ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は穏やかに過ごしたい-2

最終更新:

familiar_spirit

- view
だれでも歓迎! 編集
シエスタにまた明日文字を教えてもらう約束をし、足元にいる猫を足で小突きながら寮へと足を向ける。ルイズの部屋に戻るためだ。
怖いだ殺したいだ逃げ出したいだ思っていても結局は惰性でルイズの部屋に足が向かってしまう。日々の習慣とは考えてみるとすごいものだと感心したのは記憶に新しい。
ルイズは、自分が『虚無』の系統であることを今のところ誰にも話していないらしい。そりゃあ御伽噺クラスの魔法だからな。誰も信じるわけがない。
もし使えるなんてわかった日にはどんなことになるだろうか?私にはさっぱり想像がつかない。
と、そんなことを考えているうちにルイズの部屋の前についてしまう。随分と早くついてしまったものだ。本当ならもう少し時間をかけるつもりだったのに。
今度からちゃんと意識してゆっくりと歩くことにしよう。
カチャ……カチャ……カチャ……カチャ……
ドアを開けようとしてノブを掴むとき、ふとカチャカチャという音が断続的に聞こえてくることに気がついた。この音は一体なんだろうか?
カチャ……カチャ……カチャ……カチャ……
鍵が開いたり閉まったりする、そんな音。この音はどうもドアから聞こえてくるようだった。なぜこんな音がこんな断続的になっているのだろうか?
カチャ……カチャ……カチャ……カチャ……
聞けば聞くほど鍵が閉まる音、開く音だ。間違いない、このドアの鍵はさっきから、もしかしたら私がここに来る前から閉まったり開いたりしている。何故か!
坊やだからさ。……絶対に違うな。考えられる可能性は、ルイズがさっきから鍵を閉めたり開けたりしている、というものだ。
しかし、そんなことになにか意味があるのだろうか?その意図はさっぱりつかめない。だからといって、このまま部屋の前にボケッと立っているわけにもいくまい。
部屋に入ることを選択した私は意を決し、手に力を込めドアノブを回そうとするが、回らない。
「あれ?」
がちゃがちゃ。
「あれあれ?」
ノブが回らない。一体何故?と思うまもなく今は鍵がかかっているからだと思い至る。次に音が聞こえたときはきっと鍵が開く音だ。
そう思い、鍵が開く音を待っていたが、先ほどとはうって変わり何の音も聞こえない。どういうことだ?もしかして開け閉めするのに飽きたのか?
飽きたとしたらせめて鍵を開けてからやめろよな。まだ私が部屋に入ってないんだから。仕方が無い。
「ルイズ。鍵を開けてくれないか?」
「ミーー」
部屋の中にいるはずのルイズに声をかけながらドアをノックする。これなら声に気がつかなくてもノックの音で気がつくだろう。
案の定、ノックのすぐあと、鍵の開く音がした。ノブを回しドアを開け、やっと部屋の中に入る。
「おかえりなさい」
ルイズはベッドのに座りながら私にそう言ってきた。
「あ、ああ。ただいま」
私はそれに少々驚きながらルイズに言葉を返す。驚いた理由は、ルイズがおかえりなさいなんて声をかけてきたことと、その声がえらく上機嫌だったからだ。
普段ルイズは私が部屋に戻ってきてもそれほど声をかけない。かけたとしても「遅い!」とか「どこ行ってたの?」なんてものだ。
それが突然「おかえりなさい」ってのは驚かないほうが無理ってもんだ。
ルイズの顔を見てみる。その顔は少し緩んでいてやはりえらく機嫌がよさそうだ。一体どうしたのだろうか?少し気味が悪い。
……あれ?ちょっとおかしくないか?なんでルイズがベッドに座ってるんだよ。ルイズは今さっきドアの鍵を開けたはずだ。
鍵は手動だから開けるためには当然ドアの前までこなければならない。だから鍵が開いた瞬間に私はドアを開けたんだから、当然ルイズはドアの前にいるはずだ。
なのにルイズはドアの前からそれなりに離れたベッドに座っている。私がドアを開く一瞬でベッドに座れるか?座れるわけが無いだろう。いったいどうやったんだ?
この疑問はあっさりさっぱりかっちりくっきりきっぱりちゃっかり即座に解消された。何故ならルイズが行動を起こしたからだ。

ルイズは横に置いてあった杖を手に取ると、杖をドアに向け何かを唱えた。すると鍵がかかる音がしたのだ。
ルイズは、魔法でドアの鍵を開けたり閉めたりしていたのだ。そう、魔法でだ。
「……ルイズ。お前、魔法が使えるようになったのか」
「ふふん、驚いた?簡単なコモン・マジックならきちんと成功するようになったのよ。まだ、四大系統は失敗するけどね」
ルイズが立ち上がりもう一度ドアに杖を向ける。すると再びドアが開く音がした。さらに閉まる音が聞こえてくる。
「わたしって成長してるのかしら?ううん、きっと成長してるのよ!これからもっともっと使える魔法が増えていくに違いないわ。
わたしもみんなみたいに魔法が使えるようになるのよ!」
ルイズは、まさに喜色満面といった感じだった。そりゃあ今まで魔法が使えなかったのが、簡単な魔法だとしても使えるようになったんだ。
『ゼロ』と呼ばれなくなんるんだ。嬉しくて当然だろう。はしゃいで当然だろう。だが、私はルイズが成長するかもしれないと思うと、怖くて怖くて仕方が無い。
これ以上成長したら一体どんな化け物になるというんだ?『虚無』の他に『火』『水』『風』『土』が使えるようになるかもしれないなんて……
せめてもの救いは、今のところルイズが私に攻撃的な意識を持っていないということだ。持っていたら今頃私はこの世にいないかもしれない。
それは考えすぎだとしても、大怪我ぐらいは負っているかもしれない。今でこそ私を人間扱いしているが、前はしていなかったんだ。
日常的な罵倒に餌レベルの食事、鞭で叩こうとしてきたことすらあった。ルイズはそんなことを平気でできる奴だ。
『虚無』を人に使って怪我を負わせるぐらい簡単にやってのけるだろう。
「ねえ、わたしってどうなっちゃうのかなあ?」
ルイズはそんな思いなど知らず話しかけてくる。
「わたしが『虚無』を使えるようになったなんてあんた以外誰も知らないわ。
わたしが唱えた『エクスプロージョン』は城下や王軍の間では『奇跡』でかたがついてるみたいだけど、でも、そのうちお城にバレると思うわ。
そしたらわたしどうなると思う?」
「さあ、私に聞かれてもわからないな」
知るかそんなもん。というかなんでバレるんだ。だれもお前が『虚無』を使ったところなんて見てないだろうが。いや、待てよ。
あの光の正体を城の連中が探るとしたらまず初めに現地で調査するはずだ。そしたら当然タルブの村の連中に聞き込みをするだろう。
そしたら村の何人かはゼロ戦を目撃しているから、そのことを話すに違いない。ゼロ戦が飛んでいった後に『虚無』の光が現われたんだからな。
ゼロ戦がタルブの村にあったことはすぐにバレるだろう。そしたら誰が持っていったかもすぐにわかるだろう。
そこからルイズの場所に辿り着くのは時間の問題だ。おお、確かに近いうちに城の連中にバレるな。
だが、バレたところでわたしには痛くも痒くも無い。困るのはルイズ一人だ。
この結論に納得し、猫を肩に乗せながら椅子に座り込む。そしてすぐ近くに置いてあるデルフを傍らに引き寄せる。
「ちゃんと考えなさいよ。ご主人さまがこんなに困ってるのに」
「そんなこと言われてもな。実際私の国じゃありえない問題だからな。想像もつかないよ」
「まったく、役に立たない使い魔ね。せっかく相談してるのに」
ルイズが『虚無』だと城の連中にバレた場合、私としてはルイズを表舞台から消し去ってくれるようなことになってくれると嬉しい限りだ。
そうすれば、私がルイズを殺したわけでもなく、ルイズのもとから逃げ出したわけでもなく、合法的に自由になれる。二度とルイズに会わなくてすむ。最高だな。
だが、ひとつ問題がある。それは私が『虚無』の使い魔であるということだ。もしルイズが表舞台から消えるようなことがあれば私も消えるんじゃないか?
可能性が無いわけじゃあない。十分にありえる話だ。チッ!本当にルイズは厄災しか運んでこないな。迷惑はなただしい。
あのとき感じた美しさはなんだったのだろうか?まるで面影が無い。今では恐怖と災厄を私にもたらす化け物だから当然か。
そういえば、あの劇場で杉本鈴美は言っていた。『吉良吉影』に安心を与えることは許さない、って。

だが、それはキラヨシカゲに対してのはずで私というキラヨシカゲにではなかったはずだ。そしてキラヨシカゲはもういない。間違いなく。
だったら杉本鈴美が私というキラヨシカゲに執着し、安心を与えないようにする意味など無いはずだ。だとしたらこれは運命か?
私に降りかかる不幸は全て運命のせいなのか?それとも試練なのか?この不幸を乗り切った先に『幸福』があるのか?そういう運命なのか?
運命が私の味方ならどれだけよかっただろう。そしたら私は簡単に『幸福』になれそうなのに。
「あ、もうすぐ食事の時間ね。行きましょう」
「ああ」
椅子から立ち上がり猫を振り落とす。
「ちょっと!前から言ってるけどそういうことやめなさいよ。かわいそうでしょ」
「心配ない。こいつはマゾヒストだからな」
「まったく、なんで懐かれてるのかさっぱりわからないわ」
とにかく、考えていても仕方が無い。結局、運命があろうが無かろうが、どうでもいい。運命が敵だろうが味方だろうが、どうでもいい。
自分が今、不幸かそうでないのか、それすらもどうでもいい。
私はただ、運命があろうと、運命が敵だろうと、自分が今不幸だろうと、必ず『幸福』に辿り着いて見せる!
……ただ、それだけだ。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー