ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は今すぐ逃げ出したい-30

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だれでも歓迎! 編集
男は両耳を手で押えたままうずくまっている。
よく見ると、いや、もはやよく見なくても体が震えているのがわかる。
自分が死んだときのことを思い出しただろう。
「やっぱり死んでるんだな」
彼は何も反応しない。ただ耳を塞ぎ震えているだけだ。
やれやれ。話さずに心の内に留めといたほうがよかったな。この様子じゃもう彼は話せそうにないしな。
やっべー、ミスっちまったよ。まあ、やってしまったことは仕方ない。
これからどうするかな?
そう思っていたときふと気づく。
この男は死んでいるんだよな?じゃあ私はどうなんだ?勿論死んではいない。だが本当にそう言い切れるかどうかと言われれば口を閉じざるをえない。
ここに来る条件はないんだ?もしかしたら死んでいることが条件かもしれない。あの世とかいう奴だ。冗談じゃない!
しかしここに来る前の記憶は船に乗ったときが最後だ。そのあとどうなったのか全くわからない。
もしかしたら船に乗った時点で死んでしまったのかもしれない。
だからここにいる。そんなことはないだろう。ないはずだ。ないと信じたい!
くそッ!こんなことを考えるな!この考えを振り切れ!
死んでいるのは彼だけで私は生きている!そう考えるんだ!
確認しなければならない!自分が生きているのだと確認しなければならない!
どうやって、どうやって確認すればいい!?どうやったら安心できる!?
……簡単な方法があるじゃないか。
彼だ。私がこの男に触れるだけで確認できるじゃないか。
幽霊は自分から生命に触れても何の問題もない。だが触れられるのはダメだ。触れられた部分が取れてしまう。
目の前にいるこの男をバラバラにするんだ。そうすれば私は生きているという証明になる。

急いで彼に近づく。そして勢いよく何かにぶつかった。いてぇ……
何だこれ!?彼と自分の境に何かある!?手で色々触ってみる。壁だ……透明な壁がある。
彼と私は丁度人影を境に見えない壁で遮られているようだ。それにしても壁か、なにか引っかかるな。
ん?ここまで近づいて気づく。彼が何か呟いている。
「……夢だ。これは……何かの…………間違いだ……。こんなヒドイ事が……あっていいはずがない……」
自分の死を思い出しているのだろう。
「あのとき……『チャンス』は私に訪れていたはずなのにッ!『運命』はこの私に味方しているはずなのに……!」
だんだんと口調に熱を帯びてくる。そして冷や汗が流れる。
何故かはわからない。とにかく嫌な予感がするのだ。背筋が引き攣る。どうしてだかわからないがこの男に喋らせてはいけない気がした。
しかし男は喋ることをやめない。
「この、この吉良吉影が!あんなちっぽけな小僧のせいで死ぬなんて!何かの間違いに決まっているッ!」
吉良……吉影?この男が?この男も?キラヨシカゲ?男を見ると服が違うだけで自分と同じ顔をしていた。何かが砕ける音がする。
足元が、音を立てて、崩れた。

目を開けるとそこにはルイズがいた。
頭が重い。体が酷くだるく感じる。腕も持ち上がりそうにない。
「う…うう……ああ……」
声もうまく出せないな。
「あ!起きたのヨシカゲ!」
ルイズがこちらに気づいたのか声をかけてくる。

それにしても近くで喚くなよ。五月蠅いだろ。頭に響く。
「ここは……?」
あれ?普通に喋れる?そういえば体のだるさも頭の重さも消えている。腕を持ち上げ握ったり開いたりしてみる。普通に出来るな。どうなってんだ?
それにここは何処なんだ?たしかルイズと話していて体調が悪くなって……それからどうなった?
なにか忘れているような気がする。とても重要なことを、忘れてはならないことを忘れているような気がする。私は一体何を忘れている?
「ここはアルビオンの戦艦『イーグル』号の船室よ。全く心配かけさせて!わかってんの!」
「『イーグル』号?アルビオンの戦艦?何がどうなっている?」
寝転がっていた体を起こす。
ルイズの説明によれば私が倒れて何時間かあと、空賊に襲われたらしい。
だが、その空賊は実はアルビオンの戦艦で、しかも目的であるウェールズ皇太子が乗り合わせていたらしい。
そして手紙はニューカッスルという場所にある城にあるらしく、いまはそこに向かっているらしい。
「ふ~ん」
話を聞き終え頭の中で整理する。
つまりルイズとワルドを殺すチャンスはその城と言う訳か。しかしそんなに長く気絶してたとはな、気づかなかった。
それを頭の中で確認し立ち上がる。
立ち上がった瞬間眩暈がし、思わずよろけてしまう。
「ちょっと。ホントに大丈夫なの?」
ルイズが心配するかのように聞いてくる。
「心配ない。ただの立ち眩みだ」
そういいながら船室から出ようとする。
「何処行くのよ」
「甲板さ」
そう言って部屋から出る。
「待ちなさいよ!」
さて、空でも見るか。頭から嫌な予感を消すために、体中に立つ鳥肌を抑えるために、忘れていることを思い出すために。


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