ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

Shine On You Crazy Diamond-13

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『土くれ』のフーケ捜索隊に、ツェルプストーとタバサ以外にもう一人仲間が増えた。オールド・オスマンの秘書、ミス・ロングビルだ。
オールド・オスマンの秘書なのだから当然メイジだろうし、フーケの居場所も知っている。戦闘員と案内役、まさに頼もしい限りである。
そしてわたしたちは早速馬車に乗り込みフーケの居場所へと向けて出発した。
普通、馬車よりも魔法で移動したほうが速いのだが、それだと目的地に着くまでにどうしても精神力を消費してしまう(当たり前のことだけど)。
目的地までの距離が長ければ長いほどだ。
しかし、フーケと一戦交えなくてはいけないような、そんな危険性を伴うときに精神力を消費するのはあまりにも不味い。
だから馬車に乗って目的地にまで行くのだ。馬車なら魔法より多少遅れをとるが魔法を使わなくても目的地まで行くことができる。
つまり魔法を使わない分精神力も温存できる、というわけである。
しかし『馬車』といっても、屋根や壁といった遮蔽物を取り払った馬車で、その見た目はまるで荷車のようだ。
これは、襲われたときにすぐに外に飛び出せるようにとの配慮で、このようにしたのである。しかし、この馬車に乗るのはあまりいい気はしない。
だって、この馬車が荷車に見えるということは、それはつまりわたしは荷台に乗っているように見えるということだ。
貴族であるわたしが荷車の荷台に乗るだなんて、それじゃあまるで平民みたいじゃないか。まったく、こんなことこういった必要性が無ければ絶対にしないのに。
「ちょっと。なんで私があげた剣を使わないの?」
そんなことを考えていると、当然ツェルプストーの(耳障りな)声が聞こえてきた。
『私があげた剣』?『使わない』?一体何のことだろうか。剣といえば、この中で剣を使うのはわたしの使い魔であるヨシカゲだけ。
ヨシカゲのほうを見やる。すると、そこにはわたしが買い与えてあげた剣が置かれていた。
………………………………なんで!?
「あれは目立つから駄目だ。目立ったら相手に気づかれやすいだろ」
ツェルプストーの問いに、ヨシカゲはさも当然というふうにそう答える。
なるほど。たしかにあの剣は立派だけど、それだからこそ遠くからでもよくわかる。だから、そのせいでフーケが早くこちらに気づく可能性がある。
晴れてるからピカピカ光るだろうし。
それよりはわたしが買ってあげた剣の方が(不本意だけど)地味で目立たなくていい。
「……たしかに、ダーリンの言う通りね。わかったわよ。今回は仕方ないし。でも、次からはちゃんとあたしが買ってあげた剣を使ってね」
ツェルプストーもヨシカゲの言ったことが理解できたのだろう。渋々といった感じで納得した。
ふふ~んだ。ざまあみろベロベロバ~(もちろん実際にはしない。貴族はそんなみっともないことはしないのだ)。

一言で言えば暇。
良く言うなら暇。
悪く言うなら暇。
暇と言えば暇。
暇が暇で暇。
オールド・オスマンの演説を聴くぐらい暇。つまり、暇だった。
出発してからどれくらいの時間が経ったのだろうか、わたしにはわからない。
ミス・ロングビルの情報が確かなら、フーケの隠れている場所まで馬で学院から4時間も掛かる。
始めこそ、いつフーケが襲ってくるかもしれないという緊張が少なからずあったが、まったく何もないとそんな緊張感も続かない。
そうすると、どうしてもだらけてしまう。結果暇だと思ってしまう。暇になる。現に暇になってしまった。
暇じゃないのはこんな状況でも本を呼んでいるタバサぐらいだ。本当なら本なんて読んでいる場合じゃないのに。怒りを通り越して呆れるわ。
さて、暇だったら誰かと喋ればいいと普通は思う。でも、喋る相手がいない。
ヨシカゲは平民で使い魔だから論外。貴族のわたしとは話が合わないに違いない。貴族も知らなかったぐらいだし。
ツェルプストーなんて考えるまでもなく論外、却下、話しかけてきても喋らない、喋ることを許可しない。
タバサはどう見ても喋りそうにないし、ミス・ロングビルとは何を話せばいいのかわからない。
……そういえばどうしてミス・ロングビルが手綱なんて握っているのかしら?
出発するときに自分から御者を買って出たから何も思わなかったけど、普通こういうのは付き人や使用人がするものだ。
それをどうして貴族であるはずのミス・ロングビルがやっているのだろうか?
「ねえミス・ロングビル……、手綱なんて付き人にやらせればいいじゃないですか」
わたしと同じことをツェルプストーも疑問に思ったのだろう。ツェルプストーは何の躊躇いもなくミス・ロングビルに問いかける。
まあ、わたしもそこは気になっていたところだ。こんなときだけだけどツェルプストーのお喋りは役に立つ。
ツェルプストーの問いかけに対しミス・ロングビルは、
「いいのです。わたくしは、貴族の名をなくした者ですから」
そう言って微笑んだ。
……貴族『だった』んだ。オールド・オスマンの秘書が貴族じゃないなんてちょっと変だけど、きっとよほどの事情があるに違いない。
それにしても、わたしが直接聞いたわけじゃないにしても、ちょっとまずいことを聞いちゃったわ。
きっとミス・ロングビルも、このことはあまり言いたくないことだったに違いないはずだし。
しかし、ツェルプストーは止まらない。

「だって、貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」
「ええ、でも、オスマン氏は貴族や平民だということに、あまり拘らないお方です」
「差し支えなかったら事情をお聞かせ願いたいわ」
ミス・ロングビルはツェルプストーの言葉に微笑を浮かべた。この状況でそれは誰が見ても言いたくないという証であるのは間違いない。
現にミス・ロングビルは喋ろうとはしない。
当然だろう。ツェルプストーが言う『事情』がどの程度までの事情かはわからない。けれど、貴族だった者にすれば貴族じゃなくなった後の軌跡なんて恥でしかないはずだ。

少なくともわたしはそう思う。なにせ身分が平民にまで落ちるのだから、貴族だった者には耐え難いことに違いなかったはずだ。
もしわたしが平民になったとしたら……、そんなこと考えるだけで恐ろしい。
「いいじゃないの。教えて下さないな」
が、ツェルプストーはそんなことをちっとも考えないらしい。興味津々と言った顔でミス・ロングビルに近寄っていく。
なんて無遠慮で思慮に欠ける行動なんだろうか。人の聞かれたくない秘密を無理に暴こうとするなんて。
それは貴族としてあまりにもマナーに欠けた行動で、貴族として見過ごすわけには行かない。
そんな義務感から、わたしはミス・ロングビルへと近寄っていくツェルプストーの肩を掴んだ。

今思えばそれは勝手な想像だったし、義務感よりも自分が勝手に想像したミス・ロングビルの過去に同情しての行動だった。
でも、そのときのわたしにとっては自分の中に沸き起こったものが義務感で、その義務感が真実であるということに疑いもしなった。

「なによ。ヴァリエール」
ツェルプストーがわたしへと振り返り睨みつけてくる。わたしはその視線に真っ向から対峙する。なにせわたしの方が貴族として正しい行動をしているからだ。
睨まれたぐらいで怯える筋合いが無いし、ツェルプストー相手に目線を逸らすなんて負けを認めるようなものだ。
「よしなさいよ。昔のことを根掘り葉掘り聞くなんて」
そういえば根掘り葉掘りの葉掘りってなによ?少しイラつくわ。
「……ふん」
ツェルプストーは小さくそう呟くと元の場所に戻り頭の後ろで腕を組んだ。
「暇だからおしゃべりしようと思っただけじゃないの」
「あんたのお国じゃどうか知りませんけど、聞かれたくないことを、無理やり聞き出そうとするのはトリステインじゃ恥ずべきことなのよ」
そんなわたしの言葉をツェルプストーは見事に無視し、足を組む。
まったく、ゲルマニアじゃこんな当たり前のこともわからないのかしら。まあ野蛮で成り上がりな国なんてそんなものよね。
「ったく……、あんたがカッコつけたおかげで、とばっちりよ。何が悲しくて、泥棒退治なんか……」
そんなことを考えていると、ツェルプストーの口からそんな言葉がイヤミったらしい声と共に飛び出してきた。
……わたしのせい?とばっちり?なにをいってるんだこいつは?
「とばっちり?あんたが自分で志願したんじゃないの」
そうだ。ツェルプストーは自分から志願したのだ。それなのになんでそれがわたしのせいになるのか。
思わずツェルプストーを睨みつける。
「あんた一人じゃ、ヨシカゲが危険じゃないの。ねえ、ゼロのルイズ」
はあ?ヨシカゲが危険?
「どうしてよ?」
「いざ、あの大きなゴーレムが現れたら、あんたはどうせ逃げ出して後ろから見てるだけでしょ。ヨシカゲを戦わせて自分は高みの見物そうでしょう?」
わたしが逃げ出す?高みの見物?冗談じゃない!
「誰が逃げるもんですか!わたしの魔法でなんとかしてみせるわ!」
そうよ。貴族は決して敵に背を見せないのよ。敵を前にして逃げるわけ無いじゃない!
「魔法?誰が?笑わせないで!」
しかし、ツェルプストーの目には見間違いのないほどの嘲りの色が見て取れる。まるでわたしが逃げ出すことを決定しているかのように。
気に入らない。さっき『ゼロ』といったことも気に入らない。わたしの思いを軽く見ていることも気に入らない。だからツェルプストーは嫌いなのよ!
家系的にも、個人的にも!
わたしとツェルプストーの鬱屈とした睨みあいはそれから暫らくの間続いた。最低の暇つぶしだった。

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