ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-12

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『メイドの危機・ジョセフの場合』


 ジョセフとえらく仲がいいっぽいメイドのシエスタが学院を辞めて、女癖の悪いことで有名なモット伯の館に奉公に行くことになった。
 すぐさま馬を飛ばし、モット伯の館に出向くジョセフ。
 伯爵は言った。
「そうまで言うならメイドを返してやってもいい。だが交換条件がある。ツェルプストーの家宝である『召喚されし書物』を持ってくることだ」
 そういう理由でキュルケの部屋に行こうとしていた使い魔をとっ捕まえた私は、事情聴取を経てその様な経緯を把握したという次第だった。

「とは言ってもねー。平民からしてみたら、貴族の御寵愛に適うという事はある意味出世街道なわけで……」
「そこにシエスタの意思はあるんじゃろか」
 私の部屋にて、ベッドに腰掛けた私と毛布に座り込んだジョセフの問答は続く。
「……まあないとも言い辛く……」
「なんじゃったらハーミットパープルでちょっくらシエスタの今の気持ちを読むことも辞さん覚悟じゃが」
 言葉を濁そうとしたんだけど、ジョセフにそれが通用しないことは判り切っている。
 もし否定的な答えが来れば、ジョセフはすぐさまキュルケの部屋に行くだろう。


 そうなればあの色情魔の事だ。交換条件とか何とか言って、ジョセフに色目使ってあんなことやこんなことするに違いない!
 ジョセフってはじじいのクセに女の子に囲まれてデレーッとかしやがっちゃうから、すぐに色香に負けてあんなことやこんなことを……!
「ほぅらゼロには出来ないようなこともしてあげられるわー」
「ムム!?!?」
「なに想像してんのさ!」
 ダメよダメよダメよダメダメダメダメ!!!!
 自分の使い魔にツェルプストーの女の匂いがつくだなんてそんな屈辱ないわ!!
 頭を下げて「私とジョセフに免じて家宝譲って♪」とお願いすれば、何とかならないかとも思うけど……それだって十分屈辱だわ!! 尻も口も軽いあの女に話題提供とかふざけんなってー話よ!
 ここで一番いいのは、「あのメイドをジョセフが大人しく諦める」というのが一番円満に収まる選択肢だわ! そうよ、間違いないわ!

「私は使い魔にツェルプストーの女の匂いをつけるのもイヤだし、あのメイドの為にツェルプストーの女に頭を下げたり出来ないの。王宮の勅使にケンカ売ったらヴァリエールもただじゃすまないんだから、それくらいは弁えて貰いたいわ」
 つまり動くことは許しません! とキッパリと宣言する。
 私も由緒正しいヴァリエール公爵家の末娘なんだから、使い魔の我侭で家に迷惑を掛けるわけにも行かない。そこはちゃーんと納得させなくちゃならないわ!
「判ったらさっさと寝る! 明日も早いんだから!」
 そう言うと私は制服を脱ぎ捨てて寝巻きに着替え、ランプを消して眠りに付く。
 ――寝つきのいい私は、使い魔がこっそりと出て行ったことに気付かなかった。


 深夜……とは言え、地球ではまだ日付も変わらない頃合。
 今度は馬ではなく、自らの足でジョセフはモット伯の屋敷に近付いていた。
「おいおい相棒、本当にやっちまうのかーぃ? トライアングルメイジっつったらそっちでもかなりの腕利きだっつーことだぜ?」
「黙っとれデル公や。そいつぁ真正面からやった時の話じゃろ?」
 背中に背負ったデルフリンガーは、僅かに刀身を鞘から出してジョセフに話しかける。
 夜でも魔法の力で煌々とライトアップされている屋敷は、暗闇の中で十分な目印となる。
 森の中を駆けていくジョセフの耳に、唸り声を上げて侵入者を威嚇する獣の声が聞こえた。
「むっ……!」
 昼に出向いた時に、翼の生えた黒犬が番犬として屋敷をうろついていたのを思い出す。
 果たして、獣は時ならぬ侵入者の匂いを辿り、木々の間をすり抜けてこちらへ駆けてくる。
「なかなか鼻が利きよるわい」
「で、どうすんだい相棒。こんな森の中じゃ俺っちはまともに使わせてもらえないぜ?」
 ニヤニヤ笑いながら他人事のように言うデルフリンガーに、ジョセフはにまりと笑うと、近くに伸びている木から小枝を一本手折る。
「剣が使えないなら、別のモノを武器にするんじゃよ」
 指の間で鋭く回転させて逆手に握る枝に、波紋を流し込む。
 程無くして侵入者を発見した翼犬が、ジョセフ目掛けて一気に距離を詰め飛び掛る!
 しかしジョセフは焦りの色の欠片さえ見せず、飛び掛ってきた犬から身をかわすのではなく、反対に犬目掛けてラリアットをぶち込む!
 人間に比べて遥かに強靭な筋肉を持つはずの翼犬は、まるで丸太でもぶつけられたかのように吹き飛び、木の幹にしたたかに身体を打ち付ける。
 ジョセフはそのまま俊敏に犬へ飛び掛り、獲物を背後から抱え込むような姿勢に移行し……

「フンッ!」
 波紋を流した枝を、犬の脊髄に突き刺し、ずぶりずぶりと回転させる。
「アフッ! ウォ……」
 断末魔の叫びは、体内に流れた波紋がそれを塞き止める。
 やがて命の抜け落ちた亡骸を地面に落とすが、翼犬は一匹だけではない。仲間の敵を討たんと、怒りに燃えたもう一匹の翼犬が、にっくきジョセフへと駆け寄ってくる。
「ふむ。今からじゃ手ごろな枝を見繕う余裕はないのう」
 余裕綽綽の笑みを浮かべながら、今度は自らの長袖シャツに波紋を流す。
 翼の滑空速度も加えた瞬速のタックルは、哀れな侵入者を即座に押し倒し、喉笛を噛み砕くに相応しい動きだった。だが彼(彼女かもしれないが)の不幸は……今夜の老人は獲物ではなく、自らと同じ立場の「狩猟者」であったことだった。
 しかし必殺を疑うことなく、翼犬はジョセフの喉目掛けて奔る。ジョセフは慌てる素振りすら見せず……逃げるどころか、自らの腕を襲い来る犬に差し出すかのように拳を繰り出す!
 巨大な顎の中へ狙い違わず打ち込まれた腕に穿たれた、肉を食い千切り骨を噛み砕き腕を食らうはずの牙は、しかし……たった一枚の粗末な布さえ破くことは出来ず、反対に布地は牙を捕らえてあらゆる自由を奪ってしまった。
「捕まえたァ、というヤツじゃのう」
 そして間髪入れず、ジョセフの空いている手は犬の肋骨を鷲掴みにしてぼきりと外し。出来た隙間から更に無理矢理指先を押し込んで、万力の様な指先は犬の心臓を押し潰した!
 まるでオーガが戯れに犬を繰り潰したような刻印を胸に残し、同僚の上に落さとれる死骸。
「おでれーた。やるもんじゃねーか相棒」
「せっかくならワイン瓶でも持ってくればもうちょっと楽じゃったな」
 ニマリと笑ったジョセフは、今度は道に近い木々の間を抜けていく。


 そうしていれば、番犬達が駆け出して行ったのにやっと追いついてきた兵士が一人。ランタン掲げて「またコソ泥の死体を片付けなきゃなんねーのか」とウンザリした顔を見せながら。
 音もなくデルフリンガーを抜いたジョセフは、木の幹の陰に身を隠し。足音を殺しながら兵士の後ろに近付いていき……鎧に包まれていない脇腹へ、ずぶりと刀身を沈め、ぐるりと束を回す。
 こうやって体内に空気を入れ込まれれば、人間は呆気なくショック死してしまう。
 何が起こったのか判らない、という顔で地面に倒れ伏した兵士を、ジョセフは茂みの中に引き入れ。そして再び、悠然とした足取りで屋敷へと向かっていくのだった。


 モット伯はその日、執務室で新たなメイドを味見する直前の高揚した気分を満喫していた。
 それは上級階級で話題になっている小説を読む直前の気持ちにも似ている。
「ふふふ……あのシエスタとかいうメイド、幼い顔をしているワリには随分と発育のいい身体じゃないか。これは実に楽しみだ……」
 今夜はどのような趣向で男も知らない女を花開かせようか。下卑た笑みを、緩んだ口に乗せるのだった。
 カン、カン。
「伯爵様、火急の件がこざいまして」
 これからの興に思いを馳せていたモット伯は、無粋なノックと、ドアの向こうからの部下の声に現実に引き戻され、不機嫌に眉間を寄せた。
「なんだ」
「邸内に賊が進入している模様です。警備の兵も数人討たれた様子、伯爵様直々に御迎撃頂きたいのですが」


「何!? ええい、高い金で雇っているというのに! 全く平民は何の役にも立たん!」
 伯爵の怒りはトライアングルメイジである自分の屋敷に侵入した不届きな賊だけではなく、無能な平民兵達にも向けられていた。
(平民どもは何の役にも立たんくせに貴族の脛ばかり齧りよる! 全く度し難い存在だな!)
 歯噛みしながら、杖を手に取り足音も荒く扉に向かう。
 そしてドアノブを苛立ちついでに勢い良くひねって扉を開けようとした瞬間――
 見えたのは、見覚えのない老人の姿。誰何の声を掛ける暇さえ与えず、僅かに開いた扉の隙間から、何本もの紫の茨が伯爵に絡みつく!
「なっ!?」
 伯爵はすぐさま魔法を唱えようとするが、茨は杖を持つ手首をねじり込み、杖を離させ。そして喉に絡みついた茨が、呪文の詠唱さえ許さなかった。
「あがっ……がっ……!」
 そして老人は茨を掴んだまま扉を背で閉める。
 捕われた伯爵と捕らえた老人、それは扉を挟んで背中合わせの形となっていた。
「メイジなんぞ高い金で平民に養われてるというのに、魔法使えなかったらなぁんの役にも立たんのう」
 楽しげにからかう声が、この世で伯爵が聞いた最期の言葉だった。
 老人が、指先で茨を弾いた瞬間。伯爵の魂は、肉体の鎖から抜け落ちていった。


 次の日、ジュール・ド・モット伯爵が病死したという知らせが学院にも届いた。
 病死と言うのは建前のこと、本当の死因は何者かに首を絞められた挙句、彼の死体に鋭い一太刀が浴びせられていたのだ。
 しかしメイジが魔法ではなく平民の用いる武器によって殺害されたとあっては、ドット伯爵家にとって最高に不名誉な事態であった。よって、建前上は病死という扱いになり、それ以上の事件に発展することはなかった。
 彼の屋敷に雇われていた使用人はしばらくして新たな奉公先を見つけてそこに住まうことになる。シエスタも学院に戻り、前と変わらない生活を送ることとなった。
 しかし内々の捜査が、とある一人の男に辿り着くのは、時間の問題だった――


「ってことになっちゃうのよ!? ああ、そんなことになったらどうしよう……ヴァリエール家自体にも捜査の手が伸びてしまうわ!? あああああ、お父様やお母様に姉様にちいねえさま、何と言い訳すればいいの!? 不出来な使い魔を持った私でごめんなさい!!?」
 何やらあらぬ想像を張り巡らせて一人でベッドでのたうち回る主人を、使い魔とその剣はぽかーんと見つめる以外になかった。
「なあ相棒。お前んとこの主人っていつもあんなんか?」
「……いやー、普段はあんなんじゃないんじゃがのう。パニック起こしたみたいじゃな」
 ヒソヒソと内緒話を交わす一人と一振り。
 ちなみに「私は使い魔にツェルプストーの女の匂いをつけるのもイヤだし~」と宣言したところからルイズの想像……というか妄想の産物である。
「それにしても一体ルイズん中でわしはどんなバケモノっつーことになっとるんじゃ?」
 口の端々から漏れた妄想の欠片を繋ぎ合わせれば、ジョセフ一人いればハルケギニア全土を征服出来るかのような勢いである。


 そろそろ誰か医者でも連れてきた方がいいんじゃないか、とジョセフとデルフリンガーが真剣に相談し始めた頃、ルイズはベッドで頭を抱えてうつ伏せに丸まってた身体を、バネ仕掛けのように凄まじい勢いで跳ね上がらせた。
「……しょうがないわ……ここは一時の恥を偲んで、キュルケに一緒にお願いに行ってあげるわ! ヴァリエールの家自体に悪辣非道な捜査の手を伸ばすくらいなら、たかがちょっとくらいの噂くらいどうってことないわよ!」
 いや。それは勝手な想像で。幾らなんでもそこまでせんわい。というジョセフのか細い抗議を敢然と無視したルイズは、ジョセフの襟首引っつかんでキュルケの部屋に向かった。


 結局、キュルケは「今度の虚無の曜日にジョセフと城下町に買い物に行く」という条件で家宝の書物を譲ることに賛同し、タバサのシルフィードで早速モット伯の屋敷へと向かう。
 無事に学院に戻ることになったシエスタは、「きっとジョセフさんが『私の為』にミス・ヴァリエール達を動かしてくれたんだ」と、勘違いをすることになったが、あながち間違っていないのでジョセフは特に訂正もしなかった。
 結果、ほっぺにチュを受けてジョセフはご満悦だった。


 さてここで最もワリを食った我らがゼロのルイズ。
 彼女の機嫌を取る為、しばらくジョセフは懸命に犬として振舞いまくったとさ。


『暗殺無用』・完          タイトル変わってる? 気にすんなよ

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