ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

DIOが使い魔!?-46

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キュルケとタバサは、
ルイズがレビテーションも使わずに見事地表に到達してみせたことに対して、
激しく引いていた。
2人とも何も口にせず、
ただシルフィードがバッサバッサとはばたく音しかしない。

「……………………」
「……………………」
おそらく、考えていることは一緒なのだろうが、
それを口に出すのは、何というか
……とてもルイズに対して失礼な気がして、憚られた。
しかし、その気まずい沈黙をキュルケが破った。
「………………ねぇ」
「…………………?」

「人間って、こんな高い所から飛び降りても、
動けるんだ………」
「………………さぁ」
下ではルイズが、
ゴーレムをあっさりと倒したDIOと何やら話をしていた。
これからフーケを拘束する手順でも確認しているのだろうか。
そう思い至ったら、今まで呆けていたキュルケの心に、
メラメラと自尊心の炎が燃え上がった。
自分達は、ほとんど何もしてない。
ルイズを助けるためにゴーレムと一戦したが、
ほんの3、4合だけ、交えただけだ。
これではまるで、ルイズ…ヴァリエール家とDIOが主役で、
自分たちは引き立て役みたいに見えはしないか。

そんなこと、ツェルプストー家の血を引くキュルケが
許すはずがない。
ゴーレムを失ったとはいえ、
フーケはまだやられてはいないだろう。
イタチの最後っ屁くらいのことはする可能性が十二分にある。
それなら、自分たちがそこをやってしまえばいい。
ルイズよりも先に、フーケを捕らえるのだ。
何だか横取りするみたいだが、
それはツェルプストー家とヴァリエール家では日常茶飯事だから問題ない。
フーケを捕まえれば、美味しいところも取れるし、
フーケに対する意趣返しにもなるし、
何よりルイズはさぞ悔しがるに違いない。
油揚げをさらわれて、
顔を真っ赤にして地団太踏むルイズを想像して、
キュルケはウキウキしてきた。
善は急げと、キュルケはタバサに話しかけた。

「タバサ、私たちも降りるわよ!!
ヴァリエールなんかに手柄を独り占めさせてたまりますかってぇの!
GOよ、GO!」
バタバタと急かすキュルケに、タバサは普段と変わらない無表情で頷いた。
タバサ自身もそうするつもりだった。
今、あの2人をフリーにしておくのは、危険だと思ったからだった。
タバサの脳裏に、ブルドンネ街での出来事がフラッシュバックした。

(無駄無駄…)
あの時のルイズの威圧感に、
珍しくタバサは逃げの一手を打った。
自分たちの知らないところで、
何かとても恐ろしい事が進んでいるのではという不安が、グルグルと渦を巻く。
目の前でやきもきしているキュルケは、
ルイズに対する対抗心や、功名心でフーケと戦おうとしているが、
それに比べて、ルイズはどうだろう。
名誉だとか、貴族としての誇りだとか
……そんなものよりも、もっと俗っぽくて、
大きな野望の為に杖を振るっているような印象を受けた。
その姿勢が微かに自分と重なって、
タバサはルイズに対して、奇妙な親近感も覚えていた。
タバサはシルフィードに、降下の指示を出した。
シルフィードがきゅいと主に応じて、ゆっくりと高度を下げていく。
半分ほど下がったところで、キュルケが疑問の声を上げた。

「……あら、ルイズの使い魔がいないわ。
どこ行ったのかしら?
トイレ?」
……………いない?
それを聞いて、ゾワッと身の毛がよだつ感覚が、
タバサを包んだ。
今まで積んだ経験が、やかましく警報を鳴らす。
このまま降下することは、非常にマズいことだと直感で確信し、
タバサは1も2もなく上昇の指示をシルフィードに出した。

シルフィードは忠実に主の命令に従って、下降を止めた。
――――しかしそれも失策だった。
一時的にだが、シルフィードの体が低空で停止してしまったのだ。

「失礼、お嬢様方」
突如、その場にはいないはずの、
第三者の声がして、2人は弾かれたように後ろを振り向いた。
ルイズがいなくなったことで出来たスペースに、
1人の男が腰を掛けていた。
脚を組んで、綺麗な紅い瞳で2人を見つめているその男は、DIOだった。
いつのまにか、そしてどうやってか、シルフィードに乗り込んでいたのだ。
いきなり積載人数が3人に増えたことに驚いたのか、
シルフィードの体は硬直してしまった。
DIOが瞬間移動らしき技を使える事は、
2人は先ほどのゴーレムを見て重々承知したが、
こうして音もなく背後に迫られると、改めて脅威を感じざるを得ない。
しかし、彼は現在ルイズの使い魔であり、
自分たちサイドであるはずだ。
まさか襲ってくるなんてこと、
あるはずがない………。
DIOに対する恐怖が、そのまま微かな甘えにつながり、
キュルケに間違った行動を取らせた。
キュルケは少々キョドった調子でDIOに話しかけた。

「な………何か用なわけ?
あんた、御主人様を1人きりにしちゃ
危ないんじゃないの?」こっそりと距離を取りつつそう言うキュルケに、
DIOは静かに笑って、立ち上がった。
風竜の背中は、凹凸があってバランスが取りにくいにもかかわらず、
身じろぎすることなく、しっかりと両足で立っている。
その腰には、デルフリンガーが下げられているが、
鞘に入れられていて、沈黙を保っている。
ブロンドの髪が、風に吹かれてフワフワ揺れる。
キュルケを見下ろすDIOは、
キュルケから視線を外さずにゆっくりと背中に手を回して………………
"ズジャラァアァア!!"
と、どこからともなくナイフの束を取り出した。
まさに魔法のズボンだ。
ジャラジャラと金属の擦れる音を鳴らせながら、
これ見よがしにナイフを握った手を揺らすDIOを見て、
キュルケの顔から、一気に血の気が引いた。

「あ………………まじ?」
その光景に、かつての決闘の折りのギーシュの末路が連想され、
キュルケはゴクッと唾を飲み込んだ。

「突然で不躾だが…私と一曲お願いできるかな、
ミス?」

フフフ…と妖しく微笑む様は、一見冗談めかしたようにも思えるが、
放つ殺気が、これは冗談ではないということを
雄弁に物語っている。
突如牙を剥いたDIOに、
キュルケはすぐさま杖を向けようとしたが……それよりも先にタバサが動いた。
タバサが高速で詠唱を行い、杖を振っていた。
次の瞬間、質量を持った風がキュルケ越しにDIOを襲い、
DIOはシルフィードの上からドカンと吹き飛ばされた。

「エア・ハンマー……!」
空中に投げ出されたDIOが、木の葉のように落下していく。
タバサはそれをじっと眺めていた。

「…ありがと。
助かったわ」
しかしタバサはキュルケに答えなかった。
下の森へと姿を消してゆくDIOを見て、
タバサは周囲に視線を巡らせる。
果たして、森へ墜落したはずのDIOが、2人の目前の宙に浮かんでいた。
瞬間移動だ。
気付いたと同時に2人ともが詠唱を行うが、
DIOはそれを許さなかった。

「視界が効くからな……空にいられては困る。
そら、そんな魔法より、
レビテーションとやらを唱えた方がいいぞ」
からかうように忠告をした後、DIOが軽く手を振った。

DIOの体から『ザ・ワールド』が浮かび上がり、
シルフィードの顎を強打した。
鋼鉄をも粉砕する『ザ・ワールド』の一撃で
脳をシェイクされたシルフィードは、白目を剥いて気絶した。
今度は、キュルケ達の方が木の葉のように落下する番だった。
2人とも大慌てで自らにレビテーションをかけ、
そのあと、タバサがシルフィードにもレビテーションをかけた。
ゆっくりと地面に降り立った2人は互いに背合わせに構え、
隙をなくす。
すると、時間的にはまだ宙にいるはずのDIOが、
木の陰から姿を現した。
不可解な現象を疑問に思う暇もなく、
2人は攻撃魔法を詠唱した。
最初に詠唱が完成したキュルケの『フレイム・ボール』が、
唸りをあげてDIOに飛来した。
しかしDIOは、飛んでくる炎の玉を避ける仕草すら見せず、
パンパンと手を二度打った。
すると、炎の玉がDIOの体をすり抜けた。
DIOが一瞬で2人の方へと移動したからだ。
炎の玉は、虚しく空気を裂きながら、
森の奥へと消えていった。
キュルケはその光景に唖然としたが、
惚けている暇などもちろんない。

「ラグース・ウォータル・イス・イーサ・
ハガラース……」

再び詠唱を始めるキュルケの隣で、
タバサが呪文を完成させて、杖を回転させた。
大蛇のような氷の槍が何本も現れ、
回転を始め、太く、鋭く、青い輝きを増していく。

「"氷槍(ジャベリン)"!!」
タバサの声と共に、トライアングルスペルであるジャベリンが、
DIOに襲いかかった。
それを見て、DIOは手を軽く振る。
『ザ・ワールド』が、DIOの体から浮かび上がり、
両の拳の壮絶なラッシュで、ジャベリンを迎え撃った。

「えぇい、貧弱!貧弱ゥ!」

拳と氷の槍が交差する。
『ザ・ワールド』によって亜音速で繰り出される拳の弾幕は、
ジャベリンを1本も後ろに通すことなく、
その全てをガラスのように粉々に砕いた。
トライアングルスペルが真正面からあっさりと破られ、
流石のタバサも動揺を隠せない。
攻撃の手が緩まったその一瞬の間をとって、
DIOがタバサに話しかけた。

「面白い魔法だ。
お前のような攻撃をする者を、私は1人知っている。
………死んだがね。
もちろん私が殺した。
お前もあいつのようになりたいかな?」
タバサは聞こえない振りをした。
今や敵となったDIOの言葉など、聞くだけ無駄だと思ったからだった。
すぐに次の魔法を唱え始めるタバサだったが………

「…やはり君は彼に似ている。
彼もそうだった。
心にぽっかり穴が開いていて、
決して満たされることがない。
心から望むものを、手に入れていないからだ。
………違うかな?」
DIOの、心の隙間をつく言葉にタバサの詠唱が止まった。
ピンで止められたみたいに、
タバサは微動だにできなかった。

「私はそれを君に与えてやることができる。
…教えてくれ。
お前が欲しい物は……何だ?」

―――私が、欲しい、物…………。
タバサはDIOの目を見た。
優しげな紅い瞳が、タバサを見返した。
その慈愛に満ちた眼差しに包まれて、
タバサは微かな安心を感じ始めてしまっていた。
まるで、母に抱きしめられているような安らぎを。
この人なら……………
私の望みを叶えてくれるのではないか…?
そう考えてしまうほど、
DIOの言葉は不思議な魅力に溢れていた。
ぱったりと攻撃の手を休めてしまったタバサを、
キュルケが叱責した。

「タバサ!!
何やってるの!!!」
キュルケが再びフレイム・ボールをDIOに放った。
しかし、やはりそれは瞬間移動によってかわされてしまう。
戦場で攻撃を躊躇するなど、
普段のタバサではありえないことなのだが、
キュルケの叱責をうけてもなお、
タバサは詠唱を再開することはなかった。
挙げ句の果てに、ぺたんと座り込んでしまい、
考えごとをするように沈黙している。
攻撃するのがキュルケだけになってしまい、
その結果、攻撃の間の隙が大きくなってしまった。
その隙を縫って、
DIOがゆっくりと近づいてゆく。

やろうと思えば、瞬時に距離をゼロにすることだってできるだろうに、
DIOは何故かそれをしない。
まるで時間稼ぎをしているようだった。

しかし、徐々に徐々に距離が縮まっていく様は、
逆にキュルケの神経に負担を掛ける。
それがさらなる隙につながり、ついに2人はDIOの射程圏に入ってしまった。
約8メイル。
まずい、と思う暇なく、
『ザ・ワールド』が現れた。
まさしく幽霊のような、
軌道を読ませない動き方でキュルケに迫った『ザ・ワールド』は、
その拳でキュルケの杖を弾き飛ばした。

「くっ…!」
杖を握っていた手に、鈍い痛みが走り、
キュルケは苦悶の表情を浮かべた。

「杖が無ければ、メイジはかくも無力だな。
我が『ザ・ワールド』の敵ではなかった」
もはや警戒する必要すらなくなり、
DIOはスタスタとキュルケに歩み寄った。
タバサはその傍で座り込んだままだ。

「なんで、いきなりこんなこと………!
わけわかんないわよ!!」
理由もなく、突然襲いかかられたことに対する怒りから、
キュルケは怒声を張り上げた。

「残念ながら、私には答える必要がない。
……雷に打たれたと思って、諦めるんだな」

キュルケの言葉をそう受け流し、
DIOはとどめをさすべく『ザ・ワールド』ではなく、
自分自身の手を振り上げた。
それを見たキュルケは、
直ぐに襲いかかるだろう痛みに備えて、体を硬直させた。

―――そのとき、遠くから何かが爆発する音が聞こえた。
すると、DIOの左手のルーンがぼぅっ…と怪しい光を放ち始めた。
その光が輝きを増すにつれて、DIOが苦痛に身を捩る。

「……ッ!
良いところで茶々を入れるか…!!
………わかった。
すぐにそっちに行けばいいのだろう、ルイズ」
忌々しげな口調でブツブツと呟きだしたDIOに、
キュルケはただただ狼狽した。
暫くしたあと、DIOがキュルケに向き直った。
「『マスター』が呼んでいる。
残念ながら、ここまでだ。
もう少しだったが……まぁいい、収穫はあった」
チラリとタバサに視線を向けてそう言ったDIOは、
最後とばかりにナイフの束を取り出して、優雅に一礼した。

「途中でおいとまさせてもらう、私なりのお詫びだ。
遠慮なくとっておいてくれ」
DIOはパチンと指を鳴らした。
すると、DIOの姿が忽然と掻き消えた。

キュルケは、いきなりDIOが姿を消した事にも驚いたが、
目の前に広がる光景には更に驚いた。
何と、幾本もの鋭いナイフが、2人めがけて飛来してきていたのだ。

「ひぃぇ!?」
キュルケは情けない悲鳴を上げた。
"ドバァアー!"
と、凄まじい勢いで接近するナイフを見て、いつぞやのギーシュのように、
ハリネズミになってしまう自分の姿が想像される。
しかし、そのナイフは2人に到達することはなかった。
キュルケの隣から発生した風の壁が、
ナイフを弾き飛ばしたのだ。

「ウィンド・ブレイク…」
力のない詠唱は、タバサから発せられたものだった。
魔力は精神力。
今、精神的に沈んでいるタバサでは、
いつものような烈風は起こせなかったが、
それでもナイフを弾き飛ばすには十分であった。
ガチャガチャと音を立てて落下していくナイフを見て、
安堵のため息をついたキュルケは、隣に座り込んでいるタバサを見た。
力の込もっていない瞳が、虚空を見つめていた。
タバサの杖が、コロンと転がった。

「タバサ……?」
キュルケの呼びかけに、タバサは虚ろな目をキュルケに向けた。

「………なさい」
「…え?」
「……ごめんなさい」

キュルケに視線を向けてはいるが、しかし、
キュルケではない誰かを見ているような視線で、
タバサはそう呟いた。
キュルケは一瞬、
あのとき詠唱を止めてしまったことを謝っているのかとも思ったが、
どうも違うようである。キュルケはひとまず、タバサに手を差し出して、
彼女が立ち上がるのを助けた。
しかし、立ち上がってからもタバサはただ、
ごめんなさい…と繰り返すだけだった。
それが誰に向けた謝罪なのか、
キュルケにはようとして分からなかった。

to be continued……

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