ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

Shine On You Crazy Diamond-14

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匿名ユーザー

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暫らく進むと馬車は深い森へと入っていた。
木々は鬱蒼と茂り、多くの葉が太陽を遮っているため昼間だというのに薄暗い。なんとも気味が悪いところである。
ここにいるだけで心細くなってしまいそうだ(が、そんなことをおくびにも出さないのが貴族である)。
馬車はさらに先進んでいくがドンドンと道が細くなっていく。
「ここから先は、徒歩で行きましょう」
するとミス・ロングビルはそう言った。
確かに、ここから先を馬車で行くには道幅が狭いし、なにより乗っていけたとしても馬車の音でフーケにわたしたちのことを気づかれる恐れがある。
なのでミス・ロングビルの発言にしたがって、わたしたちは馬車から降りて小道を歩み事になった。
ミス・ロングビルを先頭に、徒歩で小道を進んでいく。
ここまで来ているので、もしかしたらわたしたちのことは既にフーケに悟られているかもしれない。そしてわたしたちを虎視眈々と狙っているのだとしたら?
そう考えると気が抜けない。そんな緊張の中歩いていくが、
「なんか、暗くて怖いわー、いやだー」
そんなことツェルプストーには関係ないらしく、ヨシカゲの腕に手を回し抱きついている。
こんなときでもツェルプストーにとっては男を振り向かせることの方が大切らしい。
「離れてくれ。いざというとき動きにくい」
「だってー、すごくー。こわいんだものー」
……呆れるけど、色ボケもここまで来ればたいしたものかもしれないわね。ツェルプストーには緊張感という言葉が無いのかしら?
この状況でそこまで余裕な態度を取れるところは褒めてあげてもいいくらいだわ。絶対に褒めないけど。

歩いていると開けた場所に出た。森の中の空き地といった感じで、広さは学院の中庭ぐらいの大きさだろう。
その真ん中に、廃屋が建っていた。
ミス・ロングビルが言っていたのはあの廃屋なのかしら?
とりあえず、小屋からこちらが見えないように森の茂みへと身を隠す。幸い隠れる場所には困らない。
「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」
そう言いながらミス・ロングビルはあの廃屋を指差した。やはりあの廃屋で間違いないらしい。
改めて廃屋に目にやる。朽ち果てた窯と、壁板の外れた物置がとなりに並んでいる。人が住んでいるような気配はまったく無い。
フーケは本当にあの中にいるのかしら?
疑っていても仕方が無い。今は中にいると信じて行動するだけである。みんなとの相談の末、次に行う行動は決まった。
タバサ立案のおびき出し作戦である。
まずは偵察兼囮が廃屋の近くまで行き、中を確認する。そして中にフーケがいれば挑発して外に誘い出すというものである。
あの小屋の中に、ゴーレムを作り出すほどの土はない。つまり外に出なければフーケの巨大ゴーレムは作れない。つまり外に出ざるを得ない。
そしてフーケが小屋の外に出たところで魔法で疾風怒濤の攻撃をお見舞いする。
つまりフーケが外に出てゴーレムを作り出す前に、魔法でフーケをけちょんけちょんにしてやるのだ。
なかなかいい作戦である。これならばきっと成功するだろう。
問題は誰が偵察兼囮をするかということだが、タバサが言うには「すばしっこいの」がいいらしい。
この中で一番すばしっこい奴と言ったら、やはりヨシカゲだろう。剣士(ほんとかしら?)だから素早い動きも出来るはず。
そういうわけで、偵察兼囮はヨシカゲということに決定した。
ヨシカゲは茂みから出ると、あっという間に廃屋まで近づいていった。そして暫らく中の様子を窺っていたかと思うと、これまた素早く戻ってきた。
「中には誰もいないみたいだ」
ヨシカゲがそう告げたので、今度は皆で近づいていく。窓を覘いてみる。小屋の中は一部屋しかないらしい。
部屋の真ん中にある埃塗れのテーブル、転がった椅子、崩れた暖炉、部屋の隅には薪が積み上げられている。そしてどこにも隠れられそうな場所は無い。
タバサがドアに向けて杖を振り罠が無いかどうかを確かめる。
「罠はないみたい」
そう呟くと、ドアを開け中へと入っていった。そして続けてヨシカゲが入っていく。
しかし、このまま全員入ってしまったら、もしフーケが戻ってきたときに不利ではないか?だれかが外にいて見張りをするべきだ。
うんうん。我ながらいい考えだわ。そして考えたからにはそれは本人がやるべきよね!
「わたしは、外でフーケが来ないかどうかを、見張っておくわ」
そしてそのことを小屋に入ろうとしていたツェルプストーに伝える。
「あっそ」
ツェルプストーは実に素っ気無い返事を返しながら小屋の中へ入っていった。

まったく、今の態度はなんなのだろうか。まるで外の見張りが必要ないとでも言うような態度だった。ほんと、いつもわたしを虚仮にして~!
わたしが見張らずに襲われたらどうするつもりよ!まったく!
「ミス・ヴァリエール」
「は、はい?」
そんな腹を立てていたときに、ミス・ロングビルが話しかけてくる。一体なのだろうか?
ミス・ロングビルは小屋の中に入らないのかしら?
「わたくしは、あたりにフーケがいないかどうかを偵察してきます」
「あ、わかりました。気をつけて」
「ええ」
そう言って、ミス・ロングビルは森の中へと入っていった。やっぱりオールド・オスマンの秘書をする人は考えが違うわね。見張るんじゃなくて探索するなんて。
やっぱりオールド・オスマンのダメさをフォローするにはそれぐらいの機転が必要なのかしら?
「あっけないわね!」
そんなことを考えていると、何故かツェルプストーが大きな声を出した。中で何があったかはわからないけど、言葉からして破壊の杖が見つかったのかもしれない。
そうやって推測をしているところに、何故か大きな影が差した。
雲が上にでも来たのかしら?
何気なく上を向く。そこには、フーケの、巨大な土ゴーレムが、存在していた。
一瞬頭の仲が空っぽになる。ゴーレムは腕を振りかぶる。そこでようやく頭が事態を理解して、
「きゃぁああああああああ!」
悲鳴を上げた。それと同時にゴーレムが腕を振り小屋の屋根を吹き飛ばした!
「ゴーレム!」
ツェルプストーの叫ぶ声が小屋から聞こえてくる。そして次の瞬間、
「きゃああ!」
突然の突風に体が吹き飛びゴーレムから離れ、地面に倒れる。
一体なんなのよ!?
立ち上がり風が吹いてきた方向を見ると、ゴーレムが大きな竜巻に攻撃されていた。おそらくタバサの魔法だろう。わたしはあの竜巻によって吹き飛ばされたらしい。
しかし、ゴーレムにはそんな竜巻は効いたそぶりは無い。そして間も無く竜巻も消える。その代わり、今度は炎に包まれるがそれすらも効いたそぶりは無い。
「無理よこんなの!」
キュルケの焦ったような声を聞きながら、わたしは杖を取り出すと強く握り締めた。
自分は何をしにここに来たのか?フーケを捕まえるためだ。そしてみんなに馬鹿にされないため、認めてもらうためだ!
それなのに!見張りを買って出たのに発見できずにゴーレムに襲われて、無様な悲鳴を上げただけでなにもできず、あまつさえ味方の攻撃で吹っ飛ぶなんて!
見張りすらできないなんて、これじゃあ恥を晒しに来ただけだわ!馬鹿にされて当然!
だったらどうするの?決まってるわ!立ち向かうのよ!ここで背を見せたら貴族じゃなくなるわ!
ゴーレムは今、丁度うしろを向いている。それなら邪魔されること無い。攻撃するには絶好の好機。そんな好機を逃すわけがない!
タバサやツェルプストーが逃げていくのを見ながら、ファイヤーボールの呪文を唱え、魔法の成功を祈りながら杖を振るう。

しかし、杖から炎は出ることは無く、ゴーレムの表面が少し爆発しただけだった。つまり失敗。何の決定打にもならない。
でも、そんなのは初めからわかっていたことだ。タバサやツェルプストーの魔法が通用しなかったのを見たときからわかっていたことだ。
魔法が使えない自分じゃ倒せないなんてわかっていたことだ!
でも、だからといって諦めるわけにはいかない!諦めて逃げたら自分は貴族ではなくなってしまう。そしたらだれも見返すことは出来なくなってしまう!
冗談じゃないわ!わたしは貴族よ。いつか魔法が使えるようになって、みんなを見返すのよ!
それに、諦めなかったら何とかなるかもしれない。諦めずに戦えば勝てるかもしれない。何事もやってみなくてはわからないではないか!
そう信じる事にする。そう信じて戦う事にする。そう信じなきゃ、きっとこのまま立っていることも出来ないような気がするから。
ゴーレムがこちらを振り返ろうとする。それにあわせて、もう一度呪文を唱えようとする。
「逃げるぞ!」
そのとき近くから不意に声が聞こえた。もちろん知っている声だ。ここ一週間ほど一緒に過ごしてきた自分の使い魔の声だ。
声のした方向を見ると、そこには想像したとおり、使い魔のヨシカゲが立っていた。
ヨシカゲは素早くわたしの手を握って、引っ張ろうとする。わたしを引っ張って逃げるつもりなんだろうけど、そういうわけにはいかないわ!
「いやよ!あいつを捕まえれば、誰ももう、わたしをゼロのルイズと呼ばなくなるでしょ!」
そうヨシカゲに言って、引っ張られている手を振りほどこうとする。
「考えてものを言え!魔法も使えないお前が勝てるか!」
そのヨシカゲの怒鳴り声が耳に響く。そしてある一つの出来事を思い出させる。ヨシカゲがギーシュと闘った時のことだ。
ヨシカゲだって、魔法も使えない平民のくせに、ドットとはいえギーシュに勝ったではないか!そう、今の状況だってそれと同じこと!
わたしがヨシカゲで、相手がギーシュ!だったら、
「やってみなくちゃ、わかんないじゃない!」
「無理だ!」
無理なんかじゃないわ!使い魔にできて、そのご主人さまにできないなんてことはないのよ!それに、
「ここで逃げたらゼロのルイズだから逃げたって言われるわ!」
「どうでもいいだろうそんなこと!」
わたしにとって切実な問題を、どうでもいいというヨシカゲに腹が立ってくる。
そうだ、所詮ヨシカゲは平民なのだ。貴族としての在り方を知らなければ、貴族としての矜持すら知らないのだ。
「わたしは貴族よ。魔法が使える者を、 貴族と呼ぶんじゃないわ!敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」
そう言ってヨシカゲの手から離れようと手を引っ張って、突然手が離された。
えっ?どういうこと?今のは引き剥がしたとかそういうのじゃなくて、明らかに意図的に離された。どうして突然離すの?
その驚きのまま、ヨシカゲを見る。ヨシカゲの顔はいつもと同じような無表情だった。いつもそんな表情だから、いつもならまったく気にしない。
でも、今はそんな表情をしていられるような状況じゃない。現に、さっきまで慌てた表情をしていたではないか。その違いに、感じたことの無い気味の悪さを覚える。
そして、ヨシカゲの足が動いたと思ったとき、わたしはお腹に鋭い衝撃を感じた。
「げほぉ!」
一瞬にして呼吸が止まる。咽喉もとに何かが這い上がってくるような感じがする。何かを吐き出すような感じがする。
その後に、今まで感じたことも無いような、恐ろしいほどの痛みがお腹の中心にして駆け巡る。
痛みを抑えるように手でそこの部分を覆うがまるで意味が無い。最早立っていられなくなり、地面に跪き蹲る。眼から涙が溢れ出る。
「そんなに死にたいなら手伝ってやるよ。皆には必死で戦ったって言っといてやる」
そんなヨシカゲの声に、なんとか顔を上げヨシカゲを見つめる。その顔は、やっぱりいつもと変わらない無表情だった。


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