鍋村次郎@鍋の国 様からのご依頼品
「トラオ・テンダーブルーとの昼休み」
憧れの小笠原、待望の小笠原、お待たせの上田虎雄もといトラオ・テンダーブルー。なんだか、迷宮に行ったとか鍋の国に滞在してくれるようになったとか色々あったトラオととうとう出会う時がやってきた。鍋の国でもトラ大好きな鼻眼鏡がトレードマークの鍋村次郎と鍋村藤崎の鍋村コンビは今日、とうとう小笠原にやってきたのでした。
トラオと一緒にお昼を食べた二人はトラオが疲れからか、ウトウトとしたのを見ると音を立てないようにお昼の片付けを始めました。
「おとさん、トラオ君つかれてるんだよね、やっぱ」
鼻眼鏡がチャーミングでソウルフルな次郎は小声で鍋の国のおとーさんでもある藤崎にささやきました。トラオに会いたくてきたけれども、疲れているなら休ませたい。二人の想いは共通でした。
「だね。さすがに起こすのが忍びない・・」
藤崎は次郎の言葉にうなずくとそっと離れようとしました。ところが、トラオは急に目を開けました。
「ごめん」
「え?」
「ん、どしたの?」
二人は何も気づかなかったかのようにニッコリと笑いトラオを見つめます。
「いや、ちょっとねちゃって」
トラオが疲れていないかどうか気にしつつも藤崎はやさしく声をかけました。
「まだ時間あるから寝てていいよ?」
医者の不養生という言葉があります。鍋の国の吏族でもあり医師(アイドレス)を着ている藤崎は医師としてトラオをじっと見つめます。
「そう言うわけにはいかないよ。せっかく来てくれたんだから」
トラオの言葉に次郎はなんか、おとーさんと同じ事いうなぁっと思いつつも。
「いいよいいよ。なんでしたら眠ってる間にマッサージのオプションもお付けしますが?」
と手をワキワキさせて個人的目的達成をもくらむのでした。(小笠原一回につき一回トラオに触る計画)
次郎のワキワキと動かす手を見ながらもトラオは答えます。
「いやいや。そうだ。それよりお話をきかせてくれない?」
トラオがわざわざ来てもらったのにマッサージしてもらうのが悪いと思ったのか、手の動きに何かを感じたのかはわかりませんが、トラオはお話をせがみました。
「優しいなぁ。ありがとう。でも疲れてる時は休まないと。また会いに来るからその時に色々話したりしよう」
あくまで鍋のおとーさんにして医師な藤崎はトラオの体を心配しています。それもそのはず、このお話だけを見ているとわかりませんが、トラオは今日も随分な数の患者さんを見ているのです。
「お話かあ。あ、さっきも言ったけど色々絵本持ってきたんだ」
ちょっとだけマッサージができないことを残念に思っていたのか少し不満そうな所を見せつつもゴソゴソと自分の宝物を取り出すように荷物から次郎は絵本を取り出しました。:
「じろさんのマサジは気持ちいいよ~もんでもらうといいよ」
藤崎はニコっと笑いつつもマッサージをアピールします。けれど、トラオの気持ちが大事、無理に誘うのではなく、さわやかに誘います。
「うーん。寝るのはいつでも出来るのは、お話をきけるのは、今だけだから。いいでしょ?」
トラオの言葉に子供みたいでかわいいなぁっと思った人はきっといっぱいいたのでしょう。藤崎もトラオの気持ちを優先することにしました。
「う・・・ じゃ、じゃあちょっとだけ・・・眠くなったら寝ていいからね?」
それでも、疲れていることは案外本人は気づかないことなので、無理しないでねという想いを込めつつも藤崎は了承しました。
「ウチの国のベストセラーらしいやつとかなんとか」
次郎は荷物の中から三冊の本を取り出しました。
「あれ。なんか変なのも混ざってたかなぁ…?」
本の内容は「ペンギンさんパリに行く」と鍋の国で大人気の「矢鍋様がみてる」ともう一つちょっとHなカンジの本です。
「じろさんのチョイスは幅広いなぁ!」
藤崎はトラオに見えないように親指を立てつつ、次郎のセンスを褒め称えました。トラオも次郎のお茶目なチョイスに微笑みました。藤崎はその笑顔に疲れていても余裕がないほど疲れているというわけではないことに気づき、二重の意味で安心しました。
「国にはもっと色々本があるんだよ。沢山読みに来ると良いよ!そしたらお話もいっぱい出来るだろ?」
「そうだね」
次郎の言葉に再び微笑むトラオ。
「ここの患者が終わったら、次は鍋の国へ」
「みんなと鍋もしようよ。これから野菜のおいしい季節だし」
「ほんと!やくそく、やくそくなーー」
トラオの言葉に大歓迎の藤崎と次郎。次郎はやくそくとばかりに小指で小指をブンブンと振り約束をかわすのでした。トラオもかならずとばかりにしっかりとうなずきます。
「そうとなればココの患者さんを全力で治すべきだな。うん。おとさん一ヶ月ぐらい下宿したら?」
「下宿!!」
次郎の言葉に驚きつつも藤崎は国のお仕事を誰に任せるかなどと割と本気で考えている自分に苦笑しました。
「ちなみに俺はその間失われた学園生活をエンジョイさせていただく!」
次郎の鼻眼鏡がキラーンと光輝きます。
「そういやここの病院には猫野さんもいるなぁ・・」
二人してちょっと本気なご様子。一方、トラオは「ペンギンさんパリへ行く」を声を出しながら読み始めました。藤崎と次郎もうっとりと耳を傾けます。
「そう言うとペンギンはタバコをふかし、そしてまた語ります」
トラオの声に誘われてか、あっちこっちからネコリスが現れました。そして、ジっとトラオの話を聞いています。
次郎と藤崎も少し驚きますが、「にゃんにゃんちゅー」っとネコリスに挨拶をするとトラオの話に耳を傾けます。
それはペンギンの決意のお話。それはペンギンの過去のお話。悲しいけれどそれでもどこかに希望を感じさせるお話でした。
トラオの瞳には色々な悲しみが透けて見えますが、それでも彼は絶望をその瞳にのせることもなく、今、これからの人生を歩んでいくのです。そんな彼を見つつも再び小笠原に訪れようと二人はそっと思うのでした。
冗談で出た言葉を本当の事にしよう……藤崎は実行しようと決意し、次郎は絶対また小笠原に来て医師のまねごとはできなくても、何らかのお手伝いをしようと考えているのでした。
二人が再び小笠原を訪れたのはそう遠くない将来の事です。でも、それはまた別のお話です。
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引渡し日:2007/11
最終更新:2007年11月07日 18:24