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春樹901~910
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①恥ずかしくなる

抱き合っている状況とはいえ、不意を突かれてまた顔が熱くなる。
恥ずかしさの限界なんてとうに超えている。
思わず私はぐっと腕を伸ばして、春樹から距離を置く。

「はっ、春樹はずるい!」
「何が?」
「私は火が出るほど恥ずかしいのに、春樹ってば余裕なんだもん」
「……余裕なんかあるもんか」
「す、好きとか真顔で言う余裕、私には無いから……」
「……まったく逆だよ、姉さん」
「な、なにが?」
「俺に少しも余裕が無いから言うんだ」

春樹は小さくため息を吐く。
そして観念したように口を開いた。

「義父さんや母さん、それに隆さんや長谷川先輩。一郎先輩や修二先輩、御門先輩や周防さんたち。
みんな姉さんを大事にしていると思うよ」
「……うん」
「姉さんも支えてくれた人達を大切だと思っているだろ?さっきも感謝してるって言っていたしさ」
「そうだね」
「張り合うつもりも競うつもりも無い。けどさ、心配なんだ」
「どういうこと?」
「俺の言いたい事、まだ分からない?」
「ご、ごめん」

私は肩をすくめて謝る。
春樹が何を伝えようとしているのかさっぱり分からない。

「姉さん、二つ目の知りたい事……だけど」
「な、なに?」
「俺の事を本当にどう思っているか、もう一度きちんと言葉に出して教えて欲しいんだ」
「もう一度……」
「改めて聞きたい。俺がもう二度と迷わないように」

①怯む
②言う
③うつむく

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②言う

(さっきは勢いというか……キレて本音が出ただけだもんね)

春樹がこちらを真っ直ぐに見ている。私は胸に手を当てて、息を整える。

(落ち着いて……落ち着いて……)

春樹が何を心配しているのか、まだよく分からない。
けど今度こそ春樹に伝わるよう誠意を持って言わなくちゃいけない気がする。

「……あ、あのね。わ、私ね……」
「うん」
「まだ全部を受け入れられないかもしれないけど……でも」
「……うん」
「でもね、私も……ずっと春樹がす――」

突然、バタンとドアの開く音する。
私は出そうとしていた言葉がそのまま肺に入り、思わず咳き込む。

「ゴホッゴホッ」
「愛菜ちゃん!」

涙目のまま声の方へ振り向く。
チハルが春樹の部屋からバタバタと走り寄ってくる。

「動けるようになってよかったね!」
「ゴホッ……あ、ありがとう。心配かけたね」
「あれ? 愛菜ちゃんまだカラダ悪い?」
「ううん。むせただけだから……」
「えへへ、よかった。あ、春樹もいたんだ。おはよう」
「……………やっぱり」
「聞こえなかったの? お・は・よ・う」
「……こんな事になるだろうとは思っていたけどさ」
「なぁに? ボクに聞こるようにあいさつしなくちゃダメなんだよ」
「……俺、朝食の用意してくる。風呂も入れておくから」
「そ、そう。ありがとう」
「……チハルも二度寝せずにちゃんと来いよ」
「うん。わかった」

何事も無かったように、さっさと階段を降りていく春樹を慌てて止める。

「ま、待って春樹」
「何?」
「あの……私達、今まで通りにしていればいいんだよね」
「……………」
「ほら。春樹も少しずつ変わっていけばいいって言ってくれてたし」

私の言葉に春樹は無言のまま頷く。
春樹の姿が消えて緊張のとけた私に、チハルが話しかけてくる。

「ねぇ愛菜ちゃん、ボクじゃまだった? 春樹もおこってたみたいだし」

①「怒ってないよ」
②「多分……」
③「気にしなくていいよ」

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①「怒ってないよ」

「そうなの?」
「うん。少しタイミングが悪かっただけだから」
「たいみんぐ?」
「いいの。それよりこれからお風呂に入るけど、一緒に来る?」
「うん!」
「じゃあ行こうか」

チハルの登場でなんとなく告白が曖昧な感じになってしまった。
先延ばしになって、ホッとしたような残念なような複雑な気分だ。

(また今度きちんと話せばいいよね)

私は気持ちを切り替えて、チハルと一階へ降りる。
一緒にゆっくりお風呂に入り、着替えを済ませてリビングへ向かった。
さっきの事もあって、少しドキドキしながらドアを開ける。
すると制服を着て出て行く用意をしている春樹が居た。

「姉さん、チハル。二人の分の朝食はテーブルに並べてあるよ」
「春樹の分は?」
「ちょっと行くところがあって。先に食べた」
「どこ行くの?」
「制服着てるんだから学校に決まってるだろ」
「そっか。明日は文化祭だもんね」
「昼食は冷蔵庫に入ってるから。夕方までには戻るよ」

最初は緊張しながら入ったものの、気が付けばいつも通り話せている。
変に構えたり、意識しすぎないほうがいいのかもしれない。
先に食べ始めたチハルはご飯を口いっぱいに頬ばっていた。

私は……
①「いってらっしゃい」
②「そういえば春樹のクラスは何するの?」
③「私も学校に行こうかな」

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②「そういえば春樹のクラスは何するの?」

春樹のクラスの出し物について聞いたことが無かった。
いろいろなことが沢山あったから、つい聞きそびれていた。

「えっ……と。き、喫茶店かな」
「喫茶店かぁ。それで文化祭の準備なんだね」
「今日は家庭科室を借りてカップケーキやクッキーを焼くんだ」
「本格的だね」
「女子はかなり忙しいみたいで、男子がお菓子作りをする羽目になってさ」
「どうして女子は忙しいの?」
「わりと凝った衣装をつくってるらしくて」

(衣装って……)

「衣装って事は何か仮装するの?」
「ま、まあね……」
「楽しそう。明日は私もお客さんとして行くからね」
「こ、来なくていいよ!」
「なんで?」
「きっとつまらないだろうし」
「そんな事、行ってみなくちゃ分からないよ?」
「俺には分かるんだ」
「面白いかどうかは私が決めることだと思うけど」
「とにかく姉さんは昨日まで動けなかったんだから。無理して来る必要ないよ」
「無理してないもん。もう大丈夫だし」
「大丈夫なもんか」
「じゃあ今日はずっと家で大人しくしてる。それなら明日は自由にしていいでしょ?」
「……………」

(春樹?)

春樹がなぜか黙ってしまう。

①「もしかして私が行ったら迷惑になる?」
②「嫌なの?」
③「具合悪い?」

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①「もしかして私が行ったら迷惑になる?」

「そんな事は無いけどさ……」
「行ってもいいの?」
「まぁ……」
「なら楽しそうだし行く」
「好きにすればいいよ……」

春樹は歯切れの悪い言い方をしながら鞄を持った。

「それじゃ行ってくる。チハル、もっとゆっくり食べないと駄目だぞ」
「うん!」
「春樹、いってらっしゃい」

(今日は一日中お留守番になっちゃった)

朝食を食べ終え、後片付けを済ませる。
やる事が何もなくなってしまって、なんとなくテレビを点ける。
チハルが好きそうな子供向けの番組でチャンネルを止めた。

(そういえば香織ちゃん大丈夫かな)

この前、帰り際で顔面蒼白だった。
急に心配になって、携帯をポケットから取り出す。
すると香織ちゃんから昨日の日付でメールが届いていた。

『委員長に送ってもらってから、ベッドに倒れこんで今まで寝てたよ。
丸一日寝たなんて生まれてはじめてかも。
夕方になって目が覚めたらすごく調子がよくて昨日までが嘘みたい。
色々あったけど愛菜は大丈夫だった?
文化祭にはもちろん来られるよね?』

(昨日の夕方か)

その時間といえば修二くんと契約した頃と一致する。
私の体が動けるようになったみたいに、香織ちゃんにも良い変化として現れたのかもしれない。
少し考えて、電話ではなくメールの返信を打ち始める。

『おはよう。私も大丈夫だよ。
文化祭にはもちろん行くからね。だけど今日は念のため一日家にいるつもり。
話したい事もあるし、明日また会おうね』

(これでよし。……って、他にも連絡取ったほうがいいかな)

①一郎くん
②修二くん
③隆
④冬馬先輩
⑤やっぱり止める

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⑤やっぱり止める

(明日になったら会えるし、今日はいいや)

携帯を閉じた時、洗濯の終了を知らせる電子音が聞こえた。

(洗濯ものがあったんだ。今のうちに干しちゃおっと)

掃除や洗濯は綺麗になっていくのが好きだし得意な方だ。
何より外に出て陽の光を浴びながら干す洗濯はとても気持ちいい。
家族の分も一通り干し終えると、チハルの好きな番組がちょうど終わったところだった。

「チハル、家のお掃除もしたいんだけど手伝ってくれる?」
「うん。いいよ」
「よーし! 張り切っていっぱいお掃除するからね」

私とチハルで家中の窓を開けた。
風の冷たさを肌で感じて、秋が深まってきたことをようやく思い出す。
この半月は色んなことがあった。
こうしていつも通りに過ごして、やっと穏やかな日常を取り戻せた気がする。

昼食を食べて、また掃除の続きを始める。
以前より幼くなったチハルも、色々手伝ってくれていた。
二度手間な事もあったけど、一人でするよりうんと楽しくできた。

「最後にここの雑巾がけね。これ済んだらおしまいだから」
「これボクもする!」
「じゃあどっちが端まで早く行けるか競争ね」
「ぜったい負けないもん」
「私も負けないよ。よーい、ドン」

二人で二階の廊下を雑巾掛けをしていると、玄関の開く音がした。

(誰だろう)

①春樹
②隆
③お義母さん

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③お義母さん

「愛ちゃんただいま。二階に誰かと居るの?」

(お義母さんだ!)

「チハル、ぬいぐるみに戻って」
「どうして?」
「話は後で。とにかく早く!」
「うん!」

チハルがテディベアに戻るのと同時に、お義母さんが二階に上がってきた。

「あら? さっきまで子供の声がしていた気がしたんだけど……」
「き、気のせいだよ」
「そう……?」
「ずっと私ひとりだったよ」
「それより愛ちゃん、風邪で寝込んでいたんだから掃除なんてしなくていいのに」

雑巾とテディベアを抱きしめたままの私を、お義母さんは心配そうに見ている。
その視線を誤魔化すように、持っているものを急いで後ろ手に隠した。

「この通り、とっても元気になったんだよね」
「こんな所に居ては体が冷えてしまうわ。リビングに行きましょう」
「そ、そうだね」

促されるままリビングに行く。
私の変わりにバケツと雑巾を片付けてくれたお義母さんも後から入ってきた。

「この前から風邪をこじらせて声も出てなかったでしょ?」
「う、うん。でも体調はすっかり良くなったよ」

一度嘘をつくとその嘘を隠すためにまた嘘をつく。
今までこんなに沢山の嘘をお義母さんに言った事がなかった。
悪いことをしているようで、お義母さんの顔を真っ直ぐ見られない。
だから私は逃げるように話題を変える。

「そ、それより今日はお父さんの帰ってくる日だったよね」
「そうだったわね。せっかくだから今日のお夕飯は張り切っちゃおうかしら」
「うれしいな!」
「それじゃあ……愛ちゃんは何が食べたい?」

①パスタ
②コロッケ
③ビーフシチュー

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②コロッケ

「お義母さんの手作りポテトコロッケが食べたいな」
「愛ちゃん。コロッケなんかでいいの?」
「私、お義母さんのコロッケ大好きなんだ」

お義母さんのコロッケは一からの手作りだ。
小さい頃にお惣菜ばかり食べてきたから、ホクホクの手作りは何より贅沢に感じる。

「コロッケって安くできるし、とっても簡単なのよ?」
「へぇ、美味しいのに簡単なんだ」
「かわいい娘のリクエストには応えなくちゃ。待ってて、すぐに用意するわね」

キッチンへ向かったお義母さんの背中を見送る。

(コロッケって簡単なんだ。だったら私にも出来ないかな)

なぜか料理を手伝おうとすると、家族のみんなはやんわりと断ってくる。
いつしか料理は春樹とお義母さんの領分になって、私はほとんど手付かずだった。
その理由が今まで分からなかったけど、致命的に下手なのだと自覚すれば納得できる。

「お義母さん。私も手伝いたい」

キッチンでエプロンを着けているお義母さんに声をかける。

「いいのよ。さっきまでお掃除してくれてたんだし、私がするから」
「ううん。私、すごい料理下手だって分かったの。少しでも上手くなりたくって」
「愛ちゃん?」
「今までみたいに頼ってばかりじゃ駄目だと思うから。尻込みしてちゃずっと変われないから。
だからね、基本の基本から私に作り方を教えて」

エプロンの紐を結ん私に向き直ったお義母さんの顔が、少し驚いて見える。

「愛ちゃん……何か特別な事でもあった?」
「な、なんで?」
「帰ってきた時から感じていたのだけど……愛ちゃんの雰囲気がちょっと違う気がするわ」
「そ、そう?」
「ええ。職業柄かしらね、こういう観察眼は鋭い方なんだけど」

微笑んでいるのに、なぜかお義母さんの目が意味ありげに光った。

(どうしようかな……)

①隆に下手だといわれたことを言う
②春樹との事を言う
③黙っている

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③黙っている

「もしかして……手作りを食べさせたい特別な人ができたとか?」

冷蔵庫からじゃがいもと玉ねぎを取り出し、お義母さんが冗談っぽく尋ねてきた。
いきなり図星を突かれて、顔がカァっと熱くなる。

「あらら。愛ちゃんは判り易くて助かるわ」
「お、お義母さん!」
「その人って、この前公園に居た真面目そうな男の子かしら?」
「ち、違うよ。一郎くんはただのお友達だし!」
「そう……違うの。じゃあ、私の知らない子?」
「よ、よく知ってる人だよ……」

嘘をつくことも出来たけど、私は正直に答える。

「私の知っている子といえば……わかったわ、幼馴染の隆くんね」
「隆も違うよ」
「他に私の知っている子なんて居たかしら……?」

お義母さんは悩みながら、引き出しから料理本を出して私の前に置いた。

「おしゃべりもいいけど、料理もちゃんとしなくちゃね」
「そ、そうだよね」
「随分使い込んでるでしょ? この本」
「あれ? ……このコロッケのページの書き込み、お義母さんの字じゃないね」
「この本、小学生の春樹が使っていたのよ。わかりやすいのが欲しいって言われて」
「そうなんだ……」
「あの春樹だって最初は本に頼っていたのよ。基本さえ押さえれば愛ちゃんもすぐ上手くなるわ」
「うん。頑張る」

本に書かれた、子供のつたない字を指でなぞる。
几帳面に記入されているけど、失敗もあったのか試行錯誤が見て取れる。
ただの使い古された本だったけど、私にはかけがえの無いものに思えた。

「これが……まだ出会う前の春樹の字なんだ」
「愛ちゃん、もしかして……」
「どうしたのお義母さん?」
「私がよく知っている愛ちゃんの特別な人というは……もしかして春樹の事、なのかしら?」

驚きと戸惑いの入り混じった声でお義母さんは尋ねてくる。

①うなずく
②首を横に振る
③黙っている

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①うなずく

私は無言でうなずく。
するとお義母さんはしばらくして「そう」と呟いた。

「やっぱり、驚くよね」
「そうね。正直に言うと、すごくびっくりしたわ」
「ごめんね」
「どうして愛ちゃんが謝るの? 何も悪いことじゃないのよ」
「でも……」
「ところで春樹の方は、愛ちゃんの気持ちを知っているの?」
「知ってるはずだよ。……まだきちんとは言ってないけど」
「一体どういう経緯でそうなったの?」

能力の事や組織の事をありのまま全部話せば、気持ちも楽になるだろう。
でもお義母さんに言える事は少ない。
だからこそ、私の気持ちくらいは正直に言いたかった。

「色々とあったんだ。大まかに言うとね、春樹に告白されて私も自分の気持ちに気付いたって感じで」
「……そうなの。だったらなんとなく想像できるわ」
「何が想像できるの?」
「実は愛ちゃんへの態度を見ていて、春樹が思いを寄せているのは前から判っていたの。
でも愛ちゃんは全然気付いてないんだもの。だからびっくりした訳」
「えっ!?」

(お義母さんは春樹の気持ちに気付いていたの……?)

「この前のおまじないの話の時、そんな素振りは少しも見せてなかったよね」
「そうね。でも私が無理に問いただすことではないし、春樹も認めなかったと思うわ」
「確かに……」
「器用そうに見えて不器用なのよね、あの子」

お義母さんはふふっと笑っている。

私は……
①「そうかな?」
②「そうかも」
③「不器用?」
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