シグルイ
正気にては大業ならず。
武士道はシグルイなり。
武士道はシグルイなり。
天上には黄金の王。
地には平伏す龍の王。
舞台は漆黒のベールに覆われていた。
それは面妖なる演者が踊る舞台だった。
演目は悲劇か惨劇か、はたまた喜劇か。
地には平伏す龍の王。
舞台は漆黒のベールに覆われていた。
それは面妖なる演者が踊る舞台だった。
演目は悲劇か惨劇か、はたまた喜劇か。
だが、藤木源之助の眼には、そんなモノは一切写っていなかった。
死を謡う神の使いも、金色に輝く黄金の騎士も、獣の如き蒼い槍兵も、闘争を謳歌する赤い鬼も、全てが対岸の出来事であった。
その時、藤木の眼に映っていたのはただ一人。
虎眼流の高弟達を次々とその手にかけ、師である岩本虎眼の命を奪い去った、憎い、憎い憎い憎い伊良子清玄の姿のみ。
共に汗を流し剣を磨いた虎子達は藤木にとって家族も同然の同胞であった。
また、藤木源之助にとって岩本虎眼という男は貧農の身から士分に取り立ててくれた大恩師であり、父であり、全てであった。
その全てを奪い、濃尾無双とうたわれた虎眼流の名を地に堕とした仇敵。
その仇敵を前にいかな状況も優先するに値しない小事である。
死を謡う神の使いも、金色に輝く黄金の騎士も、獣の如き蒼い槍兵も、闘争を謳歌する赤い鬼も、全てが対岸の出来事であった。
その時、藤木の眼に映っていたのはただ一人。
虎眼流の高弟達を次々とその手にかけ、師である岩本虎眼の命を奪い去った、憎い、憎い憎い憎い伊良子清玄の姿のみ。
共に汗を流し剣を磨いた虎子達は藤木にとって家族も同然の同胞であった。
また、藤木源之助にとって岩本虎眼という男は貧農の身から士分に取り立ててくれた大恩師であり、父であり、全てであった。
その全てを奪い、濃尾無双とうたわれた虎眼流の名を地に堕とした仇敵。
その仇敵を前にいかな状況も優先するに値しない小事である。
「――――伊良子清玄!」
裂帛の気合と共に藤木が吠えた。
その声に、盲目の美剣士が振り返る。
盲目である伊良子はこの異様すぎる状況を把握できずにいた。
だが、その声を聞いた瞬間、今に対する疑問は彼方へと吹き飛んだ。
その声に、盲目の美剣士が振り返る。
盲目である伊良子はこの異様すぎる状況を把握できずにいた。
だが、その声を聞いた瞬間、今に対する疑問は彼方へと吹き飛んだ。
「貝殻――――……!」
伊良子清玄の心に憎悪の炎が燃え上がった。
ありありと蘇るのは、あの日の海での記憶。
最下層の貧民街で夜鷹の子として生まれた清玄に、その時初めて生まれた虎子達への同胞としての仲間意識。
それを、藤木源之助は踏みにじったのだ。
あの日味わった屈辱は、今だ清玄の中から消えてはいない。
伊良子清玄にとっても、藤木源之助は討たねばならぬ怨敵であった。
ありありと蘇るのは、あの日の海での記憶。
最下層の貧民街で夜鷹の子として生まれた清玄に、その時初めて生まれた虎子達への同胞としての仲間意識。
それを、藤木源之助は踏みにじったのだ。
あの日味わった屈辱は、今だ清玄の中から消えてはいない。
伊良子清玄にとっても、藤木源之助は討たねばならぬ怨敵であった。
表舞台では、今まさに黄金の騎士と赤鬼が歌い踊るクライマックスを向かえている。
だが、舞台裏で対峙する二人には、まるでそれが彼岸の出来ことであるかのように感じられる。
人ごみも、雑音も全てが遠い。
互いの世界には互いしか存在しないのだ。
だが、舞台裏で対峙する二人には、まるでそれが彼岸の出来ことであるかのように感じられる。
人ごみも、雑音も全てが遠い。
互いの世界には互いしか存在しないのだ。
藤木が駆けた。
無刀であろうと藤木の拳は凶器そのものである。
素手でも充分に人体を破壊しえる。
無刀であろうと藤木の拳は凶器そのものである。
素手でも充分に人体を破壊しえる。
驚異的な瞬発力を持って、藤木が一瞬で間合いに入った。
盲目といえど清玄も一流。
当然、その気配には気付いている。
聴覚、嗅覚、感覚、味覚。
清玄は己のあらゆる感覚を使い藤木の位置を捕える。
藤木、清玄。双方の手首が同時に風を切った。
虎眼流では手首を用いた当て技を虎拳と呼ぶ。
虎拳の狙いは互いに頭部。
命中すれば顎が吹き飛ぶのは必至だろう。
ともすれば、首が捻れ飛ぶ程の破壊力を秘めた一撃である。
盲目といえど清玄も一流。
当然、その気配には気付いている。
聴覚、嗅覚、感覚、味覚。
清玄は己のあらゆる感覚を使い藤木の位置を捕える。
藤木、清玄。双方の手首が同時に風を切った。
虎眼流では手首を用いた当て技を虎拳と呼ぶ。
虎拳の狙いは互いに頭部。
命中すれば顎が吹き飛ぶのは必至だろう。
ともすれば、首が捻れ飛ぶ程の破壊力を秘めた一撃である。
だが、その虎拳が当たる事はなかった。
今にも一撃が被弾しようかという瞬間、二人の身を奇怪な妖術が囚えた。
盲目である伊良子は突然自らの身が沈む怪奇に思わず戸惑う。
だが、それは藤木も同じ。
突如その身を黒靄のような渦に飲み込まれる事態に、理解など及ぶはずもない。
半歩進めば届く位置に、憎い仇敵。
どれほど前に進もうと足を踏み出そうとしても、その足は既に飲まれ身動きはとれない。
その間にも、憎っき仇は闇に堕ちてゆく。
それと同じくして、藤木にも闇色の幕が下りる。
だが、それは藤木も同じ。
突如その身を黒靄のような渦に飲み込まれる事態に、理解など及ぶはずもない。
半歩進めば届く位置に、憎い仇敵。
どれほど前に進もうと足を踏み出そうとしても、その足は既に飲まれ身動きはとれない。
その間にも、憎っき仇は闇に堕ちてゆく。
それと同じくして、藤木にも闇色の幕が下りる。
「伊良子――――…………!」
叫びすら闇に飲まれる。
伊良子清玄と同じくして、藤木源之助はその舞台から姿を消した。
気が付けば藤木は森の中にいた。
見渡せど仇敵の姿は見えず。
見覚えのない森が広がるばかり。
傍らには見慣れぬ籠一つ。
その内にある物も見た事もないような奇怪な物ばかりである。
手にするか否か迷ったものの、一先ず持ち行く事にする。
見渡せど仇敵の姿は見えず。
見覚えのない森が広がるばかり。
傍らには見慣れぬ籠一つ。
その内にある物も見た事もないような奇怪な物ばかりである。
手にするか否か迷ったものの、一先ず持ち行く事にする。
ふと天を見上げれば、常と変わらぬ満月が浮かぶ。
いかな時を経ようとも変わらぬ月のように、藤木の心も変わりはしない。
いかな時を経ようとも変わらぬ月のように、藤木の心も変わりはしない。
士は貝殻のごときもの。
士の家に生まれたる者のなすべきは、お家を守る、これに尽き申す。
今、まさに貶められようとしている岩本家の名誉を守る。
そのために、伊良子清玄を誅す。
藤木の意思はこれに尽きた。
士の家に生まれたる者のなすべきは、お家を守る、これに尽き申す。
今、まさに貶められようとしている岩本家の名誉を守る。
そのために、伊良子清玄を誅す。
藤木の意思はこれに尽きた。
「――――こんばんは」
唐突に背後から声がかかった。
藤木源之助らしからぬ不覚であった。
背後を取られるどころか、声をかけられるまで相手の気配を気取れぬとは。
それとも、相手が余程の手練なのか。
藤木源之助らしからぬ不覚であった。
背後を取られるどころか、声をかけられるまで相手の気配を気取れぬとは。
それとも、相手が余程の手練なのか。
藤木は振り返り、呼び声の主をゆっくりと見据えた。
そこに立っていたのは、元服を向かえて間もないような青年であった。
目元まで伸びた、烈火のような赤い髪。
口の上には特徴的な黒子が一つ。
だが、その目は虎子。
虎眼流の高弟達と同じく、高みを目指す虎子そのものであった。
そこに立っていたのは、元服を向かえて間もないような青年であった。
目元まで伸びた、烈火のような赤い髪。
口の上には特徴的な黒子が一つ。
だが、その目は虎子。
虎眼流の高弟達と同じく、高みを目指す虎子そのものであった。
「いや、お互いとんでもないことに巻き込まれちゃったもんですね。
ああ、警戒しないで下さい。オレ、範馬刃牙って言います。
オレは殺し合いなんかするつもりはありませんから」
ああ、警戒しないで下さい。オレ、範馬刃牙って言います。
オレは殺し合いなんかするつもりはありませんから」
言葉に藤木ははたと思いだす。
なるほど、そういえば、何処かの誰かがそのような戯言をぬかしていたか。
だが、藤木にはその言葉が理解できない。
なるほど、そういえば、何処かの誰かがそのような戯言をぬかしていたか。
だが、藤木にはその言葉が理解できない。
殺し合えとはいかなる意味か?
士の命は士のモノならず。
士の命は主君のモノなれば。
主君のために死場所を得ることこそ、武門の誉。
士の命は主君のモノなれば。
主君のために死場所を得ることこそ、武門の誉。
主君のためとあらば、殺し合うこともいとわぬ覚悟。
そんなモノは当の昔から持ち合わせた当たり前のモノである。
そんなモノは当の昔から持ち合わせた当たり前のモノである。
今さら、それを説かれる意味が藤木には理解できなかった。
「虎眼流、藤木源之助にござる」
一先ず、藤木は礼に従い名乗りを返す。
だが、藤木の目的はあくまで伊良子清玄を討つこと。
この場に留まる意味などはなかった。
だが、藤木の目的はあくまで伊良子清玄を討つこと。
この場に留まる意味などはなかった。
「道を急ぐゆえ、失礼」
そう言い残し、藤木は踵を返した。
次の瞬間、鋭い刃が藤木の頭部を貫いた。
今、藤木源之助は殺されたのだ。
藤木は咄嗟に頭部を押さえる。
だが、確かめて見れど傷などない。
藤木の頭部は健在であった。
だが、確かめて見れど傷などない。
藤木の頭部は健在であった。
藤木は後ろを振り返った。
そして、そこに立っているモノを見つめ僅かに戦慄を覚えた。
当然そこにいるのは範馬刃牙である。
だが、バキが虎子であるという藤木の認識は誤りであった。
範馬刃牙は虎子などという生易しいモノではなかった。
範馬刃牙は正真正銘の鬼子であった。
そして、そこに立っているモノを見つめ僅かに戦慄を覚えた。
当然そこにいるのは範馬刃牙である。
だが、バキが虎子であるという藤木の認識は誤りであった。
範馬刃牙は虎子などという生易しいモノではなかった。
範馬刃牙は正真正銘の鬼子であった。
剣など放たれてはいなかった。
先ほどの幻影はバキの鋭すぎる殺気が見せたモノ。
先ほどの幻影はバキの鋭すぎる殺気が見せたモノ。
だが、バキがその気なら藤木は死んでいたことも事実である。
「――――藤木さん。立ち合いましょうか」
突然の立ち合いの申し出であった。
藤木にこの申し出を受ける利は余りにもない。
バキに対し私怨がある訳でもなく。
道場破りを返り打つように、虎眼流の名誉がかかった戦いでもない。
まして、藤木には伊良子清玄という明確な怨敵がいるのだ。
無意味な手傷は御免被りたいところであろう。
だが、藤木は真正面から叩きつけられた立ち合いの申し出をかわす器用さを持ちあわせていない。
藤木にこの申し出を受ける利は余りにもない。
バキに対し私怨がある訳でもなく。
道場破りを返り打つように、虎眼流の名誉がかかった戦いでもない。
まして、藤木には伊良子清玄という明確な怨敵がいるのだ。
無意味な手傷は御免被りたいところであろう。
だが、藤木は真正面から叩きつけられた立ち合いの申し出をかわす器用さを持ちあわせていない。
「わかり申した」
鉄仮面のように眉一つ動かさず、真正面から藤木は申し出を受けた。
表情に動きがないのは戯れと受け流し、気負いがないためだろうか?
否。否である。
藤木源之助は戯れのできぬ男である。
眉一つ動かさぬのは、揺るがぬ覚悟ゆえ。
立会いを受けたのは勝利する絶対の自信ゆえ。
表情に動きがないのは戯れと受け流し、気負いがないためだろうか?
否。否である。
藤木源之助は戯れのできぬ男である。
眉一つ動かさぬのは、揺るがぬ覚悟ゆえ。
立会いを受けたのは勝利する絶対の自信ゆえ。
藤木の覚悟をバキは理解していた。
藤木はこの意味のない立ち合いに命のやり取りを覚悟している。
元来、立ち合いとはそう言うモノである。
これは、命のやり取りになるだろう。
だからいい。
だからこそいいのだ。
藤木はこの意味のない立ち合いに命のやり取りを覚悟している。
元来、立ち合いとはそう言うモノである。
これは、命のやり取りになるだろう。
だからいい。
だからこそいいのだ。
バキに殺し合いをする覚悟はなかった。
だが、命を賭ける覚悟はあった。
だが、命を賭ける覚悟はあった。
それくらいじゃなければ、アレには到底届かない。
否。それでも足りないくらいだ。
否。それでも足りないくらいだ。
「藤木さん。よかったら使ってください」
バキは自身の支給品を藤木に投げ渡す。
藤木が受け取ったそれは西洋刀であった。
藤木には見慣れぬ造詣ながら、業物である事は理解できた。
しかし、これから立ち合おうという相手からの贈り物など訝しんで然るものである。
だが、藤木はそのような悪意には無頓着な男であった。
藤木が受け取ったそれは西洋刀であった。
藤木には見慣れぬ造詣ながら、業物である事は理解できた。
しかし、これから立ち合おうという相手からの贈り物など訝しんで然るものである。
だが、藤木はそのような悪意には無頓着な男であった。
何より太刀が必要であった。
相手が野良犬とあらば太刀は不要。
しかし、相手は虎子を超える鬼子である。
相手が野良犬とあらば太刀は不要。
しかし、相手は虎子を超える鬼子である。
「かたじけない。頂戴仕る」
藤木は太刀を抜く。
士と刀。
この二つにはどれ程の意味があるのか。
太刀を抜いた藤木の気配はこれまでと全くの別物であった。
抜いた刃よりも鋭い藤木の気配。
士と刀。
この二つにはどれ程の意味があるのか。
太刀を抜いた藤木の気配はこれまでと全くの別物であった。
抜いた刃よりも鋭い藤木の気配。
そんな刺すような死の気配を感じバキは笑う。
この緊張感は、アイツに匹敵する、と。
こうでなくてはと鬼子は笑う。
頭に鬼を浮べて鬼子が笑う。
死に歓喜して鬼子が笑う。
頭に鬼を浮べて鬼子が笑う。
死に歓喜して鬼子が笑う。
そのバキの笑みを見て、藤木が始めて表情を変えた。
笑みである。
ここに来て藤木が見せた表情は穏やかな笑みであった。
その様は異様であった。
無意味に命を賭けながら、対峙する二人の男は笑っていた。
無意味に命を賭けながら、対峙する二人の男は笑っていた。
正気にては大業ならず。武士道はシグルイなり。
【H-5 東寄りの森/一日目・深夜】
【範馬刃牙@グラップラー刃牙】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:荷物一式
[思考]
1:藤木と立ち合う
2:ここで強者と戦い己を磨く
3:範馬勇次郎を倒す。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:荷物一式
[思考]
1:藤木と立ち合う
2:ここで強者と戦い己を磨く
3:範馬勇次郎を倒す。
【藤木源之助@シグルイ】
[状態]:健康
[装備]:小狼の剣@カードキャプターさくら
[道具]:荷物一式、支給品不明
[思考]
1:バキと立ち合う
2:伊良子清玄を討つ。
[状態]:健康
[装備]:小狼の剣@カードキャプターさくら
[道具]:荷物一式、支給品不明
[思考]
1:バキと立ち合う
2:伊良子清玄を討つ。
【不明/一日目・不明】
【伊良子清玄@シグルイ】
[状態]:不明
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]:不明
[状態]:不明
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]:不明