ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は穏やかに過ごしたい-6

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匿名ユーザー

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ドアを開きルイズが部屋に入る。私もそれに続き部屋に入り机の上にデルフと荷物を置き、既に定位置に成りつつある椅子に深々と腰掛ける。それにしても疲れたな。
帽子をとる手間すら面倒臭い。まあ、あのお祭り騒ぎの人混みの中を歩き回ったのだ。当然の結果といえよう。ルイズも見る限り、疲れてベッドの上に寝転んでいる。
まあ、ここまで疲れたのにはそれなりにワケがあるのだが、
「ほんとに疲れたわ。ちょっと歩きすぎたわね」
「……お前が迷うからだろ」
「うっ…………」
そう、道に迷ったのだ。ルイズが、知っているはずの街で、迷ったのである。私はルイズの後ろを追っていたので当然迷った。巻き込まれたと言ってもいい。
しかし、普通知ってる街で迷うか?迷う奴は幼子かボケた老人だけだ。
「し、仕方ないじゃない!その、街なんて細かに場所を覚えるほど行ってないし、人混みが多くて場所が判断しづらかったし、お祭り騒ぎで街の印象も変わってたし……」
「お前が余所見ばかりしていたからだろ?それに、迷ったことを一時間も誤魔化すか?」
「そそ、それは…」
「迷ったなら場所を人に聞けばいいのに、それを頑なに拒んでさらに二時間迷ったな」
「そそそ、それは……、そう!人に聞くなんて逃げたのと同じよ!貴族は困難に正面から立ち向かうものよ!」
「…………」
「…………」
私が黙るとルイズも黙り口を開かなくなる。そして空気に耐えられなくなったのか私から視線を逸らし、傍らに置いてあった祈祷書を開き眺め始めた。やれやれだ。
それにしても、なんともセンスの無い言い訳だったな。センスがあっても所詮言い訳だが。……言い訳にセンスを求めること事態が間違いだな。
「ねえ、ヨシカゲ」
不意にルイズが私に話しかけてくる。口調からして、今思いついた、みたいな感じだ。
「どうした?」
「あんたのボロ剣貸してくれない?」
「……なんだと?」
今こいつは何って言った?
「だから、机に乗せてるそのボロ剣をちょっと貸してほしいのよ」
何を言っているんだこの馬鹿は?デルフがボロ剣だと?どうやらルイズの目は相当な節穴のようだ。ルイズがボロに見えるとは。あの光り輝く刀身を見たこと無いのか!?
……考えてみると見せたことが無いな。見せようとも思わないし。私だけが知っていればいいことだ。だが、デルフをボロと言われるのはあまり気分がいいものではない。
「どうして『デルフリンガー』を貸してほしいんだ?」
「そのボロ剣、アルビオンが攻めてきたときに、わたしに祈祷書のページをめくれって言ったじゃない?それに『イクスプロージョン』のことも知ってたわ。
つまり、それは虚無のことを知ってるってことでしょ?だから、虚無について知ってることを話してもらおうと思って」
こいつ、私がわざわざ『デルフリンガー』と強調して言ったのに、普通にボロ剣って言いやがって……
しかし、ルイズに言われて思い出したが、あのときデルフは何故か祈祷書のことや『イクスプロージョン』のことを知っていた。それは一体どうしてだ?
デルフ、『デルフリンガー』。曰く、『ガンダールヴ』の左腕。曰く、一応『伝説』。推測、『ガンダールヴ』が左腕の武器。これが自分が知っているデルフの重要情報だ。
ん?ここまで思い出して、ふと気がつく。『ガンダールヴ』は伝説の『使い魔』だ。始祖ブリミルの使い魔であらゆる武器を使いこなしたらしい。
それで、始祖『ブリミル』は『始祖の祈祷書』に『虚無』のことについて記した張本人だ。そしてブリミル自身『虚無』が使えた。
ここまで思い出すと、あとはすぐにわかる。『デルフリンガー』と『ガンダールヴ』と『ブリミル』、こいつらは同じ時代に存在してた。
『ブリミル』と『ガンダールヴ』は主従関係だったのだから当然一緒にいたはず。
そして『デルフリンガー』は『ガンダールヴ』の武器なのだから『ガンダールヴ』と共にあり、『ブリミル』の近くにいたはずだ。
『ブリミル』は『ガンダールヴ』の前で虚無を使ったことがあるはずで、『デルフリンガー』はそれを直接見ていた。
だからデルフは『虚無』のことを知っているし、祈祷書のことを知っている……
きっとこれは限りなく真実に近いはずの考えだ。そう考えないとデルフが『虚無』や『始祖の祈祷書』について知っているはずがないんだからな。
もし、ルイズにデルフを貸せばルイズはデルフに虚無について確実に聞くだろう。実際に虚無について知っていることを話してもらう、とか言ってるしな。
だが、それは色々まずいんじゃないか?知識は力だ。つまり、ルイズに『虚無』の知識が増えればさらに力が強くなるということだ。
ルイズが強くなれば強くなるほど、いざというときルイズを殺せる可能性が低くなる。それはなんとしてでも避けたい。
「どうしたの?いきなり黙っちゃって」
「いや、なんでもない」
とりあえず、ルイズにデルフを渡さない方法、あるいは渡しても意味が無い方法は無いのだろうか?デルフに直接ルイズに『虚無』のことを話すなといえば早いだろう。
そうすれば渡しても問題ない。きっとデルフは喋らないだろうからな。しかし、ルイズが見ている手前、そんなことを言うわけにはいかない。
ペンダントのときのように爆破するか?論外だ。私がデルフを爆破するなんて、こんな状況じゃありえない。
今この瞬間に、誰かがこの部屋に入ってきてくれればその間に何とかできる自信はあるのだが、このタイミングで都合よく誰かが来るなんてことは期待できない。
クソッ!なにか、なにかいい案は!?
「ヨシカゲ?」
そうだ!
「別に貸しても構わないが喋るかどうか定かじゃないぞ」
「え?どういうこと?」
そう言ってデルフを手に取る。
「どうしてだかアルビオンが攻めてきたあの時以来、殆んど喋らなくなってしまったんだ。最近じゃあ抜いても一言喋るかどうかだ」
これは一種の賭けだ。こうしてデルフに聞こえるように、デルフは最近喋らないということを強調して私が喋らないことを望んでいることを暗に伝えるのだ。
デルフを信頼しているからこそのこの賭け。そしてこれはある意味、私とデルフの絆がどれだけのものか確かめるチャンスでもある。
デルフが私を少しでも理解していれば、しっかりと意図を汲んで喋らないはずで、喋るということは私を少しも理解していないということだ。
ルイズにデルフを渡しながら、心の中で願う。デルフが何も喋りませんようにと。しっかりと私の意図を理解しているようにと。私を理解しているようにと。
そして、ルイズがデルフを喋れる程度に引き抜いた。その刀身にはしっかり錆が浮かんでいる。
「ボロ剣、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「…………」
「ちょっと、なんか言いなさいよ」
「…………」
「ねえ、由緒正しい貴族のわたしが、あんたみたいなボロ剣に尋ねてるのよ。なんか言いなさいよ!」
「…………」
この光景を見て、私は安堵した。デルフにはちゃんと私の意図が伝わっていたのだ。そして嬉しかった。
デルフは私のことをどれほどかはわからないが理解してくれているとわかったから。やはりデルフ以上の相棒はいないな。
というより、ボロ剣呼ばわりするルイズに、私の相棒と喋る価値は無い。しかし、喋らないデルフってのはどうしてこう違和感があるのだろうか?
剣は喋らなくて普通なんだがな。
「いい加減喋りなさいよ!喋らないと『虚無』で溶かすわ!誓ってあんたを溶かすわよ!」
……なんだとー!?デルフを溶かす!?冗談じゃない!
「おい、ルイズ。それは、私の剣だ。勝手に溶かされては困る!それに最近は喋らないとあらかじめ言っておいただろ!」
「喋らないだけで喋れないわけじゃないんでしょ!それってこっちを無視してるってことじゃない!」
「だからと溶かすのか?お前、溶かしたら別の剣買ってくれるのか?もうお小遣いは無いんだろ?それに女王様から言われただろ。みだりに虚無を使うなって」
「う~~~~~!」
まったく、気に入らないから壊すってガキかよ。
とにかく、こういったことが二度とないように、適当にそれっぽいことを言って、ルイズをうまく丸め込まなければならない。
「お前は何になりたいって言ってた?立派な貴族だろ?お前が夢見る立派な貴族はみんな冷静さを欠いているのか?そんなわけ無いだろ」
「…………」
「冷静じゃないと短絡的な行動をしてしまう。短絡的な行動は後悔に繋がる。それぐらい考えればすぐにわかることだろ?」
このセリフ、過去の自分にも言ってやりたいな。そうすればきっとこの世界なんかに来なくて済んだだろう。
「今回のことは、また喋るようになるまで待てばいいだけの話だ。溶かしたら二度と聞く機会が無くなるぞ。それこそ短絡的な行動だと思わないか?」
「……わかったわよ。わたしだって後悔はしたくないわ」
どうやら無事ルイズを丸め込むことに成功したようだ。見る限り、見事に気持ちがクールダウンしている。それを確認してルイズからデルフを取り上げ、再び机の上に置く。
やれやれ、本当に危なかった。せっかくデルフとの絆も確認できたのに、まさか突然のさよならになりそうになるとは。
「あ、そういえばもう夕食の時間じゃない?」
突然普段の調子に戻ったルイズの言葉に窓の外を見てみる。すっかり日が暮れ暗くなっていた。耳には他の生徒が移動するような音も聞こえる。
「そういえばそうだな」
「行きましょ」
「ああ」
丁度いい。食事を終えたらシエスタのところに行って今日のことを謝っておこう。本当は帰ったらすぐに謝る予定だったんだが、予想外に体力を消耗していたからな。
ルイズが立ち上がり部屋から出る。私はそれを見ながら立ち上がり、机の上のデルフを喋れる程度に抜いた。
「これでよかったのか相棒?」
デルフは抜いた瞬間、いつものように喋りだす。そうだよな。これでこそデルフだ。これがデルフにとっての普通だ。
「ああ、上出来だ」
いつもより少し上機嫌なためか、簡単にデルフを労うことができた。自分でも少し驚きだ。
「しっかしよ~。どうしてあんなことしなくちゃいけねえんだ?普通に喋ってもよかねえか?」
「ダメだ。あれは虚無なんていうありえねー力を使う奴だぞ。完璧に化け物だ。
ただでさえ力を持っているのに、知識が増してこれ以上強くなったら殺さないといけないとき殺せないかもしれない」
「…………」
「いいか。これから先、非常時以外ルイズの前で喋るなよ。絶対だからな。それじゃあ私は食事に行ってくる」
デルフを鞘に収め部屋を出る。少し急いだほうがいいかもしれない。ルイズに遅れたことを怪しまれたら少し厄介だからな。
遅れた理由を聞かれたときの言い訳もあらかじめ考えておくか。そう考えながら私は食堂へと向かっていった。

「いやぁ、こんどの『ガンダールヴ』はどうなってんだ?ちっとやばいような……」


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