No.97 高神喜一郎さんからのご依頼



 頭の悪くなりそうな合成着色料をガンガンに埋め込んだ魅惑の駄菓子、中でも夜店の花であるリンゴ飴の最後の一口を食うと、ぱんぱんにふくれあがった胃を押さえながら、走り出した。
 その横をサンガ少年が走る、まだ若いサンガは大量の夜店の菓子を食ってもまだまだ元気、むしろますます調子がよくなっているようだ。

 うらやましいなーとタカツキは思う、なにぶん中年の足音が近づいている、ふくらんだ腹は簡単には減らないし、戦場ならともかく日常的な体力不足はどうしようもない。
 日に日に落ち行く体力との戦いは過酷な様相を呈しているが、それでも中年オヤジにならじと頑張るタカツキ


 真っ青な顔をして走るタカツキをだらしないなーと思いながらサンガは速度を速めた、走れば走るほど、体に力が入ってくる、もっとはやくもっとはやく。
 日頃から訓練はかかしたことはない、訓練のために生きているのかというぐらいに毎日毎日飽きることなく走っている

 横に並ぶ深澤まゆみがそんなサンガをみて微かに対抗心を燃やした、健全この上なさそうな謎の少女、まじめが売りらしく、単純なところがある。
 引っかかりやすいとも言えるが、引っかかる端から引きずるようなところがあるので、特に問題はないようだ、大体に置いてこういうタイプは、たとえ動けなくなっても気づいてないし、あんまりにあんまりだと誰かしらが助けてくれたりするような、そんなことがよくある、得だ

 単純二人が並ぶ、そのまま相手の顔をみて微笑み会うと、少しずつ早さが増していく。
 二人の勇気が速度になったようにすごい勢いで賑やかな縁日の境内を駆け抜けていく、人の波を縫う風のように駆け抜けて境内の端っこにまでたどり着く。

「やるね!」
「あなたも」

 お互いに目の前にある木にタッチしてそのまま戻る、今度は境内の先、階段を三段飛ばしておりながら街を走る

 そんな二人の背中を見ながら、へろへろになったタカツキは適当なところで、腰を下ろした、よくわからんが、使命は果たしたと思う、これからは大人の時間だ。
 ビールの屋台でもないかと、タカツキはのろのろと立ち上がる。

 元気よく走り続けるサンガ、そのとき、電流が走る。
 町中で迷子になっていた少女を助けたら、実はその少女は姑にいびられていた母が危機感を感じて逃がしたのだがしかし恐るべき姑は、せめて息子の血だけはつたえんと、暗黒舞踏の使い手三十人を派遣しており、凄まじい舞踏合戦の果てに、血で血を洗う壮絶な山崎屋買い物勝負によって巻き起こった伝説的ラブコメ事件によって十二代にわたる因縁と親子の情愛の解決をかいま見て、少し大人になったサンガは、それに気づいた。

 ほとんど健康優良児の本能としか言えない、隣を走り続ける深澤まゆみも同じ感覚を受けたらしい、クイックターン、靴から火が出るほどの速度を器用に殺す。
 反転して、そのまま祭りに戻るために、走り出す。
「いけないですね、運動中に飲み食いなんて」
「そうそう、体に悪いよ」
 修行とランニングには一家言ある、サンガ、全くの親切心からタカスギを止めるために走り出していった。

 タカツキは、はて、財布はどこにやったけと思って、ごそごそと体を探っていた、そういえば、さっき尻のポケットに入れたか。
 取り出して小銭できっちり450円、祭りとしてはやすいがやはり屋台モノは高い、高いのが魅力とも言うが。

 受け取ろうと手を伸ばす、その手に小さな手が重なった、サンガの手だった。

 そのままタカツキを引っ張る、体勢を崩しかけたタカツキが踏ん張る前に素早く深澤まゆみが背を押した。

 あーれーとさけぶまもなく二人に連れ去れるタカツキ
「だめですよ、タカツキさん、太っちゃいますよ」
「そうそう、それにまずはランニング中だろ、せめて終わった後にしようぜ!」

 ニコニコ笑いながらいうサンガにタカツキは苦笑いを浮かべた、とりあえず、このままは恥ずかしい
「わかった、俺が悪かった。とりあえず、手を離してくれ」
 にっこり笑ってサンガが後ろに回る、深澤まゆみと並んで、タカツキの背を押す。

「タカツキさん、みんながなんかあっちでやってますよ」
「いきましょう!!」

 そのまま二人に押されて再び走り出すタカツキ、まあ、こういうのも悪くないか。
 笑いながら大きく腕を振って走り出す、サンガとまゆみが一瞬支えを失ったようにつんのめる、サンガにやりとわらって追いかけはじめた。

 風が吹き抜けていった

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最終更新:2007年11月01日 16:05