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  *  *  *

一大摘発劇の夜、横溝重悟警部は縄のれんをくぐっていた。
小上がりで、白鳥が小さく手を上げるのが見える。
横溝がそちらに出向くと、白鳥の向かい側には先客がいた。
年の頃なら三十過ぎ、知的にして勝ち気な雰囲気。堅めのいい女。

「こちらは?」

その美女と向かい合う形で座り、横溝が尋ねる。

「九条です」

九条玲子が緩めた掌の中から、白いバッジが見えた。
横溝が、グラスを手にする。
九条が、すっとビールの小瓶を差し出した。

「ああ、すいませんね」
「色々、探りを入れていたみたいですね」
「言っておきますが、尻尾を掴まれたのは横溝さんですよ」

横溝のグラスにビールを注ぎながら九条が言い、白鳥が付け加えた。

「まずは」

九条が音頭を取り、横溝が苦笑を浮かべて三人がグラスを掲げた。

「鈴木建設河豚舎副社長の自宅強盗事件を担当する神奈川県警横溝警部と、
マル被との関係が疑われるマルB(暴力団)射殺事件を担当する白鳥警部」
「そして、検察のマドンナ…ん?東京地検、それで今夜…」

九条が見せた皮肉な笑みに、横溝が後の言葉を呑み込んだ。
九条は東京地検公判部の検事であり、
今日は、東京地検各部署はもちろん東京高検管内の各地検も、最低限度の維持要員を残して
東京地検特捜部の世紀の摘発に最大規模の応援派遣を行っている事は想像に難くない。

そして、かつては東京地検特捜部に応援派遣されて将来の特捜検事と目され、
東京地検公判部検事として着任している事からも、彼女の検察庁での評価は決して低いものではなかった。
刑事と関わるのは多くの場合起訴を担当する刑事部の検事であるが、
補充捜査などで関わりを持つ警視庁の白鳥はもちろん、
神奈川の横溝も切れ者で知られる九条の名前は耳にしている。

だが、最近で言えば、その評判は余り芳しいものではない。
起訴後有罪率99.9%超を誇る日本検察、その顔とも言える東京地検公判部。
そこで、担当した事件から立て続けにまずい結果が出ている。

それだけなら、警視庁や地検刑事部にも大きな責任があるのだが、
彼女自身が事件に深入りする余り交通部の仕事に無理やり割り込んだ挙げ句死人を出す、
弁護士との内通疑惑で弁護士会にまで問題視されると言う、職権濫用弁護士法違反共犯紛いのやり方で、
ホシこそあげたもののとうとう辞表出せクラスの懲戒処分を受けるに至っている。

官僚社会の中でも特に無謬を重んじる検察官が、
平検事の内にここまでやったら将来は非常に厳しい。
今の東京地検の勤務が終われば、今後政令指定都市を管轄するA庁での勤務は難しいだろう。

  *  *  *

「鈴木建設は記者会見を開き、巨額の簿外債務がある事を明らかにしました。
記者会見では、主にA…商事に対する債務保証と言う形で、河豚舎前副社長が独断で…
鈴木建設では外部の有識者を加えた調査委員会を設置し、
河豚舎前副社長に対する法的措置を含めて…」
「鈴木建設副社長の名前で、独断で行っていた巨額の債務保証。あれが、動機ですか」

店内で掛かっていたテレビニュースに視線を向け、横溝が言った。

「少なくとも、河豚舎前副社長本人はそう考えています」

九条が言う。

「元々、河豚舎は過去の手帳やノート、PCや録音などの資料を
大学時代の友人である弁護士に郵送して保管を依頼していました。
そして、自宅での強盗事件の直後、その証拠を刷毛高監査法人に提出する様に要請しています。
それと共に、河豚舎自身も監査法人に出向いて事情を説明している。
河豚舎の独断で、鈴木建設代表取締役副社長としての債務保証を濫発したと言う事の説明をね。
河豚舎は、警察や地検特捜部の事も手放しでは信用していなかった。
でも、監査法人がこの事実を知った場合、対策を取らない事には監査法人自身が危なくなる」

「その事実に蓋をして決算に適正意見を出せば、
監査法人の会計士も特別背任の共犯で刑事責任を問われる。
もちろん、民事の損害賠償請求に行政処分、法人としても会計士としても終わりですね」

九条の説明に白鳥が付け加え、九条が頷いた。

「簿外債務だけなら監査法人でも対応できた話だけど、その流出先が悪過ぎた。
説明を受けて、会計士の手に負える話じゃないと判断した監査法人側では、
本人の了承を得て過去の事件で知己のあった財政経済班の検事を紹介すると共に、
元検事総長の鈴木建設監査役に正式に通告する形で監査役から検察への通告を働きかけた」

「なるほどねぇ…」

九条の説明に、横溝はふうっと息を吐く。

「事は極秘に進められました。警察はもちろん地検でも当初は極めて限られた範囲で。
ただ、警視庁刑事部の幹部を通じて、SITによる身辺警護をお願いしていました」
「つまり…」

横溝は、バリッと頭を掻いて九条に尋ねる。

「やっぱり、こっちの事件のマル害、河豚舎副社長がタタキに遭ったのは何かの口封じで、
それで追い込まれた河豚舎が東京地検に駆け込んで全部ゲロッた、
刺される前に刺す、そういう話だって事ですかね?」
「少なくとも、河豚舎容疑者はそのつもりの様ですね」

横溝の問いに、九条が答える。

「ただ、実際に河豚舎に強盗団を差し向けたのがどの筋か、そこまでは特捜部も掴んでいない。
掴んでいたとしても、今の私の立場でそれを知るのはかなり難しいですが」

  *  *  *

熱燗傍らにモツ煮を突きながら、横溝と九条がやり取りをしていた。

「河豚舎が濫発した債務保証、そのかなりの部分がA…商事のルートで使われました」
「大阪の府警と特捜部が着手してましたね。
関西事業本部の本部長である常務とその下の営業部長が逮捕された」

白鳥の言葉に、説明していた九条が頷いた。

「容疑は今の所は詐欺、農協から事業関連の融資を受けるに当たってデタラメな報告を繰り返していた。
これに関しても、府警が被害者の筈の農協サイドに相当強くねじ込んで告訴状を出させている。
このデタラメな融資申請をスルーした責任者も背任での立件は避けられないでしょうね」
「そいつらにも毒饅頭が回ってたって事ですか」

横溝の言葉に九条が頷き、銚子を差し出した。

「A…商事で犯行グループの後ろ盾だったワンマン会長も今日の臨時役員会で解任に追い込まれた。
ハッキリ言って関西事業本部が行っていた大規模事業の相当部分が採算以前のスカスカ、
鈴木建設の債務保証で引き出した現金をトンネルさせていただけ。
A…商事からの告訴で特別背任事件に発展するのは時間の問題。
会長の逮捕までいくでしょうね。事実上素通りで承認してたみたいだけどそれ自体許されない」

「挙げられた常務は会長の娘婿で只のシャッポ、本命はその下の営業部長。
車低来行、関西じゃあそこそこ知られた名前ですな。
タタキのマル害(被害者)関連って事でうちの組対も情報収集しましたが、
まあ、カタギの会社に入り込んで食い潰す企業舎弟である事に違いはない。
しかも、殺しの調べまで始まってるってな」

「婿殿の口を封じようとして失敗、でしたか。
東京はSITですが大阪もMAATまで引っ張り出しての一騒動だったみたいですね」

ぐいっと猪口を空けた横溝に白鳥が続いた。

「これも、妙な経緯で発覚しています」

九条が言う。

「事件を担当していたマルサの査察官に匿名の密告電話が入りました。
電話で指定されていた通りに廃墟に隠された茶封筒を回収すると、
そこには録音データと解説文が同封されていた。
解説文では、車低に絡む犯罪スキームの詳細なチャート図と、進行中の常務暗殺計画が詳細に。
そして、録音データですが…」
「胸くそ悪い」

横溝の吐き捨てる様な言葉に九条も頷く。

「……県警の所轄警察署の刑事一課長と車低との電話盗聴でした。
計画では常務の愛人であるキタのホステスが泊まりがけのゴルフに誘い出し、
そこで事故死又は自殺に見せかけて殺害。
一課長が直々に臨場して話の通じる嘱託医と共に事件性無しとして処理する」
「いわゆる死因不明社会ですか」

白鳥の言葉に横溝はクビを横に振り、九条が頷いた。

「盗聴データは裁判には使えない。
しかし、元々この刑事一課長は車低の警察人脈として内偵中の大阪の二課からマークされていて、
録音データを解析した科捜研からも簡易鑑定での捏造判定はネガティブ。
大阪の一課が出勤前のホステス、二課が例の一課長にカマを掛けて状況を確定すると、
今度はMAATを動かして極秘裏に常務本人に接触。囮捜査に着手して実行部隊を一斉検挙した」
「実行部隊ってのは…」

横溝が呟く様に言う。

「マーダーインク」
「殺人株式会社、ですか」

九条の言葉に白鳥が言った。

「暴力団であれば下請け、孫請けの不始末であっても、
トップまで民事、下手をすると刑事責任まで直結するのが最近の法律や判例の流れ。だから………」

九条は、関西系の最大組織の名前を出す。

「組の指揮系統、盃事を外れたマーダーインクを持っている、
特に経済事犯に絡んではかなり前から聞こえていた話です。
殺人計画での実行犯摘発の直後、とっくに潰れた組の元幹部で、
近所では隠居した元社長で知られていた人物がミナミで拳銃自殺しました。
大阪の一課、四課の調べもその元幹部で止まっているのが実情です。
問題の一課長も朝には首を吊って死亡しています」

「県警にすりゃてめぇの庭のど真ん中で大阪のMAATにスタングレネードまで使われて、
まー面子丸潰れだわな。だからって言ってとてもじゃないが文句なんて言えたモンじゃない」
「実際、大阪の側は自殺した一課長の上申書を暗に示して黙らせたみたいですね」

横溝の言葉に、九条が続けた。

「結果、殺されかけた常務は身を守るためにも、
今や信頼ゼロになった車低を揚げる一番筋のいい容疑を完落ち、
アリバイ工作のためか東京に出ずっぱりで、失敗を悟ったのか出国する寸前に逮捕された」
「こんだけのヤマだ、国売った所で時間の問題だったでしょうがね」

九条の言葉に、横溝が言う。

「車低の若い頃の事はこちらの組対でも分からない事が多い。
表に出て来たのは「文題建設」の特別背任事件から。あの事件で逮捕されていますね。
その逮捕ですら、あの男の強かさを示す材料になりましたが」
「「文題建設」は関西のサブコン、結局あの事件で弾けちまった。
あの事件じゃ起訴猶予でしたね。
ガキの頃のヤンチャ仲間が政治家の秘書になって、そこから顔を利かせていったってのは聞きましたが」

白鳥の言葉に横溝が続けた。

「盃こそ受けていなくても実態は企業舎弟。それは確かです」

九条が言う。

「昔馴染みが国会議員の秘書、それも各種団体とのパイプ役をやっていた事で、
その人脈と結び付いてマルB(暴力団)やバッジ(議員)との厄介な裏交渉にも手腕を発揮した。
「文題建設」と関わりを持ったのも、
地元トラブルで大阪のその方面の有力者に支払ったリベートの税務処理がこじれたから。
当時の会長が付き合いのあったヤメ検弁護士の紹介で、
当時大阪で不動産業者をしていた車低に仲裁を依頼して、
支払先とも税務署ともうまく話をまとめて会長から信頼を得た」

「ああー、どこでもここでも一度入り込んだらガッチリ掴んで中から食い荒らして、
その意味じゃあ一流のハイエナだった。そういう話でしたね」

九条の説明に横溝が言い、九条が頷いた。

「まさに、そういう男です。過去にいくつかの建設会社に勤務して、
ある時は部長、ある時は社長にまでなっていますが、どこの会社も闇社会に食われる様に倒産しています」
「死に神かよ」
「会社にとっては、ですね」

横溝の言葉に九条が応じた。

「車低のバックは顔根吾留」

九条の言葉に、横溝と白鳥は小さく頷いた。
今回の一斉摘発で挙げられた顔根吾留は国内最大規模で知られる関西系でも指折りの暴力団幹部、
当然知っている名前だった。

「人脈を手繰ってターゲットの会社のトップに気に入られる人っ垂らし。
様々な迂回路を使って闇の人脈を近づけておきながら、
自分はあくまで例え違法行為でも命令に従っただけ、と言う証拠しか残さない。

部長として特別背任の共犯で逮捕された事もありますが、
その時も積極的な捜査協力と従属的な立場を認められて起訴猶予になってる。
府警や地検の現場からは車低と顔根こそ本筋だって意見も根強かったのですが、
むしろ積極的に捜査に協力し資料を提供した車低の供述に乗っかる事でトップの特別背任が綺麗にまとまる。
大阪高検や最高検のそういう方針を覆せなかった」

「そつなく公判維持が優先、でしたか」

九条の説明に、横溝が言って猪口を傾ける。

「裏の税務処理を多く手がけていたために、
検察、特に関西では国税を通じた顔見知りがいたとも聞いています。
車低が潰した建設会社から早々に人材を含む優良資産を買い取る形になったのが…」
「鈴木建設、窓口になったのが当時鈴木にいた剤黄只士」

九条の言葉に、横溝が続けた。

「剤黄只士、鈴木の業務屋です。特捜部の応援をしていた時、調べた事がある。
幾たびもの修羅場を経て、本社役員から参与、嘱託、顧問と肩書きを変えても、
鈴木の裏の代表として談合を取り仕切って業界や行政、政治家、裏社会にも顔が利いた辣腕の業務屋。
談合の徹底摘発が国の方針として避けられなくなった時、鈴木を離れた筈でしたが…」
「下請けのサブコンで汚れ仕事、裏営業を引き受けてたって訳だ。
それで、今回とうとう元総理なんて大物共々パクられた。
車低は車低で、潰した会社はさっさと見限って今度はA…商事を食い潰した」

九条の言葉に横溝が続け、九条が頷いた。

「いくつかの会社、経済事件に関わった後、
コンサルタントを再開した車低の所に人づてで相談を寄せたのが当時のA…商事の会長周辺。
当時本社の営業部にいた会長の娘婿が関西方面で起こした厄介なトラブルの仲裁を依頼され、
依頼を受けた車低が話を付けた」
「マッチポンプ臭いですがね」

九条の説明にそう言った横溝が、九条と笑みを交わす。

「そんなこんなで車低に絶大な信頼を寄せた会長は、
後継者と目していた娘婿を関西事業本部長に就任させ、その部下として地元に明るい車低を付けた。
そうなる様に会長に入れ知恵したのが車低の息の掛かった人間とも知らずに。

車低が先行投資で演出した見せかけの実績と遊興、買収工作で、
会長も本部長も上も下も見事に籠絡されて婿殿は常務取締役関西事業本部長に昇進。
婿殿は丸め込まれるままに車低の持ち込む事業計画を次々と承認していった。
その結果、鈴木建設の債務保証を濫発する河豚舎と結び付いて、
中身の無いスカスカの事業計画で膨大な資金を流出させて破滅へとまっしぐら。これが今の所の流れ」

ぐっと猪口を空けた九条が、横溝から酌を受けた。

「その、名目だけの事業計画で抜かれたって言う巨額の裏金。
その中から、剤黄の関わった政界工作資金が出ていると?」

白鳥が尋ねた。

「どちらにも河豚舎が関わっている以上、その可能性は高い。
河豚舎の関わった債務保証の濫発は、
その使途を含めて彼自身の作成していた記録と共に特捜部が把握しています」
「車低がメインだとすると、かなりの部分がマルBにも流れたと見るべきだ。
だから、顔根も、顔根と連んだ安他茶振なんて顔役もまとめてパクッた。そういう事でしょう」
「鈴木ルートにはもう一人、最も肝心な人物がいました」
「いました、ね」

ふっと笑みを漏らす横溝に、九条も頷いた。

「鈴木会長が逮捕された直後に殺害された伊西田データの伊西田。
そもそも、鈴木会長が勝手に株式を売却した、その売却先が伊西田です。
鈴木会長が恐らく突発的に京都府警に逮捕され、その伊西田が殺され、更に婿殿まで殺され掛けた」
「そりゃあ、大阪府警も検察もこれ以上待てやしない。
俺達の商売、生かしてぶち込んでなんぼだ」

九条の言葉に、横溝が言った。

「そう。キーパーソンの死亡で捜査網が一部破綻しかけた。
相手は関西の魑魅魍魎、殺るか殺られるか、
事件を綺麗にまとめる事が難しくなり、だからと言って退く事は出来ない」

「だから、背後関係まで力ずくで根こそぎ。
荒っぽいっちゃあ荒っぽいが、第二の殺人未遂が裏目に出たな。
そんな状況に追い込まれりゃあ、操り人形だった常務だって完落ちだ」
「破滅寸前まで気が付かないほどの信頼を得る。それが凄腕の企業舎弟ですか」

横溝の言葉に、白鳥が言う。

「まさにそういう男だったみたいですね。
「過去の建設会社の倒産整理で、車低は今回逮捕された剤黄との接点もあった。
剤黄は、談合摘発を受けて表向きは鈴木本社から退いても鈴木の裏業務に変わりはなかった。
バッジやマルBとの関わりも含めて」

「「之矢九建設」、鈴木の下請けサブコンの社長として返り咲いて裏営業を取り仕切っていたって訳だ。
狭い業界だ、こっちもあり事件を調べてりゃあ色々と聞こえては来ていましたがね、
正直車低と剤黄の裏営業方面、そっち方面は我々では手が出せない」
「河豚舎による巨額の裏保証と、車低と剤黄が河豚舎と連んで色々きな臭い事をしていたと、
聞こえて来てはいましたが、近づくのは難しかった」

横溝の言葉に白鳥も続けた。

「周辺の人脈が危険過ぎて、一課の刑事が近づくのは危険過ぎる。
右から左に警察官の配置を飛ばせる人間があの周辺にはうじゃうじゃいる」

九条が言った。

「この二つだけでも十分厄介だってのに、菅須賀なんてのまでいやがるしなぁ」

横溝が、バリッと頭を掻いた。

「建築経営コンサルの菅須賀が、顧客の建設会社に、
河豚舎の発行する鈴木崎の債務保証書を斡旋してたってのはこっちにも聞こえて来てる。
その菅須賀が建設会社に手抜き工事を指導していたと内部告発された。
労基法違反は完全な別件逮捕。福岡地検の特別刑事部直々の一斉捜索、
本命は手抜き工事、そして、手抜きで浮いた差額の行き先、
菅須賀のバックに見え隠れするヤバイ連中の事も含めて」

「キッチリやるつもり。すぐに菅須賀代表の逮捕とまではいかなかったけど、
告発した建設会社とコンサル幹部の身柄を取ってガサ入れを優先した。菅須賀の背後には…」

横溝の言葉に九条がそう言って、いくつかの名前、関東系の大物暴力団幹部の名前を出す。

「それに、バッジも見え隠れしてる。告発した社長は本気で怯えていた。
労基法違反で強制捜査を受けた頃から、口封じをされるんじゃないかってね。
労基署からは書類送検されていたんだけど、いっそ口封じを無効にしてしまおうと、
刑事部の検事に知っている事をぶちまけた。
今の福岡の検事長は特捜出身のやり手。
報告を受けて特別刑事部を中心に高検管内の検察官を動員した大型捜査班を編成して一斉捜査に着手した」

「そうなって来ると、いよいよもってどの筋が河豚舎副社長を狙っていたのか…」

九条の説明に、白鳥がお手上げしそうな口調で言った。

「河豚舎から資料を回収しようとしていた奴、マルBを弾いた奴、やった奴は必ずいる。
金ならとにかく、実行犯だけの判断で家ん中で資料かき集めて勝手にポックリ逝きましたで通る話じゃねぇ。
特捜のエリート様が上から叩き割るか、それとも…」
「足跡追い掛けて、地べたから引きずり出すか、ですか」

横溝の言葉に白鳥が言い、九条が頷く。
改めて、三人のお猪口に熱燗が満たされた。