911
①引き止める

この人が私にとって困った不審者であることには変わりない。
しつこいし、訳の分らない事ばかり問い詰めてくるし、本当に迷惑だ。
だけど冷静になって考えると、怪我をしている人をこのままに放って置くわけにもいかない。

「待って!」

私はめげることなく、不審者の男の子の腕を掴んで引き止める。
ようやく不審者の男の子は歩みを止めてくれた。

「…………」
「ちょっと待って。すぐに手当てしなくちゃ」
「手当て……?」
「そうだよ。ほら、手にも顔にも怪我してるんだから」

私は男の子の手を掴んで、痛々しい患部を見せる。
ぼんやりと他人事のように、男の子はその傷ついた拳を見ていた。

「痛いでしょ? 家で手当てしてあげるよ」
「…………」
「さっき寝られなかったって言ってたよね。何か悩みでもあるの?」
「…………………」
「それに理由はわからないけど、ずっと私の事を姉さんって言ってるよね」
「…………………」
「あなたのお姉さんと私って、そんなに似てるの?」

不審者の男の子は何も言わない。
それとも初対面の私には言えない理由でもあるのだろうか。
傷ついた拳を一点に見つめる男の子の姿は、視線を合わせることすら拒んでいるようにも見えた。

「そのお姉さんと私が似ているなら、何かの縁なのかもしれない。悩みくらいなら聞いてあげるよ?」
「…………」
「言えば気持ちが楽になるかもしれないし、私にも手伝えることがあるかもしれないでしょ?」
「姉さん……」

男の子はようやく私を見てくれた。
私は心の中で胸をなでおろすと、男の子を肩で支えた。

「ほら、また私の事『姉さん』って言ってる」
「……ごめん」
「もう姉さんでも、姉御でも好きに呼んでいいよ。私は大堂愛菜。あなたの名前を教えて?」
「俺の名前は……春樹……」
「春樹くんだね。ねぇお母さん、一緒に肩を貸してあげて」

携帯電話を持ったまま黙って私達の様子を見ていたお母さんに、私は話しかける。
お母さんは覗き込むように不審者の男の子を見て、安心したように微笑む。

「もう救急車を呼ばなくても平気かしら?」
「はい。面倒をお掛けしてすみません……」

恐縮しながら春樹と名乗った男の子は、お母さんに頭を下げていた。

私は……
①春樹くんと話をする
②客間に寝てもらう
③お母さんと話をする

912
②客間に寝てもらう

私と同じくらいの年齢とはいえ、体は大人と変わりない。
まだ足元の危うい男の子を肩で支えながら、なんとかお母さんと二人で客間へと運んだ。

春樹と名乗った男の子の顔色がまだ良くないように感じる。
私は布団を敷いて、寝るように促した。
男の子も立っていられないのか、私の言葉に大人しく従ってくれた。

「春樹くん、上着はここに置いておくからね」
「……………」

男の子は布団の中で、私が上着をたたむ様子を見ている。
すると、お母さんが立ち上がって私達に声を掛けた。

「じゃあ私は飲み物でも用意しましょうか。愛菜のお友達は何がお好みなの?」

お母さんはこの男の子のことを、まだ私の友達だと思っているようだ。
成り行き上、初対面の子を家に入れる事になった訳だし、いまさら不審者かもしれないとは言いづらい。
とりあえずお母さんも家に居るし、この様子じゃ私でも勝てそうだから、このまま成り行きに任せることにした。

「私はミルクティーがいいな。春樹くんは何がいい?」
「……………」
「私と一緒でいい?」
「……………はい」
「そう。じゃあ愛菜と一緒にするわね」

お母さんはそう言って、キッチンへと歩いていった。
私は用意した救急箱から消毒液と脱脂綿を取り出す。

「本当にびっくりしたんだから。もう自分を傷つけたりしたらダメだからね」
「……………痛っ」
「ごめんね、ちょっとしみるかもしれないよ」

私は慣れない手つきでガーゼを当て、包帯を巻いていく。
手の甲に巻かれていく不恰好な包帯を男の子は黙って見ていた。

「よし、手は終わり。次は顔の擦り傷だね」
「……あの」

ここに運んでからろくに話をしなかった春樹くんが突然話しかけてきた。
私は首をかしげて、次の言葉を待つ。

「……あの、さっきは取り乱してごめん」
「ううん。気にしてないよ」
「それと、姉さんの母親が生きてて、本当によかったね」
「……??」
「亡くなったと聞かされていたから、すごく驚いたけど……姉さんも幸せそうだし、俺も嬉しいよ」

また訳の分らない事を春樹くんは言い出した。
きっと私とそっくりのお姉さんと勘違いしているのかもしれない。

「私のお母さんはずっと元気一杯だよ?」
「優しそうな人だし、姉さんとよく似てる」
「うん。そっくりだってみんなに言われるかな」
「姉さんが……長い間生きていると信じていたから、その願いが叶ったのかもしれないね」

春樹と名乗った男の子は、親しみを込めた優しい笑顔を私に向けてくる。

私は……
①姉さんという人についてきく
②寝るように言う
③素性を尋ねる

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①姉さんという人についてきく

この春樹という男の子にとって、この『姉さん』は特別な存在なのかもしれない。
こんなにも必死になっているのだから、きっと大切な人なのだろう。
今は、私をその『姉さん』だと間違えているだけだ。
その人の話を聞けば、何か手がかりがあるかもしれない。

「ねぇ、春樹くん。その『姉さん』って人は春樹くんとどんな関係なの?」
「それは姉さんが一番良く知っているはずだよ」
「私が知るはずないじゃない。春樹くんに会うのだって、初めてなのに……」
「姉さん、本気で言っているの?」

春樹くんは悲しそうな顔をして、私に問いかける。
そんな顔をされてしまったら、あなたの方が変だとは言えなくなってしまう。
困っている私に気づいたのか、春樹くんは一つため息をついた。

「ごめん、頭がオカシイのは俺の方だったよ」
「お、おかしい事は無いと思うよ。話していても、割と普通だし」
「割とか……」
「ち、違うよ。それなりに正常だと思うよ」
「姉さんが気を使わなくても、自覚はあるんだ。きっと、俺は過誤記憶症候群なんだと思う」
「カゴキオクショウコウグン?」

私は耳慣れない言葉に、オウム返しで問いかける。

「誤った記憶を持ってしまうことだよ。俺も記憶と現状があまりにもかけ離れていているんだ。
だから家を飛び出して、姉さんに会いに来た。だけど、やっぱりオカシイのは俺だったみたいだね」
「よく分らないけど……春樹くんの記憶が間違いを起こしているって事?」
「多分、ね。だって記憶の中では、俺の名前は大堂春樹なんだから」
「大堂って、私の苗字じゃない!」
「そうだよ。……けど、現状では違うんだ。これを見て」

手の平ほどの大きさの手帳を手渡される。
よく見ると、春樹くんの生徒手帳だった。
一年A組 高村春樹と書いてある。

「春樹くんは一つ年下だったんだね。わっ、すごい!」
「どうしたの?」
「これ、名門高校じゃない。春樹くんって、頭いいしお金持ちなんだ」

思わず私は羨望のまなざしで、春樹くんを見てしまう。
そんな私を見て、春樹くんは首を横に振って口を開いた。

「そんな目で見られても、この高校に通った記憶は無いよ。ただ付属の初等部なら、五年生まで通った記憶はあるけどね」

まるで他人の物のように、春樹くんは自分の生徒手帳を見ていた。

私は……
①姉さんという人について詳しく
②寝るように言う
③記憶の違いをきく

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②寝るように言う

顔の擦り傷にも消毒をして絆創膏を貼った。
そしてお母さんの運んでくれたミルクティーを、お互い黙ったまま飲み始める。
春樹くんの話が本当なら、記憶と現実が食い違っているなんてすごく不安に違いない。
だけど……具体的に春樹くんはどういう記憶を持っているのか。
いつから誤った記憶かもしれないと思ったのか。
色々聞きたいことはあるのに、何をどこから話していいのかも見当もつかない。
考えがまとまる事も無く、ふと、隣を見ると春樹くんが私を見つめていた。

「どうしたの? や、やだ。もしかして口の周り、牛乳で白くなってる?」

口を咄嗟に隠しながら、私は尋ねた。

「違うよ。姉さんが……こんな突拍子もない俺の話を信じてくれているのかな、と思ってさ」
「どういう事?」
「記憶がまるごと捏造だったなんて、どう考えても普通じゃないから」

今までの行動や言動は、春樹くんの言うとおり普通とはほど遠い。
普通じゃないけど、話せば話すほどオカシイ人だと決め付けてしまうのも違う気がしてくる。
春樹くんを支えるように寝かせると、私は素直な気持ちを言葉にしていく。

「正しい事はわからないけど、春樹くんが嘘を言っているようには見えないんだ」
「俺の言い分なんて、狂人のざれ言かもしれないよ?」
「……きっと今の春樹くんは少しだけ勘違いしているだけだと思う」
「勘違い?」
「そうだよ。私だって、物忘れや記憶違いなんて日頃から沢山してるし、深刻になることは無いと思うよ」
「確かに、姉さんは日頃から危なっかしいからね」

春樹くんはからかうように言うと、頬を緩めて微笑む。
布団の傍らで座っている私じゃなく、記憶の中の『姉さん』に向かって言ったのだろう。
軽口でからかい合うほど、春樹くんとその『姉さん』は良い関係だったのかもしれない。

「でも私には、春樹くんが一番危なっかしく見えるよ……」
「……まぁ、こんな状態じゃ否定はしないよ」

春樹くんは薄っすらと血の滲む絆創膏に触れながら、諦めたように呟いた。

「まだ顔色が悪いし、少し寝たほうがいいかも。とりあえず二、三時間したら起こしてあげるね」
「うん」
「それでもまだ体調が悪いようだったら、お家の人に連絡してもいい?」
「…うん」
「起きたらまた話を聞かせて。私も力になるから」
「姉さん……あり…が…とう」

春樹くんの瞼が、ゆっくりと落ちていく。
安心できる環境に近いのか、すぐに規則正しい寝息に変わっていった。

私は……
①考える
②春樹くんをみる
③客間から出て行く

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③客間から出て行く

そっと音を立てないように客間からでてリビングへ向かうと、
お母さんがまたどこかへ出かける準備をしていた。

「あれ? どっか行くの?」
「千春を迎えに行く時間だもの」
「あ、そっか」
「あの子の様子は?」
「今は寝てる」
「そう……、本当は愛菜を一人残して行きたくないんだけど……」
「大丈夫だよ、迎えだってそんなに時間かかるわけじゃないし」
「そりゃあそうだけど……」
心配するお母さんを促すと、しぶしぶと家を出て行った。
私はそのままリビングのソファに座りテレビでもつけようとリモコンを探す。

「あれ? ないなぁ……。千春ってばまたどっかに……」
リビング中を見回した時、窓の外に誰かが立っているのに気づいた。

「?」
うちの学校の制服をきた男の子がぼんやりと空を見て立っている。
けれど立っている場所は家の敷地内だ。

(うちの制服だけど、知らない人だよ、ね……? 別の学年の人かな?)
家の敷地で何をやっているのか気になり、リビングの戸を開ける。

「あの……、家になにか?」
空を見ていた男の子は私の声に顔を向けた。

(やっぱり始めて会う人だよ、うん)
「これが……あなたが望んだ世界なんですね」
「え?」
ぽつりとつぶやくと、男の子は右手を胸の高さまで持ち上げて手を見つめる。

「……あの?」
「剣の力はあなたの力の一部を断ち切ってしまった」
私には男の子の言っている意味がさっぱり解らない。
男の子はそれ以上何も言葉にせず、ただただ自分の手を見続けている。

私は…
①何のことか聞く
②無視してリビングに戻る
③とりあえず名前を聞く

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③とりあえず名前を聞く

まるで私の事を知っているような口ぶりで話している男の子。
同じ学校なのだし、私が忘れているだけで知り合いなのかもしれない。

(名前を聞けば、思い出すかもしれないよね)

「あの、あなたの名前は?」
「この世界に……僕の名前はありません」
「名前が無い? そんなはずないよ」

日本には戸籍があるのだし、名前がない人なんて居るのだろうか。
男の子を見ると大真面目な顔をしているし、冗談を言っているとも思えない。

「この世界に……僕の名前は必要ないのです」
「そんな風に言っては駄目だよ。名前がなかったら、あなたをどう呼べばいいか困ってしまうじゃない」
「……近い将来、僕はこの体ごと消滅を迎えます。ですから、一個体と認識させる必要も無いのです」
「消滅って……消えるの? あなたが?」
「はい。ですが月が欠け再び満ちていくように、別の姿としてお会いする機会があるかもしれません」
「別の姿? 意味が分らないよ」
「もし全てを悟ったとしても悲しまないでください。あなたは世界をあるべき姿に正しただけの事です」
「あるべき姿? 何を言っているの?」
「秩序を失っていたすべての力を再び本来の器に戻したことで、すべての均衡は保たれたのです」

また何を言っているのか分らない人が出てきた。
今日はとんでもない厄日だ。

「よく分らないけど、それは正しい事なの?」
「それを決めるのは、あなた自身です」
「正しいのか、間違っているのか私が決めるって事?」
「はい。じきにこの世界には、力という名の争いの元は存在しなくなります。その結果、僕のように消えるもの、また新たに得るものが出てくるというだけです」

何かを説明してくれているのだろうけど、私にはさっぱり理解できない。
まずこの男の子が消滅してしまうなんて事、夢でもあるまいし現実に起こるはずが無いのだ。

(でも……)
この子の話で一つだけ理解できるのは、何かを得る代わりに、多くのものを知らない間に失っているらしいという事だ。
何かを犠牲にしなくちゃ成り立たない世界があるなら、それはとても寂しい気がする。

「もし間違っていると後悔した時は? 何か直す方法があるの?」
「不完全な今なら、まだ目覚める事も可能です」
「目覚める事?」
「…僕があなたの力の一部を断ち切ってまで干渉したのは、これらの事を伝えたかったからです。それでは、いつまでもお元気で」
「ま、待って!……きゃっ!」

目を開けていられないような突風が吹いたと思った瞬間、男の子の姿は忽然と消えていた。

私は……
①考える
②もう一度出てくるように言う
③客間に戻る

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②もう一度出てくるように言う

「ねぇ、まって! ねえってば……」
呼びかける名前が無いというのは、ものすごく不便だと言う事に気づく。

「愛菜……? なにしてるんだ、さっきから?」
「……え、た、隆?」
「おう」
誰もいない庭に向かって呼びかけている私を不思議そうな顔で隆が見ていた。

(そういえば退院してたんだっけ……)
「あー、えっと、なんでもないよ、うん、で……もう体はいいの?」
正直に理由を話してもきっとボケてるんだろうって言われるのがオチだ。
言葉を濁しながら、別の話題を振る。

「あぁ、大分いいよ。 こうやってなんとか歩けるようになったしな」
そう言いながら隆は、ゆっくりと庭に入ってくる。
事故の後遺症で足を引きずっているのが痛々しい。
私が足に気を取られているのに気づいたのか、隆は苦笑する。

「そんな顔するなよ」
「う、うん」
隆はそう言いながら、近づいてきた。
すぐ目の前までやってきて、開いている戸をさらに開けるとそのスペースに腰を下ろした。

「ふぅ……」
「……なんか、おじいさんみたいだよ、そのため息」
「いうなよ」
苦笑を含んだ声で答えた隆は、この距離を歩くのにも疲れるのか、それともどこかを歩いて来てつかれたのか足を投げ出すようにして座っている。
どうやらしばらく居座る気のようだ。
私も隆の隣に座って、二人でぼんやりと庭を眺める。

「これからは、病院へは通いになるんだ。今まで入退院繰り返してきたけど。大宮先生の許可がでたからな」
「大宮先生?」
「ほら、お前がお見舞いに来てくれたときにいただろ?女の人みたいに綺麗な先生」
「? あのひとミナミ先生じゃないの?」
「あー、そっか、看護士さんとかみんなミナミセンセって呼んでたからな。大宮美波っていう名前なんだよ」
「なるほど……」
以前隆のお見舞いに行った時にあった担当の先生を思い出して頷く。

(大宮先生っていうより、美波先生って感じだもんね)
その後もなんでもないような、とりとめの無い話をしていると、リビングの外の方からかすかな音がした。
隆と私がその音にリビングの戸を振り返る。

戸に人影がうつり誰かがリビングに入ってきた。

それは……
①千春
②お母さん
③春樹くん

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①千春

「ただいまー……っと、あ、隆!」
スイミングスクールから戻ってきた千春が入ってくる。
「あ、隆、じゃないだろー?隆お兄様と呼べ!」
「嫌なこった!」
べーっと舌を出しながら持っていた荷物をリビングのソファに放り投げるようにして置くと、千春は一旦キッチンへと向かう。
しばらくして、ジュースを片手に千春が戻ってきた。
「隆、もう怪我良いのか?」
こちらには来ず、ソファにだらしなく座った千春に隆は頷いた。

「あぁ、もうずっと家に居る予定だ」
「ホント? じゃあまたあのゲーム一緒にやろうよ! 今度こそ僕が勝つんだからな!」
「おー、その挑戦受けてやろうじゃないか」
「千春、今度こそ勝ちなさいよ?」
笑いながら千春の挑戦を受けた隆に、私も笑いながら会話に加わる。
事故に遭った直後の隆の落込み様を知っている千春は、以前の隆に戻っていることがうれしくて仕方がないようだ。

「なんだ、愛菜は千春の味方かよ」
「あたりまえです」
「ねぇちゃんに応援されてもなー」
「ちー、はー、るー?」
「あー、うれしいなー」
「まったく……」
以前と変わらない会話をしていると、お母さんもリビングにやってきた。
その後を、ミケがついてくる。

「あらあら楽しそうねぇ。 隆くん、そんな所に座ってないで中へ入ったらどう?」
「あー……はい」
隆は少し迷うように視線をさまよわせ、けれどすぐに頷くと「よいしょ」と言いながら立ち上がった。
それを見てお母さんは飲み物の準備をするためだろう、キッチンへと入っていく。
ミケはソファの端に陣取ると、そこに丸くなった。

「玄関から入るよ」
足を引きずり玄関へ向かった隆の背を見ながら千春が顔をしかめている。
「千春、隆の前でそんな顔しないでよ?」
「わかってるよっ! ねぇちゃんだって人のこと言えないくせに」
「う……」
確かに私も考えていることが顔に出やすいと良く言われる。
二人でこそこそ言い合っていると、廊下から驚いたような声が聞こえてきた。

「隆さん!? その足……」
「? 誰だお前……」
隆と春樹くんの声だ。
いつの間にか春樹くんは起きていたらしい。

私は……
①慌てて廊下へ向かう
②二人がここに来るのを待つ

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①慌てて廊下へ向かう

「春樹くん、もう起きて大丈夫なの?」
隆と話をしている間に30分近く時間が過ぎていたが、起こすと言った時間にはまだ早い。
春樹くんは私の声に振り向くと、頷いた。

「春樹くん、隆の事知ってるの?」
「そりゃぁ、姉さんの幼馴染で家にも良く来てたし……」
「なんで、お前がそんなこと知ってるんだよ?」
「……」
隆の言葉に春樹くんは口を開こうとして、結局何も言わずに考え込む。

「とりあえず、ここで立ち話もなんだしリビング行こうよ」
「そうだな」
「……」
リビングへ戻ると、千春がジュースをのみながらミケと遊んでいた。

「チハルに……ミケ?」
春樹くんが千春を見て驚いたように呟くのが聞こえた。
その声が千春にも届いたのだろう、ミケと遊ぶ手を止めて千春がこちらを向く。
千春は春樹くんを見て小さく首を傾げ、私に視線を移した。

「ねぇちゃんの友達?」
「……う、うん」
違うけれど、違うと答えたらじゃあ誰だと聞かれるだろう。
他に答えようも無くて、とりあえず頷く。

「『ねぇちゃん?』」
驚いたように春樹くんが言う。

「千春は私の弟だよ」
「チハルが姉さんの弟……?」
そう言いながらまた考え込む。

「とりあえず、そんな所に突っ立ってないで座ったらどうだ?」
一人先にソファに座った隆が私たちを呼ぶ。

「うん、そうだね……」
「はい」
私と春樹くんも空いている場所に座る。

「………」
誰も何も言わないので、妙な空気だ。

どうしよう……
①隆に話しかける
②千春に話しかける
③春樹くんに話しかける
④このまま黙っている

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④このまま黙っている

「……少し聞いてもいいですか?」
何を話せば良いのか分からず、話題を探していると春樹くんが口を開いた。
「その前に、なんで俺の事知ってるんだ? 会うの初めてだよな?」
その言葉に春樹くんは少し考えて口を開く。

「俺は春樹です。昔……そう、ミケの世話をしていたんです」
「ミケ……?」
全員の視線が、ミケに注がれる。

「ミケを拾ったとき……」
「ミケを……あ!」
記憶を探り、それらしい人物が思い当る。

「あの時の男の子?」
「たぶんそれが俺だよ……姉さん」
あの日私たち家族は少しはなれた町へ買い物へ出て…そこで私は一人はぐれて、神社に迷い込んだ。
そこでミケと男の子に会ったんだ……。
男の子はミケを飼ってくれる人を探していると言った。
だから、私が飼うと言ってミケを引き取った。
その後、迷子の私と一緒に両親を探してくれた親切な男の子。
あれが春樹くんだったのだ。

「そっか、初めて会うんじゃなかったんだ……」
「そう、みたいだね。俺の記憶とは別だけれど……全く接点がなくなっているわけでもないらしい」
最後の方は、独り言のようではっきりとは聞こえなかった。

「俺の知らない愛菜の知り合いか? じゃあ俺の事は愛菜からきいたのか……?
まあいいや。で、お前の聞きたい事ってなんだ?」
一人で納得した隆は最初の春樹の言葉を思い出したのだろう、気さくに話しかけている。

「あ、はい。隆さんのその足は三年前の事故の後遺症ですか?」
「ああ、そうだ。愛菜から聞いたのか?」
「……えぇ」
春樹くんはあいまいに頷くと、さらに考え込む。

「チハル…くんは、姉さんの弟、なんですね?」
「そうだよ」
「っていうか、なんで愛菜のことを姉さんって呼んでるんだよ?」
「それは……俺の方が年下ですから」
「そうなのか?」
隆が私に問うように、こちらを向く。

「うん…」
「……にしても」
「私が良いっていったから良いの!」
春樹くんの記憶がどうなっているかは分からないけれど、今は何かを確認するように考え込んでいる。
私には春樹くんが自分の記憶を整理しているように見えた。

私は……
①このまま春樹くんの質問を待つ
②ミケを拾ったときの事を話す
③隆に明日の文化祭の話をする

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