ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-13

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匿名ユーザー

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 ジョセフが指先一本で天井からぶら下がっている。
 数十秒ほどその体勢を維持した後、すとんと床に下りて水差しからコップに水を注ぐ。
 そしておもむろにコップを逆さにしても水は零れない。そこから水面に指をつけて水をコップの形のまま取り出すと、水の塊を齧ってみせる。
「波紋が使えるとこういうコトが出来る。後はワルキューレブッちめたり傷を治したりも出来たりするというわけじゃ」
 ルイズの部屋の中、ジョセフは改めて自分の持っている能力をルイズに披露していた。
 基本的に表面上は平和なトリステインだけどもしもの場合に何があるか判らないから、というルイズの提案と、ジョセフも自らがルイズを主人とする以上は手の内を見せておくことが信頼に繋がる、と互いの思惑が噛み合って今に至る。
 ワルキューレをブッちめるのは波紋のせいだけではないが、少なくとも一部を担っていることは確かだ。
 ちなみにデルフリンガーは「夜更かしは健康に悪いんだぜー」と既に寝ていた。
「なるほど。で、そっちじゃその波紋を使える人間は、今じゃジョセフ一人だけなのね?」
 主人の問いに、ジョセフはこくりと頷いた。
「わしが知ってる限りじゃがな。わしもわしの母も、誰かに波紋を伝える必要がなくなったからの。今じゃ吸血鬼を生み出す石仮面も、吸血鬼を餌とする柱の男もおらん。そして今ではスタンドという新たな力を人間は持つようになった。
 波紋は使える様になれば老化を防止するし、寿命もそれに伴ってエラく長くなる。じゃが思うんじゃよ。果たして、人としての寿命を越えて生き続けるのは幸せなんじゃろうかな、と」
 普段しないようなシリアスな顔に、ルイズは首を傾げた。
「でも、やっぱり不老長寿って人類の憧れじゃない? 私なら使ってみたいとか思うけれど」
 ルイズの疑問は、若さゆえの無邪気さだけで象られていた。ジョセフはどうにも表情の判別の難しい微苦笑を浮かべた。

 ジョセフは毛布の上にあぐらを掻くと、幼いばかりの主人を優しい目で見上げた。
「わしが母リサリサと初めて会った時、母は50歳じゃったが見た目はどう見ても二十代後半じゃった。母は言ったものだ、『若さは麻薬のようなものだ。無くても生きていけるが、手にすると抜け出すのが難しくなる』とな。
 わしは妻スージーQと共に老いる為、生まれた時から使っていた波紋を止めた。そうでなければ、わしはずっと若い姿のまま老い行く妻を見続けることになるし、妻はずっと変わらぬわしを見続けながら老いて行かねばならん。……そんなのは地獄じゃわい、夫婦揃ってな」
 重い内容の言葉も、ジョセフが言えば随分と軽く聞こえるようになる。それがジョセフの持って生まれた人徳とも言えた。
 ただルイズはなおも納得できないという顔をしている。
『それが本当の若さなんじゃよなあ。手の中にあるうちは全くその尊さが理解できん』と、しみじみ見つめるジョセフ。
「それに人間、終わりがあるから生きてけるんじゃ。終わりが無くなれば、狂うしかないんじゃよ。狂うしか、な」
 かつて戦った宿敵達の顔がジョセフの脳裏を過ぎる。吸血鬼も柱の男も、自らの生存のためにあまりにも大きなものを大量に他人から借り続けなければならなかった。
 そんな者達と戦うジョースターの血統は、言わば取立て屋と言ってもいい。人から取り上げすぎたものを取り立て、人々に返す。祖父ジョナサンも、父ジョージ二世も、自分も、そして承太郎も。きっと、子孫達も。
「難儀な血筋じゃわい。……しかしそう考えると、もしやすればジョースター家というのは、この世界からわしの世界に流れていったメイジの末裔なのかもしれんな」
 この世界での貴族は、メイジとして得た力を世界のために役立てる、というお題目はある。一万人に一人しか素質が無いはずの波紋を親子三代で顕在させたジョースター家は、もしやすればメイジの血筋かもしれない、と考えてもおかしくはなかった。

「かもしれないわね。だとすると……メイジも波紋って出来るのかしら! ねえジョセフ、ちょっと教えてよ!」
 キラキラと目を輝かせるルイズに、ジョセフは思い切りコケた。
「ルイズ! お前わしの話聞いとったんか!」
「それとこれとは話が別でしょー? もし私が波紋使えるなら、それはそれで『ゼロ』なんてイヤァな仇名から脱出出来るのよ! 四系統とかそこらへんの区切りから外れるのはこの際目をつぶるわ!」
 早速輝かしい未来を想像して目に流れ星を幾つも飛ばすルイズ。
 ジョセフはどうにもガックリと肩に重い物が圧し掛かったのを痛感していた。
(どーにもウチのルイズは妄想癖が強くていかんわいッ。将来エラい詐欺とかに引っかかりそうで目も離せんじゃないかッ)
 まだ召喚されてから一ヶ月も経っていないと言うのに、ジョセフはすっかりルイズの祖父としての気分をいやと言うほど満喫していた。
 サイフをスッた名前も知らない子供を友人と呼べるジョセフにとって、それより長い間寝食を共にしていればワガママ小娘のルイズを孫として扱うのは非常に簡単なことではある。
 何より実の孫がアレでアレなので、見た目可愛らしいルイズはむしろ承太郎よりも実の孫としてほしいなーとか考えるのはジョセフがスケベだからという理由だけではない。きっと。
「スタンドは諦めるわ、どうやって出すのかちっとも判んないし! でも波紋ならもしかしたら可能性があるかもしれないわ! やるだけやってみてダメなら諦めるわ!」
 『言う事聞いてくれるまで引き下がらないわよモード』になったルイズを見て、ジョセフは深くため息をついた。ああこうなったら絶対に引き下がらんわ、と諦観を決めた。
「一応言っとくが、波紋だって一万人に一人しか使える素質が無いんじゃ」
「もしかしたら一万人に一人が私かもしれないじゃない!」

 そう力説するルイズの目は、「一万人に一人が私かもしれない」どころか「一万人に一人こそが私!」と信じきっている! コーラを飲めばゲップが出るくらい確実だと言う位にッ!
(うわすげえ。こんな根拠の無い自信って一体どっから出てくるんじゃ)
 かつて自分が無数の人々に思わせた思いを、ジョセフは自分で抱くことになった。
 これは真実を突き付けない限りは諦めない。そう確信したジョセフは、やむなく一応テストをしてみることにした。
「えーと、じゃな……参ったな、人に波紋を教えたコトなんぞないからどうやればいいのかちっとも判らんが……そうじゃな。まず一秒間に10回呼吸するんじゃ」
 ジョセフの言葉に、は? と言わんばかりにイヤな顔をしたルイズ。
「何それ。ふざけてるの?」
「波紋呼吸の基礎中の基礎じゃ。この世界にあまねくエネルギーを集約する為に必要なことなんじゃ。ちなみにわしは当然出来る」
 ジョセフさんの一秒間に10回呼吸が炸裂するッ! ルイズさんドン引きだッ!
「続いてそれが出来るようになったら、十分間息を吸い続けて十分間息を吐き続ける。最低こんぐらい出来んと、波紋使いとしての素質なんぞないということじゃの。
 ……なんなら、もっと早く素質があるかないか判る方法もある」
 人外の呼吸法に早くも尻込みしたルイズは、すぐさまジョセフの垂らした釣り針に食いついた。
「そんな便利な方法があるんなら早く教えなさいよ!」
 これで波紋使いへの道が開ける、と信じて止まないルイズの目を見ていると、この期待を挫けさせるのはどうにも気が引ける。
 が、こういうものは早いうちに折って置いた方が治りも早い。
「素質がある人間じゃと、人体にあるツボを突く事で一時的に波紋が使える様になる。素質が無かったらちぃと痛い目にあうだけじゃ」

 結果? 逆切れしたルイズさんがジョセフさんを鞭打ちしまくりましたよ。メルヘンやファンタジーじゃないんですから。

「ゼィ…ゼィ……この犬……ご主人様が罰を与えてるってのに波紋使うなんて卑怯だわ……」
「わしだって鞭打ちが痛いことくらいは知っておりますからの」
 息を切らすくらい鞭を振るっても、反発波紋を流すジョセフに効果が無いことは判り切っててるがそれはそれということだ。
 肉体と精神の疲労で床にペタンと座り込んだルイズに、ジョセフは緩い苦笑を浮かべながらゆっくりと近付く。
「まああれじゃよ。わしは波紋と魔法は、パンとヌードルのような関係じゃと思っておる」
「……あによそれ」
 子供の頃のホリィが叱られて拗ねた時のように涙目で見上げるルイズの頭を撫でてやりながら、ジョセフは言葉を続ける。
「パンもヌードルも小麦粉から作るが、作り方の違いで似て非なる食材になりよる。波紋も魔法も同じじゃ。この世界にあまねくエネルギーを集約することで物理現象を超越した現象を起こすことが出来る。
 エネルギーの捏ね方が違うんじゃが、メイジは魔法を使うことが出来るし、波紋使いは波紋を練ることが出来るということじゃ。少なくともルイズはデカい爆発が使えるんじゃから、そのうち使える場面も出てくるわい。それにわしが使い魔なんじゃし、な」
 パチンとウィンクしてみせるが、ムカついたルイズはジョセフの脇腹をチョップで突いた。
「おふっ。だから何するんじゃよルイズ!」
「ふーんだ。いいわよどうせ私はゼロのルイズよ。お偉いミスタ・ジョセフジョースターには私の気持ちなんかわかるわけないのよ。ふーんだ」

 ああこりゃ何言っても聞いてくれそうにないわい、と判断したジョセフは、苦笑しながら毛布に座り直した。
 もし文字通り万が一ルイズに波紋の素質があったとしても、ルイズに波紋を教授する気は毛頭無かった。
 様々な「人を超越した者」との激闘を潜り抜けたジョセフは、不老不死の幻想を根こそぎ失っていたのもあるが、本当に波紋を使いこなせたところでルイズの仇名が『ゼロ』なのは変わりないだろうと考えたからでもある。
 この世界のメイジは伝統や形式に凝り固まっているのはよく判る。そんな中で新たな力に目覚めたとか言われても、それを世間に認めさせるのは最低でもルイズが自分くらいに年を取った頃になってしまう。下手したら死ぬまで認められない。
 それを考えれば、少なくとも「魔法が爆発するだけじゃないようになる」可能性に賭ける方がまだ勝ち目があるというものだ。
(何なら魔法が使えなくとも、このジョセフ・ジョースターのイカサマハッタリに人心掌握術を仕込んでもいい。このハルケギニアを掌握することもきっと出来る――)
 だがこの誇り高い少女は、世界を掌握することよりも魔法使いとして認められることを選ぶだろう。波紋を使いたいと言ったのも、せめて魔法の代用として使いたいと言っただけだ。決して本心から波紋を使いたい訳ではないのだから。
 一度は老いることを選んだ自分が波紋を再開する気になったのは、タフでハードな日々を潜り抜ける為の必要悪だった。だが、今は少し違う。
(ま、しばらくお嬢ちゃんを見守ることにしよう。なあに、波紋使ってたら残り時間は幾らでも延びるわい)
 むくれてベッドに戻るルイズの後姿を見守る視線は、掛け値なしに祖父のものだった。


 外から時ならぬ轟音が聞こえたのは、そんな時だった。

「なんじゃッ!?」
 祖父の顔から戦士の顔に表情を一変させたジョセフは、窓を開け放って外の様子を伺う。
「何!? 何なの!?」
 ルイズも遅れてジョセフの脇から顔を覗かせる。
 ランプの灯っていた室内から月明りの空に一瞬瞳孔が調節された後、見えたのは宝物庫の辺りで巨大な何者かが暴れている光景だった。
「なんじゃありゃあッ……」
「ゴーレムだわあれ! 大きいっ……30メイルはあるわ!?」
 ゼロでも流石はメイジ、巨大な何者かの正体をすぐさま看破した。
 すぐさまルイズは身を翻し、杖を掴んで部屋を飛び出そうとする。
「ハーミットパープルッ!」
 ジョセフの右手から迸る紫の茨が、じたばたと暴れるルイズを押し留める。
「離して! 宝物庫には王国から管理を任されてる貴重な宝物がたくさんあるのよ!? そんなところであんなのに暴れられたら……!」
「勘違いするなルイズッ! 今から階段下りたら時間がかかるっちゅうこっちゃッ!」
 そう叫んだと同時に、茨を引き寄せてルイズを腕の中に収めたジョセフは……

「きゃあああああああああッッッッ!!!?」

 開いた窓から、一気に地面へと飛び降り! そのままルイズと共にゴーレムへと駆けていったッ!


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