ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-51

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匿名ユーザー

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「・・・それじゃあ開けるわよ・・・」
揺らめく炎が微かに照らす岩壁に、少女の声が反響する。誰も近寄らない魔物の
巣窟、その深奥に安置された古びたチェストに手を掛けて、キュルケは真剣な
眼でルイズ達を見た。少し汚れた顔を皆一様に頷かせたことを確認して、
ゆっくりと蓋を開く。
キュルケの地図によれば、犬にされた王女の呪いを解除したとも、王に化けた
トロールの魔法を見破ったとも伝わる「真実の鏡」がこの洞窟に隠されていると
いう話だった。もし本当ならば世紀の大発見である。期待と不安の眼差しの中、
箱の中から姿を現したのは――
「なッ・・・!」
粉々に割れた鏡の残骸だった。
「何よそれぇ~~~・・・」
糸が切れた人形のように、キュルケ達はへなへなとへたり込んだ。
「み、見事に割れちゃってますね・・・」
「・・・真贋以前の問題」
脱力するシエスタの横で、流石のタバサも疲労の溜息をついた。
「・・・戻るか」
頭を掻きながら呟くギアッチョに異を唱える者はいなかった。


その夜。
「はぁ~~~~~~・・・・・・」
適当に見繕った洞穴に腰を下ろして、ギーシュは深く息を吐き出した。
「七戦全敗とはね・・・」
焚き火に手を当てながら首を振る。
そう。現在消化した地図は八枚中七枚、そしてその全てが到底お宝等とは
呼べないガラクタのありかであった。

炎の黄金で作られた首飾りが隠されているはずの寺院にあったのは、真鍮で
出来た壊れかけのネックレス。小人が遺跡に隠したという財宝は、たった六枚の
銅貨だった。それでも何かが出てくるならばまだいい、中には地図に描かれた
場所自体が存在しないことすらあった。

「ま、いい経験が出来てよかったじゃあねーか」
ギアッチョが戦利品の欠けた耳飾りを眺めながら言う。彼の言ういい経験とは、
無論実戦経験のことである。この数日間否応無く化物の群れと戦い続け、
ルイズ達は最後にはギアッチョの助けが無くともそれらを殲滅出来る程に
なっていた。
「おかげさまでね・・・」
「懐が暖まらないのは残念だけどね」
そう言いながらも、不思議とキュルケに悔しさは無い。そして、それは皆同感の
ようだった。
ゆらゆらと揺れる炎を見つめながら、ルイズは静かに言う。
「でも・・・楽しかった」
「・・・そうだね」
その言葉に、皆の顔から笑みがこぼれる。傍から見れば何の得も無い、くたびれ
儲けのつまらない旅行だろう。しかし――損だとか得だとか、そんなことは彼女達
にはどうだっていいことだった。
眼に見えるものは何も無い、手に取れるものは何も無い。だが彼女達が手に入れた
ものは、だからこそその胸の中で強く輝いている。
「・・・これ・・・」
ルイズは手のひらに慎ましく乗っている六枚の銅貨に眼を落とす。それは今回の
数少ない戦利品の一つだった。とは言え、とりたてて古銭というわけでもない
上どれも皆錆び放題に錆び、あちこちが傷つき欠けている。とりあえず持ち
帰ったはものの、どう考えても買い取り不可であろうこれをどうしたものか、
皆の頭を悩ませている一品であった。
「・・・・・・これ、皆で一枚ずつ持たない?」
しばし考えた後、ルイズはおずおずとそう言った。
「・・・分配?」
意味を量りかねて、タバサは小首をかしげる。
「ううん、そうじゃなくて・・・」
「こういうことだろう?」
そう言ったのはギーシュだった。ルイズの手から銅貨を一枚取り上げると、
錬金で中央に小さく穴を開ける。ガラクタの中からネックレスを取り出し、
穴に通して首にかけた。
「う、うん・・・」
ズレてはいるが殊更外見を気にするギーシュが躊躇い無く銅貨を見につけた
ことに、ルイズは聊か驚きながら首を頷かせる。
「・・・解った」
得心した表情で立ち上がると、タバサもまたルイズの掌から銅貨を一つ掴む。
後に続いてキュルケが二枚をその手に取った。
「ほら、シエスタ」
「へっ?」
焚き火に鍋をかけていたシエスタは、キュルケに差し出された銅貨に眼を丸く
する。一拍置いて、ブンブンと手を振ると慌てた口調で言葉を継いだ。
「そそ、そんないけません!折角の宝物を私のような平民に――きゃっ!」
キュルケはシエスタの額を中指で軽く弾いて言う。
「全く、まだそんなことを言ってるの?平民だとか貴族だとか言う前に、
私達は友達じゃない 大体、貴族と平民に違いなんて何も無いことは貴女が
一番よく知ってるでしょう?」
「・・・そ、それは・・・」
「ん?」
シエスタの瞳を覗き込んで、キュルケは優しく微笑む。シエスタは少しの間
銅貨を見つめて逡巡していたが、やがてキュルケと眼を合わせて口を開いた。
「・・・私でも――いいんでしょうか」
「よくない理由が無いわよ」
きっぱりと、キュルケは断言する。シエスタは少しはにかんだ笑みを浮かべて、
静かに銅貨を受け取った。
「ありがとうございます・・・ミス・ツェルプストー」

「き、君達いつの間にそんな関係にッ!?」
「どんな関係も無いから鼻血を拭きなさい」
何やら興奮した面持ちのギーシュを適当にあしらうと、キュルケはルイズに
視線を移して、
「ほら、まだ残ってるでしょうルイズ」
「・・・うん」
意味するところを察したらしいルイズは、掌に残った銅貨を一枚取り上げて、
ゆっくりとギアッチョに差し出した。
「受け取って、くれる・・・?」
「――・・・・・・」
ギアッチョは答えずに錆びてひしゃげた銅貨を見つめる。
これは児戯だ。心に風が吹けば飛び、薄れ、消えてしまう記憶を、それでも
留めておきたい子供の。
――それでも。彼女達にとっては、この銅貨は紛れも無い宝物になるだろう。
ギアッチョは口を閉ざす。黙ったまま――その眼差しに万感を込めるルイズから、
銅貨を受け取った。
「ギアッチョ・・・」
ルイズの、キュルケ達の顔が綻んだ。どうにも居心地が悪くなって、
ギアッチョは銅貨に眼を戻す。薄くて軽いそれが、少しだけ重さを増した
ように感じた。

「さ、皆さん お食事が出来ましたよ」
やがて完成したらしいシチューを、シエスタは鍋からよそってめいめいに配る。
食前の唱和もそこそこに、動き疲れたルイズ達は少々はしたなく食器に手を
伸ばした。
「・・・おいしい」
食べ慣れないが実に美味しいシエスタの料理に、ルイズ達は揃って舌鼓を打つ。
兎肉や種々のキノコにルイズ達が見たことも無いような山菜が入ったそれは、
聞けばシエスタの村の――正確には彼女の曽祖父の、郷土料理なのだと言う。

それから、話題はそれぞれの郷土のことに移った。少し酒の入ったギーシュは
饒舌にグラモン家の領土を語り、それを皮切りに皆わいわいと言葉を交わし
始める。ギアッチョも酒を傾けながら時折話に混ざっていたが、それを見て
タバサがふと思い出したように呟いた。
「・・・貴方は?」
「あ?オレか?」
「そういえば、ギアッチョの話は聞いたけどそっちの世界の話は聞いて
ないわね 良ければ聞かせて欲しいわ」
「・・・そうだな」
キュルケの言葉に、空になった杯を弄びながら答える。
「前にも言ったが、最も大きな違いは魔法なんてもんが存在しねーことだ」
「君のようなスタンド能力はあるのにかい?」
「こいつは例外中の例外だ スタンドを知ってる人間なんざ、さて世界に
何人いるかっつーところだな ・・・ま、そう考えるとよォォ~~~、
魔法使いがひっそり存在してるって可能性も否定は出来ねーが ともかく
殆ど全ての人間が魔法なんて知らねーし信じちゃあいねー そういう世界だ」
ギアッチョの説明に、キュルケ達は一様に不思議な表情を浮かべる。
「何度聞いても想像出来ないな・・・ ということはマジックアイテムも
無いんだろう?不便じゃないかね?」
「不便ってのは便利さを知って初めて出る言葉だと思うが・・・ま、別に
んなこたぁねー 魔法の代わりに、地球の文明は科学によって発展してきた」
「・・・科学」
「あの教師――コルベールか?いつだったか、授業で簡単な内燃機関を
披露してたがよォーー、例えばあれを応用すると馬車より速い乗り物を
作れる 国にもよるが、大半の人間はそいつを足に使ってるな」
「えーっと・・・?」
案の定と言うべきか、今の説明を完璧に理解出来た者は居ないようだった。
眼鏡をかけ直す仕草の間に、ギアッチョは解りやすい例えを捻り出す。

「・・・簡単に言うとだ」
軽く居住まいを正すと、片手で天井を指しながら、
「あの飛行船・・・あれを動かしてる動力があるだろ」
「風石」
間を置かず補足するタバサに頷いて続ける。
「そいつを人工で作り出したみてーなもんだ」
おおっ、と全員が驚いた顔になる。
「凄いじゃない!魔法も使わずにそこまでのことが出来るなんて!」
得心がいって俄然興味が沸いたのか、キュルケが少し身を乗り出して言った。
いかにも非魔法的技術に特化したゲルマニアの貴族らしい反応である。
「あら・・・?ということは、コルベール先生は雛形とは言えそれを
一人で作り上げたということ?」
「そういうことだろうな」
油と薬品の臭気が漂う研究室で独り研究に明け暮れる奇矯な教師、という
学院一般の評判を思い出してギアッチョは答えた。「そう・・・」呟くように
言うと、キュルケは少し複雑そうな表情を見せる。

「それじゃ、他にはどんなものがあるの?」
続けて問い掛けるルイズに、ギアッチョは面倒というよりは怪訝な視線を
向けた。
「おめーにゃあ何度も話してるじゃあねーか」
「そうだけど、もっと詳しく聞きたいんだもの それに、皆は初めて聞く
ことでしょ」
「ギアッチョさん、私ももっと聞きたいです」
ルイズとシエスタの言葉に、ギーシュが頷きで賛同の意を示す。ギアッチョは
ガシガシと頭を掻いて、一つ溜息をついた。
「・・・ま、別にかまわねーが」
とは言え、乱暴な言い方をするならば殆ど何もかもが違うような世界である。
はて何から喋ったものかとギアッチョは一人思案した。
先端科学の話でもするかと考えたが、観測者の存在が観測結果に影響を与える
等と言ったところで理解は難しいだろう。考えた末に比較の可能な乗り物から
話すことにすると、ギアッチョは手近な小石で地面に絵を描き始めた。
「飛行機っつー代物があってな・・・」


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