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  *  *  *

「ちょっと変わった味ね」
「渋いって言うか、多分八丁味噌か何かですね」

朝、作り置いた味噌と醤油の焼きおむすびを食べながら、朝比奈さん(大)と国木田が言葉を交わす。
午前中から、島の探索が行われた。
もしかしたら、島の中で持ち主が野外キャンプ中、等という淡い期待も込めてだ。

ボーガンを持った朝比奈さん(大)が先頭、ゲームであれば最弱アイテムである檜の棒、
つまりコテージに用意されていた杖を手にした俺達がその後に続く。もっとも、石弓は持ってるがな。
こちらの朝比奈さん(大)はしっかりして見えるし、最強武器を子供に使わせる訳にはいかないと言う事だ。
最良の目的に照らして言えば、そちらの方はスカだったが、
それ以外の収穫は色々と十分だった。

「ふぁーっ」

滝壺近くの川の中に、真っ裸になった国木田が気持ちよさそうに浸かっていた。
昨日の内にクルーザーから着替えこそ持ち出したが、
結局着替える暇も無く、トータルで半日以上真夏の島の中で着た切り雀で過ごしたんだ、
当然の生理的反応だろう。俺も含めてな。

「あっ、ごめん」
「よっ」
「もうっ」

国木田が腕を広げてこちらにしぶきが飛び、俺がお返しをして、
ふっと笑った国木田が両手で水をすくい上げて来た。

「そろそろいいかしらー?」

遠くから声が聞こえて、俺達は水から上がった。
別荘から至って近場であったため、そこに備蓄されていたバスタオルはそこから運搬済みだ。
その後しばらく、後ろを振り返ろうとするのをボーガンを手にした隣の国木田にさり気なく牽制されながら、
朝比奈さん(大)が新しいタンクトップにショートパンツ姿で髪の毛を拭きながら現れるまで、

俺は近くの木陰で檜の棒を手に待機する事となる。
滝と言っても人の背よりもちょっと高いぐらいで、その周辺から上に上る事が出来る。
その上下にはおあつらえ向きの川が流れている。ああ、分かってる、実際あつらえたんだからな。

実際、潜った国木田が魚群に歓声を上げていたが、今後を考えるなら大収穫だ。
後は、夕方までクルーザーから荷物を下ろし、炭水化物成分激増中の夕食をとる。
ただし、今回は納豆汁がついた。これも倉庫に大量に藁詰めされていたものだ。

「んー」

食後の片づけも終わり、囲炉裏端で車座でのUNOも一段落した所で、
朝比奈さん(大)がうーんと背筋を反らす。

「そろそろ寝ましょうか」
「はい」

そう言って、隣から自分の事を見ていた国木田に、
朝比奈さん(大)がにっこり微笑みかけた。
うん、俺なら卒倒する自信がある。その証拠に、国木田ですら返答の単語を示すので精一杯の表情だ。

  *  *  *

無人島生活三日目、森の中を探索中に、
先頭を行く朝比奈さん(大)が唇に指を当てて手招きをした。
促されるまま、木々の間から開けた土地を見ると、泥沼で猪の群れが転げ回っていた。

「ヌタ打ちですね。特に猪は虫がついたり体温が高いから、ああやって泥浴びをするって」

国木田が言う。

「いって見る?」

唇をぺろりと嘗めてボーガンを手に囁く朝比奈さん(大)を、国木田は止めなかった。
普通の高校生として、餓死の心配が無くなると誘惑に勝てないものらしい。
特に、俺達の場合は土地柄で割と猪の話題を聞くのだが、
だからと言って口にする機会がある訳じゃない。

幸い風下に立ったこちら側からの銃弾にも匹敵する強烈な一矢は、見事に手頃な一頭を仕留めた。
他の猪は戸惑っていた様だが、威嚇射撃が続いた事でようやく逃走を始める。

一方、国木田はコテージの物置小屋から持ち出していた鉈で、
手頃な若木を一本切り倒して枝を落として持って来た。
そして、三人がかりで、一緒に持って来た蔓で木の棒と猪の手足を縛り付ける。
ああ、かつての虫博士の俺の知識に照らしても、
猪の死骸にまともに触ったらダニに刺されて大変な事になるからな。

モッコ担ぎした猪の死骸は滝の近くまで持っていって滝壺の下流の川に沈める。
コテージにあった狩猟用ナイフで腹を割いて内蔵を抜き、死骸を鉈でバラバラにする。
と、簡単に書くが、こちらも素人だ。

河原近くでワタを抜きながら悲鳴の様な声で朝比奈(大)さんに助けを求め、
河原から頭ほどもある石をあの細腕で持って来てもらってハラワタの代わりに詰め込んで川に沈めた。
その見た目と言いそれより何より開いた消化器の臭いと来たら、
辛うじて死骸よりも下流に向けて自身の消化器の中身を口からぶちまけたと言う点においては、
俺は決して国木田に引けをとるものではなかった。

それでもなんでも、まあ、流されたものも相当にあったのも認めるが、
一応焼肉屋で見かける様なものの特大バージョンを作り上げる事ぐらいは何とかやって見せた。

「それで、このお肉。冷蔵庫には入りきらないけど…」
「じゃあ、干し肉作りますか?」

やや困り顔の朝比奈さん(大)に国木田が提案して、
伐採した樹木で物干しみたいなものを作って、バラバラに刻んで海水に浸した肉を吊していく。

「いただきまーす」

夜、別荘の囲炉裏に燃える焚き火の回りで串刺しに突き立てた焼肉をかじる俺達の前で、
朝比奈さん(大)が自在鉤の大鍋の蓋を開ける。
中身は、味噌味のモツ鍋だった。
実際に相当な重労働の上に、動物性蛋白質に飢えていた俺達は、握り飯を傍らに貪り食っていた。

  *  *  *

「便所」
「うん」

俺と、見張り役に指名された国木田が、連れ立ってトイレに立つ。
ここのトイレは別荘近くの小屋であり、足下の水路から川へと直行する仕掛けだ。

「キョン」

用を足し終えてコテージに戻る途中、国木田が乾いた声で言った。
国木田の視線の先では、熊が作成中の干し肉を漁っている所だった。

「おい、国木田…」
「目、目を反らさないで、そう、走らないであっちを見ながらゆっくり…」

自分で頷きながら呟いていた国木田は、先方の首がこちらに動くやストンと尻餅をついた。

「お、おいっ」
「だ、大丈夫、大丈夫落ち着いて」

国木田がそう言っている間にも、熊はのっそりとこちらに体勢を向け始めていた。
俺は、念のため「かたづけラッカー」で消して携行した「ショックガン」を確かめる。
そして、チラッと後ろを見た俺も、そして、気が付いた国木田も、目を丸くした。

白いタンクトップにショートパンツの上に、
白く長い前の開いたシンプルな衣装を羽織った朝比奈さん(大)が、
紫の鉢巻きを風になびかせながら檜の棒を手にザッザッと近づいていた。
呆然と見守る俺達を、ザッザッと追い抜く。

「キャインキャイン!!」

クマは、にげだした。

「す、すいません、変なアイディア出したせいで」

別荘に戻り、
汲み置きの水をシャツがびしょ濡れになるぐらいにヒシャクでがぶ飲みしてから、国木田が頭を下げた。

「んー、アイディアは良かったんだけどねー」

言いながら、朝比奈さん(大)はにこにこ笑って国木田に近づいた。

「ま、そういう事もあるって。無事で良かった」

にっこり笑った朝比奈さん(大)に頭を撫でられ、国木田は俯いた。
翌朝、つまり四日目の朝には、出来かけの干し肉はヌタ場に投棄されて、
それ以前に捨てた余った臓物と共に共食いの餌になった。

「いただきまーす」

一気に間をすっ飛ばして夜、囲炉裏端の俺達の前に並んでいるステーキは、
猪肉の一番いい所を冷蔵庫で一晩熟成させ、七輪で焼いたものだ。

「はーい、こっちも出来たわよー」

と言って、朝比奈さん(大)によってフライパンごと鍋敷きの上に乗せられたのは、
レバーと心臓と野蒜の炒め物だった。
別荘の近くに放置されている畑には本物の大蒜も半ば野生化しているのだが、
この野蒜の鮮烈さはいい。食用野草大百科は別荘に用意済みだ。

  *  *  *

無人島四日目の夜、森の中で焚き火を囲む俺達の前では、
木の枝で串刺しにされた野ウサギが二羽、こんがりと炙られていた。

普段の感覚からしたらやや刺激が強すぎるきらいもあるが、
三人揃ってちょっと調子に乗りすぎて森の奥、別荘から離れすぎた所で夜更けを迎え、
そこで光る目に気が付いたのだから仕方がない。

ここで外して夕食抜きと言うのも厳しい状態だったからな。
塩とナイフの持参、これはやはり絶対条件と言う事だ。

無人島生活五日目の夜は、試しに磯に潜って見た所、
ほとんど出会い頭に国木田のヤスがでっかい黒鯛を仕留めたために、
玄米飯に山菜の味噌汁と共に塩焼きで平らげた。

無人島生活六日目の夜は、石弓で捕った雉や山鳥の精肉を串刺しにして囲炉裏に差して、
囲炉裏の中心には金網を乗せた五徳を置いて鳥のモツ焼きを堪能する。
赤い火に脂が滴り漂う煙、ここからして実に、たまりません。

無人島七日目、この日は、ちょっと趣向を変えて、夕方から海岸に集まっていた。
砂浜にどっさり山盛りにされた海藻の中に、素潜りで手掴みしたガザミや伊勢海老が埋められる。
更にその上に集めておいた流木が積み上げられ、
離れた場所で赤々と燃え上がっている焚き火から大き目の流木がシャベルで持ち上げられて、
海藻の上の流木の上に放り出される。

まずは、更に別の、石で囲んだ焚き火の上で鉄鍋に煮える味噌汁と握り飯で軽く腹を刺激する。
軽くと言うが、味噌と海藻と伊勢海老をぶち込んだそれは普通の感覚ではボリューム抜群。
言うなればあれだ、朝比奈さん(小)ぐらいの破壊力はある。

次に朝比奈さん(大)、(特大)が控えている様な感じでよろしく。
頃合を見て海藻の上の焚き火をシャベルで解体し、海藻も別のスコップで押し開くと、
中では真っ白い塩がカラカラに固まり、真っ赤な獲物が熱々に湯気を立てている。

「ねえ、キョン」
「ん?」

大きな流木に並んで腰掛けながら、夕食中に国木田が声を掛けてきた。

「これって、普通に食べたらどれぐらいするだろうね?」
「さあな」

伊勢海老をへし折りながらの国木田の問いに、俺は素っ気なく返答する。
あいにくだったな、ガザミの甲羅をひっぺがして中身をほじくっている以上、
無口になるのが道理ってモンだ。

その間にも、焚き火から引っ張り出された真っ赤な流木の上では、
牡蠣やらウニやらがいい感じに沸いている。
指のミソをしゃぶっていた俺は、
牡蠣を皿に乗せてナイフでぐりぐりとこじ空けてすすり込み熱湯スープも一呑みにする。

熱によって味覚成分が程よく活性化された焼き牡蠣も悪くはないが、
目の前の海で取れたて新鮮の生牡蠣には余計な味付けも薬味も必要なし。
ただただ磯の鮮烈さとミルクの濃厚さの直撃を、朝比奈さん(大)も国木田もつるつると呑み込んでいる。
俺もこいつを一通り堪能したら、いよいよ手掴みで丸ごと伊勢海老様だ。