ジャイ@FEG 様からのご依頼品



【物語は心の中に~】


 日差しが暖かく入り込み、小さく開けられた窓から入り込む心地よい風に白いカーテンがなびいていた。

 そんな穏やかな雰囲気の図書館に置かれてあるクッションの上に、一匹の猫がごろんちょしていた。
 その猫の脇には一人の青年が、読み終えた本を丁寧に閉じていた。
 その青年-ジャイは先程まで読んでいた『初心者呪文集』を元の棚へと戻すため立ち上がった。

 床へ直接座り込むこの図書館には、多数のクッションがちりばめて置かれている。
 そのクッションを踏まないように歩み、呪文集を元の棚へと戻したジャイは、ごろんちょしている猫-ブータの元へ戻ろうとして、ふと一冊の本に目が止まった。

 豪華な装丁でなく。上質な紙がつかわれてるでもなく。
 厚手の色紙に字が直接書かれており、それらの色紙が順番に束ねて綴られている、表紙もついていない、どう見ても誰かの手作りの本だった。


 ジャイはその本が気になり手にとると、離れたクッションでごろんちょしていたはずのブータまで、ジャイの足元にいた。
 一人と一匹はその場に腰を下ろすと、その手作りの本を開いた。
 ジャイは、ブータにも見えるように、とブータを膝の上に乗せると、朗読を始めた。

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 広がる草原に広がる青空。
 その中を小さな小さな子猫と小さな小さな、でも子猫よりは大きな子犬がじゃれて遊んでいました。

 ぽつ…ぽつぽつ…

 子猫のひげを一粒の雨が濡らしました。
 程なくして、ぽつりぽつりと落ちてきた雨に二匹の小さな体が濡れていきます。

 びっくりした二匹は100mほど先にある、淡く光る木の下へと、雨宿りするために走りました。

 木の下へ着く頃には雨も強くなり、ずぶ濡れになってしまった二匹は濡れた毛を舐めて、毛繕いを始めました。
 毛繕いに夢中になった子猫は、コロンと後ろに倒れても、毛繕いを続けています。
 子犬はそんな子猫の腹を舐めては毛繕いを手伝いました。

 二匹の毛繕いが終わった頃。

 ぽとり。

 何かが、二匹の目の前に落ちてきました。

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「うわぁ、何が落ちてきたんでしょうね?ブータさん」
「早く続きを読むんじゃ」

 ブータに急かされたジャイは、続きを読もうとして気付いた。

 先程までこのフロアにすら人がほとんどいなかったのに、ジャイとブータの周りを何人かの小さな子供達が囲っていたのだ。

「おにいちゃん!はやくつづきよんでー」
「よんでよんでー」

 子供達にまで急かされたジャイは、静かにページをめくった。

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 びっくりする二匹。

 子猫は毛を逆立て「ふーっ」と鳴き、子犬は立ち上がり「わん!わん!」と吠えます。


 木の上から落ちてきた固まり。
 それは二匹よりさらに小さな動物でした。

「ちゅー?」

 それは子ネコリスでした。
 雨に濡れた木々の枝に足を取られて滑ってしまい、落ちてきたのでした。

 最初はビックリした二匹でしたが、子ネコリスが「ちゅー」と痛そうに鳴いているのを見ると、かけより子ネコリスを舐めてあげました。

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「ネコリスさんだったのか!」
「にゃー」
「ねこりすさん、いたいいたいだよ!」
「だいじょうぶ?ねこりすさん」
「大丈夫だよ。子猫さんと子犬さんか舐めてくれたからね」

 気付けば、ジャイは保父さんのように子供達に語りかけ、ブータに声をかけ、再び物語の続きを読み始めました。

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「にゃんにゃんちゅー」

 ありがとう、と鳴く子ネコリス。

「なーぅ」
「くぅん」

 と答える二匹。
 三匹は、仲良く一緒にここで雨が止むのを待つことにしました。

 雨宿りをする間、三匹はじゃれあい、木の周りを走り回ったりと遊び回っていました。

 やがて雨は止み、雲の隙間から太陽が顔をのぞいてくるのを見つめる三匹。

 ふと、子猫と子犬はさみしくなりました。
 雨が止んだら子ネコリスとお別れしなければなりません。
 しゅんと耳を垂れる二匹。

 しかし、さみしいのは二匹だけではありませんでした。
 子ネコリスもまた、さみしくなって鳴き出していたのでした。

 完全に雨もあがり、広がる青空の下。いよいよお別れの時。

 子猫は「なぅなぅ」と鳴きました。
 子ネコリスが「にゃんにゃんちゅー」と返します。
 子犬はそんな二匹に「ばぅ!」と一声かけます。

 子猫と子犬の声に、子ネコリスは「ちゅー」と鳴いたあと、淡く光る木を見上げます。
 その木の葉の隙間から顔を出す大中のネコリス。
 二匹のネコリスに向かって、子ネコリスは言いました。

「ちゅー、にゃぁ…にゃんにゃんちゅー!」

 その小さなネコリスの声に応えたのは大きなネコリスでした。

「ちゅー!」

 それを聞いた子ネコリスは、子犬の背中に乗りました。

「なうなう!」
「ばうばう!」
「にゃんにゃんちゅー!!」

 三匹はそれぞれ掛け声をあげると、広がる青空へと歩んでいきました。


 おわり。

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 ジャイは全てを読み終わると、ふー、っと一息をつく。
 周りの子供達からは「ありがとう、お兄ちゃん!」と口々にお礼を言われた。

 一部の子供達は、三匹が何て話をしたのか、どこへ向かうのか、と想像を巡らせては語り合っています。


 そんな子供達をほほえましく見詰めジャイとブータ

「ブータさん、みんなが想像をしては、たくさんお話していますね」
「これも一つの魔法じゃな」
「魔法、ですか?」

 きょとん、とブータを見るジャイ。
 ブータはジャイの膝を下りると、日差しのよくあたる、さっきまでいたクッションへと戻っていった。


 ジャイは先程まで朗読していた本を裏返したり、書いた人の名前がないかを探してみたが結局、何も解らなかった。

 たくさんの人に読んでもらえるといいなぁ、と思いながら、ジャイはその本の納める場所を探すと、先程読んでいた呪文集の横に置ける隙間を見付ける。
 丁寧に本を置き、ブータへ帰りましょう、と声をかけた。


「おにいちゃん、ごほんよんでくれてありがとー!」
「まーたーねー!」

 子供達の満面の笑みに、ジャイは物語から得る何かよりも温かいものを貰い、「うん、またね」と声をかけて、図書館を後にした。

「ブータさん、またきましょうね」
「そうじゃな」
「今度は僕達も物語を持ってきましょう」
「そうするといいじゃろ」
「はい!」


 その日、ジャイは夢見た物語をノートへつづりました。
 また、あの子供達へ伝えるために。


終わり



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最終更新:2008年06月11日 20:09