ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-16

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 深夜の追撃を決めた四人の動きは早かった。
 タバサはこれから強行軍を強いるシルフィードに「今夜は特別」と夜食を許し、大量の水を飲ませていた。
 キュルケは出るまでに化粧を直して着替えも済ませ、ついでに今夜の逢瀬を約束した全員に宛てた手紙をドアの前に置いておくのに忙しかった。
 ルイズはジョセフと共に部屋に戻り、デルフリンガーを持ってきてから厨房に向かい、明日の仕込みに入っていたコック達に頼んで二日分の食料と飲み水を用意させていた。
 厨房に顔の効くジョセフの頼みとあっては、もう寝ようかとしていたマルトーもわざわざ部屋から出てきて手ずからサンドイッチを手際よく作ってくれる。
 シエスタは夜食を作りに来たと言うより、宝物庫での騒ぎにジョセフが巻き込まれなかったか心配になって探しに来て、厨房で二人を見つけたという状態だった。怪我はなかったか大丈夫か、と心配を隠さないシエスタに、ジョセフはニカリと笑って頭をなでた。
「おうそうじゃシエスタ。なんか新鮮な果物をバスケット一杯用意してもらえんか。出来ればもいでから時間が経っとらんヤツがええのう」
「はい、それなら明日の朝に出そうと思っていたイチゴがあります。ちょっと待っててくださいね」
 と、四人分のおやつには十分な量の小さなバスケットにイチゴを盛ってきたシエスタ。が、ジョセフは「もっと大きいバスケットに一杯頼む」と、シエスタの細腕で持つには少し重い、バスケット一杯のイチゴを用意させた。
 二日分の保存食とワインボトル五本の飲み水が入ったバスケットに、もう片方の手にはイチゴで一杯のバスケット。
 それを両手で持ちつつ背中にはデルフリンガーを背負うジョセフの前を歩くルイズからは、どうにも不機嫌なオーラが出でいるのがジョセフには丸判りだった。

「どうしたんじゃルイズ。どうにも機嫌が悪そうじゃの」
「悪くなんか無いわ!」
 怒鳴りつける声が明らかに機嫌が悪い。
「えーと……わし、なんかしたかの?」
「うるっさいわね! 私は何も機嫌が悪いわけじゃないしジョセフもなんかしたわけじゃないの!」
 これ以上つつくと脛を蹴られると直感したジョセフは、大人しく黙ることにした。
 しかし黙られたら黙られたでまた機嫌を悪くしたらしいルイズは、首だけ振り返ってジョセフを睨んでから、足音荒く足早にシルフィードの待つ厩舎前へと向かってしまった。
 重い荷物を両手に持っているジョセフを置いて先に行ってしまったルイズの姿が曲がり角の向こうに消えてから、ジョセフは首を傾げた。
「なーにヘソを曲げとるんじゃルイズは」
 ジョセフの呟きに、鞘から少し鞘口を覗かせたデルフリンガーが楽しげに喋りかける。
「そりゃ拗ねるだろうさ。相棒、あんまりご主人様の前で他の女に優しくすんなよ?」
「あん? 何言うとるんじゃデル公や。わしは特になんかしたわけじゃないぞ?」
「そりゃ相棒にとっちゃ何でもないことだろうけどよ。今夜だけで、ご主人様だけにしかしてないコトを目の前で他の女にしちまってんだよ。だからお嬢ちゃんはスネてんだ」
「……なんじゃよ。特にわしがルイズに悪いコトをした覚えなんかないわい」
 本気で心当たりなどないと言い張るジョセフに、肩があったら間違いなく竦めていただろうデルフリンガー。
「かーっ、若い娘の気持ちをろくすっぽ理解してねえなあ。いいか相棒。さっき触られた時に何があったかは大体把握しちまったが、俺っちから見りゃ地雷踏み放題じゃねえか。
 ちっこいお嬢ちゃんにハーミットパープル見せたり、メイドのお嬢ちゃんの頭撫でてやったりよ。メイドのお嬢ちゃん撫でてた時なんか、ご主人様ブチギレ五秒前って顔だったぜ?」

 デルフリンガーの言葉に、ジョセフは思わず目を丸くした。
「……マジかい」
「マジも大マジよ! てゆーか、部屋に帰ってきた時からお嬢ちゃんの機嫌が悪いってーのに、相棒と来たら普段通りな顔してるモンだから俺っちの方がビクビクしっぱなしよ!」
 心から楽しんでますよと激しく主張している声で剣が笑った。
「いいか相棒、相棒のご主人様はなんのかの言ってお前を信頼してんだよ。声に出しちゃ言わんし、真正面から聞いても信頼してますだなんて死んでも言わねェだろうがな! あれは生粋の意地っ張りだろうからなァ!」
「まあ意地っ張りだってのは判るんじゃが。……信頼しとんのか?」
「モット伯ん時のことを思い出してみろよ。ありゃお嬢ちゃんの中じゃ妄想じゃねェ。ジョセフならきっとそれくらいはやってのける、って信じてるんだ。俺っちの相棒はやろうと思えば出来るだろうよ。一つ違うのは進んで殺しなんかしねェってことくらいだ」
 的を射たデルフの言葉に、ジョセフはううむと唸った。
「……わしの前じゃそんな素振りなんかチットも見せんが」
(コイツは目端が利くくせに意外と肝心なトコ見えてねエんだよなぁ)
 デルフリンガーはしみじみと相棒のヌケサクっぷりを感じた。
「でもよー、ご主人様の前じゃそういうコトは言っちゃなんねえぜ。あの意地っ張りっぷりからすると、『追いかけられたら逃げるが振り向かなかったら機嫌が悪い』ってータイプだぁな。意外と相棒はデリカシーねえからそこが心配だぜ」
 ケッケッケ、といやらしい笑い声を立てるデルフを、ジョセフは黙って鞘に収めた。
「うるさいわい。わしだってもうそろそろ生誕七十年に突入するわい」
 デルフリンガーが誕生して六千年と言う事をジョセフが知るのは、もう少し後のことだ。
 そしてジョセフは意外と、自分のことが見えていない男だった。

 中庭に着いたジョセフを出迎えたのは、主人の一喝だった。
「遅い! 何してんのよ、もうみんな出発の準備終わってるわよ!?」
 今回の追撃メンバーはルイズ、キュルケ、タバサ、シルフィードにジョセフ。
 全身に火を纏っているフレイムは、夜の追撃戦には不向きだしシルフィードの背中に乗せるのも危険、ということで、キュルケの部屋の暖炉で留守番である。
「んなコト言われたってけっこう荷物が多いんじゃぞ? 相手がどこまで行くかわからんし」
 無駄と判っててもとりあえず言い訳をするジョセフに、ルイズは厳しかった。
「言い訳なんていらないわ! そもそもレディ三人を待たせるって時点で色々失格よ!」
 それから説教タイムに突入しようとしたところで、タバサがぽそりと呟いた。
「そこから後は出発してから」
 有無を言わさない静かな囁きに、ぐ、と押し黙るルイズ。
「そうそう。あんまりきゃんきゃん怒鳴ってると胸は大きくならないのに小じわ出来ちゃうわよ?」
 さも楽しそうに火に油を注ぐキュルケとあっさり大炎上するルイズに苦笑しながら、荷物をシルフィードの背中に積み込むジョセフ。それを手伝うタバサ。それを見て更に炎上するルイズと、これから重要任務に出撃するとは到底信じられない騒がしさだった。
 やがて四人と荷物を全て積み終えて、予定より少々遅れてからシルフィードは夜の空へと飛び立った。
 シルフィードを操るタバサは一番前に陣取り、残りの三人はジョセフを中央にして右にルイズ、左にキュルケが座っているという陣形。言うまでも無くキュルケはルイズに見せ付けるようにジョセフにベッタリするものだから、ルイズは釣られ放題という始末だった。
 まあまあ落ち着け私は落ち着いてるわよああんダーリンぺったんなんか相手にしないで人の使い魔に色目使うとかいい加減にしろこの色情魔など微笑ましいやり取りも終わった頃。

「……うー……」
 普段はとっくに寝ている時間の良い子なルイズは、こっくりこっくりと舟を漕いでいた。
 フーケの襲撃があった時間からして、消灯時間も近い頃だった。そこから図書室で念視を行い、追跡の準備を整える時間を考えれば、十分に夜更かしと言っていい時間だった。
「おうルイズ、着いたら起こしてやるから今のうちに寝とけ」
「う~ん……わかった……」
 夢の住人になりかけていたルイズは、そのままことりと夢の世界に移住した。そのままジョセフの膝の上へくたりと倒れたのは、きっと故意ではない。
「あら寝ちゃったわねルイズ。まあこのまま起き続けてられても厄介だけど」
 そう言いつつ、ジョセフの左腕にはしがみ付いているキュルケ。
「本当ならこの時間にゃおねむじゃからのう。二人は大丈夫なんかの?」
 タバサとキュルケに問いかけるジョセフに、それぞれの返答があった。
「私は慣れてる」
「むしろ私の時間はこれからだもの、ダーリンも知ってるくせに」
 徹夜の追跡を苦にもしない返答に、ジョセフはふむと頷いた。
「それならよしじゃ。それにしてもシルフィードは随分と早いのう。これなら日が出るまでにはフーケに追いつきそうじゃな」
 地図の上に置かれた二つの小石と、自分達の居場所を示す金貨は着実に距離を縮めていた。
 三人でイチゴを摘みながらの追跡行は、予想以上に暢気な旅だった。
 ふと、ジョセフの眉がぴくりと動いた。
「……む? ここで止まりよった」
 二つの小石は進行を止め、ある一点で留まった。それはほとんど人も来ないような森の中で、人目を避けるという一点においては絶好のロケーションだった。

「ここがアジトって言うわけかしら」
「かもしらんな。ここからじゃとどのくらいかかるじゃろか」
 と、タバサに地図を見せて距離を伺う。
「この速度だと三十分で到達する。それにしても不自然」
「じゃな。アジトにしちゃ不便すぎる……水場から遠すぎる」
 三人が地図と睨めっこしていれば、更に不可解な動きが見えた。
 宝物庫の壁の欠片……つまり破壊の杖をそこに残し、フーケを示す小石が、再び動き始めたのだ。
 石の動きを見守る三人の考えを更に混乱させるように、フーケは来た道を再び戻ってきたのだ!
「……ぁー? こりゃ一体何をしようとしとるんじゃ? よほどすごい隠蔽工作かけられとるんか?」
「私にもちっともわかんないわ……」
「様々な可能性が考えられる。けれど破壊の杖を置いて行ったというのは確実」
「……ふむ。ということはアジトに誰かおるんかもしらんな。しかし今からなら、フーケと杖が別々じゃから杖の奪還には打ってつけじゃッつーこッた!」
 三人は顔を見合わせて頷くと、フーケではなく破壊の杖目掛けて進路を変えた。


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