ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は穏やかに過ごしたい-4

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私たちは学院からアンリエッタが用意した馬車に乗って王宮までやってきた。だから当然のように帰りも馬車だと思っていた。なのに、何故、馬車が、用意されてないんだ。
歩いて帰れとでも言うのか?学院から城下まで馬で3時間は掛かるんだぞ?まあ、常識的に考えて歩いて帰れはありえないだろうな。
なんせ、ルイズは貴族だ。そして女王の友人だ。いくらなんでも歩いて帰れなんて言うわけが無い。だとしたらなぜ馬車が用意されていないのか?……さっぱりだな。
もし本当に歩いて帰れってことなら犯人がヤスってぐらい意外だぞ。
そう思いながらもらった金貨や宝石をポケットに突っ込みながら、隣にいるルイズのほうを見てみ……ってあれ?ルイズがいない?
「ヨシカゲ、何してるのよ。早く行くわよ」
「え?」
声の聞こえたほうを向くと、ルイズは馬車のことなんて全く気にした様子もなく歩き出していた。どういうことだ?
心に疑問を抱えながらも、一応ルイズのもとへ追いついておく。ルイズは馬車が無いことに何も不思議に思わないのだろうか?というかどこへ行くつもりだ?
帰らないのかよ。そう思いルイズの様子を見るが、見る限りルイズに帰る意思は無いようだ。
「おいルイズ。馬車はどうした?」
「まだ来ないわよ」
「まだ?どうして?」
「わたしが後で来るように言ったから」
……お前のせいかよ。なに勝手なことしてるんだよ。私はさっさと帰りたいんだよ。早く帰ってこの金貨やら宝石を安全な場所に置いておきたいんだ。
せっかく手に入れた私だけ、私だけの金だ。落としたり取られたりしたら堪らない。
「なにかすることでもあるのか?街が賑わってるから見てまわりたいなんて思ってるんだったら止した方がいい」
今城下は戦勝祝いのお祭り状態だ。いや、実際お祭りなのだろう。屋台や露店がひしめき合い、大勢の人間が賑わい通りを埋めている。本当にすごい騒ぎだ。
愉快な見世物、煌びやかな品物に衣服、うまそうな料理。とても楽しそうだ。見て回りたいと思うのもわかる。しかしだ、
「こういった祭り騒ぎってのは、大抵羽目を外しすぎて他人に迷惑をかける連中がいるもんだ。お前なら絡まれるのは確実、だからやめとけ」
今のルイズの格好は誰が見ても貴族だ。そして無駄に顔のいい。迷惑な連中ってのは大抵目立つ奴に絡むもんだ。ルイズなんかまさに絶好の対象だな。
私がこうまでして学院に帰ろうとしているのは何も金のためだけじゃない。もう一つの理由は、私が人混みが嫌いだからだ。
幽霊だったとき、生命に触られるのは本当にやばかった。なんせ体を持っていかれてしまうんだからな。だから私は必ず人混みを避ける生活をしていた。
何年も何年も人混みを避け続けてきた。人混みに巻き込まれた奴らの末路は悲惨なものだった。あんな風になるのは絶対にごめんだといつも思っていた。
幽霊にとっては生命の群れである人混みはまさに天敵だったってことだ。今は人間だが、やはり幽霊として過ごしてきた期間の方が圧倒的に長い。
だから幽霊だったころの意識が完全には拭えない。朝寝惚けて壁をすり抜けようして、そのまま壁にぶつかったことがあった。幽霊のときの行動が無意識に出た結果だ。
あのときのように、私は無意識に人混みを拒絶している。人間になって多少人混みというものを体験したが、ここまで人が多いのは論外だ。
「……あのね、だれが街を見てまわるなんて言ったのよ」
「じゃあ一体何をするんだ?」
そう言うと、ルイズは私のほうに体を向ける。そして私を指差すと、
「あんたの服を買いにいくのよ」
そう言った。
……私の服?今ルイズは確か『あんたの服』と私を指差しながら言った。ってことは当然私の服を買いに行くってことだよな?

「なんでいきなり?」
「はあ?あんた前に服を買ってくれって言ったじゃない。自分の言ったことなのに忘れたの?」
「……そういえばそうだったな」
そういえばの戦いの直前、ヴォンドボナへ行く予定だったころに服を買ってくれと頼んだんだった。その後の戦争騒ぎのせいですっかり忘れてたな。
言った張本人が忘れていたのに、ルイズはよく覚えていたものだ。
「ホントなら学院まで送ってもらえばいいけど、どうせ街まで来たんだから自分で取りに行くほうが早いでしょ?」
「まあ、確かにな」
「わかったならさっさと行くわよ」
ルイズが人混みに向かって歩き出す。こんな人混みの中を歩くのか……。確かに服は欲しい。しかしこの人混みを歩くのは嫌だ。
だがこの人混みの中を歩かなければきっと服は手に入らない。ルイズ一人に行かせてもいいが、そんなことを言ったら機嫌を損ね服を買うのをやめるだろう。
もう行く気満々だしな。後日学院に送ってもらうって考えは無いんだろう。結局、服が必要な私には選択肢が残されていないということか。
覚悟を決め帽子を目深に被り足を一歩踏みしめる。そしてデルフの鞘を数回ほど撫でるとルイズの後を追い始めた。
それほど離れていなかったので15歩ほど歩いた程度ですぐに追いつく。ルイズに追いつくと同時にある疑問が頭に生じる。
「おい、ルイズ。確かお前は服を買ってくれるって言った時に、同じ服を作らせるとか言ってたな。私は寸法を測られた覚えが無いんだが」
オーダーメイドなら服を作るのに寸法を測らなくちゃいけないはずだ。まさかルイズが私の寸法を知っているわけが無いし……
「前に服を直してあげたことがことがあったでしょ?あのとき直すのを頼んだお店に服を作るように頼んだのよ。同じ服を作る自身があるって言ってたし」
「なるほど」
私の服を直したのなら、そのとき服の寸法やら形やら記録しているはずだ。その記録があるから同じサイズ、形のものが作れるということだろう。
しかし、これだけの人混みの中を歩くのはやはり気分が悪い。吐き気すらしてきそうだ。
やはり体が、心が拒絶するものを無理やり押さえつけて行動しているのだから当然かもしれない。
「それにしてもホントすごい騒ぎね。こんなに賑やかな街を歩いたのなんて初めてよ」
気分が悪い私とは対照的に、ルイズの明るく楽しげな声が聞こえてくる。ルイズは辺りを見回しながら歩いている。その顔はだれが見ても楽しそうだ。
腹が立つ顔だ。私はこんなに気分が悪いのに自分だけ楽しみやがって。お前だけ力を手に入れやがって。『幸福』になりやがって!
お前が満足すればするほどに、私はどんどん『幸福』から遠のいていく!こんなことになったのは全部お前のせいなんじゃないか?
そうだ、そうに違いない!『幸福』に辿り着けないのは全部ルイズのせいだ!チクショウ!やっぱり殺すしかない!今ルイズは浮かれてて隙だらけだ。
そして幸いにもここは人が多い。スタンドで殺せば誰が犯人かなんて特定できるはずが無い。まさか嫌いなものの中にこんなチャンスがあるとはな。
嫌いだ嫌いだと近づかないより、嫌いなものを知って利用価値を探すほうがいいってことか。為になったよ。じゃあな。
黙って『キラークイーン』を発現させる。

「あ、ここよ。入りましょ」
ルイズを攻撃する直前、ルイズはタイミングよく店の中へ入っていった。私は振り上げた状態のキラークイーンの腕と共に暫らく立ち尽くす。
「……馬鹿らしい」
さっきまでの気分が嘘のように褪めていく。まったく、何を馬鹿なことを考えているんだ。確かにルイズはムカつくが、殺すって程じゃない。
殺したほうがいいんじゃないかってレベルだ。気分が悪かったせいで考えが増長して早まったことをしてしまうところだった。そうだ、ルイズにはまだ利用価値がある。
さっき学んだだろ、嫌いなものの中にチャンスがあるって。ルイズにもそれは当てはまる。私が『幸福』になる要因を持っているかもしれないのだ。
まだだ、まだ見限るには早すぎる。まだ自分が安全を確保する準備をしていない。ルイズを殺すときは、万全の準備をしてからだ。
思いを心のうちに秘めたまま、私は店の扉を開き中へ入っていった。


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