風追い

偵察パイロットその4

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承前

厳しかった日差しも心持ち和らぎ、深い深い青空の下に広がる黒いアスファルトと白線が描かれた飛行場。
その広い敷地の中でポツンと1人の少女が佇んでいた。
飛行場に緩やかな一陣の秋風が通り抜け、少女が被った白いカフィーヤを軽く揺らし、白い服をなびかせるが少女はそれにも気付かずに一心に青空の一点を見つめ続けていた。
雲1つない大空には彼女の父親が多国籍要撃機”ユーフォー”に乗って、長い飛行機雲を曳きながら舞い続けていた。
見失うまいと深い青空を見上げる少女の口は知らず知らずのうちに僅かに開き、
少女の視線の動きに合わせて、その小さな頭が起き上がりこぼしのようにゆらゆらと揺れる。
少女のそんな様子を目にした地上スタッフ達は忙しなく行っていた作業の手を暫し休めて、思わず微笑みを浮かべた。

周りの様子に気付かない少女は一心に空を翔けるユーフォーを見つめ続ける。

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少女の視線を一身に浴びるユーフォーの機上の人であり、訓練中の偵察パイロットである男の名はイブラヒム。
良く日焼けした褐色の肌は引き締まっており、その鋭いまなざしはしっかりと針路を見据えていた。
イエロージャンバーの胸元には銀糸で刺繍された曲刀のエンブレムが輝き、その淀みない操縦の手腕は日頃の弛まぬ鍛錬を伺わせるに十分な自然さである。
まるで静かに息を吸うように滑らかに機体を引き起こし、コクピットの外の景色が回り始めた。
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大地が頭上に広がり、強烈なGが身体を座席に押し付ける中、イブラヒムは歯を食い縛りながらも操縦桿を巧みに操る。
インメルマンターンに宙返り、エルロンロール。
そのままパイロット向けの教材に使えそうな程に見事な軌跡を描き、ユーフォーは深い深い秋の大空を舞う。
白い少女はその様をキラキラと瞳を輝かせ、時折吹く風でカフィーヤや髪が乱れる事にも気付かずに見つめ続けていた。

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フライトを終えた要撃機が空から舞い戻る。
少女を驚かさないように滑らかな挙動で着陸するユーフォー。
そのコクピットから颯爽と地面に降り立った父親を目にすると少女はたちまち全力で駆けだした。
カフィーヤが捲りあげるのにも気に留めず、おとーさーんと真っ直ぐに父の元に駆け寄った少女は勢いもそのままにイエロージャンパーの胸元目掛けて飛び込んだ。
まるで弾丸の様に身を投げ出した我が子に驚きながらも、鋭かった眼差しを和らげイブラヒムは優しくしっかりと少女を抱きとめた。
「おお可愛い我が娘よ。そんなに歓迎してくれるのは嬉しいが、レディはもう少し身嗜みに気を付けないといけないよ」
そう芝居がかった口調でやんわりと少女を嗜めつつも、少女の父親は捲れ上がったカフィーヤを丁寧に整えてやった。
「はーい、いごきをつけまーす。でも今日はこれでおとーさんのお仕事、終わりなんだよね?一緒に晩御飯食べれるんだよね?」
父親に抱きつきながら、久し振りの家族団らんを思い、少女が嬉しさを隠せない口調でそう尋ねた。
「ああ、今日は順調に仕事が終わったから約束通り、晩御飯はみんなで一緒に頂きますだ」
わーいと喜ぶ少女に思わず目尻を下げて、その頭を撫でてやる父であった。

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偵察パイロット部隊設立の経緯


”偵察”、それはナニワアームズ商藩国においては取り分けこだわりと縁の深い行為である。
その端緒は藩王や藩国民が偵察に拘りを感じており、そして幾つかの幸運に見舞われて(縁によって)実績を立てた事であった。
この偵察との縁が始まりとなって、偵察専用I=Dであるバーミーズが開発され、FOが新設され、さらにはジャバニーズやラグドールと言ったナニワアームズを特徴付ける数々のアイドレスが生まれる事となった。
始まりはちょっとした拘りと幸運であった偵察との縁はやがてナニワアームズにしっかりと根付いていったのである。

そして偵察パイロットの設立のキッカケも強行偵察I=Dであるジャバニーズが開発されたというただそれだけであった。
隠蔽性を完全に度外視し、見つかったら速度で振り切れば良いという思い切ったコンセプトであるジャバニーズは従来の隠れながら偵察を行うという運用思想とは一線を画していた。
その極端な性能はやがて次期共和国主力機であるラグドールの開発へと繋がるのだが、同時にそれはジャバニーズの高い機動力を偵察に十全には活かしかねているという事の裏返しでもあったのである。
バーミーズと同じく交戦距離に極端な制限のあるジャバニーズはバーミーズとは異なり、実戦では配備される事が無かった試作機であった。
これは着弾観測などにも活かせたバーミーズとは異なり、従来のナニワアームズの名パイロット達がジャバニーズの高機動力を偵察に活かしきれなかった事に原因の一端がある。
そんなある日、運用思想が大きく異なるんなら、パイロットもそれに合わせた部隊を新設しても良いじゃない?という何気ない一言が事の起こりであった。

ちょっとした思い付きが実を結ぶには実に長い長い歳月が必要となったのである。

従来の運用思想に必要以上に縛られる事のない柔軟な運用を学ぶ為に新人パイロットと偵察兵から転科志望者を中核とした部隊として新設された。
パイロット職としては新米が部隊の中核を担う為に教育には多くの歳月が掛る事となった。

運用と育成


戦場の霧の中から僅かな活路を見出す為の兆しや情報を収集する”偵察”行動。
それは部隊の”目”であり、これが封じられる事は目隠しをして山登りをしろと言う事と同じぐらいに無謀な事である。
時間と共に流動的に変化する戦場の霧を少しでも見通す為には常時、出撃可能な偵察部隊が重要である。
そこでメインパイロットとコパイロットを状況に応じてスイッチできる事でクレバーなパイロット運用が想定された。
その利便性や実現性はホープという実例によって実証済みであり、他藩国でもフライトオフィサー、教導パイロット、戦車エース、スターリフター、スターファイターといった数多くの職業が存在している。
また自藩国でもスペーススターファイター資格保有者が極少数ながらも存在しており、彼らの助言も役立つ事となった。

この方針を採用した一番の理由はその任務の過酷さにある。
偵察とは敵勢力や戦場の状況を把握する為に行う行為であり、当然の事だが事前情報が乏しい状況下での作戦行動である。
その為、精神的なストレスが高く、一般のパイロット職と比べても消耗しやすい。
この消耗が激しい任務への負荷を軽減する為にとった指針が柔軟な人員の交代である。
偵察専用の部隊を作り、十分な人数を揃える事で休息時間を長く取れるようにした訳だ。
しかし疲労回復にはどうしても個人差やその日のコンディションによってバラツキが出てしまい、激戦が重なればこのバラツキは更に大きくなりかねない。
従来の様にパイロットとコパイとが明確に切り分けられているとパイロットとコパイの両名が揃わない限り、コパイが例え10人動けても1機も偵察機を動かせない。
そこでメインパイロットとコパイロットのどちらでもこなせるという柔軟性が活きてくる訳である。

教育面ではベテランの名パイロットの中でも特にジャバニーズやラグドールといった高機動兵器の開発にテストパイロットを務めた古強者が実技の教官として採用された。
また高機動兵器の開発や次期共和国主力機の開発での数々の実証試験の結果が強行偵察や哨戒任務等の高機動兵器を用いた偵察任務の運用研究の大きな一助となった。

こうした経緯によって誕生した新職業・兵科が偵察パイロットである。
その特性は高機動兵器を活用した強行偵察や哨戒任務といった各種偵察任務にその主眼が置かれており、
またパイロットとコパイロットのどちらでもこなせる柔軟性と偵察兵やFO出身者が多い事も手伝って高いサバイバリティの獲得に成功している。
その発足であるT13から実戦投入までに実に5ターン以上の歳月が掛った偵察パイロットはナニワに芽生えた新しい息吹であった。


ショート・ショート集


藩国パイロット達の狂想曲


木々が生い茂る緑の屋根を眼下に前に進むと緑の密林は途絶え、そのほとりには穏やか流れの河川に行きつく。
静かな水面には水鳥達が川のせせらぎに身をゆだね、ぷかりぷかりと波紋を広げる。
転寝してしまいそうな空気の中。突然、跳ね起きるように一羽の水鳥が頭を上げる。
穏やかだった大気を震わす振動が徐々に大きくなる。
次々に水鳥達が羽ばたき、一斉に空へと飛び立ち、羽毛がふわりと舞い上がる。
一転、強風に煽られ、羽毛が青空に巻き上げられる。
凄まじい風切り音と共に漆黒のI=D1機と純白のラグドール数機が激しいチェイスを繰り広げながら、水面へと迫る。
時折牽制に放たれる光条を右に左に時にはトンボを切って華麗に避ける漆黒の機体が沈み込む様に重心を落とす。
針路を大きく右に急転させながら、滑る様に見る見るうちに機体の左足が大きく迫る。
激しい風圧が水面を激しく揺らす。
河川ギリギリを掠るように旋回したシャープなシルエットを持った漆黒の機体であるジャバニーズが推進装置をフル稼働させ、カーブで減速した機体速度を一気に跳ね上げる。
ソニックブームに周囲の木々がしなり、まるで草原を駆け抜ける一陣の風のようにジャングルの上空すれすれをジャバニーズが駆け抜けていく。
ひらりと青空から舞い降りる羽毛。
続いて数機の赤いマーキングを付けたラグドール達が黒い機影を逃すまいと追い掛ける。
水面に羽毛が緩やかに波紋を広げながら舞い降りる。
ジャングルを抜けたジャバニーズのコクピットではパイロットが追走するラグドール達を気にしながらニヤリと笑う。
進行方向には友軍機を示す青いアイコンがレーダーに一個小隊分点灯している。
緑の絨毯がゴツゴツとした岩場に代わりラグドール達も密林を抜け、ジャバニーズの意図に気が付いたラグドール達が逃さじとさらに牽制射撃の密度が跳ね上げる。
無数の光条を必死に避けるジャバニーズの右翼に光が掠り、バランスを崩したラグドールが堪らず地表に突っ込む。
歯を食いしばりながら、流れるような動作で機体の姿勢制御を行うジャバニーズパイロット。
それに応えるように迫る地面を蹴り、ジャバニーズはさらに前へと疾走する。
ジャングルを抜けたラグドール部隊も荒地に次々に展開を開始、不用意に前方のジャバニーズの友軍に距離を詰め過ぎる事を嫌い、狙撃態勢を取って合流を阻止せんと狙撃を開始。
次々と可変式大口径レーザービーム砲が砲身を伸ばし、絞り込まれたビームを放つ。
前方の友軍機達と自分を隔てるまだまだ長い距離を少しでも縮めるように懸命に前進を続けるジャバニーズ。
しかし無数の狙撃の光が徐々に機体の各所へと掠り始め、ビームの衝撃により崩れそうになるジャバニーズにカウンターを当てながらジャバニーズパイロットが無線に向かって口を開く。

い、ま、だ!
パイロットの口から放たれたのは友軍に助けを求める叫びではなく、目を光らせて告げた攻撃指示であった。

水面に浮かぶ羽毛が突然持ちあがる。
静かな河川の水面を割るように突如、巨大な人影が立ち上げる。
各々が脇に抱えた大口径特殊弾頭発射筒”大花火”が次々と火を吹く。
荒野に展開していたラグドール部隊の後方から突然始まった支援砲撃が立て続けに着弾する。
ターキッシュバン達からの通常弾頭による砲撃に織り交ぜて打ち込まれた煙幕弾がラグドール陣地を白い煙幕に包み始める。
突如の砲撃と煙幕に動転したラグドールのパイロットの狼狽を乗せた無線電波が戦場を飛び交う。

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仲間達の動揺がコクピットの無線通信を通してラグドール部隊の隊長であるシエルの耳に届く。
皆、突然の後方から予期しない攻撃に狼狽し、浮足立っていた。
ラグドールの視界も白い煙幕で閉ざされており、レーダーには僚機を示す赤いアイコンと後一歩まで追い込んでいたジャバニーズを示す青いアイコンが徐々に遠ざかるのが映っていた。
「く、みんな落ち着いて!この砲撃は撹乱と目隠しだけよ。威力そのものはどうとう言う事は無いわ」
仲間を落ち着かせようと周囲の僚機に檄を飛ばすシエラだが、言っている自身も動揺が抑えきれず嫌な汗が流れ、乱れた銀髪が額に張り付くのを煩わしそうに払い除ける。
「相手の意図は時間稼ぎよ、アルファ、ブラボー、チャーリーは煙幕を抜けて、あのジャバニーズを追って。他の皆は」
と指示を出し始めた瞬間。白い煙幕の霧を切り裂いて突如漆黒の巨人が姿を現した。
驚きに目を見開くシエラ
ジャバニーズ!?いや、違う翼を持たない小柄なそのI=Dはバーミーズ!
動揺をするシエラをさらに揺さぶるようにコクピットが衝撃に大きく揺れる。
バーミーズの白兵攻撃を受けて大きく姿勢を崩すラグドールをシエラの熟練の操縦が寸前の所で踏み止まらせた。
煙幕に紛れたバーミーズが隠蔽状態で白兵距離まで近づいていたのね、と状況をようやく飲み込んだシエラは反射的にラグドールを飛翔させて距離を取ろうとする。
シエラの操縦に忠実に応えて煙幕の霧を抜けたラグドールを待ち受けていたのは探知レーダー波の五月雨と無数の熱源反応だった。
視界の端で偽装ネットを迷彩服のように纏ったアメショー防空型がジャングルの木々の合間に佇んでいる事に気が付いた。
「く、してやられましたわ」
と思わず呟いたシエラは自分達が完全に嵌められていた事を悟った。
空中で花開いた対空ミサイルの光と熱の抱擁に包まれるシエラの乗機の上をふっと影が横切る。
思わず振り仰ぐシエラの視界を埋めたのは青空を自在に飛翔する08 護衛機”スフィンクス”であった。
その瞬間、チェックメイトという聞こえる筈の無いジャバニーズパイロットの声を聞いた気がした。

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こうしてFOの頃からの恒例である演習場で繰り広げられた偵察パイロット率いる青チームと名パイロット、シエラ率いる赤チームの模擬演習は青チームに軍配が上がる事となった。
次こそは負けませんわとちょっと悔しそうにリベンジを告げるシエラ嬢とベレー帽を斜めに被り、まあ、お互いに精進しようと涼やかに流す偵察パイロットを囲み、
お祭り騒ぎが好きな面々による打ち上げの飲み会が今日も賑やかに取り行われ、パイロット達の親交を深めながらナニワアームズの夜が更けるのであった。





とある偵察パイロットの哨戒任務


はるか地平線が見えるぐらいに続く広い砂漠。
眼下の砂丘がどんどん後方へと流れていく。
やがて向こう側の端の方には砂漠を縦横に走る交易路が見え始める。
ここはナニワアームズ商藩国に広がる砂漠の果て、国境線付近である。
右手に国境線を捉えたまま、偵察パイロットのアキラはラグドールの針路を南に取りながら巡回・哨戒任務についていた。

「はあ~、俺も”らぶらぶ”に行きたかったな。」

レンジャー連邦で開けれる大音楽祭『ら・みゅーじっくおぶらぶふぇすた』こと”らぶらぶ”
お祭り好きが多いナニワの民の性か、偵察パイロット達の間でも参加希望者が多かった。
そして忽ち開催された大音楽祭参加権を賭けたジャンケン大会に敗退したアキラは大祭当日の今日もナニワアームズに居残り、留守番である。
一緒に行けたら楽しかったろうになあ。

思わず心の中でそんな事をぼやいているとやがて遥か遠方にあった交易路がもう眼下間近にまで迫る。

「おっと、いけねえ。定時連絡の時間だ」

航空用腕時計で時間を確認したアキラは慌てて国境監視の中継基地に定時連絡を入れる為に通信機器を操作する。
それまで周辺の地図を映していた映像モニターが切り替わり、野戦服姿の偵察兵の姿が映される。
今となっては少し懐かしい感慨を抱くその姿にふとアキラは偵察兵時代を思い出す。

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使い込まれた双眼鏡を掲げて周辺を見渡す。
よし、今日も異常無し。
それは何時もと同じく、彼の日常とも言える見慣れた場所であった。
交代要員との引き継ぎ作業を終え、中継基地の簡易食堂で同僚達と共に食卓を囲む。

「偵察パイロット?」
「そう。何でも今度新たに新設される部署が募集している職種だそうだ」
麺を持ち上げ、ふーふーと冷ますと一気にズルズルとうどんをすする。
今日はちょっとリッチに月見うどんだ。
「ふーん。余り聞きおぼえが無い職種だな。それがどうかしたのか?」
「それがな、募集要項がちと風変りでな。パイロット経験ありの若手パイロットもしくは偵察兵経験者らしい」
「へ?なんだそれ」
「な、ちょっと変わってるだろ?何でも、高機動兵器の使用を前提とした新設部隊でこれまでとは全然異なる運用を目指すから経験者よりも寧ろ既存のドクトリンに拘らない柔軟な発想を求めているだってさ」
「ほー、偉く詳しいな」「ま、ポスターからの受け売りだがね」
つゆに浮かぶ真ん丸な月を箸でつつくと中からとろりと黄身が流れる。
黄身を麺に絡めてズルズル。うん、このまろやかさが何とも堪らん。
「むぐむぐ。しかしイキナリ全然違う兵科は厳しくないか?ついていけるのかねえ」
同僚はもやしタップリのラーメンをすする。
「まあ一応基礎からミッチリやってくれるってよ。それよりも此処見てみろよ」
と俺の目の前にポスターをかざす。
「うん?何々、月給××にゃんにゃんだと…」
思わず両目に¥マークを浮かべる。
近い将来、何かと物入りになる予定がある俺にとって、それは聞き捨てられない話であった。
身を乗り出し、食いつく俺に気を良くした同僚が頷きながら肯定する。
「な、結構凄いだろ?俺らの平均給料の2倍だぜ。力の入れ具合が半端無いよな」
「ああ、確かにな。ふうむ、経験不問か。このポスターってどこに置いてあったんだ?」
「うん?ああ、それなら…」

翌日には俺は転属願い提出していた。

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定時連絡を終えた所で丁度、交易路の上空を通過。
視界一面に真っ白な砂丘が広がり始める。
ナイワアームズが誇る3大観光名所の1つ、グラスディザート【大白砂丘】だ。
太陽光を反射して白く輝くガラスの砂漠と合間に見え隠れする深青色の湖面が美しいコントラストに輝く。
そう言えば彼女と初めてデートしたのはここだっけ。

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真っ直ぐに膝丈まで伸ばした銀糸のようなストレートヘアの銀髪。
きめ細かで透き通るような飴色の肌。
整った目鼻立ちに意志の強さを示すような太く力強い眉毛。
それが俺の恋人であるシエラ・鈴原の容姿である。
今日はエキゾチックな民族衣装をスマートに着こなしている。
そして俺はというと、初デートに我ながら情けなくなるぐらいにガチガチである。
右腕と右足が同時に上がるのは朝飯前。さっき撮った写真の俺は後で見れば顔を覆いたくなる代物になっているだろう。
そしてお約束?の如く見事に足を滑らせて転倒しそうになった俺の手を掴むシエラ。
あれ?何か逆?
兎にも角にも、そのまま僅かに顔を赤らめながらそのままデートを続ける俺達。
ぶっちゃけ、そこから先は良く覚えていない。舞い上がってしまって断片的な印象しか残っていない。
きらきらに白銀に輝く砂丘。輝く笑顔。深い蒼さを湛える湖面。風になびく銀髪。
燦々と降り注ぐ砂漠の暑い日差しに、繋いだ手の温かさ。それから…。

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『あー、あー、おい!ラグドール3号機、応答しろ。定時連絡の時間だぞ!!』
はいはい、ごめんなさいよっと。物思いに耽っていたアキラは慌ててコールに応える。
そんなアキラの慌てぶりが面白かったのか、後部座席に座っている同僚のナニワ猫の二匹が可笑しそうにクスクスと笑う。
任務中に不謹慎だったなとちょっと反省するアキラであった。

広大な白い砂丘を超えると今度は赤茶けた荒野が見える。
ポツリポツリと佇む緑のサボテンや大きめの岩等が眼下を流れる。
やがてごつごつとした岩肌が辺りを覆い始める。
赤い斜光がコクピット内まで差し込む。
思わず目を細めて夕日に目を向けるとそこには橙色に染まった大海原だった。
丸で斜陽に吸い込まれるように上空から水平線の彼方まで長く緩く弧を描きつつ伸びる雲。
ナニワアームズ最南端の海岸沿いの領空。
紅に染まった蒼穹の空。丸味と何処までの透き通るような落日の空は一服の絵のような感銘を見る者に与える。
「「綺麗だにゃ-」」
思わずハモる猫士達に全く同感だと心の中で頷くアキラ。
本日最後の定時連絡を入れるとすっかり水平線の彼方へと消えた夕日の余韻を振り切るようにラグドールの機首を巡らせる。
さあ仕事はこれにて終了。いざ愛しの家族が待つ新築の我が家へ!!

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歴史的補講。近年、ナニワアームズでは結婚ブームで新婚カップルが増えているらしい!?


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