ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-14

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匿名ユーザー

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 トリステイン魔法学院は広大な敷地を誇るため、一言に寮から宝物庫と言っても結構な距離がある。
 少女の速度でしか走れないルイズと、老人ながら鍛錬を重ねた肉体を持つジョセフとでは到達する時間も圧倒的な違いがあるのは当然のことだった。
(出来ればああいう危険な場所に連れていきたくはないんじゃがな)
 結構な距離がある場所からでも「あれは巨大だ」と判るほどのゴーレムが宝物庫の塔を殴り続けている現場は、子供でも危険だと判る。
 だが腕の中のルイズは、「魔法学院に来るだなんて……いい度胸してるじゃない……!」と、背中の毛を逆立てていた。ふぎゃーと鳴き出さない様に気をつけなければなるまい。
 この分だと連れて行かなければ気が済まないだろうし、連れて行くなら行くで自分の目と腕の届く場所に置いておく方がよっぽど安全と言うものである。
「それにしても……あんな大騒ぎするとはまたムチャなことをしよる! 宝物庫からモノ盗むにしたって、もうちょっと静かにやったらいいんじゃないのかい!」
「ああいう派手なコトしたがるのは『土くれ』のフーケだわ! 舐めた真似を……っ!」
「なんじゃその『土くれ』のフーケって!」
「貴族ばっかり狙ってる盗賊よ! 見ての通りああいう派手な盗みで貴族を馬鹿にしてるから色んな国から賞金掛けられてるのよ!」
「ってゆーか、ありゃ明らかにメイジじゃろ! ギーシュとか問題にならんぞ!」
「当たり前よ! あれだけ大きなゴーレムを錬金出来るってことは多分最低でもトライアングルクラスなメイジ……ドットなギーシュとは比べ物にならないわ!」
 見たら判るわい、という言葉はごくりと飲み込んで。
「とりあえず! あれをブッちめるとかそんなんは幾ら何でもムリじゃ! 学院にはちゃんとしたメイジ達がおるんじゃろ、せめて足止めくらい出来りゃッ……」


 背後を振り返ったジョセフだが、空を飛べるはずのメイジ達が寮の窓から飛び出してくる様子は全く無い。
 つまり普段馬鹿にされているルイズだけがいち早く宝物庫に駆け付けて、ルイズを馬鹿にしている連中はまだ来てもいないというか……来る気配すら見せていない。
(おっ……お前ら、ちったあ大口に似合った働きくらいせんかい!)
 窓から飛んでこないということは、自分の足で走ってくるということだがそれは非常に期待が薄い。つまり、ここから自分達だけでどうにかしなければならないという事である。
 退却しようにも主人にその気が全くないという事と、ジョセフ自身にもそんな気は全くないという事である。
「ぶっちゃけるぞルイズ! 正直、わしではあいつに勝てる見込みは全くない! じゃからとにかくフーケとやらの足を止めて、何とかする方向性で行くッ!」
「そんな後ろ向きな!」
「正直足止めだって過ぎた状態じゃわいッ」
 悪態を付きながらも、さてどうやって足を止めるかを懸命に考えるジョセフ。
(まァああいうデカブツを相手にするときのセオリーはッ……足を狙ってブッちめる、というのが無難じゃわなァ~~~。それであやつの動きを止められれば、何とかなるかもしらん!)
「ルイズ! お前は遠くから何でもいいからあやつに魔法をブッ放してやれ! わしはあやつに突っ込む!」
「判ったわ!」
 やがてゴーレムのフォルムが十分に視認できる距離まで来たところで、まずルイズを降ろし。ジョセフはそのまま右手にハーミットパープルを纏わせた。その瞬間、手袋の中で眩く光った光は、夜の闇の中でほのかに漏れた。
「……なんじゃ、これはッ……」

 しかし手袋を脱いで光の正体を把握しようとする前に、ゴーレムをハーミットパープルの射程範囲に捕らえていた。
 錬金された土で構成された小さな灯台ほどもある太い足は、如何にも堅固そうでただ殴ったりしていては歯も立つまいとは馬鹿でも判る。だから。
「行くぞッ! ハーミットウェブ!!」
 右腕を大きく振りかぶって勢い良く突き出せば、素早いスピードで茨達がゴーレムの足に食い込み、内部へと侵食を始めた。敵の内部にハーミットパープルを沈み込ませてから、そこに波紋を爆発的に流して破壊しようという作戦である。
「食らえぃッ! 波紋のビィィィィィィトッッッ!!!」
 たっぷりと波紋を流し込んだ瞬間、ゴーレムの足が凄まじい爆発を起こした!
「よしッ! やったッ!」
 グッと拳を握ったガッツポーズは、しかし次の光景を目の当たりにして固まることとなる。
 爆破したはずの足は、まるでビデオの巻き戻しのように破片が足のあった場所へと戻り、すぐさま新たな足として復活してしまったのだ。
「大したモンじゃないか! だがね、それじゃあこの『土くれ』のフーケの錬金したゴーレムは壊せないってコトなんだよ!」
 柄の悪い喋り方で、女の声が上から降ってくる。
(フーケとやらは女かッ。じゃが今はそんなこたぁ関係ないッ!)
 後ろに飛びずさり、距離をとろうとした瞬間、ルイズの呪文が完成した。
「ファイアーボールッ!!」
 しかし詠唱が終わった瞬間に杖の先から火の玉が迸る代わりに、前触れもなくゴーレムの腕が大爆発を起こし、しかもその爆風の余波で宝物庫の壁にヒビを入れてしまっていた。
 しかも間の悪いことに、胸から飛び散った破片(破片と言っても、ルイズほどもある大きさの土塊である!)がジョセフのいる辺りに降り注いだ!

「うおおッ!?」
 飛びのこうとする動きを封じられ、思わず腕で身をかばうジョセフ。
 しかしその反射的な動きがジョセフの命取りだった。
 再生しようとするゴーレムに引き寄せられる土塊に、ジョセフも巻き込まれたッ!
(う……うおおーーーッッッ! し、しまった……フーケのゴーレムの再生方法は、「壊れた箇所を構成していた土が巻き戻しのように壊れた箇所に戻る」ッ! じゃったら、吹き飛ばされた土塊どもの側におるわしもッ……)『引き寄せられる』ッ!
 正確には、ゴーレムを構成する土に隙間なく魔力を敷き詰めることにより、「土塊それぞれに自分が構成しているパーツの場所を覚えさせる」というプロセスを経る事で、フーケのゴーレムは強力な再生能力を得ることに成功していた。
 そして破壊された破片達の中に取り残されたジョセフも、土塊を引き寄せる魔力の網に引っかかる形となり『引き寄せられた』のだッ!
 果たして再生した手の中には、ジョセフが首だけ出した形で握り締められていた!
「ジョっ……ジョセフ! ジョセフを放しなさい!!」
 この事態の元凶ともいえるルイズは、自分のしでかした大失態に気付く様子さえなく、次から次へとゴーレムに爆発を起こさせ、土塊を地面とゴーレムの間で往復させ続けていた。
「うっ……うおお! やめっ、やめるんじゃルイズ! わしが死ぬッ!!!」
 腕で顔をかばうことも出来ないジョセフが必死に制止するが、頭に血が上りきったルイズに、爆風に紛れたジョセフの必死の悲鳴が届くはずも無かった。
 そしてフーケは、ヒビに入った壁にジョセフを握ってない腕で数発のパンチを入れ、人が通り抜けられる隙間を作り出した。
「感謝するよお嬢ちゃん! この忌々しい防御魔法ばっかの壁はゴーレムでも吹き飛ばせなかったんでね!」
 嫌味ったらしく言い残したフーケは、悠然と宝物庫への侵入を果たす。


 そして数分後、何かを大切そうに脇に抱えたフーケが出て来ると、彼女は再びゴーレムの肩に乗った。
「あはははははっ! 確かに頂いたよ! せっかくだからこのジジイは殺しちまってもいいんだけどねェ……」
 見事に目的を果たしたフーケは、高笑いと共に、なおもゴーレムを爆発させ続けるルイズと、なおも腕の中から逃げ出そうともがいているジョセフを見下ろした。
「あたしの仕事を手伝ってくれたお礼にジジイは返してやるよ!」
 そう言いつつも、地響きを鳴らしながらゴーレムは塀へ向かって歩いていき。もののついでとばかりに塀を踏み潰したところで、ジョセフを握っている腕を振り上げ――
「ちゃんと受け取りなッおチビちゃんッッッ!!!」
 ジョセフを、魔法学院に建つどの建物よりも高く放り投げたッ!
「うっ、うおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!?」
 幾らジョセフと言えども、何十メイルもある高さから落ちれば無事では済まないどころか死んで当たり前!
(ハーミットパープルでどっかに引っ掛かるかッ……落下スピードを殺しきれるか!?)
 右手にハーミットパープルを蔓延らせながらも、瞬間的に捕まりやすい建物を探すも、御丁寧にどの建物からも遠い広場に落ちていく!
(しっ……死んだかァーーーーー)
 さしものジョセフも何の解決策さえ見つからず、死を覚悟したその瞬間!
 一頭の風竜が、落下するジョセフを口で咥えて受け止めた!
「ナイスキャッチ、シルフィード」
「きゅいきゅい!」
 淡々とした少女の声に、嬉しそうに答える竜の声。

「たッ……助かったのかッ……?」
 下半身を竜の口に咥えられたまま、ジョセフは竜の上に乗っている二人の人影を見た。
「はーいダーリン、危機一髪だったわねえ。ごめんねー、ちょっと用事があってね♪」
「その声は……キュルケか!」
 何度もアタックを掛けられた声は十分に記憶に刻まれている。
「そうよダーリン。ああ、なんて運命的なのかしら! 愛するダーリンの危機をこんな形で救えるだなんて!」
 勝手に自分の世界に入って身体をクネクネさせているキュルケを、横の少女が杖で小突く。
「シルフィードは私の使い魔」
 無表情に抗議した青髪の少女に、ジョセフはにかりと笑った。
「おうそうじゃった! お嬢ちゃんのおかげで助かったわい。ええと、名前は……」
 キュルケとよく行動しているのは見かけるが、こうして会話をしたのは初めてだった。放課後の教室での集まりに参加していない少女の名前までは、流石のジョセフも覚えていない。
「タバサ。タバサと呼んでくれて構わない」
「オーケー、助かったわいタバサ。すまんが、ちょっくら下ろしてくれんか。安全じゃろうというのは判っとるんじゃが、ドラゴンの口に半分咥えられとるのは心臓に悪い」
 心臓に毛が生えているジョセフでも、肝を冷やす事態がこれほど連発すれば弱気な発言が出るのも致し方ない。
 地面に下ろされたジョセフは、ぺたりと地面に腰を下ろした。
 そこにルイズが駆け寄ってくる。
「何してんのよジョセフ! 早くフーケを追いかけるのよ!」
 今の事態をこれ以上なく悪化させた張本人を見るジョセフの目が恨みがましいのを誰が責められるだろうか。


 だがジョセフが投げ捨てられてキャッチされて着地するまでの間に、ゴーレムは既に巨大な土塊の山に戻っており、フーケの姿ももうないようだった。
「こいつぁ参った……早いトコ追いかけんと逃げられちまうぞ!」
 フーケが魔力を込めた土塊とこの周辺の地図を媒介にして念写すれば、今からフーケを追いかけることも十分に可能。ここで別の国に高飛びされてしまえばより追跡が困難になる。
 だが「念写でフーケの居場所を突き止められます!」と言ったところで、誰が信じてくれるというのか。この世界ではスタンドや念写は四系統魔術以外の能力。
 ルイズはこの能力を知っているが、それ以外の相手にそれを教えると様々な不都合が懸念される。ルイズとジョセフだけで追跡したとして、今の繰り返しになることは火を見るよりも明らか。
 きちんとした討伐隊を組織して追撃するのが一番確実だろうが、討伐隊を向かわせるまでの時間のロスは痛すぎる。そして居場所を突き止められるかどうかも非常に怪しい。
(さてどうするッ……今夜中に追いかけて、ゴーレムを出させんうちに不意打ちするんが一番確実かッ。じゃが向こうも魔法なり馬なりあるから追いかけるにしても……ッ)
 沈思黙考に入ったジョセフ。ああんそうやって考えてるポーズがダンディ、とドサクサ紛れに抱きつくキュルケと、離しなさい人の使い魔に何してんのよとキュルケをひっぺがしにかかろうとするルイズ。
 ジョセフはしばらくして意を決すると、ルイズにつかまれたキュルケに抱きつかれたまま立ち上がった。
「ルイズ、図書室でここらの地図を何枚か見繕ってくれぃッ」
 ジョセフの中で出た答えは、念写で今夜中にフーケに追いついての強襲策だった。
 これだけの敗戦(原因は半分以上ルイズだが)を喫した以上、ルイズが一敗地に塗れているという屈辱を甘受する事はないだろう。

 となれば、ルイズを連れていくのが一番無難だ。付いて来るなと言っても付いて来る諦めの悪さと聞き分けの無さは、もはや今夜中に矯正出来る見込みは無いのだから。
 タバサはその様子をほんの僅かの間眺めていると、静かに口を開いた。
「キュルケ。貴方はオールド・オスマンを図書室にお呼びして。それとジョセフ、図書室の事ならミス・ヴァリエールよりも私の方が詳しい」
 キュルケはその言葉を聞けば、「判ったわ」とジョセフから離れ、すぐさまオスマンを探しにやっとこさ現場に集まってきた教師達と生徒達の野次馬のところへと走っていった。
 だがジョセフとルイズは、タバサの申し出に顔を見合わせて困惑の表情を浮かべた。
 地図で念写する能力を他人に教えるのはまずい、という認識が二人にある。
 確かに図書室の主っぽい風情のタバサの方がルイズよりも早く地図を持ってこれるだろうが、それはそれというものだった。
 そうやって顔を見合わせているのを見たタバサは、何故二人が自分の申し出を快諾しないのか、おおよその見当はついた。ハーミットパープルとかいう茨を何らかの形で使おうとしているのだ、ということは彼女には理解できる。
 そこでタバサは手持ちのカードを一気に広げて見せることにした。
「ジョセフ。貴方の紫の茨は出来るだけ人に見せたくないというのは理解できる」
 その言葉を聞いた二人が、同時に驚きに目を見開く。ジョセフが何かを問おうとするのを、タバサは緩く手をかざして制した。
「ヴェストリの決闘で貴方がワルキューレの中に茨を発生させるのを知覚した。巧妙な隠蔽だから気付いたのはおそらく私一人。私はその能力を誰かに言いふらすつもりも無い」
 淡々と言葉を紡ぐタバサ。彼女をじ、と見つめるジョセフ。
 彼女を信頼していいものかという疑問と、野次馬達に見えないようにしていた隠者の紫を看破した能力。そして現在の切羽詰った状況。それらを勘案し、ジョセフは頷いた。

「――判った。それではタバサ、地図を見繕って貰えるかの」
「ちょっとジョセフ! ご主人様に相談もしないで勝手に決めてんじゃないわよ!」
 横目でタバサを見るルイズの目からは、「この女ニガテ」という意思がありありと感じられる視線が注がれていた。。
 ジョセフは知る由も無いが、図書室でルイズを諌めたのは他ならぬ彼女だった。
 そのおかげでひとまずルイズとジョセフの間にささやかな信頼関係は出来たものの、それでも何かもを見透かすような底知れない何かと、風竜を使い魔にするメイジとしての実力の高さにおちこぼれメイジがコンプレックスを抱くのを誰が責められるだろうか。
 ジョセフは、なおもわいやわいやと騒ぐルイズの頭に手を置くと、わしゃわしゃと頭を撫でる。そして何事か彼女をからかう言葉を聞いたルイズがムカついてジョセフの脇腹にチョップを入れた。
 その微笑ましいやり取りに、タバサは僅かに切なげな目をしたが、その微かな変化に気付ける親友はこの場にはいなかった。
「事は急を要するはず。ついてきて」
 シンプルに用件だけを告げ、タバサは図書室へと歩いていく。
 そしてルイズとジョセフも、タバサの後ろについて図書室へと向かっていった。


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