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④大和先輩

「良く会いますね」
先輩は私を見ると、こちらに歩いてきた。

「そうですね……。先輩はもう食堂終わったんですか?」
「はい」
「そうなんですか」
それで会話は途切れてしまったが、不思議と居心地は悪くない。
二人でぼんやりと夕焼けを見る。
と、唐突に強い風が吹きぬけていった。

「あっ」
慌てて、スカートを押える。

「大丈夫ですか?愛菜さん」
「は、はい……え?」
乱れてしまった髪をなでつけながら返事を返して、違和感に首をかしげる。

(私、名乗ってないよね?)
私の疑問に思い当たったのか、大和先輩は少しだけ微笑んで「テーブルでの会話が聞こえましたから」と答えた。

「そうなんですね。あ、でも、改めまして……私、二年の大堂愛菜です」
「僕は三年の三上大和です」
なんとなく今更な感じがしないでもないが、お互いに名乗り合って笑いあう。

「そういえば、先輩記憶力すごく良いですよね。メモも取らずに一回聞いただけで注文受けてたし、すごいなって思います」
「良く言われます。でも僕にはそれが当り前だったので、すごいと言われてもピンと来ないんです」
少し困ったように先輩が言う。
もしかしたら、いつも同じような話題になるのかもしれない。

「そうなんですね。でもそういうものですよね。
 私の夢だってストーリー形式の上、連続で見るからすごいとか気持ち悪いとか言われるけど、私には当り前の事だし」
「そんな夢を見るんですか?」
「はい、今日の文化祭で演劇をやったんですけど、私の夢を脚本にしたんです」
「そうだったんですか。見られなくて残念です」
本当に残念そうに先輩が顔を曇らせる。

①ここでストーリーを説明する
②後で脚本を貸すと言う
③別の話題を探す

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③別の話題を探す

「あ、あの、先輩!」
残念そうな先輩の顔を見ていたら、これ以上この話をするのはなんだか申し訳ない気がして
私は話題を区切るように先輩に声をかけた。

「…はい…?」
私が突然大きな声を上げたせいなのか、
先輩は少しきょとんとして、こちらを見ている。

「あの…ええと、せ、先輩は、何か夢とか見ますか!?」

何か話題を…と考えているうちに、
気がつけばそんなことを口にしていた。

「…夢、ですか?」
先輩は私の質問を受けて、更にきょとんとしている。
「…………は、はい…………」

何でこんな質問をしてしまったんだろう…と、
恥ずかしさで下を向いてしまう。

ふたりの間に訪れる、僅かな沈黙。

(ああ、聞かなければよかったかな…。
変な子だって思われたかも…)
そんな風に後悔しつつも、ただ黙って大和先輩の答えを待つ。

「……なんと言ったらいいのか、よくわかりませんが……
不思議な夢を、よく見ます」

やがて返ってきた大和先輩の答えに、
私は顔を上げ、大和先輩を見つめる。

大和先輩は、どこか遠くを見つめながら
言葉をつむいでいった。

「夢の中の僕は…どうしても守りたいものがあって…
なのに、それを守りきれずに、失くしてしまう。
でも、僕の守りたかったものは…最終的には。別の形で守られていって…
そうして、僕は満足…いえ、違いますね。

『納得』して、目覚める。

…そんな夢です」

そう語る大和先輩の横顔は、なんだか儚げで。
私が何の反応も返せないまま、大和先輩をじっと見ていると―――

「…すみません、変な話をしました。
今の話は…忘れていただけませんか」

大和先輩は儚げな表情のまま、こちらを向いて微かに微笑んだ。

私はそれを見て…

①「変な話なんかじゃないですよ」と微笑み返す。
②「どうして私にそんな話を…?」と聞いてみる。
③「ごめんなさい」と謝って話題転換。

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①「変な話なんかじゃないですよ」と微笑み返す。

「自分で守りきれなかったのは残念ですけど、最終的に納得できたのならいい夢なんじゃないですか?」
「……いい夢ですか?そう、なのかもしれませんね」
大和先輩は思いもしなかったという顔をして、それから笑った。

「ええ、いい夢ですよ。私の夢だって、途中やりきれないことも多いけど……
最後は夢の中の自分が納得してる終わり方だから、いい夢だって思ってます」
「だから劇にしたんですね」
「そう考えたことは無かったけど、確かに納得出来ない終わりかたの夢なら劇にしなかったですね」
そう、夢の中の主人公である壱与は最終的に自分のしたことを悔いてはいなかった。
帝と結ばれる事が無くても、帝が願った平和な国を造る手伝いが最後まで出来たことがうれしかった。

「私も夢の中の壱与みたいに、悔いの無い人生にしたいな」
「それは大変ですよ、僕たちの先はまだまだ長いですからね」
「確かに……。でも、だからこそ、いろいろ悔いることもあるだろうけど、最終的には…ってね」
「あなたのそういう前向きな所は好きですね」
「……え!?」
さらりと言われた「好き」という言葉に驚いて、思わず大和先輩を見上げると、ひどく優しげな視線にぶつかった。
自分にお兄さんがいたらこんな感じで見守っていてくれるのではないだろうか?

(と、特別な「好き」じゃないよね、うん。びっくりしたー)
その視線にホッとして「ありがとうございます」と口を開きかけた所で、屋上の扉が開くのが目に入った。
やってきたのは春樹だった。
春樹は私と大和先輩に気が付くとこちらにやってくる。

「春樹どうしたの? ここは一般客は立ち入り禁止のはずだけど」
「そうなんだ、でも、なんか懐かしくて」
春樹はそう言うと、ぐるりと屋上を見渡す。

「記憶にあるんだこの場所」
「そうだね。めったに来たことは無かったけど……最近だと修二先輩を迎えにきたっけ」
「修二先輩?」
「あ、こっちの話」
春樹は苦笑して、私の横に立つ大和先輩に会釈する。
そしてふと大和先輩を見つめて、首をかしげた。

「もしかして御門、先輩……?」
「?」
表情に乏しいが、幾分不思議そうな顔で大和先輩が春樹を見る。
春樹の記憶の中には大和先輩も居るのだろうか?
でも大和先輩は「御門」という苗字ではない。

①詳しく聞いてみる
②聞き流す
③屋上から出て行くように言う

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①詳しく聞いてみる

「春樹の記憶の中には大和先輩は御門という名前なの?」

私の問いに一瞬だけ迷いを見せる。
そして「そうだね」と呟いた。

「あ、こちらは高村春樹くんです。大和先輩は食堂で見かけてるかな……?」

記憶力のいい先輩なら、春樹の顔を覚えているかもしれない。

「お好み焼きとミックスサンドとコーヒー……ですね」

顔も覚えているみたいだけど、注文の内容までしっかり覚えているようだ。
これだけ記憶力がいいと、みんなから相当珍しがられているだろう。

「本当に記憶力がいいんだ。さすがだな」

さすがと言う割りに、あまり驚いている感じでは無かった。
私なら何度目の当たりにしても驚くほどの記憶力でも、とても冷静に受け入れている。
そんな春樹を見ていると、大和先輩に向かって口を開く所だった。

「ところで大和先輩。愛菜が書いた脚本の劇、観られましたか?」
「いいえ。僕は食堂に居たので観ていません」
「そうですか。大和先輩ならきっと共感できる部分があったはずなのに、残念だな」

(春樹は私達の劇に共感してくれたんだね)
そう思ってくれるだけで、クラスで頑張った価値があるというものだ。

「ねぇ、春樹。私の劇のどこに共感したの?」
「……そうだな、共感というよりすべてが繋がったと思ったよ」
「すべてが繋がる……?」
「ルーツを見つけた。そんな感じだった」
「確かに、古代日本だから私達のルーツだよね」
「そうだね。だけど、個人的にも色々納得できる所があったんだ。それを共感と呼んでいいのかは分らないけどね」

春樹くんはあの劇で何かを見つけたようだ。
私も壱与の考え方に共感できる部分が多かったから、なんだか嬉しくなる。

私は……
①「一番誰に共感できた?」
②「あの劇のどの場面が気に入った?」
③「そういえば……大和先輩と帝ってちょっと似てる?」

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①「一番誰に共感できた?」

「共感、か……共感なら帝に一番したかな」
「?」
「大切な人を護りたい、ずっと一緒に居たいっていうのは誰でも共通だとおもう」
「確かにそうだね」
「でも……いや、だからこそかな、守屋にも共感できるよ」
「え?」
「だって、守屋も子供の頃から好きだった壱与を助けたかったんだろ?」
「そうだね」
「ずっと幽閉同然の壱与を助け出したい。不幸な境遇から救いたいっていう想いにも共感できる。
まぁ、それは守屋の思い違いだったみたいだけれど」
「そっか、確かに守屋の視点から見ても根底にある思いは同じなのかな。壱与は気付かなかったけれど」
春樹はそれに少し苦笑する。

「案外壱与はそういう感情に鈍感だったのかもしれないね」
「うーん、そうなのかも?巫女だったし、基本的にそう言う感情は切り離してた感じ。帝は別だけど」
「……もし守屋が壱与の気持ちに気付いていれば、全く違う話になっただろうね」
「そうだね……、ちょっとしたすれ違いだもん」
「それもあるけど…守屋は帝の気持ちには気付いてたんだよ」
「え……?」
不思議そうにする私に、春樹が少し笑う。

「春樹?」
「同じ人を好きな者同士というのは、案外お互いの気持ちに気付きやすいものだよ」
「そういうもの?」
「なにせ同じ人を目で追ってるからね」
「なるほど……」
春樹からそういう話が出るとは意外だった。
春樹にはそういう意味で好きな人が居るのだろうか?

「だからね壱与の気持ちに守屋が気付いていれば、二人は両想いってことになる。
自分の想いはかなわないものとして、きっと身を引いたよ」
「そうしたら、謀反は起きなくて、長引く戦で体調を崩した帝ももっと長生きできた?」
「もともとそれほど体が強くなかったって言ってから、それは分からないけれど……」
春樹は少し考えるように言葉を切る。

「きっと三人で力を合わせて大和を守って行く結末になったんじゃないかな」
「守屋も一緒に?」
「そう、守屋は壱与が幸せならそれで良かったんだ。
好きだけど自分じゃ幸せに出来ないと知ったら、その思いは壱与には悟らせないで見守っていたと思うよ。
まぁ、隠さなくても壱与は気付かなかっただろうけど」
「壱与には帝しか見えて無かったみたいだしね」
私が苦笑すると、春樹は少し複雑そうに私を見た。
どうしたんだろう……

①どうしたのか聞いてみる
②気にしない事にする
③会話に加わって居ない大和先輩を見る

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①どうしたのか聞いてみる

「どうしたの?」
複雑そうに私を見る春樹に、思わず首をかしげた。

「いや、なんでもないよ。壱与は芯の強い女の子だけど、ひどい鈍感体質だからね」

(うーん。鈍感なのは私も感じていたけど……)
春樹の言い方が面白くなくて、思わず頬を膨らませてしまう。

「壱与の事を言われているのに自分の事を言われてるみたいで……なんだかムカつく」
「それだけ壱与に共感しているって事だよ」
「まぁね……」
「もしかしたら、愛菜のルーツは壱与だったかもね」

春樹の目はとても優しい。少しだけ私のお父さんに似ている気がする。

(私のルーツが壱与……)

「もしそうだったら嬉しいな。私は壱与の事が大好きだもん。
大切な家族や国を滅ぼされても、それを乗り越えて平和の為に生きていく。
なかなか出来ることじゃないと思う。もし私が壱与だったら、きっと心を壊していたよ」

私なんて、ちょっとしたハプニングでもすぐ動揺するし、気も小さい。
良いと感じた事でも、反対されてしまうとすぐに萎縮してしまう。
事なかれ主義というか、主体性が無い自覚があった。

けれど春樹は私の言葉を聞いて、大きく首を横に振った。

「愛菜は心を壊したりなんかしないよ」
「どうしてそう思うの? 私なんて壱与にくらべたら全然弱いよ
「だって俺は……」

また何か言いかけて、春樹は口をつぐんでしまう。
言いたい事を押し殺すように、春樹は黙り込んでしまう癖があるようだ。
なんだか見ているだけで、こちらまで苦しくなってしまうくらいだった。

私は……
①沈黙に耐え切れず大和先輩に話しかける
②どうしていつも黙り込むのか春樹に尋ねる
③二人に飴をくばる

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②どうしていつも黙り込むのか春樹に尋ねる

「どうして言いかけて止めちゃうの?」
顔をしかめて言うと、春樹は苦笑した。

「気付いたからだよ」
「え?」
「今俺が言おうとしたことは、記憶の中の『姉さん』のことだって」
「あ……混じっちゃったのね」
「そういうこと。気をつけてはいるんだけれどね」
そう言って春樹は記憶を確かめるように目を閉じた。

(今はそっとしておいたほうがいいかな?)
春樹から意識を逸らすと、ぼんやり空を見上げている大和先輩が目に入った。
つられるように空を見上げると、大分暗くなった空に星がまたたき始めていた。

「暗くなるのがだいぶ早くなりましたね」
「そうですね」
私達の会話が途切れたタイミングで、大和先輩が静かに言葉を発した。
私はそれに頷いて、視線を大和先輩に移す。
大和先輩は春樹を見ていた。そして目を閉じたままの春樹におもむろに口を開く。

「あなたの記憶は、僕の夢に通じるものがあるのかもしれません」
「え?」
突然のことに春樹は驚いたように目を開ける。

「夢って、さっき言っていた夢の事ですか?」
「そうです、出てくる人物の顔や名前はとてもおぼろげで覚えていませんが……。
でも、今日食堂であのテーブルに座っている人たちを見たとき、とても『懐かしい』と感じました。
そして『よかった』とも……。それは夢の中で感じた気持ちと同じものでした。
あなたはおそらく、僕とは違って鮮明にそれを覚えているのでしょう」
「だから記憶が混乱してしまう?」
大和先輩の言葉に私がたずねると、大和先輩は頷いた。

「現実と区別がつかないくらいに鮮明な夢なのかもしれません」
「夢……か、確かにそうかもしれない。……今となっては」
春樹は俯いて、少しだけ口の端に笑みを浮かべた。
それから気を取り直したように顔を上げる。

「大和先輩でもさすがに夢までは記憶に残っていないんですね」
「……夢ですから」
少し困ったように大和先輩が答えると、春樹はひょいと眉を上げた。

「『夢』の先輩と、今の先輩は似てると思ったけれど……ぜんぜん違いますね。でも、断然こっちの方がいい」
春樹は少しうれしそうだ。

①夢の大和先輩について聞いてみる
②他には誰が夢に出てくるのか聞いてみる
③夢の話はおしまいにする

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①夢の大和先輩について聞いてみる

「夢の大和先輩は一体どんな人だったの?」

うれしそうな春樹に向かって私は問いかける。

「俺の記憶の中にいた大和先輩は御門冬馬という名前だったんだ」
「それ、さっき言ってた事だね」
「うん。で、記憶の御門先輩は……とても無愛想な人だったよ」

(無愛想……)
今の大和先輩もどちらかと言うと表情が乏しい気がする。
私の考えていることが分ってしまったのか、春樹は小さく微笑む。
その後すぐに真剣な表情に戻って、言葉を続けた。

「だけど、無愛想だったのには理由があったんだ」
「理由……ですか?」

大和先輩も興味があるのか、春樹の言葉に耳を傾けている。
春樹は大和先輩に「はいそうです」とうなずいて、また私に向き直る。

「卑劣な大人達が幼い頃の御門先輩を道具のように利用していたんだ。多分、御門先輩はその出来事のせいで心を閉ざしてしまったんだと思う。本当の御門先輩は……大和先輩のようにちゃんと話せる人だったのかもしれないのにね」
「かもしれないって……。春樹はその御門先輩と親しくなかったの?」
「御門先輩は元々、ほとんど話さない人だったから」
「じゃあ、どうして春樹はその事を知っているの? その御門先輩に直接聞いたの?」
「違うよ。その卑劣な大人たちって言うのが……俺の親族だったからだよ」

春樹はそう言うと、辛そうに目を閉じる。
大和先輩を見ると、無表情な顔で春樹を見ていた。
そして少しだけ首を傾けながら、唇をかみ締めている春樹を覗き込んだ。

「顔を上げてください」
「……大和……先輩?」

顔を上げた春樹に、大和先輩は笑顔を向ける。
その笑顔はとても柔らかいものだった。

「たとえ記憶の中の僕が春樹さんの親族から利用されていたとしても、悪いのはその大人達です。春樹さんが罪を感じる必要は無いと思います」
「でも……」
「きっと記憶の中の僕は、春樹さんを恨んでいません。だから僕は『よかった』と感じる事が出来たんじゃないでしょうか」
「大和先輩……」

春樹は肩の荷を降ろしたように、顔を崩す。
そして「ありがとうございます」と言って頭を下げていた。

私は……
①記憶の中の春樹について聞いてみる
②他には誰が記憶に残っているのか聞いてみる
③記憶の話はおしまいにする

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①記憶の中の春樹について聞いてみる

「その記憶の中では春樹は私の弟なのよね?」
「うん」
私の言葉に、春樹は頷く。

「ってことは、その親族って私の親族でもあるのよね?」
「違うよ。愛菜は姉さんでも、義理の姉だからね」
「え?」
「俺の母さんと、愛菜の父さんが再婚したんだ」
「え……じゃあ、私のお母さんは……?」
「……子供をかばって交通事故で亡くなった」
「あ……」
そういえば、春樹に再会した時お母さんをみてものすごく驚いていた。こういう理由だったのだ。

「じゃあ、秋人さんは?」
「兄さんは兄さんさ。腹違いの兄だったから一緒ではなかったけれど……とても優しい人だった」
「その辺はかわってないのね」
「……そうだね。俺は、義父さんと母さんと愛菜の4人であの家に暮らしていた」
「あれ? 千春は?」
「……千春は……愛菜の持ってるテディベアの名前だったかな」
少し言いにくそうに春樹が言う。

(テ、テディベアが千春……)
「千春には申し訳ないけれど、俺は千春のポジションに居た事になるね」
少し苦笑して春樹が続ける。

「愛菜と俺は3ヵ月しか誕生日が違わなくて、愛菜が後2週間くらい遅く生まれていたら同じ学年だった……。いやそれは今も同じか。
俺は良く寝過ごす『姉さん』を起こしたり、食事の用意をしたり……」
ひどく懐かしげに春樹は遠くを見つめて言う。
けれどどこか寂しげなのは何故だろう。

そんな春樹をみてふっと言葉が口からすべり出る。
①「今、幸せじゃないの?」
②「お姉さんが好きだったの?」
③「夢が現実になればいいと思ってるの?」

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③「夢が現実になればいいと思ってるの?」

懐かしそうで少し寂しげな春樹を見て、そんな言葉がすべり出た。

「どうだろう……。自分でもよく分らないよ」

私と記憶の『姉さん』をいつも混ぜそうになって、いつも言葉を詰まらせる春樹。
きっとまだ記憶と現実の狭間で揺れているのだろう。

大和先輩は何も言わず、ただ静かに私達の様子を見つめている。

「正直、今でも寂しいし、孤独に感じる事はあるよ」
「孤独……」
「俺は何者なんだって。そんな風に考えてしまう事もあったしね」
「でも記憶の中で春樹は春樹なんでしょ?」
「そうだけど全然違うんだ。こうなって始めて気づいたけど、俺の存在そのものが酷く曖昧に感じてしまう事もあったんだ」
「存在が曖昧?」

春樹の言っている事が分らず、私はオウム返しで尋ねる。

「そうだよ。記憶ってこんなにも自分自身を形作っていたんだと驚かされたくらいさ」
「記憶って、やっぱり大切なのかな」
「多分ね。人は誰かと共有する記憶を持っているから、次に何をするべきか選択できる。
俺はみんなとは大きく違う記憶しか持っていないから、気が変になりそうだった」
「そう……そうだよね」
「なんてね。もし昔話の浦島太郎が居たら、親友になれそうかも、なんて思ったりもしてさ」

最後の言葉は冗談のように軽い口調で言ったけれど、事態は私が思っていたより深刻だった。
もしも自分だったらと思うだけで、段々胸が痛くなってくる。
そんな私の姿を見て、春樹はポツリと呟く。

「だけど、きっとこれで良かったんだ」
「良かった?」
「失くしてしまうよりはずっと良かった」
「どうして? そんな孤独に感じる記憶なんて無いほうが良いに決まってるよ」
「だって、大切だから。もしこの記憶を失っていたら、ここが姉さんの望んだ世界だとすら気づけなかったんだよ」

春樹は皆と違う記憶なのに持っていて良かったと言う。
私だったら、苦しくなるような記憶なら消してしまいたいと願うだろう。

私は……
①望んだ世界について聞く
②どうして大切なのか聞く
③大和先輩を見る

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