
伝わってきた。それが徐々に頭の方へと上ってきて、だんだんと思考がぼんやりしてくる。

 (はぁっ……何だい、これ……? 何でこんなに、気持ちいいんだい……?)


 「あーあ、苦来ちゃんったら、すっかりおちんちんに夢中になっちゃってー」
 くすっとキグが微笑み、自身もまた、マリーへの口淫を再開した。
 「うっ、うわっ、キグ! やめないかい!」
 「やめないもーん。マリーさんのコレが本物なのか、ちゃんと確かめるんだから」
 キグが口を大きく開き、マリーの肉棒を口いっぱいに頬張る。口の中で唾液をじゅるじゅると絡め、舌をまとわりつかせて
ソレを嬲るうちに、徐々に、熱さと固さが増してゆく。
 「ふぁぁっ……! なっ、何なんだい、こりゃあ……! 何か、何か来ちまうよっ……!」
 目をぎゅうっとつむり、歯を食いしばって、マリーが必死に耐えている。体験した事のない快感の波に、マリーの不安は
高まっていく。
 だが、そんなマリーの我慢を蕩かすように、キグと苦来は二人がかりで責め立てる。ぴちゃりぴちゃりと淫らな水音を立て、
男根を余すところなく舐め回し、さらに指を添えて、しゅっ、しゅっと扱き立てる。
 「ほらぁ、マリーさん……我慢なんて、しなくていいんですよ? 好きな時に、どっぴゅんってしちゃって下さいね?」
 「マリーさんの子種……全部私たちのお口で、受け止めてあげますから……」
 そうして二人は、はあっと口を開けると、真っ赤にふくらんでいる亀頭に向かって近づけ、とどめとばかりに二人同時に、
はぷっ、と食いついた。

 「はっ、ああんっ! 出るっ、なんかっ、出るぅぅっ!」

 マリーが一際大きく叫ぶのと同時に、その股間から、びゅうぅっ、と、勢いよく精液が噴き出した。
 「きゃっ!?」
 あまりのその勢いに、苦来は思わず顔をそむけてしまう。狙いが外れ、マリーの白濁液は苦来の横顔に向かって放たれると、
その艶やかな真っ黒い髪の毛を、べっとりと汚してしまった。
 「んぷっ……んく……っ、……ぷはぁっ」
 一方キグは、口を離すことなくマリーに食いついたままで、そこから湧き出す精液を吸い上げ、こくり、と飲み込んでいた。
射精が一通り済んでしまうと、さらにちゅうっ、と尿道を吸い上げ、「ひゃんっ」とマリーの口から嬌声を上げさせる。
 「ふぅ……ごちそう様でした、マリーさん♪」
 ようやく肉棒から口を離したキグが、とろんとした眼のままで口をくい、と拭い、マリーに向かってにこっ、と微笑んだ。
 「それにしても、マリーさんの、すごぉい……あんなに出したのに、もうぴんぴんになってますよ?」
 そう言って、キグが楽しげに指先でマリーの股間を弄ぶ。
 「ひっ、よっ、止さないかいっ、キグ!」

 「……はぁ~あ、あの人のも、これくらい元気なら嬉しいんだけど」

 「あの人……って?」
 ため息混じりにキグが漏らした一言に、苦来が耳聡く反応する。
 「え? あ、なな、何でもないよ! 何でも! えへっ☆」
 それに気付いたキグは、あわてて首をぶんぶんと横に振ると、無邪気な笑顔を浮かべ、必死にごまかそうとするのだった。


 「それより、次は……」
 キグが、にっと真っ白な歯を輝かせて、いたずらっぽく笑いながら、楽屋の一隅を振り返った。
 「ガンちゃんの番だもんね?」
 「丸……京……?」
 つられて、マリーもそちらの方へすい、と目をやる。

 「はぁ……んっ、んんっ……」

 そこには、こちらに背を向けて座り込み、何やらか細い声を上げている丸京の姿があった。
 彼女もまた羽織を脱ぎ、着物の帯は外してしまっている。両手を体の前でもぞもぞと動かしており、時折、びくん、と肩が
上下しているようだ。
 「お、おい……あんた、一体、何やってんだい……?」
 その、得体の知れない後姿に、マリーが不安げに声をかける。怯えるマリーにちら、と一瞥をくれて、キグはもう一度にやりと
笑うと、ことさらに明るい声で丸京に呼びかけた。
 「ガンちゃーん、準備、オッケーだよ!」
 その声をきっかけに、丸京がゆらり、と立ち上がる。
 そして、くるり、とマリー達の方を向いた。
 「ひいっ!」
 その顔を見たマリーが、青ざめて悲鳴を上げる。
 眼鏡の向こうの瞳はとろりと潤んで半開きになり、同じく半開きの口からは、つつう、と涎が一滴垂れている。上気して
頬が真っ赤に染まり、絶えずはあはあと荒い息をついていた。

 「えへへ……マリーさぁん……」

 そのままの様子で、よた、よたと丸京が近づいてくる。はだけた着物からは下半身が露わになり、その部分は、すでにじっとりと
濡れていた。どうやら先ほどからずっと、自分自身でねぶり続けていたらしい。


 「お、おいっ! こりゃ一体どういう事だい!?」
 いくら問いかけても答える素振りもなく、仰向けのマリーの下半身に覆いかぶさってきた丸京に代わって、苦来とキグが応じた。
 「……マリーさんが男子かどうか確かめる、って言ったら、ガンちゃんが妙に乗り気になってしまって……」
 「そうそう、この役は絶対自分がやる、って聞かなかったんだよね。それで、自分も体の準備を万全にしたいって」
 「何だいそりゃあっ!? あんた、そっちの気でもあるんじゃないのかい!?」
 自分の体に馬乗りになり、今にも挿入を試みようとしている丸京に向かって、マリーが喚き散らす。
 その瞬間。

 「……そっちの気?」

 丸京が、ぴたりと動きを止めた。
 「――!」
 きら、と眼鏡が光るその顔に、マリーははっと息を飲んだ。

 「やだなぁ、マリーさん。私がこんな事をしてるのは、そんな理由じゃなく……」

 丸京の表情はすでに、先ほどまでの発情しきったものではなく、普段の顔に戻っている。――そう。
 『暴力眼鏡』の異名にふさわしい、ドS顔に。


 「……マリーさんを苛めたいからに決まってるだろうっ!!」


 不意に、丸京が一気に腰を沈めた。
 「ふぁぁぁっ!?」
 その中央にあてがわれていたマリーの性器は、ずぶり、と一気に丸京に飲み込まれ、この上ない熱さが伝わってきた。
 「く……んっ、はは、結構、いいモノ持ってるじゃ、ないっ……!」
 一息にマリーの肉棒を迎え入れた丸京が、ぶるぶるっと体を震わせる。硬く反り返った陰茎が膣内をごつごつと突き上げ、
痺れるような快感が襲ってくる。
 「はっ、はひぃっ……な、何すんだい、そんな、いきなりっ……!」
 息も絶え絶えの中、目元にじんわりと涙を浮かべて抗議するマリー。
 だがそれは、すでに火の付いてしまった丸京の嗜虐心に、さらに油を注ぐ結果にしかならなかった。
 「さて……それじゃ、遠慮なく動かさせてもらうよ、マリーさん」
 「ひぇっ!? ちょっ、ちょっと待っておくれよ!」
 マリーの制止も聞かず、丸京が腰を振り始めた。ずんっ、ずんっと一定のリズムで下半身を上下させ、マリーの陰茎を
吐き出してはまた咥え込む。抽送を繰り返すうちに、だんだんと膣内の滑り気が増し、その動きがさらに速められた。。
 「ああっ、はんっ、気持ちいいっ! こんなに気持ちいいなんて、やっぱりマリーさんは男の中の男だったんだ!」
 「だから違うって言ってんだろうっ!」
 快感のあまり、訳のわからない妄言を吐く丸京に突っ込むマリー。
 その間にも、丸京の動きはますます激しさを増し、全力でマリーの精を搾り取りにかかっている。やがて陰茎が、はちきれん
ばかりにびくん、びくんと震えだすと、丸京は挑発するような口調でマリーに言い放った。
 「ほらほらマリーさん、そろそろイきたいでしょう? 無理しないでいいんだからね?」
 そして、上から目線でマリーの事を思い切り見下す。
 「くっ、この……!」
 丸京の態度にカチンと来たマリーが、不自由な体にぐうっと力を込める。

 「あんまり調子に……乗るんじゃないよっ!」

 そして、下半身を思い切り跳ね上げると、丸京の中を乱暴にえぐった。


 「はぁぁんっ!」

 思わぬ反撃を受け、丸京の声が裏返る。
 「はっ、ははっ! どーだ見たか、このドS眼鏡! このマリー様を組み敷こうなんざ、百年早いんだよ!」
 続けて二発、三発とマリーが丸京を突き上げる。その度ごとに接合部からは、じゅぶっ、じゅぶっという音とともに、二人の
熱い性液が跳ね飛んだ。
 「んっ、あんっ! くそっ……この私が、こんなケツの青いガキなんかに……!」
 「ケツの事は言うなぁっ!」
 「負けて…られるかっ!」
 どうにか衝撃から立ち直った丸京が、自分の体重を乗せて、マリーに向かって腰をずずぅ、と下げる。負けじとマリーが必死で
踏ん張り、二人はお互いに激しく腰を打ちつけ合った。
 「くそっ……この……んんっ! はっ、早く、イっちまいなってんだ……!」
 「あふんっ! そっ、それはぁっ、こっちの台詞、だっ……!」
 互いに荒っぽい言葉を投げつけあいながら性器をぶつかり合わせる二人を、キグと苦来がぽかんと口を開けながら見ていた。
 (やっぱり、この二人って……)
 (……ケンカするほど仲がいい、んでしょうか……)
 本人たちに聴こえないよう、ひそひそと会話を交わす。
 そんな事を囁かれているとは露知らず、マリーと丸京は、互いに絶頂に近づきつつあった。
 「あああっ! もうっ、もう、ダメっ……!」
 「これ以上、ガマンっ、できないっ……!」
 そして、最後の一発、とばかりに、ぐちゅん! と渾身の力で下半身を繋ぎ合わせた瞬間、二人は同時に達した。

 「イくっ、イくぅぅっ!」
 「ふあっ、あっ、あぁぁんっ!」

 マリーの陰茎の先端からはびゅるぅっ、と精液が噴出し、丸京の膣内からはぶしゃあっ、と潮が吐き出された。
 互いの体液で下半身はべとべとになってしまい、丸京の身体はがくん、と崩れ落ち、マリーに向かってしなだれかかった。
 「はぁ……はぁ……っ、おい……終わったんなら、さっさとどいとくれよ。重いったらありゃしない……」
 荒い呼吸の合間から、マリーが、自分の胸に頭を預けている丸京に言う。
 丸京も同じく、ぜえぜえと息をしつつ、マリーに答えた。
 「ふぅぅ……ん、……うるさいな、動きたくたって、動けないんだ、よ……」
 「まったく……仕方ないね」
 互いにどうする事もできないまま、マリーと丸京は、しばらく身を重ねたままで、ただじっとしていた。

 その様子を傍らで見守るキグと苦来は、思わず顔を見合わせ、やがて、どちらからともなく、くすくすと笑い合うのだった。


 ……まさにその時でございます。
 二分ほど開いておりました楽屋の襖に、誰かがすっと指をかけますと、一気にささーっと開きました。

 「ただいまー」

 「わああああっ!?」
 突然現れた手寅に、驚いたのは中の四人。マリーさんを除いた三人は急いで着物の前を合わせますと、てんでばらばらの方向に
飛び退いた。
 「おい、ちょっと、この縄ほどいとくれよ!」
 マリーさんだけは相変わらず、手足を縛られた格好のままでじたばたとしておりましたが、
 「どうしたの、みんな? ……あ!」
 そんな四人に目もくれず、手寅は床にほっぽり出されていた、件のポケットを、ひょいと拾い上げました。
 「あー、あったあった。こんな所に落としてたのね」
 その言葉を聞きとがめたのはマリーさんです。寝っ転がったままの体勢で、手寅に向かって詰め寄りました。
 「お、落としてた? じゃ何かい、ソレ、あんたの持ち物だってのかい!?」
 「ええ、そうよ? この間、河川敷に落ちてるのを見つけたの」
 悪びれもせずに、手寅があっさりと答えてのけます。
 「これ、何でも入れられて、すっごく便利なのよ? 最近、ポシェット代わりに持ち歩いてるんだ」
 平然と言い放つ手寅に四人は呆れ顔。
 はぁぁ、と大きなため息をついて、マリーさんが訊ねました。
 「だったら何で、そんな大事なものを落としたりしたんだい。キチンと持っておかなきゃダメじゃないか」
 「えへへ、それがね。このポケットを楽屋に置きっぱなしにしておくと……」
 そこで手寅、後ろ手に隠していたカメラを一同に見せつつ、一言。


 「時々、女流落語家のニャンニャン写真が、三万円で売れるんです」


 ……おあとがよろしいようで。