ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-37

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匿名ユーザー

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 パーティは城のホールで行われた。明日の夜を迎えられない王党派の貴族達は園遊会のように着飾り、御馳走が所狭しと並べられたテーブル達の間に立ち並んでいる。
 ジョセフ達は華やかで物悲しいパーティを会場の隅で眺めていた。
 パーティの最初に行われた、若きウェールズ皇太子と年老いた国王ジェームス一世のスピーチは臣下を思う王の意気と、死をも恐れぬアルビオン王党派の誇りを改めて証明するものだった。
 王は臣下に暇を出し、臣下達は誰一人としてヒマを受け取らず、死のみが待つ戦に赴くことを躊躇わない。
 ただ立ち上がるだけでさえ足がよろめくほど年老いた王は、揺ぎ無い忠誠を誓う家臣達を見つめる目に涙を浮かべながら、アルビオン王国最後の宴の始まりを高らかに宣言した。
 こんな滅亡寸前の王国にやってきた賓客が珍しいらしく、借物の正装に身を包んだルイズ達の元に貴族達は代わる代わるやってきては酒を料理を勧めてくる。
 まだ宴が始まったばかりだというのに、酒が回っているかのように陽気で朗らかに振舞う貴族達は、明日死に赴く悲壮さを微塵たりとも感じさせない。
 そんな彼らの誰もが最後に「アルビオン万歳!」と叫んで去っていく。
 さしものジョセフもこの宴を馬鹿正直に楽しめるはずもない。だがそれでもジョセフは貴族達に愉快な冗談を返し、彼らの喧笑を巧みに引き出していた。
 タバサは勧められた料理を次々と胃袋に収め、キュルケはあくまで宴の雰囲気を崩さぬよう、優雅と気品を漂わせて貴族達との会話に花を咲かせていた。
 ギーシュもややぎこちなさを感じさせるとは言え、それでもなお懸命に明るい場に相応しい振る舞いをしようとしていた。が、結局耐え切れなくなったのか会場の隅に座り込んでいた。そんなギーシュを見つけたウェールズが彼に歩み寄ると、二人で何やら会話を始める。
 ワルドは社交辞令を巧みに用い、どこに出しても恥ずかしくないパーティ向きの態度で貴族達と語らっていた。
 しかしルイズは明る過ぎて物悲しいこの宴に耐え切れなくなったらしく、静かに首を横に振ると外に出て行ってしまった。
 足早にこの場を去ろうとする主人の姿に、ジョセフは手に持っていたワイングラスをテーブルに置くと自分もホールを去ってルイズの後を追いかけた。
 城中の人間がパーティ会場に集まっている今、城内はまるでホールとは別世界のように静けさと月明かりばかりが支配する広大な箱庭と化していた。
真っ暗な廊下を、ジョセフは波紋の灯りを集めた右腕をかざし、時ならぬ太陽光を頼りに歩く。誰の気配もない以上、特に波紋を隠す必要もない。
 やがてホールの喧騒も届かない礼拝堂に辿り着くと、ルイズがそこにいた。
 ステンドグラス越しに堂内を照らす月明かりの中、長椅子に座った少女は微かな嗚咽を漏らし続けていた。
 始祖ブリミルの像へと続く長いすの間に敷き詰められた絨毯の上を歩いていくと、ほのかな波紋の光に気付いたルイズが後ろを振り向いた。
 泣いていたことを何とか隠そうと目元を何度も拭うけれど、拭っても拭ってもルイズの両眼からは涙が止まることはない。
 やがてジョセフがルイズの横に腰掛けてしまえば、ルイズはたまらなくなってジョセフの胸に顔を埋めて抱きついた。
 ジョセフが来るまでも、ジョセフが来てからも、必死に泣くのを止めようとしていたが、堤防に押し留められていた水流が堤防を破るように感情があふれ出し、迸った。
 子供……いや、赤ん坊のように縋り付いて泣きじゃくるルイズを、ジョセフは無言のまま両腕で頭を包み込んで抱き締めた。
 パーティが続いている城内で、わざわざ礼拝堂に来るような奇特な人間はいない。ルイズはひたすらに泣き、流す涙も枯れた頃、充血した目でやっとジョセフを見上げた。
 それでもしばらくはしゃくり上げる声にならない音が小さな唇から漏れ続けていたが、それも大分落ち着いてきた頃、ルイズは悲しげに言った。
「いやだわ……、あの人達……どうして、どうして死を選ぶの? 訳判んない。姫様が逃げてって言ってるのに……恋人が逃げてって言ってるのに、どうしてウェールズ皇太子は死を選ぶの?」
 ジョセフはルイズを胸に抱いたまま答える。
「直接聞いた訳じゃないが、殿下は王族としての責任を果たすために死地に向かおうとしとる。生き延びるより壮絶に討ち死にしなきゃ守れないものもあるっつーこっちゃないんかの」
「……何よそれ、よくわかんないわ。愛する人より大事なものがこの世にあるって言うの?」
「あると言う事だろうな、少なくとも殿下にはな」
「わたし、説得する。もう一度説得してみるわ」
「多分ムリじゃろうな。ルイズでもなくてわしでもな」
「どうしてよ」
「レコンキスタのやり口からして、皇太子がトリステインに亡命なんかしたらレコンキスタがトリステインに攻め込む口実を与えることになる。んーまァそうでなくても、何か難癖つけて攻め込んでくるだろうがなッ。
 大きな理由としてはそれが一番だろうが、わしはもう一つ理由があると思っている」
「……何よ」
「アンリエッタ王女がゲルマニアの皇帝と政略結婚せねばならんというのを知ってしまったからじゃ。ブリミルに誓った永遠の愛は今でも皇太子の中に根付いておる。そりゃあ皇太子だって自分の好きな女を他人なんぞに渡したくはねーわな。
 だがレコンキスタがいつ攻め込んでくるか判らない状況で、ゲルマニアと同盟を結べないトリステインは一溜まりもなかろう。
 アルビオン王国は明日滅びることは確定、トリステイン、引いてはアンリエッタ王女を救う為には自分ではなくゲルマニア皇帝と結婚させる以外に道はない。
 故に、王女の未練の種になる自分が立派に討ち死にしてみせることで、王女の中から未練を取り払おうとしている、わしにはそう見える。
 愛する女に生きていて欲しいからあえて死んでみせる、わしの世界でもそういうこたァしてのけられる奴はそうはおらん。ウェールズ皇太子は随分と立派な皇太子じゃよ」
 それに、とジョセフは思った。
 もし生き延びてしまえば、王女が馬の骨に嫁ぐのを見送らなければならない。
(そいつぁイヤじゃよなァ)
 だがそれは言わない。言ってしまえばこれまでの話がダイナシになる。
 ルイズはぽつりと、呟くように言った。
「早く帰りたい……トリステインに帰りたいわ。この国嫌い、イヤな人達とお馬鹿さん達でいっぱい。誰も彼も自分のことしか考えてない。残される人たちのことなんて、どうでもいいんだわ……」
 若い少女に、全てを察しろというのは酷な話である。だからジョセフはその言葉を否定も肯定もせず、ただルイズの小さな頭を撫でていた。
「でも、でも……!」
 ルイズはジョセフのシャツをぎゅ、と握り締めて、搾り出すように呟いた。
「例え結婚できなくったっていいじゃない! 好きな人が生きててくれればそれだけでいいのに! 死んだら二度と会えないのに!」
ヴァリエール公爵家三女でもメイジでもなく、ルイズという一人の少女の言葉だった。論理的ではないが、一理ある。
 ジョセフは黙って、胸の中に抱いたルイズの頭を撫でている。ルイズは頭を撫で続けられながら、はっとした顔でジョセフを見上げた。
「……ジョセフ、右手出して」
「右手か?」
 包帯が巻かれた右腕を差し出すと、ルイズが手ずから包帯を解いていく。包帯が取られてしまえば、昨夜電撃で焼け焦げた無残な火傷の痕は、既に殆ど治っていた。
 ほぽ治りつつある腕を見て、安堵の溜息を漏らした。
「……良かった、殆ど治ってる」
「心配してくれたのか?」
 その言葉に途端に真っ赤になった顔で、あ、う、と言葉にならない声を断続的に発し、その後でちょん、と脇腹をつついた。
「……私を守るためにあんな大怪我したんだもの。心配だってするわ――ってカンチガイしないでよ! 使い魔がケガしたんだから主人が心配するのなんて当たり前じゃないの!」
 何も言っていないのに一人でヒートアップしてあたふたと言い訳を始めるルイズを、もう一度ジョセフはわしゃわしゃと撫でた。
「ルイズは本当に優しい子じゃな」
「ななな何を言ってるのかしらこのボケ犬!」
 茹で上がったタコのような顔で懸命に反論を試みるが、ジョセフはただ優しげに微笑んでいるだけだった。
 やがてルイズがジョセフの腕から離れると、もう一度長椅子に座り直した。
 しばし静寂が二人を包む。その沈黙を破ったのはルイズだった。
「ワルドに、結婚しようって言われたの」
「……そうか」
 無感情に答えたのは、感情を出すと殺気じみたそれしか出ないのが判っているからだった。
「ワルドは……憧れの人だったわ。もしかしたら初恋だったかもしれない」
 けれどルイズはジョセフの返答につっかかりもせず言葉を続ける。
「でも……今はどうなのか、自分でも判らないのよ」
 互いの父が交わした結婚の約束。頼り甲斐があって優しいワルド。
 幼いルイズがぼんやりと思い浮かべていた未来、それが現実になろうとしているのに、今のルイズはそれを無邪気に喜ぶ気にはなれなかった。
 明日滅びる国を目の当たりにしているからだろうか。違う。
 親友の思い人が死地に向かうのを見送らなければならないからだろうか。違う。
 十年前の美しい思い出、十年も経った昔の思い出。
 魔法衛士隊グリフォン隊の隊長になったワルド。昔の思い出のまま、再び自分の前に憧れた憧れの人。
 そんな彼が結婚しようと言ってくれたのに。どうして、使い魔の老人に相談なんかしているのだろうか。
 自分でも判らなかった。だから答えが欲しかった。
 今、自分の心に影を差しているものの正体が、知りたかった。
「……ねえ、ジョセフ。結婚ってどんなもの? ジョセフが結婚した時、どんな気持ちだった? 結婚したら何が変わった? ――どうして、結婚したいって思ったの?」
 混乱した心を映す様に、ルイズの問いは順序を得なかった。
 ただ心に浮かんだ由無し事を問いかけただけだった。
 不意の質問をぶつけられたジョセフは、ふむ、と顎に手を当て考えた。
「そーじゃなァ、んじゃわしとスージーQの馴れ初めから話すとするか。わしがエリザベス母さん……その時はリサリサと名乗っていたが、母さんの召使をしていたのがスージーだった」
「え……ジョセフって貴族なんでしょう? どうして召使と……」
「んあー、わしの世界じゃ五十年前でも身分制度がかンなり平坦になっとったからのォ。わしを育てたエリナお祖母ちゃんもその辺りは気にしない教育をしとったからな。後で結婚した時ゃ普通に喜んでくれた」
 ふむ、とステンドグラスを見上げて咳払い一つ。
「スージーは小生意気で小憎たらしくて大分粗忽モノだったが、なかなか可愛かった。まー憎まれ口ばっかり叩き合ってたが、嫌いじゃあなかった。
 で、柱の男達との決着をつけたわしは幸運にも漁船に助けられ、一命を取り留めた。ちょーどわしを助けた漁船のオヤジが母さんと知り合いだったんで、そのまま館に運ばれて療養することになった。
 あん時ゃマジで死ぬかと思ったわい。左手ブッた切られるわ火山の噴火に巻き込まれるわものすごい高さから海面に叩きつけられるわ左手に海水がシミてそりゃーいてェのイタくないの」
「話が横道にそれてるわよ」
 ジト目のルイズのツッコミに、ジョセフは悪びれず答える。
「まァまァ、そんだけ大変だったんじゃ。で、あれやこれやバタバタしてたもんで館にゃわしとスージーQとシュトロハイムだけだった。で、シュトロハイムに迎えが来て、その場しのぎじゃが義手も貰った。でも満足に動けんかったんで、スージーに看病されっぱなしでな」
 右手で顎を弄りつつ、五十年前の光景を思い出す。
「ありゃー、もうそろそろ春になる頃合で、三月になったばかりにしちゃけっこう暖かい昼のことだったな。ベッドに寝転がってスージーにリンゴむいてもらってな、食ったんじゃ。
 それがなんかえらくウマくてなァ、スージーと一緒に食べてうめェうめェって言い合っとったんじゃ。で、食い終わってもう一つリンゴむいてもらったんじゃが、その時のスージーの横顔がえっれェキレーでなァ」
 脳裏に刻み付けたその光景を思い起こし、ジョセフはニシシと笑う。
「その時直感した、『こいつとならけっこーウマくやっていけるんじゃね?』とな。で、『結婚しちまおうぜ、スージーQ』と考える前に口に出とったな。スージーも驚いちゃおったが、満更でもない顔してニッコリ頷いたんじゃよなァーッ」
 くくくくく、と膝をバンバン叩くジョセフだが、横で聞いていたルイズは呆れ顔だった。
 何故いい年したジジイのノロケを聞かされなくてはいけないのか。
「ジョセフ、今の話の何処に私が参考になる点があったのかしら」
「本題はこっからじゃよ。結婚なんてそうメンドくさく考えるコトでもなくてな、やっちまえばそんな大したコトでもないんじゃな。逆に考えたら、本当に大好きな相手とならわしみたく考えんでスパンッと出来るようなモンなんじゃ。
 だがルイズは考えてしまう。何故結婚を躊躇うンか、そこを自分の胸に聞いてみたほうが早いじゃろ」
「…………」
 ルイズは、口を閉ざして思考に耽る。
 何だろう。ヴァリエールの三女だというのにゼロだと笑われるおちこぼれメイジなのに、スクウェアメイジと結婚できるはずないからだろうか。
 妻の話をするだけでこんな嬉しそうな顔する使い魔を元の世界に戻すまで結婚なんかしてられないからだろうか。
 それは理由の一つだ。決して小さくはない。だが決定打じゃない。
 じゃあ何、と考えようとして――ルイズの耳が真っ赤になった。
 かなり早いうちにそこに行き着こうとはしていた。でもその考えを懸命に否定しようとしていた。だが何度考えを巡らせても、そこに辿り着く。
 それが本当の気持ちなのかなんて、判らない。でも確かめる価値はあるんじゃないだろうか。
 例え使い魔だろうと老人だろうと。
 どんなに感情が高ぶった時でも、異性の胸に抱きついて縋り付いて泣いた事などなかったのだから。
 意を決して、顔を上げる。そうすればじっと自分を見つめているジョセフと視線が合い――
「ふんッ!!」
 裂帛の気合と共に、渾身のチョップがジョセフの脇腹に入った。
「え、えェーッ!? わ、わし今何も悪いことしとらんぞ!?」
「う、うるさいうるさいうるさいッ!」
 脇腹をさするジョセフから顔を背け、荒くなった呼吸と、胸の中で暴れる心臓を宥めにかかる。
 これはマズい、これはどうしようもない。ここに来て目を背けている訳には行かなくなった。これは大きすぎる。これでは結婚できるはずがない。
 たった今、自分の中を駆け巡った感情は、ワルドの側で感じた事はなかった。
(ど、どうしよう……いいえ、落ち着くのよルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! こういう時は素数を数えればいいってどこかの神父様が言ってたような気がするわッ!)
 そういう思考に走ること自体混乱のきわみにあるという事からも目を背け、ブツブツと素数を数えるのを訝しげな目で見られながら、何とか心拍数を平常に戻した。
 ふぅ、と吐息を漏らしたルイズは、ちら、とジョセフを横目で見た。
「……ね、ジョセフ。さっきの話の続き……聞きたいわ」
「続きか? でも聞いてて面白い話でもないとは思うがな」
「……いいの。私が聞きたいの」
 あの悲しいパーティに戻るよりは、幸せばかりが詰まったジョセフの話を聞いている方がずっといいだろう、と。まだ幼い少女にとって、幸せな幻想はまだ必要だった。
 それからまた、ジョセフの昔語りが始まった。
 色んな事があって、色んな嬉しい事や色んな悲しい事があって、色んな幸せな事があって。
(……ああ、やっぱり。ジョセフを元の世界に戻すまで……結婚なんかしてられないわ)
 と、責任感の強いルイズは思い。
(……そう言えば、ジョセフが奥さんにプロポーズしたのって……春先だ、って言ってたわ)
 ラ・ロシェールを出てからここまで張り詰め続けていた気が弛緩し、疲労が眠気を引き連れてきていた。
 うっすらと波紋を纏うジョセフの真横は、何となく春の日差しの中にいるような心地よさ。
 もうルイズに眠気に抗いきるだけの理由はどこにもなかった。
 ジョセフの腕に寄ってしまった頭を引き戻す余力すらない。
(ああ……これなのかな。こういう気分だったのかしら……ジョセフが、結婚してもいいって思った気分って……)
 緩やかに着実に眠りに落ちる直前、うわ言の様に、ルイズはジョセフに囁いた。
「ねぇ……後で、結婚断りに行くから……」
 きゅ、とシャツの裾を摘んで、言った。
「一緒に、ついてきて……」
 ことり、と眠りに落ちた。

 *

 故郷のヴァリエールの領地。忘れ去られた中庭の池。そこに浮かぶ小舟の上。
 ルイズは、誰かの膝の上に座り、当たり前のように誰かに背中を寄せていた。
 誰も知らない秘密の場所のはずなのに、この場所を知ってるのはもう一人だけのはずなのに。
 目の前で誰かの手が器用にリンゴをむいている。
 しゃりしゃり、と小気味良い音を立ててむかれたリンゴは、誰かの手で二つに割られる。
 半分ずつになったリンゴをそれぞれの手に取り、それぞれがかじる。
 まるで蜜のように甘かった。
 二人で美味しい美味しいと笑い合って、食べ終わるとまた背中を預けて寄りかかる。
 ふと手を上に伸ばして、誰かの帽子を手に取った。
 それは羽帽子ではない。茶色でちょっとボロい帽子。
 それを頭に被って、あははと笑う。
 そんな、夢だった。

 *

 キュルケ、タバサ、ギーシュはパーティが終わろうとするホールを後にし、給仕にどこで寝ればよいかを聞いた部屋へと向かっていた。
 すると暗い廊下の向こうからこつこつと歩いてくる足音が聞こえ、ふとそちらを向いた三人は――開いた口がふさがらない、とばかりに口をぽかんと開けることになってしまった。
 廊下の向こうからやってきたのはジョセフとルイズ……正確に言えば、ルイズをお姫様抱っこして歩いてくるジョセフの姿。
 大好きなおじいちゃんにだっこされて安心して寝入っているルイズと、至極当然とばかりにルイズをだっこして歩いているジョセフ。
(なんというバカ主従……!)
 戦慄にすら似た思いを抱くに至った少年少女の気持ちも知らず、ジョセフは声を掛けた。
「お、パーティ終わったか」
「あ、ああ……終わったよ、ジョジョ」
 気分の優れない様子で頷いたのはギーシュだった。
「んじゃ、三人にちょいと頼みたいコトがあるんじゃが。頼まれてくれるか?」
 ジョセフの頼みを聞いた三人は、首を傾げた。
「別に構わないけど……それで何をするの?」
 三人の疑問を代表して聞いたキュルケに、ジョセフはニカリと笑うだけだった。
「ま、それは後で種明かししてやろう。何もなかったらごめんちゃいじゃがなッ」
 くくく、と笑ったジョセフは、三人にどこで眠ればいいんじゃろか、と聞いて共に客人用の部屋へと歩いていく。
 ルイズ主従にあてがわれた部屋は、二人用の部屋であった。粗末ではあるがベッドは二つあり、片方のベッドにルイズを寝かせて自分ももう片方のベッドに腰掛けた。
 ややあって、ドアをノックする音が聞こえる。
「どちらさんかね?」
 扉も開けずに声を投げる。
「私だ。ワルドだ」
「主人は寝ておりますがね。用があるなら明朝にでも」
 他人行儀で無愛想な返事にも構わず、ワルドは冷たい声で言った。
「君に言っておかねばならない事がある」
「なんですかな?」
「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」
「はあ」
 ものすごいどうでもよさそうに答える。
「婚姻の媒酌を勇敢なウェールズ皇太子に頼めるならこれほど光栄なことはない。皇太子も快く引き受けてくれた。決戦の前に、僕達は式を挙げる」
ジョセフは言葉が続く間、小指で耳をほじっていた。
「君も出席するかね?」
「挙げるんなら出席しますがね」
 ルイズが既に断る気でいることは言わない。
「そうか。では主人の晴れの式に参列するといい」
 くぁ、と欠伸をしつつ答える。
「了解しました。んじゃ用事はそれだけですかな」
「ああ」
 それを最後に廊下を去っていく足音が聞こえる。
 まだ安らかな寝息を立てるルイズを寝かせたまま、ジョセフは手洗いに向かった。


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