タルク@ビギナーズ王国様からのご依頼品
『始まりの歌』
“いやかね?”
“いえ、少し驚いただけです。それではこれからその名を名乗りましょう”
~キャプテン・タルク誕生の瞬間~
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「そろそろ到着じゃな!」
艦橋の椅子の上でくるくる回るグランパの声に、キャプテンであるキャプテン・タルクは感慨深げにメインモニターに映る青い星を見下ろした。
「そうですね。」
サングラスに隠された瞳が優しく微笑む。思えば随分とこうして宇宙の海を渡ってきたが、やはりこの星に帰る時は感慨深くなってしまう。
「ドウシタネ?」
グランパの声にふと思い出す。あの時の降り注ぐ桜の花びらを。
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キャプテン・タルクと言う人物が居る。ビギナーズ王国で子供達に人気のアニメの主人公のモデルとなった人物である。短く刈り込まれた白髪に厳つい体つきではあるが、子供好きである。けして変な意味では、ない。
今回は、モデルとなった彼が劇中のキャプテン・タルクのように宇宙を飛び回る様になったきっかけの話をしよう。
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吸い込まれそうな青空を桜色の花弁が彩る。今は只のタルクはそれを見上げて感嘆の声を漏らす。
「うわあ・・・綺麗だな・・・。」
「まったくじゃのう。」
それに応える声が足元から聞こえた。
タルクの足元には直径1mくらいの大きな球体があった。いや、この場合は居たと言うのが正解である。
グランパ。絢爛世界を支えたBALLS達の最初期に生産された個体であり、機体性能的には最新型のBALLSに劣るが、その永い人(BALLS)生経験故に、動作効率で最新型を遥かに上回る。まぁ、ぶっちゃけると名前のとおりBALLS達のおじいちゃんである。
「グランパさん、はじめまして。今日はお越しいただきありがとうございます。」
一礼するタルク。
今回彼を呼んだのはBALLS達による宇宙開発を調べている内に気になった事が在ったので、直接開発現場に居たグランパに話を聞く為だった。
「そうですね、BALLSにはある時期から反物質が動力として用いられるようになった、と聞いたのですが、」
そうじゃな。と相槌を打つグランパ。
「それ以前は、一体何をエネルギー源としていたのでしょう?」
ある時期を境にBALLS達は反物質をその動力へと変更している。それ以前の動力に付いてグランパが答える。
「核分裂じゃよ。」
「原子力電池、じゃな。危険で危ないものじゃった。」
原子力電池とは、放射性核種の原子核崩壊の際に発生するエネルギーを熱として利用し、熱電変換素子により電力に変換すると言う代物だ。グランパの言う様に危険なものである。少なくともこれを装備したままひとの世界に下りることは難しいだろう。
「ただこれでは宇宙開発先任で人の世界にはいけない。」
「そこで反物質を動力源に?」
地上に行った方が良かったからの。と笑うグランパ。別に笑い声が聞こえた訳でもないが、そんな気が、した。
「人のいる場所の方がよかった、ということでしょうか?」
「宇宙の中には地球がある。宇宙開発するわしらは、地球も開発する。」
「全ては宇宙の中にある。」
どこか、遠くを見て居るようなすぐ近くを見て居るようなそんな声でグランパは答える。
「そうか、途中からは地球の開発も行なわれたのですね。地球も宇宙の一部、うん、いい言葉です。」
おそらくこの言葉は、これから先も今は只のタルクの、やがてはキャプテン・タルクの胸に宿り続けるだろう。
やがてキャプテン・タルクになる男を見上げながらクルクルと回るグランパ。
「宇宙は好きかね?」
「ええ、好きです。」
「全てが宇宙の中にあるなら、なおさら。」
ほんの短いやり取りが何故か、とても大切な何かを決めた気がする。
「いつかは?」
「そうですね、いつかは、行ってみたいです。」
いつかは宇宙へ。過去年老いたBALLSが見続けた人々と同じようにタルクは言う。
「いつかは宇宙へ。わしは何人も見てきたよ。」
グランパの言葉に、彼のレンズをじっと見るタルク。
「その人達は?」
ふと思う。自分は彼、グランパが見てきた人達のようにあの海を行くことが出来るだろうか?
「宇宙艦長から大統領まで。名前を知られぬこともなく死んだのもいる。だが全員を覚えている。わしは覚えておくよ。その顔を。」
あぁ、そうか。このBALLSはずっとそれを見守っていたのだ。
「…ありがとう。私もあなたの事を、今日の事を覚えておきます。」
満面の笑みを浮かべ告げるタルク。
きっと、宇宙に行ってみせますよ。と言う彼にグランパはその想いが叶う事を保証する。
「できるさ。お前はすでに、空の上に心がある。故郷は心のあるところだ。」
「はい。」
もう、この時既にタルクの心はあの透明で限りなく静かな空を飛んでいるのだろう。
「わしの故郷は、遠い昔にあるよ。」
どこか歌うようにグランパが呟く。
「遠い昔、ですか。そういえばあなたの思考回路は…。」
ふとタルクは思い出す。幾人もの人と共に歩く人類の友、その永い道程を。
「わしは幾人もの人とともにある人類の友。」
その言葉に居住まいを正すタルク。
「わしの故郷は、わしがいた者たちの中に。」
「今はもういないが、良い故郷。」
その言葉に思わず聞いてしまった。
「…もう、故郷が増えることは無いのですか?」
もし、そうであるのならばそれはとても寂しい事だろう。
いや、そう言ってグランパはくるくる廻った。
それで、全てわかった。わかってしまった。自然と口元に笑みが浮かぶ。
タルクのはにかんだ微笑を見てグランパは嬉しそうに言葉を紡ぐ。
「宇宙はいいぞ。とても静かだ。」
「静かなのはいいですね。そして、どこまでも果てしなくてきりが無いところもいいです。」
まるでいつものやり取りのように答えるタルク。
「そうだ。男のいくところだ。」
満足げに答えるグランパ。
風が舞い散る桜の花弁を空へと舞い上がらせる。何故だか、タルクにはそれが宇宙に見えた。
「そういえば、」
「はい?」
「わしの知っている船に、一つ欠員が出ているそうじゃ。」
何か別の話題だとは思ったが、これは想定外だった。
「それは、どんな船ですか?」
思わずつばを飲みタルク。
「世界最速の船じゃ。」
あまりにも簡潔な答えを誇るようにグランパは言う。
「どうするかね? 2ヶ月は飛ぶと思うが。」
あまりにも唐突な、だが、あまりにも魅力的な言葉。
「最速…いえ、最初から答えは出ていました。」
そうだ。答えなど最初から決まっていた。
「行かせてください。」
それは、夢への最初の一歩。宇宙を目指す先人達が歩んだ一歩だった。
わしもいくんだよ。そういってタルクと共に歩き出すグランパ。まるでいつもそうしていたように。
「あと20分ある。」
それは猶予であったのだろうか?
「はい。」
歩きながら前を見て答えるタルク。どうやらそんなものは必要ないようだ。
「宇宙での名前は?」
タルクでは短すぎるとグランパは言う。
「そう、ですね…どうも自分にはネーミングセンスが無いのでもしいい名があれば、つけてはもらえないでしょうか?」
苦笑しながらだろう、或いは照れているのかタルクはグランパに聞く。
「キャプテン・タルクは?」
恐らく最初から彼の思考回路が用意していたのだろう。その名前に驚くタルク。
「いやかね?」
まるで試すように聞く年老いたBALLS。このひと(BALLS)は本当に。
覚悟が 決まった。
「いえ、少し驚いただけです。それではこれからその名を名乗りましょう。」
キャプテン・タルクが誕生した瞬間である。たった一人しか観客は居なかったが、今やキャプテン・タルクとなったタルクにはそれで十分だった。
「良い名を、ありがとう。」
胸を張って礼を言う。
「最初は笑われるかもしれん。だが」
グランパの言葉を引き継いで答える。
「見合うだけの実力をつければいい、ですね?」
グランパはそうだと言って、嬉しそうにくるくるまわった。
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キャプテン・タルクの誕生の時はこんな感じだったよ。
ははは、他のエピソードかい?
それは、また別の機会にね。
~FIN~
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引渡し日:2008/08/19
最終更新:2008年06月20日 20:26