那限逢真・三影@芥辺境藩国様からのご依頼品



久々に小笠原に来ました。
 小笠原は東京よりちょっと空気がいいので落ち着きます。
 ただ、日差しが東京より強いのが問題ですね。
 こう日差しが強いと……。


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 目眩がし、思わずしゃがみこんで咳をしました。
「ん? 大丈夫か? あの人」
 小笠原の学校から人が出てきました。
 あら、知っている顔もいますね。
「あの人って、あれが月子嬢だぞお前……」
「ああ、そう言えば」
「月子嬢、今いいですか?」
 やってきたのは、那限逢真さんと、見知らぬ人です。
 先程の会話から察するに、二人はお友達のようです。
「なんでしょう?」
 顔を上げたら、二人が心配そうにこっちを見ています。
 いけない。旅行に招待されたのにこんな顔しちゃあ。
 私は立ち上がりました。
「はい」
「こちら、常世知行。オレの親友で、芥辺境で文族をやっている人です」
 どうもお友達を紹介してくれるようです。
 常世知行さんと目が合うと、笑っていました。
「初めまして、常世知行です」
「はい。こんにちは」
「こんにちは」
「咳をしていますが大丈夫ですか?」
 いけないいけない。
 いきなり見知らぬ人にまで心配をかけちゃ。
 私は努めて明るい表情をしました。
「今日は、少しごめんなさい」
「いえ、お気になさらずに」
 常世さんは首を振ってくれました。
 代わりに那限さんが話しかけてくれました。


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「体調、大丈夫ですか?」
「はい」
「では、すいませんが、一時間ほどお話させてもらっていいでしょうか?」
 那限さんがそう話しかけた時、光が勢いよく走ってきました。
 あら? これはこの間の……?
 光は形を取り、那限さんの頬を思いっきり引っ張り始めました。
「うわきものー!!」
 小さなポニーテールの羽妖精が頬をパンパンにして怒っています。
 思わず笑みがこぼれました。
 微笑ましいなあ、と。
「いたたた。Q引っ張らないでくれ」
「うわきものー」
「してないしてない」
 ……笑いすぎて、むせました。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
 常世さんが私を心配している間も、那限さんはQをなだめていました。


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 羽妖精のQは胸を張っています。
 確か、この間神に捕まっていたのを那限さんに助けられたんですね。
 きっと那限さんをヒーローのように思っているんでしょうね。小さい頃の、私とコウみたいいなものなんだなと、懐かしくなりました。
「そう言えば、何でヨシフキンに瓶詰めにされていたんだ?」
那限さんは首を傾げてQを見ています。
「この手の妖精は、瓶の底に砂糖水をつけて、月明かりのしたで3晩、運良く蓋を閉めると手に入るんです」
「なるほど、月子さんは博識なんですねえ」
 素直に常世さんが感心してくれたので、思わず顔を赤くしました。
 妖精や式神は、私の得意分野だから、博識とか、そういうのとは少し違うんだけどな……。
 Qは「ムーッ」とでも言いたげに那限さんに抗議しています。
「私は違うよ! ちがうー、ちがうー」
「そうか。お前がそう言うなら違うんだろうな」
 那限さんは微笑みながらQを見ました。
「Qの故郷はどういうところなんだ? 瓶詰めにされる前にいたところでもいいけど」
「森。川もあるよ。マスがとれる」
 Qはえっへんとばかりに胸を張っています。
「ニジマスとかイワナだったら取れたな。オレの故郷も。……まぁ、森の中じゃなくて山の中だったけど」
「ついていっていい?」
「ん? いいよ。機会があったら一緒に行こうか。というか、Qがいるなら歓迎するよ。楽しい旅になりそうだしな」
 那限さんの言葉にQは喜んで踊り始めました。
「えーっと、よかったね」
 私が語りかけると、妖精の捕まえ方をしゃべったせいか、Qは那限さんの後ろに飛んでいきました。嫌われちゃった、かな?
「そうだな……宜しかったら、月子さんもどうですか? 空気きれいですし、いいところですよ?」
「少し、考えさせてください」
 常世さんの言葉に、ちょっと返事はできませんでした。
 Qは「ガルルルル」と言いたげな顔で那限さんの後ろから顔を出しています。 
 彼女を安心させるよう、私は微笑んでみました。
 Qはプイっと顔を逸らしただけでした。
 うーん、完全に嫌われたかなあ……。


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 Qは本当に那限さんがお気に入りなようです。
 彼に誘われて胸ポケットに納まり、上機嫌なようです。
「月子さん、妖精ってあんなに人にすぐ懐くものなんですか?」
 常世さんは胸ポケットの中のQを指差して訊きます。
「精霊はともかく、妖精が人に懐くのは珍しいんですよ。妖精は勝手だから」
「なるほど」
「……そういうものなの?」
 那限さんは「そういうものかな~」と下を見下ろすと、Qは「えっへっへ」と得意そうに笑っています。
「妖精は幸運をもたらすから無理にでも飼いたがる人が多いんです」
 その一言にQは「ツーン」と言ってあさっての方向を向いています。
「ああ、だからヨシフキンに捕まえられたのか」と、那限さんはようやく合点の言った顔をしました。「勉強になるなあ」と常世さんも頷いていますね。
 Qはポニーテールをプルプル震わせて那限さんを見ています。
「そう言えば、Qの髪はきれいだな。どうやってといてるんだ?」
「歯ブラシ」
 その答えにみんな絶句しました。
 あらあら。
「これからは逢真さんが梳かせばいいんじゃないですか?」
「作ってあげたらどうでしょう」
 私と常世さんの答えに「そうだなあ」と那限さんは頷きました。
「私も手伝いましょうか? お人形のを探せばすぐですし」
「あ、お願いできますか? 男の私だと気が付かない部分もありそうで……」
「最近は100円ショップとかでもあるんですよ」
 私は思わず笑っていました。
 Qは幸せものだなあと、思いました。


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「Qは他に欲しいものとかあるか?」
「えっと勝負下着」
 周りは凍りつきました。
 あらあら。
 Qは那限さんに好いて欲しいんだなあ。
 そう思いました。
「……まあ鈍いですから、気付いていないとは思いますけどねえ」
 常世さんもおっしゃっています。
 勝負下着かどうかはともかく、100円ショップで人形の水着は売っているから、それをあげたら喜ぶんじゃないかしら?
 こうして私達は、100円ショップに、Qの為に買い物をする事になりました。
 頑張って。
 私は密かにQにエールを送るのでした。


作品への一言コメント

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  • 月子視点の物語にQの微笑ましさが出ていていいです。どうもありがとうございます -- 那限逢真@天領 (2008-02-18 00:43:04)
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最終更新:2008年02月18日 00:43